• 著者: Irene Casanova-Salas, Daniel Aguilar, Sarai Cordoba-Terreros, Laura Agundez, Julian Brandariz, Nicolas Herranz, Alba Mas, Macarena Gonzalez, Rafael Morales-Barrera, Alexandre Sierra, Mario Soriano-Navarro, Pablo Cresta, Gisela Mir, Sara Simonetti, Goncalo Rodrigues, Sara Arce-Gallego, Luisa Delgado-Serrano, Irene Agusti, Elena Castellano-Sanz, Richard Mast, Matias de Albert, Ana Celma, Anna Santamaria, Lucila Gonzalez, Natalia Castro, Maria del Mar Suanes, Javier Hernandez-Losa, Lara Nonell, Hector Peinado, Joan Carles, Joaquin Mateo
  • Corresponding author: Joaquin Mateo (Vall d’Hebron Institute of Oncology (VHIO), Barcelona, Spain)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-07-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38981440

背景

転移性前立腺がん (mPC) は致死的疾患であり、アンドロゲン受容体シグナル阻害剤 (ARSI: androgen receptor signaling inhibitor, abiraterone, enzalutamideなど) やタキサン系薬剤による治療は患者の生存期間を改善したものの、治療抵抗性の獲得と神経内分泌 (NE)/基底細胞様転写可塑性が主要な耐性機序として知られている。しかし、治療経過中に繰り返し腫瘍生検を行うことは臨床的に困難であり、治療中の腫瘍のトランスクリプトームプロファイリングを縦断的に実施することは未達成の課題であった。リキッドバイオプシーとしては、循環腫瘍DNA (ctDNA) の次世代シーケンシング (NGS) がmCRPCの分子選別に有用であることが示されているが、循環cell-free RNA (cfRNA) はRNAの急速な分解のため、その実用化は進んでいない。また、循環腫瘍細胞 (CTC) のRNA解析も技術的な困難を伴うことが報告されている (Miyamoto et al. Science 2015)。

細胞外小胞 (EVs: extracellular vesicles) は、脂質二重膜で囲まれた直径50 nmから1 µmの粒子であり、タンパク質、脂質、代謝物、RNA (mRNA, lncRNA, miRNAなど)、DNAをカーゴとして含有する。EVは腫瘍細胞間のコミュニケーションの主要なメディエーターであり、そのタンパク質カーゴ組成は腫瘍の進行、免疫調節、転移において重要な役割を果たすことが示されている (Peinado et al. NatMed 2012, Hoshino et al. Nature 2015)。しかし、腫瘍から放出されるEVが臨床的に関連性の高いDNAおよびRNAバイオマーカーの供給源としてどの程度の潜在的価値を持つかは、これまで広く未解明であった。特に、EVに搭載されたRNAの安定性や、治療中の腫瘍の適応変化を非侵襲的にモニタリングする能力については、さらなる検証が不足していた。本研究は、mCRPC患者の血漿から分離した循環EVのDNAおよびRNAの多層的解析を通じて、これらのギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、転移性前立腺がん (mPC) 患者の血漿から分離した循環細胞外小胞 (EV) のDNAおよびRNAが、腫瘍のゲノム的およびトランスクリプトーム的特徴を反映するかどうかを検証することである。特に、従来困難であったEV-mRNAのシーケンシングパイプラインであるRExCuE (RNA Expression in Circulating EVs) を確立し、それを用いて治療下における腫瘍の転写進化と薬剤抵抗性プログラムの出現を非侵襲的にモニタリング可能かを検討する。これにより、EVプロファイリングがmPCの精密医療における新たなリキッドバイオプシー戦略として確立される可能性を探る。

結果

EV-DNAの特性評価と臨床的関連性: EV-DNAはDNase処理後も80%以上が保護されており、cfDNAが100-200 bpの小断片に富むのに対し、EV-DNAは1,000 bpを超える大断片が優位であった (p < 0.001)。血漿中のEV-DNA濃度は平均1.2 ng/mL (95% CI 0.61-1.76) であり、cfDNAの平均20.4 ng/mL (95% CI 13.2-27.5) と比較して約20倍低かった。ベースラインサンプル51例中、EV-DNA TF ≥4%は28例、cfDNA TF ≥4%は35例で検出された。EV-DNA TF ≥4%は、PSA (r=0.47, p=0.0006)、LDH (r=0.45, p=0.001)、ALP (r=0.51, p=0.0002) といった腫瘍量マーカー、および骨転移の有無 (r=0.39, p=0.004) と有意に相関した (Figure 1D)。

EV-DNAの予後予測能: ベースラインのEV-DNA TF ≥4%は、ARSIまたはタキサン治療を受けた患者において、無増悪生存期間 (PFS) の短縮と有意に関連した (HR 2.76, 95% CI 1.45-5.25, ログランクp=0.001)。これはctDNAが示す予後予測値と同等であった (Figure 1E)。22例の患者で利用可能な腫瘍生検のCNAプロファイルは、EV-DNAのCNAプロファイルと高い相関を示し (r=0.87, p < 0.0001)、ARおよび8qの増幅、8p/10/13の欠失といったmCRPCに典型的なゲノム異常を再現した (Figure 1F)。

RExCuEの技術的性能とEV-RNAの特性: EV-RNAは50-200 ntの小分子RNAに有意に濃縮されていた (p < 0.0001)。RExCuEパイプラインは、平均53.6%の高いアライメント率を達成し、平均65Mリード、21Mユニークマッピングリードを得た。リード長は145-151 bpに均一にマッピングされた。主成分分析 (PCA) では、EV-RNAサンプルがPBMC-RNAおよびHVのEV-RNAサンプルから明確に分離され、mPC患者とHVの間でも明確な分離が確認された (Figure 2A)。EV-RNAとPBMC-RNAの間で10,000以上の差次的に発現する遺伝子が同定され、EV-RNAでは前立腺がん関連転写産物、ヘッジホッグシグナル伝達、EMT経路が濃縮され、PBMC-RNAでは血液細胞系譜シグネチャーが濃縮された (Figure 2B, 2C)。

前立腺がん特異的転写産物の検出: AR、KLK2、KLK3、TMPRSS2、FOLH1 (PSMA)、NKX3-1といった前立腺がん関連遺伝子がEV-RNAでPBMC-RNAと比較して有意に高発現していた (Figure 3G)。xCell細胞脱畳解析により、mPC患者のEV-RNAはHVと比較して上皮細胞スコア (p=0.01) およびケラチノサイトスコア (p=0.05) が上昇しており、これは腫瘍生検RNAの上皮スコアとr=0.83, p=0.01の相関を示した (Figure 2F, 2G)。

EV-DNA/RNA間のゲノム-転写整合性: SU2C-PCFデータセットにおけるWES-RNA整合 (8qでFDR < 0.05) が、本研究のリキッドバイオプシーでも再現された (Figure 3A)。8q、10q、13q、17qにおいてEV-DNAのコピー数とEV-RNAの発現レベルの間に正の相関が認められた (全てFDR < 0.2)。AR増幅症例では、ctDNA (p=0.02) およびEV-DNA (p=0.04) のいずれにおいてもEV-RNAのAR発現が有意に上昇しており、ARコピー数とAR転写産物レベルが直接相関した (r=0.54, p=0.0001) (Figure 3C)。MYC増幅もEV-DNA (FDR 0.0004) およびctDNA (FDR 0.011) の両方で有意な相関を示した。TP53機能喪失変異を有する症例では、EV-RNAのTP53転写産物レベルが低下していた (Figure 3D)。CNVkitによるRNA由来CN推定は、EV-DNAのCNプロファイルとr=0.25-0.65で一致した (Figure 3E)。

治療下の転写進化のモニタリング: LNCaP細胞株とC4-2細胞株を用いたin vitroおよびin vivoエンザルタミド実験では、EV-RNAがHallmark mTORC1シグナル伝達、G2/Mチェックポイント、ARシグナル伝達 (AR-FL, AR-V7, Labrecque AR) のダウンレギュレーション、および基底細胞様/神経内分泌 (NE) 関連シグネチャー (NE-Labrecque, CXCR2 NE, Basal-Zhang) の増加を早期に検出した (Figure 4A)。PDX P886モデルでは、エンザルタミド治療開始9日目のEV-RNAで既にNE/基底細胞様シグネチャーの濃縮が検出されたが、腫瘍組織では29日目に初めて顕在化し、血漿EVが腫瘍の可塑性を先行して検出できる可能性が示された (Figure 4B)。ARSI治療を受けた臨床コホートでは、治療開始4週時点でE2Fターゲット、MYCターゲット、mTORC1シグナル伝達、AR-FL/V7の低下と、RB1喪失、NE-Labrecque、NE+DNPC、CXCR2 NE、Basal-Zhangの上昇がEV-RNAで確認された (Figure 4C)。タキサンコホートでは、PI3K/mTOR、MYC、アポトーシスシグネチャーの低下が特徴的であり、EV-RNAが治療作用機序の異なる影響を反映することが示された。

治療反応予測: ARSI非応答患者のベースラインEV-RNAは、低分化型PC関連遺伝子セットに富み、ルミナル活性、ARシグナル伝達、DNA修復関連遺伝子セットの表現が応答患者と比較して低かった (Figure 4D)。これらの結果は、エンザルタミド治療を受けたmPC患者の公開コホートにおける腫瘍生検RNA-seqデータでも検証された。ベースラインEV-RNAにおける神経内分泌活性が高い患者は、無増悪生存期間が短い傾向にあった (Figure 4E)。タキサン非応答患者のベースラインEV-RNAは、低分化型腫瘍関連シグネチャーが枯渇し、MYCターゲット、P53、PI3K、mTORC、E2Fなどの高増殖性シグネチャーに富んでいた (Figure 4F)。さらに、ARSI治療開始後4週時点でのEV-RNAにおけるARシグナル伝達関連シグネチャーのダウンレギュレーションは、PSA応答を達成した患者で選択的に顕著であった (Figure 4G)。

考察/結論

本研究は、循環細胞外小胞 (EV) が転移性去勢抵抗性前立腺がん (mCRPC) の縦断的なゲノムおよびトランスクリプトームモニタリングを可能にする有望なリキッドバイオプシー源であることを、機序的および臨床的に初めて実証した。特に、EV-mRNA解析法であるRExCuEの確立は、cfRNAの分解による実用化の困難さを克服する技術的躍進であり、腫瘍組織に先行して抵抗性プログラム (神経内分泌/基底細胞様転写可塑性) を検出できたPDX P886モデルの所見は、将来的な「分子耐性の先制的検出」の臨床実現性を示すものである。

先行研究との違い: これまでのCTC-RNAやcfRNAの研究と異なり、EVは脂質二重膜によってRNase分解から保護されており、血漿中濃度と腫瘍寄与度の双方で高い再現性を示す点が本研究の独自性である。また、EV-DNAのCNAプロファイルが腫瘍生検とr=0.87という強い相関を示した点は、Peinado et al. NatMed 2012Hoshino et al. Nature 2015などの既報のEV-DNA研究を臨床予後予測へと拡張する成果である。さらに、ctDNAとEV-DNAがPFS予測においてほぼ同等のハザード比 (HR) を示したことは、両アナライトが相補的な情報を提供し得ることを示唆する。

新規性: 本研究で初めて、EV-RNAのタンパク質コード転写産物を特異的に濃縮し、解析するRExCuEパイプラインを新規に開発した。これにより、mCRPC患者の循環EV-RNAから、治療中の腫瘍の適応変化や薬剤抵抗性ドライバーを早期に、非侵襲的に検出できることを示した。これは、リキッドバイオプシーによるトランスクリプトームプロファイリングの新たな道を切り拓くものである。

臨床応用: 本知見は、mCRPC患者の精密医療におけるいくつかの臨床応用を可能にする。具体的には、(1) ベースラインEV-DNA TF ≥4%を用いたmCRPCの予後層別化、(2) ARSI治療開始後4週目におけるEV-RNAの神経内分泌シグネチャー上昇による早期耐性検出、(3) ARコピー数とAR-V7/AR-FL転写産物の同時評価によるARSI再投与の判断、(4) タキサン系薬剤に対する反応シグネチャーの差異的モニタリングなどが期待される。これらのアプローチは、治療選択の最適化と薬剤開発の加速に貢献する臨床的有用性を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) より大規模かつ多施設コホートでの予後予測HRの検証、(2) TF <4%の低腫瘍量患者における検出感度の向上、(3) EV由来細胞を特定するためのシングルEVプロテオミクスとRNA-seqの統合、(4) 他のがん種 (膀胱がん、乳がん、非小細胞肺がんなど) へのRExCuEの転用可能性、(5) 治療介入をガイドするための前向き無作為化比較試験の実施が挙げられる。また、EV-DNAのサイズ分布がctDNAと異なることは、EV-DNAの生成および放出メカニズムが独特であることを示唆するが、本研究の低深度WGSアプローチでは、これらの断片化パターンの潜在的関連性を詳細に研究することはできなかった。本研究の限られたサンプルサイズによる制約も考慮し、結果は慎重に解釈する必要がある。

方法

コホートと試料: ARSI (androgen receptor signaling inhibitor) 治療中のmCRPC患者35名とタキサン治療中のmCRPC患者18名から、ベースライン (BL)、治療中 (On-ttx)、病勢進行時 (PD) の血漿サンプルを縦断的に収集した。対照として、同一採血チューブから得られたPBMC RNA-seq (n=9) と、年齢をマッチさせた健常男性ボランティア (HV) のEV-RNA (n=7) を用いた。

EV分離と特性評価: EVは、DNA解析用には超遠心分離法、RNA解析用にはカラムベースの分離キット (Qiagen exoRNeasy kit) を用いて分離した。純度確認のため、ヨージキサノール密度勾配遠心分離も実施し、F7-F10画分でCD81/TSG101などの小EVマーカーの濃縮を確認した。EVの形態は透過型電子顕微鏡 (TEM) で、サイズ分布はNanoSight粒子追跡解析 (NTA) で評価した。NTAではDNA用EVで中央径102-133 nm、RNA用EVで180-200 nmの小胞が確認された。また、テトラスパニン (CD9/CD63/CD81) およびTSG101のウェスタンブロットにより、小EVの存在を検証した。EV外のcfDNA/cfRNAを除去するため、DNaseおよびプロテイナーゼK処理を施した。RNAse保護アッセイにより、分離されたRNAの大部分がEV内部でRNAseから保護されていることを確認した。

EV-DNA解析: EV-DNAは低深度全ゲノムシーケンシング (lpWGS) に供し、ichorCNAを用いて腫瘍細胞比率 (tumor fraction: TF) とコピー数異常 (CNA) プロファイルを算出した。in silico希釈実験により、ichorCNAによるEV-DNA TFの検出下限を4%と設定した。

RExCuE開発とEV-RNA解析: 小さなサイズ (50-200 nt) のmRNA断片を効率的にライブラリ化する新規手法であるRExCuE (RNA Expression in Circulating EVs) を開発した。mCRPC患者28名 (ARSIコホート38サンプル、タキサンコホート33サンプル) のEV-RNA-seqを実施した。平均65Mリード、21Mユニークマッピングリードが得られ、30,000以上の遺伝子を検出した。マッピングされた遺伝子の65%がタンパク質コード遺伝子、16%がlncRNA、6%がmiRNAであった。

in vitro/in vivo検証: LNCaP、C4-2、22Rv1、PC3細胞株、22Rv1異種移植モデル、および患者由来異種移植モデル (PDX) P886 (de novo mPC, Gleason 5+4) を用いて、エンザルタミド感受性および耐性下でのEV-RNAプロファイルを評価した。LNCaP細胞株とC4-2細胞株はin vitro実験に用いられ、LNCaPおよびC4-2異種移植モデルはin vivo実験に用いられた。

下流解析: MSigDB hallmark遺伝子セット、前立腺がん特異的遺伝子シグネチャー (Labrecque AR/NE、Tomlins UP/DW、Beltran NE、Zhang basal、CXCR2 NE、Aggarwal DNPC)、xCell細胞脱畳解析、CNVkitによるRNA由来CN推定を行った。統計解析にはGraphPad Prism 8およびRパッケージ (Version 4.1.2) を使用し、Studentのt検定、一元配置ANOVA、PearsonまたはSpearman相関、Kaplan-Meier曲線 (ログランク検定)、Cox回帰モデルを用いた。