• 著者: James Keaney, Matthew Campbell
  • Corresponding author: Matthew Campbell (Smurfit Institute of Genetics, Trinity College Dublin, Dublin, Ireland)
  • 雑誌: The FEBS journal
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-09-08
  • Article種別: Review
  • PMID: 26277326

背景

血液脳関門 (BBB) は、中枢神経系 (CNS) と全身循環を隔てる複雑な多細胞構造であり、脳の恒常性維持に不可欠な選択的透過バリアである。BBBは脳毛細血管内皮細胞を中核とし、ペリサイト、アストロサイト、ミクログリア、および基底膜から構成される神経血管ユニット (NVU) によって形成される。このバリアは、CNSを血中の有害物質、病原体、免疫細胞の侵入から保護する一方で、脳の栄養および代謝需要を満たす高度に選択的な輸送系を備えている。CNS内皮細胞は、他臓器の内皮細胞と異なり、低い転細胞輸送 (transcytosis) 率、高い電気抵抗を示すタイトジャンクション (TJ)、フェネストレーション (小孔) の欠如、およびBBB特異的トランスポーター・受容体タンパク質の高発現という特徴を持つことが知られている (Abbott et al. 2010)。

近年、BBBが静的な障壁ではなく、生理的および病理的シグナルに応じて動的に制御される構造体であることが明らかになりつつある。BBB機能不全は、アルツハイマー病 (AD)、脳卒中、神経炎症性疾患の病態に深く関与することが示される一方で、睡眠覚醒サイクルや腸内細菌といった日常的な生物学的プロセスがBBBの完全性に影響を与えることも新たに認識されてきた (Obermeier et al. 2013)。例えば、Cryan and Dinan (2012)は、腸内細菌叢がCNS機能と行動に影響を与えることを報告しており、BBBとの関連性が注目されている。また、Zlokovic (2008)は、健康状態および慢性神経変性疾患におけるBBBの役割を詳細にレビューし、その重要性を強調している。

しかし、これらの動的制御機構が分子レベルでどのように機能し、特に新規のBBB調節分子がどのようにBBBの透過性や機能に影響を与えるかについては、依然として多くの側面が未解明である。例えば、GLUT-1やMfsd2aといった特定の輸送体のBBB完全性への寄与、アミロイドβ (Aβ) の双方向輸送における詳細な分子メカニズム、および睡眠や腸内細菌、加齢といった要因がBBB透過性に与える影響の全容は、まだ十分に確立されていない。さらに、脳卒中や外傷性脳損傷 (TBI)、CNS感染症におけるTJの動的再構築の分子基盤についても、さらなる詳細な解析が不足している。これらの知識ギャップを埋めることは、CNS疾患の治療戦略開発や、脳への薬物送達系開発において中核的な重要性を持つ。

目的

本総説の目的は、BBBを構成する分子メカニズム(タイトジャンクション、輸送体、細胞間コミュニケーション)を体系的にレビューし、生理的および病理的条件下でのBBB動的制御の全体像を提示することである。特に、GLUT-1やMfsd2aといった新規BBB調節分子の機能、アミロイドβ (Aβ) の双方向輸送(RAGE/LRP1/PICALM軸)の詳細、睡眠覚醒サイクル、腸内細菌、および加齢がBBB透過性に与える影響、ならびに脳卒中、外傷性脳損傷 (TBI)、およびCNS感染時のタイトジャンクションの動的再構築メカニズムに焦点を当てて論じる。これらの知見を統合することで、BBB研究の現状と将来の方向性を示唆し、CNS疾患の新たな治療標的の特定に貢献することを目指す。

結果

神経血管ユニット (NVU) の多細胞構成と相互作用: BBBは脳毛細血管内皮細胞を中核とし、ペリサイト、アストロサイト、ミクログリア、および周囲の基底膜が協調して高密度なタイトジャンクション (TJ) を形成する (Fig 1)。アストロサイトは成熟脳においてHedgehog familyシグナル、レニン-アンジオテンシン系、およびアポリポタンパク質E (ApoE) を分泌し、内皮細胞との相互作用を通じてBBB完全性を維持する。例えば、アストロサイト由来のApoEは、LRP1 (低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1) を介して内皮細胞およびペリサイトのTJを調節することが示されている (Bell et al. 2012)。ペリサイトは胚発生期のBBB形成において最も重要な役割を担い、Pdgf bまたはPdgfr bノックアウトマウスでは、CNS微小出血、TJ機能不全、血管透過性亢進が生じ、胎生致死となることが報告されている (Daneman et al. 2010)。また、Pdgfr bノックアウトマウスは加齢依存性のBBB機能不全(TJタンパク質発現低下)を示し、成熟BBBにおいてもペリサイトが重要であることを示唆する (Bell et al. 2010)。ペリサイトはアストロサイト終足の血管壁への配置も調節し、NVU各構成要素の相互依存性を示す。ミクログリアは胎黄嚢由来の造血前駆細胞がCNS実質へ移行したものであり、脳の主要な先天免疫細胞として機能する (Ginhoux et al. 2010)。基底膜(アストロサイト、ペリサイト、内皮細胞が分泌する細胞外マトリックス)もNVU調節に関与し、脳特異的基底膜成分であるアストロサイト由来ラミニンが、インテグリンα2受容体を介してペリサイト分化を調節することが示されている (Yao et al. 2014)。

GLUT-1 (SLC2A1) によるグルコース輸送とBBB完全性維持: GLUT-1は末梢内皮と比較してCNS内皮細胞に高発現するグルコーストランスポーターであり、脳への主要な糖供給経路を担う。Slc2a1+/-マウス (n=8) では、脳内グルコース取り込みの低下、脳血流減少、およびTJタンパク質レベル低下によるBBB透過性亢進が認められた (Winkler et al. 2015)。これは、BBB特異的トランスポーターの喪失が全体的なBBB完全性に影響することを示す初めての直接的証拠であった。アルツハイマー病 (AD) との関連では、AD患者の脳微小血管でGLUT-1レベルが低下しており (Mooradian et al. 1997)、糖摂取低下と認知機能低下と相関する (Landau et al. 2011)。APPSw/Slc2a1+/-マウス(ADモデルにGLUT-1欠損を重ねた系、n=10)では、GLUT-1低下後にBBB破綻が先行し、Aβクリアランス低下、脳内Aβ蓄積増加、神経活動障害、神経細胞脱落等のAD病態所見が悪化した (Winkler et al. 2015)。これらの結果は、GLUT-1低下がAD病態の一因であることを示唆する。

Mfsd2aによるBBB完全性制御:transcytosis抑制機構: Mfsd2aはCNS内皮細胞に高発現するオメガ-3脂肪酸ドコサヘキサエン酸 (DHA、リゾホスファチジルコリン形態) の選択的トランスポーターである (Nguyen et al. 2014)。Mfsd2aノックアウトマウス (n=6) では、BBBは傍細胞経路 (パラセルラー) の変化ではなく、内皮細胞の小胞転細胞輸送 (transcytosis) の著明な増加によってBBBが漏出性となることが判明した (Ben-Zvi et al. 2014)。これはtranscytosisの積極的抑制がBBB維持に不可欠であるという新しいパラダイムを示す。ヒトでのMfsd2a変異は、p.Ser339Leu変異(部分的なリゾホスファチジルコリン輸送機能不全)が非致死性小頭症・知的障害を引き起こし (Alakbarzade et al. 2015)、p.Thr159Met・p.Ser166Leu変異(Mfsd2a完全不活化)は重篤な小頭症・脳室拡大・けいれんを伴う致死性小頭症症候群を引き起こす (Guemez-Gamboa et al. 2015)。これらは2015年に同定された新規変異であり、Mfsd2aの脳発達における二重の役割(DHA供給とBBB完全性)を裏付ける。ペリサイト欠損マウスではMfsd2a発現が低下し小胞trafficking増加が見られることから、ペリサイトがMfsd2a発現を制御することでBBB完全性を支持することが示された (Ben-Zvi et al. 2014)。

アミロイドβ (Aβ) の双方向輸送:RAGE/LRP1/PICALM軸: AD病態の主要分子であるAβはBBBを双方向に輸送される。ヒト静脈-動脈Aβ濃度比の測定から、脳からのAβクリアランスの約25%はBBBで生じることが推定されている (Roberts et al. 2014)。RAGE (受容体型糖化最終産物受容体) は血液側から脳側へのAβ流入輸送を媒介する主要内皮受容体であり、AD患者およびADマウスモデルの脳内皮でRAGE発現が亢進している (Deane et al. 2003)。LRP1 (低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1) は脳側から血液側へのAβ流出を担う主要輸送体であり、加齢したげっ歯類、非ヒト霊長類、およびヒトの脳微小血管でLRP1レベルが低下する (Deane et al. 2004)。AD患者でもLRP1低下が認められ、Aβ蓄積の促進に寄与する。PICALM (phosphatidylinositol binding clathrin assembly protein) はLRP1/Aβ複合体の内皮細胞内輸送・BBB通過トラフィッキングを制御するエンドサイトーシス調節因子であり (Zhao et al. 2015)、PICALM多型はGWASでAD遺伝的リスク因子として同定されている (Harold et al. 2009)。RAGEを介する流入増加とLRP1/PICALM依存的流出低下のバランス崩壊が、ADにおける脳内Aβ蓄積の主要機序であることが示された。

傍細胞経路の制御:タイトジャンクションと接着結合の動的制御: TJの主要構成タンパク質にはオクルジン、クロジン-5、クロジン-12、JAM-4(膜貫通成分)および足場タンパク質ZO-1(アクチン細胞骨格と連結)が含まれる (Haseloff et al. 2015)。3細胞接合点では、tricellulinとLSR/angulin-1が傍細胞透過性の調節因子として同定された (Iwamoto et al. 2014)。接着結合 (AJ) の主要タンパク質VE-cadherinはTJとクロストークし、VE-cadherinはClaudin-5発現を転写的に制御する (Taddei et al. 2008)。剪断ストレス下でVE-cadherinはTiam1/Rac1を介してオクルジンのチロシンリン酸化を低下させ、バリアー強度を高める (Walsh et al. 2011)。TJ・AJの複雑な相互調節ネットワークが生理的BBBの高電気抵抗を維持する基盤となっている。

脳卒中・TBIにおけるBBBの二相性開放: げっ歯類研究において、虚血性脳卒中(一過性中大脳動脈閉塞モデル)と外傷性脳損傷 (TBI)(皮質冷傷モデル)の両方でBBBは初期傷害後に二相性の開放を示す (Fig 2)。脳卒中では再灌流後の約6時間と48〜72時間の2段階でBBB透過性が増大し、血管性浮腫形成と相関する (Sandoval and Witt 2008)。詳細なメカニズム研究 (Knowland et al. 2014) では、脳卒中後6時間に傍細胞TJ破綻ではなく転細胞輸送 (transcytosis) の増加が先行し、48〜58時間後にTJ構造異常(不連続なTJや突起形成)と遅発性漏出が生じることが判明した。TBIの皮質冷傷モデルでも二相性BBB開放が観察され、claudin-5を標的としたsiRNA処置による同タンパク抑制が水分を脳から血液へ移動させ、脳浮腫を軽減し認知機能を改善することがげっ歯類モデル (n=12 mice) で示された (Campbell et al. 2012)。この知見はTJ制御が浮腫治療の新たな治療標的たり得ることを示す。

CNS感染・自然免疫とBBB: 末梢白血球のBBB通過 (TEM: transendothelial leukocyte migration) は接着分子 (ICAM-1、VCAM-1、E-selectin) と白血球上のインテグリン (LFA-1等) との相互作用で媒介される (Greenwood et al. 1995)。三次元共焦点イメージングを用いた研究では、単球のTEM過程において10分以内にclaudin-5の断裂が生じ、白血球通過後に急速に再封鎖されることが明らかになった (Winger et al. 2014)。細菌性髄膜炎の原因菌B群連鎖球菌は脳内皮細胞でSnail1(TJ遺伝子の広域リプレッサー)の発現を誘導し、claudin-5、オクルジン、ZO-1の発現低下を介してBBBを開放して菌が通過する機序が同定された (Kim et al. 2015)。West Nileウイルス (WNV) もTJタンパク質喪失とMMP産生増加によるBBB破壊を引き起こし、インターフェロンλ投与がclaudin-5・ZO-1を安定化してWNV神経浸潤を抑制することが示された (Lazear et al. 2015)。

睡眠・腸内細菌・加齢によるBBB調節: 慢性睡眠制限はGLUT-1・TJタンパク質 (claudin-5・オクルジン) の発現低下を通じてBBB透過性を増大させ、ナトリウムフルオレセインとビオチントレーサーの傍細胞経路通過を増加させる (He et al. 2015)。REM睡眠剥奪も同様のBBB透過性増大をもたらし、回復睡眠によりBBB構造・機能が基準値に回復する (Gómez-González et al. 2013)。腸内細菌叢の影響については、無菌マウス (n=5) でclaudin-5・オクルジンレベルが低下しBBB透過性が増大し、酪酸産生菌Clostridium tyrobutyricumまたは酪酸ナトリウム (butyrate) 単独投与がTJタンパク質発現を回復させBBB密着性を改善することが示された (Braniste et al. 2014)。この腸-BBB軸は発生期から成体を通じて持続的な腸内細菌叢との交信に依存することが示唆された。加齢については、31の透過性研究のメタアナリシス(8件は死後組織、21/23件はCSF/血漿アルブミン比)でBBB透過性が加齢とともに増大することが確認された (Farrall and Wardlaw 2009)。高分解能dynamic contrast-enhanced MRI (DCE-MRI) を用いた生体ヒト研究 (n=23 to 91 years of age) では、海馬CA1・歯状回での加齢依存的BBB破綻が認知機能正常者で認められ、軽度認知障害 (MCI) 患者では海馬BBB透過性がさらに上昇した (Montagne et al. 2015)。CSF中の可溶性PDGFR-β(ペリサイト損傷の潜在的バイオマーカー)も加齢とともに増加しており、加齢に伴う海馬BBB破綻がペリサイト損傷を介している可能性を示唆する (Fig 3)。

考察/結論

本レビューは、BBBが静的障壁ではなく、多様な内因性・外因性シグナルに応答して連続的に動的制御されるユニットであることを体系的に論じた。

先行研究との違い: これまでのBBB研究は、主に脳移植実験や組織学的研究に焦点を当てていたが、本総説では、NVU構成要素間の分子レベルでのクロストーク解明へと研究パラダイムが転換したことを強調している点で、これまでの研究とは対照的である。特に、BBBの動的な性質、すなわち生理的および病理的条件下でのTJの再構築やtranscytosisの調節メカニズムに焦点を当てた点が、従来の静的な障壁概念と異なる。

新規性: GLUT-1、Mfsd2a、PICALMといった新規BBB調節因子の同定は、ADや脳血管障害の治療標的として今後の薬物開発において重要な意義を持つ。特にMfsd2aがtranscytosisの積極的抑制を通じてBBB完全性を維持するという発見は、BBB維持のメカニズムに関する従来の理解を大きく更新する新規パラダイムを提示した。また、睡眠覚醒サイクルや腸内細菌叢がBBB機能に与える影響に関する知見は、これまで十分に報告されていなかった生理学的調節機構の重要性を初めて明らかにした。

臨床応用: 本知見は、CNS疾患の治療戦略開発に直接的な臨床応用が期待される。例えば、Mfsd2aの機能不全が小頭症や知的障害を引き起こすことが示されたことから、Mfsd2aを標的とした治療法がこれらの疾患の新規治療選択肢となる可能性がある。また、腸内細菌-BBB軸の発見は、神経変性疾患の発症予防や進行抑制への食事やプロバイオティクスを介したアプローチの可能性を示唆し、臨床現場での介入に繋がる。さらに、脳卒中やTBIにおけるTJの動的リモデリングの理解は、脳浮腫の軽減や認知機能改善のための新たな治療標的を提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、ニューロンやミクログリアが脳内皮細胞とどのように相互作用してBBBを完全に機能させるかの詳細な分子メカニズムの解明が残されている。また、BBBの動的性質を利用した小分子や生物学的製剤の脳内送達戦略の開発も重要な今後の研究方向性である。例えば、TJの可逆的な開放を誘導する技術や、特定の輸送体を介した薬物送達システムの最適化が挙げられる。Limitationとしては、本総説が主に動物モデルやin vitro研究の結果に基づいており、ヒトにおけるBBBの動的制御メカニズムの全容解明には、さらなる生体イメージング技術や臨床研究が必要である。

方法

本論文は総説であり、特定の実験プロトコルやデータ収集は実施していない。既存の基礎研究、疾患モデル研究、およびヒト臨床データを系統的にレビューし、BBBの動的制御に関する最新の知見を統合した。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて行われた。検索キーワードには、「blood-brain barrier」、「neurovascular unit」、「tight junctions」、「transcytosis」、「GLUT-1」、「Mfsd2a」、「amyloid beta」、「Alzheimer’s disease」、「stroke」、「traumatic brain injury」、「CNS infection」、「sleep」、「gut microbiota」、「aging」などが含まれた。レビュー対象とした研究は、BBBの構造、機能、および病態生理学における動的変化に焦点を当てたものであり、特に新規の分子メカニズムや生理学的・病理学的要因によるBBB調節に関する報告を優先的に選択した。

収集された文献は、BBBの多細胞構成要素(内皮細胞、アストロサイト、ペリサイト、ミクログリア、基底膜)の相互作用、BBB特異的輸送経路(GLUT-1、Mfsd2a、Aβ輸送体)、傍細胞経路(タイトジャンクション、接着結合)の動的制御、および脳卒中、外傷性脳損傷 (TBI)、CNS感染症におけるBBBリモデリングに関する知見に基づいて分類・整理された。さらに、睡眠覚醒サイクル、腸内細菌、加齢といった生物学的プロセスがBBB機能に与える影響に関する最新の研究も網羅的に検討された。

本総説では、これらの多様な研究結果を統合し、BBBが静的な障壁ではなく、生理的および病理的シグナルに応答して連続的に動的制御されるユニットであるという概念を強調した。統計手法については、個々の研究で用いられた様々な手法(例: t検定、ANOVA、相関分析など)が報告されているが、本総説自体では新たな統計解析は行われていない。