• 著者: Sanghee Shin, Inseong Jung, Dokyung Jung, Christine Seulki Kim, Sung-Min Kang, Suyeon Ryu, Sung-Jin Choi, Soojeong Noh, Jongwon Jeong, Beom Yong Lee, Jun-Kook Park, Jiwon Shin, Hanchae Cho, Jong-Ik Heo, Youngtae Jeong, Sun Ha Choi, Shin Yup Lee, Moon-Chang Baek, Kyungmoo Yea
  • Corresponding author: Moon-Chang Baek (Kyungpook National University, CMRI); Kyungmoo Yea (DGIST, Daegu, Republic of Korea)
  • 雑誌: Biomaterials
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-08-31
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36067566

背景

細胞外小胞 (EV: extracellular vesicles) は、脂質二重膜に包まれたナノ粒子であり、タンパク質、核酸、脂質を運搬することで細胞間コミュニケーションを媒介する重要な役割を担うことが知られている Thery et al. NatRevImmunol 2002。これらのEVは、細胞の恒常性、病態、生理機能の多様な側面において重要な役割を果たすことが報告されている Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013。特に、免疫細胞由来EVは、親細胞の免疫学的特性を保持することから、がん免疫療法の新規治療剤として近年注目を集めている Xu et al. NatRevClinOncol 2018。CAR (chimeric antigen receptor)-T細胞由来EVやCD8+ T細胞由来EVによる抗腫瘍効果は先行研究で報告されているが、CD4+ ヘルパーT細胞由来EVがCD8+ T細胞介在抗腫瘍応答を誘導できるかについては、その詳細な分子機序を含め、未解明な点が多かった。

CD4+ T細胞は、インターロイキン-2 (IL-2) の分泌を通じてCD8+ T細胞の細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) 応答を制御する中心的な役割を担う。しかし、IL-2はCD8+ T細胞の活性化と同時に制御性T細胞 (Treg) の増殖・活性化をも誘導するという臨床的に重大な副作用を持つ。このTreg活性化は腫瘍微小環境における免疫抑制を促進し、IL-2製剤の活用に制約を生じさせていることが課題として認識されていた。この二面性の問題を解決する新しい免疫調節戦略の開発が強く求められていた。

EV産生に関わるRab GTPaseの役割はよく知られており、Rab5、Rab7、Rab27aが多胞体 (MVB) の成熟、輸送、形質膜との融合に関与することが報告されている。IL-2がCD4+ T細胞のEV産生を増強するかどうか、そしてそのEVがTreg非依存的にCD8+ T細胞を活性化できるかという問いは、IL-2免疫療法の限界を克服し、より効果的かつ安全な免疫療法を開発する観点から重要な意義を持つ。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指した。これまでの研究では、CD4+ T細胞由来EVがB細胞活性化を誘導する可能性が示唆されていたが、T細胞を介した抗腫瘍免疫応答への関与は十分に解明されていなかった。この領域にはまだ多くの未開拓な側面が残されている。

目的

本研究の目的は、IL-2刺激CD4+ T細胞由来EVがCD8+ T細胞の増殖および細胞傷害活性を増強しつつ、制御性T細胞 (Treg) を活性化しないという仮説を検証することである。具体的には、IL-2がCD4+ T細胞からのEV産生を促進するメカニズムをRab GTPaseの観点から解析し、そのEVがin vitroおよびin vivoでCD8+ T細胞の機能に与える影響を評価する。さらに、EV内に含まれるmiRNAがCD8+ T細胞の抗腫瘍応答を媒介する分子機序を特定する。最終的に、担癌マウスモデルにおけるこれらのEVのin vivo抗腫瘍効果を評価し、既存の免疫療法(IL-2、cisplatin、抗PD-L1抗体)と比較することで、CD4+ T細胞由来EVの新規がん免疫療法剤としての可能性を示すことを目指す。本研究は、IL-2のTreg活性化という副作用を克服し、より安全で効果的な免疫療法戦略を開発するための基盤を提供することを目的とする。

結果

IL-2によるCD4+ T細胞からのEV産生増加とその機序: IL-2 (500 IU/mL) 刺激により、Jurkat細胞および初代CD4+ T細胞において、EV産生に関わるRab GTPaseであるRab5、Rab7、Rab27aのタンパク質発現、mRNA発現、および細胞表面発現がいずれも用量依存的に増加した (Fig. 1a-d)。NTA解析では、IL-2処置群でEV粒子数が有意に増加し (Jurkat細胞: p < 0.01、初代CD4+ T細胞: p < 0.05、n=5-7 replicates)、一方でMTS法による細胞増殖は変化しなかった。この結果は、IL-2がRab GTPaseを介してEVの生合成を促進することを示唆している。精製されたEVはTEMにより50-200 nmのカップ型形態を呈することが確認された (Fig. 1e, g)。

CD8+ T細胞の選択的活性化とTregへの非影響: hPBMCにPrimary-IL2Eを処置すると、CD8+ T細胞の割合が有意に増加したが、CD3+ T細胞、CD4+ T細胞、NK細胞、B細胞、単球の割合には変化がなかった (Fig. 2a)。CTLL-2細胞ではJurkat-CEおよびJurkat-IL2E双方がKi67陽性率を増加させ、初代CD8+ T細胞でも同様の増殖促進効果が確認された (Primary-IL2E > Primary-CE、n=3 replicates)。活性化マーカーの発現は、Primary-IL2E処置によりperforin、granzyme B、IFN-γがいずれも有意に上昇した (Fig. 2d, e)。特筆すべき点として、hPBMC中のTreg数 (CD4+CD25+CD127dim) およびTreg活性化マーカー (TGF-β、CTLA4 MFI) はPrimary-CE/Primary-IL2E処置でいずれも変化せず (Fig. 2h, i)、IL-2単独のTreg拡張効果との明確な差別化が示された。

In vitro抗腫瘍効果: Primary-IL2Eで前処置した初代CD8+ T細胞は、B16F10マウスメラノーマとSK-MEL-28ヒトメラノーマの両方に対して有意な細胞傷害活性を示した (T:E = 1:10、n=9 replicates)。IVIS生物発光アッセイでもB16F10-luc-g5腫瘍細胞の生存率低下が確認された (Fig. 3c, e)。Primary-IL2Eはさらに初代CD8+ T細胞によるマウスCD8+ T細胞の活性化も誘導した。Jurkat-IL2Eで前処理したCTLL-2細胞は、PBSコントロールと比較してB16F10細胞の生存率を低下させ、Jurkat-CEと比較してさらに効果的な細胞傷害活性を示した (Fig. 3b, c)。

In vivo抗腫瘍効果とCD8+ T細胞依存性: B16F10-luc-g5担癌マウスへのPrimary-IL2E腫瘍内投与により、腫瘍体積 (day 15から有意差、p < 0.0001、n=7-9 mice/group)、IVIS総生物発光、腫瘍重量がいずれも有意に減少した (Fig. 4b-d)。Primary-CE投与群でも減少傾向が認められたが、Primary-IL2E群でより顕著な効果が得られた。Cisplatin投与群および抗PD-L1抗体投与群とPrimary-IL2E群の腫瘍抑制効果は同等であった (Fig. S9b-d)。脾腫の軽減傾向もPrimary-IL2E群で認められた。抗CD8抗体 (2.43) によるCD8+ T細胞枯渇実験では、Primary-IL2Eの腫瘍縮小効果がday 17に有意に消失し (p < 0.0001、n=5-7 mice/group)、抗腫瘍効果がCD8+ T細胞に依存することが確認された (Fig. 6b-d)。免疫プロファイリングでは、末梢血、脾臓、ドレナージリンパ節 (DLN) でCD3+ T細胞およびCD8+ T細胞の増加、DLNおよび腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) でのKi67/IFN-γ/granzyme B陽性CD8+ T細胞の増加が示された (Fig. 5a-g)。腫瘍内Treg数はPrimary-CE/Primary-IL2E投与でいずれも変化しなかったが、IL-2腫瘍内・腹腔内投与はTregを有意に増加させた (Fig. S12b-e)。

抗腫瘍効果を媒介するmiRNAの同定: Primary-CEとPrimary-IL2EのmiRNAプロファイルを比較するためmiRseq解析を実施し、合計322種のmiRNAを同定した (Fig. 7a)。2段階の選択基準を設定した: (1) 両EVで高発現の上位5 miRNA (miR-10a-5p、miR-25-3p、miR-148a-3p、miR-320b、miR-4443) をEV共通活性化因子候補として選定、(2) IL-2刺激でfold change > 1.5の免疫応答関連miRNA上位5種 (miR-155-5p、miR-191-5p、miR-200b-3p、miR-215-5p、miR-375) をIL-2強化因子候補として選定した (Fig. 7e)。これら10種のmiRNAミミックを初代CD8+ T細胞に導入すると、6種 (miR-10a-5p、miR-25-3p、miR-148a-3p、miR-155-5p、miR-215-5p、miR-375) がgranzyme BおよびIFN-γのmRNA発現を有意に増加させた (Fig. 7f, g)。タンパク発現ではmiR-10a-5p、miR-155-5pがgranzyme Bを、miR-25-3p、miR-155-5p、miR-215-5p、miR-375がIFN-γタンパクを有意に上昇させた (Fig. 7h, i)。機能解析では、miR-25-3p (両EVに高発現)、miR-155-5p、miR-215-5p、miR-375 (IL-2刺激で濃縮) がいずれもSK-MEL-28に対するCD8+ T細胞の細胞傷害活性を有意に増強した (Fig. 7j)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、CAR-T細胞由来EVやCD8+ T細胞由来EVの抗腫瘍効果が先行研究で報告されていたのと異なり、CD4+ ヘルパーT細胞由来EVがCD8+ T細胞を直接活性化できるという概念を初めて体系的に実証した。従来のIL-2免疫療法は効果的であるものの、Treg拡張という副作用のジレンマを抱え、臨床応用に制約があった。本研究の最大の独自性は、CD4+ T細胞由来EVがIL-2と同等のCD8+ T細胞活性化作用を持ちながら、Tregを活性化しないという点にある。この差別化はin vitro (Treg数・活性化マーカー不変) とin vivo (腫瘍内Treg不変、IL-2投与との直接比較) の双方で証明された。

新規性: IL-2刺激がEV産生量の増加のみならず、EV内miRNAプロファイルを変容させるという知見は新規である。これは「サイトカイン刺激によるEV内容物の内因性リプログラミング」という新たな治療薬製造コンセプトを提示する。従来のsonicationやelectroporationなどの外部ローディング法はEV構造を損傷したり、核酸の凝集を招いたりする問題があった。IL-2刺激による内因性リプログラミング法はこれらの問題を回避し、生理的に機能する治療miRNAを大量搭載したEVの製造を可能にする。また、miR-215-5pおよびmiR-375は先行研究で腫瘍増殖の直接抑制因子として報告されていたが、これらがCD4+ T細胞由来EVに含まれ、CD8+ T細胞の細胞傷害活性を増強する免疫調節因子としても機能することは本研究で初めて示された。miR-25-3pとmiR-155-5pが免疫応答調節に関与することは既知だったが、CD4+-CD8+間のEV介在コミュニケーションにおける具体的な機能は未解明であった。これら4種のmiRNAの組み合わせがCTL応答を支える分子基盤として同定された点は、今後のEV工学 (合成EVへの複数miRNAの積載) の基盤となりうる。

臨床応用: CD4+ T細胞由来EVは抗PD-L1抗体やcisplatinと同等の腫瘍抑制効果を示し、既存治療との組み合わせ療法への展開が期待される。EVは低免疫原性、高安定性、良好な生体適合性という特性から、同種異系 (allogeneic) 製剤としての大量製造が理論的に可能であり、自家T細胞療法の制約を超えた汎用的な治療薬としての可能性を持つ。本研究は、CD4+ T細胞由来EVが、IL-2のTreg活性化という課題を克服し、がん免疫療法における新規治療モダリティとして臨床応用される可能性を示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) GMPグレードのEV大量生産法の確立、(2) 非小細胞肺癌や大腸癌など他の固形癌種での有効性検証、(3) PD-1/PD-L1チェックポイント阻害薬とのconcurrent/sequential併用療法の最適化、(4) 他の免疫細胞 (NK細胞、マクロファージ、樹状細胞) への影響評価、(5) 全身投与経路でのバイオディストリビューションと安全性、(6) 腫瘍抗原特異的EVとポリクローナルEVの効果差の解明が挙げられる。また、CD4+ T細胞由来EVがTME内のNK細胞、マクロファージ、樹状細胞、好中球にも作用し、TME全体の免疫環境をリプログラミングする可能性も示唆されており、より複雑な腫瘍免疫ネットワークにおける役割の解明が今後の研究方向性として期待される。

方法

細胞・EV調製: 健常ドナーの末梢血単核球 (hPBMC) からMACS法を用いてCD4+ T細胞、CD8+ T細胞、Tregを単離した。Jurkat (ヒトCD4+ T細胞株) および初代CD4+ T細胞をIL-2 (500 IU/mL) で刺激後、超遠心法 (300×gで5分、2,500×gで15分、10,000×gで30分、その後120,000×gで90分を2回) でEVを精製した。精製されたEVはNTA (nanoparticle tracking analysis) により粒子径 (50-200 nm) と粒子数を定量し、TEM (transmission electron microscopy) で形態を確認した。EVは以下の4群に分類した: Jurkat-CE (IL-2非刺激Jurkat由来)、Jurkat-IL2E (IL-2刺激Jurkat由来)、Primary-CE (IL-2非刺激初代CD4+ T細胞由来)、Primary-IL2E (IL-2刺激初代CD4+ T細胞由来)。

機能解析: hPBMC、CTLL-2 (マウス細胞傷害性T細胞株) 細胞、初代CD8+ T細胞にEVを処置し、フローサイトメトリーでKi67 (増殖マーカー)、perforin、granzyme B、IFN-γ、Treg (CD4+CD25+CD127dim) の発現を測定した。B16F10マウスメラノーマおよびSK-MEL-28ヒトメラノーマとの共培養 (T:E = 1:10) でMTS/IVIS法により細胞傷害活性を定量した。

In vivo試験: C57BL/6マウスにB16F10-luc-g5細胞を皮下接種し、腫瘍径が30 mm³に到達した後に、2日毎にPrimary-CEまたはPrimary-IL2Eを腫瘍内投与した (2×10^7 particles/60 µL、n=7-10 mice/group)。腫瘍体積、IVIS生物発光、腫瘍重量を測定した。CD8+ T細胞枯渇実験では、抗CD8抗体 (2.43) を腹腔内投与した。Cisplatin (200 µg) および抗PD-L1抗体 (10F.9G2、200 µg) との比較も実施し、3日ごとに腹腔内投与した。IL-2単独投与群 (腫瘍内3,000 IU/miceまたは腹腔内50,000 IU/mice) も設定し、Treg集団への影響を比較した。動物実験はDGIST IACUCの承認 (DGIST-IACUC-20010206-0000) を得て実施した。

miRNA解析: EVから小RNAを抽出し、NextSeq500でmiRNAシーケンシング (75 bp single-end) を実施した。322種のmiRNAを同定し、bowtie2/bedtoolsで定量した。候補miRNAミミックをヌクレオフェクションで初代CD8+ T細胞に導入し、granzyme BおよびIFN-γの発現への影響とSK-MEL-28に対する細胞傷害活性を評価した。

統計解析: GraphPad PRISM 8を使用し、t検定、Mann-Whitney U検定、一元配置分散分析 (ANOVA) を適宜使用した。有意水準は*p < 0.05, **p < 0.01, ***p < 0.001, ****p < 0.0001とした。