- 著者: Naureen Javeed, Gunisha Sagar, Shamit K. Dutta, Thomas C. Smyrk, Julie S. Lau, Santanu Bhattacharya, Mark Truty, Gloria M. Petersen, Randal J. Kaufman, Suresh T. Chari, Debabrata Mukhopadhyay
- Corresponding author: Debabrata Mukhopadhyay; Suresh T. Chari (Mayo Clinic, Rochester, MN)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2014-10-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 25355928
背景
膵臓癌 (PC, pancreatic cancer) 患者の約 85% に高血糖が認められ、45-67% が糖尿病 (DM, diabetes mellitus) を合併し、その 75% は 36 か月以内の新規発症である。膵臓癌関連糖尿病 (PC-DM, pancreatic cancer-associated DM) は傍腫瘍性 (paraneoplastic) 現象と考えられているが発症機序は不明であった (Pannala et al. Gastroenterology 2008)。PC-DM は 2 型糖尿病と危険因子・高インスリン血症を共有しながらも、体重減少下で発症し膵切除後に 50% 超で寛解する、islet amyloid を呈しないという固有の特徴を持つ。
先行研究で膵臓癌細胞株条件培地が INS-1 β 細胞株とマウス膵島のインスリン分泌を障害すること、メディエーター候補として adrenomedullin (AM, アドレノメデュリン) が同定されていた (Kitamura et al. BiochemBiophysResCommun 1993)。AM は低酸素・低グルコース環境の膵臓癌細胞で最も高発現する遺伝子の一つで、β-cell receptor ADMR (CRLR, calcitonin receptor-like receptor) を介してインスリン分泌を抑制する一方、生理的血糖調節には関与しないとされる。さらに循環 EV (extracellular vesicle) が遠隔臓器へ生理活性物質を輸送する担体として機能することが Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013 により総説化されていた。
しかしこれまで以下のギャップが残されていた。第一に、AM がどのようにして膵臓癌局所から遠隔の膵島 β-cell まで到達するかの輸送機構が不明であった (これまで何が足りなかったか①: 輸送経路)。第二に、PC 由来 EV が AM を含むかどうか、それが β-cell に取り込まれるかどうかの直接証拠が欠落していた (これまで何が足りなかったか②: EV-mediated delivery)。第三に、AM-mediated β-cell dysfunction の細胞内シグナル機序 (ER stress, unfolded protein response, UPR 経路) との因果関係が未解明であった (これまで何が足りなかったか③: downstream mechanism)。
目的
本研究は次の4目的を設定した。第一に、PC 細胞株 (PANC-1 + 患者由来 xenograft 4 株) と PC 患者 (n=20) の門脈血・末梢血から exosome を分離し、AM・CA19-9 (carbohydrate antigen 19-9) の含有を分子生物学的に検証すること。第二に、PC-Exo (PC-derived exosomes) が β-cell 内に取り込まれる経路 (clathrin / caveolin / macropinocytosis のいずれか) を薬理学的阻害剤で同定すること。第三に、PC-Exo によるグルコース刺激インスリン分泌 (GSIS, glucose-stimulated insulin secretion) 抑制が AM-ADMR 軸依存的か AM receptor antagonist AM 22-52 で確認すること。第四に、PC-Exo / AM が β-cell ER stress (Bip / Chop / Xbp-1s) を誘導し UPR 破綻を介してアポトーシスを引き起こすという downstream mechanism を実証すること。
結果
所見1 — PC 由来 EV はモード径 100 nm 未満の exosome 主体で CA19-9・AM を含有する:NTA および SEM 解析の結果、膵臓癌細胞株 (PANC-1・患者由来 xenograft 4 株) の条件培地および膵臓癌患者 20 名の末梢血・門脈血から分離した EV の大部分はモード径 100 nm 未満の exosome サイズであった (Fig 1A,B、NTA distribution + SEM cup-shape)。WB により全 PC 患者 exosome サンプル (n=11) で CA19-9 が検出された一方、正常膵管上皮 HPDE および HUVEC 由来 exosome では CA19-9 陰性 (Fig 1C、specificity 確認)。さらに PANC-1・xenograft 4 株・PC 患者末梢血 (n=18) と門脈血 (n=2) 由来 exosome 全てに AM が検出され (Fig 1D)、PC が AM/CA19-9 陽性 exosome を循環血中に継続的に放出していることが示された。
所見2 — PC-Exo は caveolin/macropinocytosis 経路で β-cell に取り込まれる:PKH67 標識した PANC-1 exosome をヒト膵島と 48時間共培養すると共焦点顕微鏡で膵島内取り込みが確認された (Fig 2A)。薬理学的阻害実験で amiloride 100 μM 処理は取り込みを 42.5% 減少させ (p < 0.001、Fig 2B)、nystatin 50 μg/mL 処理は 59.5% 減少させた (p < 0.0001)。一方 chlorpromazine (clathrin) と nocodazole では有意な阻害なし (specificity 確認)。Duolink PLA で PC-Exo 添加 INS-1 細胞では細胞内 AM-ADMR 相互作用が著明増加 (赤色 punctate dot 数で約 5-fold 増加、Fig 2C)、AM 22-52 同時添加で消失した。
所見3 — PC-Exo は GSIS を用量依存的に約 60% 阻害し AM-ADMR 拮抗で完全回復する:PC-Exo (患者由来 xenograft 細胞株・PANC-1 株・患者血漿由来 5-50 μg/mL) を INS-1 細胞またはヒト膵島に添加すると、GSIS が用量依存的に有意低下した (Fig 3A、最大約 60% 低下、p < 0.05 ~ p < 0.0001)。Exosome 除去上清では効果消失 (specificity)、AM 22-52 1 μM 同時添加で抑制効果が完全消失し、拮抗薬単独では内因性 AM 競合で baseline 超のインスリン分泌増加が観察された (Fig 3B)。これは PC-Exo の β-cell 機能阻害が AM-ADMR 軸を介する直接的証拠である。
所見4 — AM と PC-Exo は β-cell ER stress を 2-3 fold 誘導し UPR 破綻を引き起こす:AM ペプチド (1-40 pmol/L) を INS-1 細胞に添加すると ER stress マーカー Bip (GRP78) と Chop の mRNA 発現が濃度依存的に約 2-3 fold 上昇した (Fig 4A、p < 0.05 ~ p < 0.0001)。通常の UPR に関与する Xbp-1s は軽度上昇のみで、UPR 破綻パターンを呈した。PC-Exo (50 μg) 添加でも Bip・Chop mRNA が約 2.5-fold 有意上昇し AM 単体と一致 (Fig 4B)。Duolink PLA では PC-Exo 増量 (0, 5, 10, 15 μL) に伴い Bip / proinsulin 相互作用シグナル (ER 内 misfolded insulin 蓄積) が段階的増加 (Fig 4C)。WB で AM 添加により INS-1 細胞内 proinsulin タンパク量が用量依存的に約 1.8-fold 増加し、過剰インスリン合成が UPR 破綻のトリガーとなる model と整合した。
所見5 — PC-Exo は β-cell に ROS/RNS 産生増加と Chop 介在アポトーシスを誘導する:AM 添加 (1 および 20 pmol/L) により ROS (緑チャンネル) および superoxide (橙チャンネル) の蛍光産生が対照群と比較して約 2-3 fold 上昇 (Fig 5A、CellROX/MitoSOX)。INS-1 細胞を PC-Exo 50 μg と 48時間培養後 Annexin V/PI 染色で、Annexin V+ 早期アポトーシス細胞割合が対照群と比較して約 2-fold 有意上昇 (Fig 5B、p < 0.01)。AM 22-52 同時添加で Bip・Chop mRNA 発現上昇、ROS/RNS 産生、アポトーシス全てが内因性レベルまで消失し (Fig 5C)、AM-ADMR specific 機序が確認された。
所見6 — 患者由来 PC-Exo は ex vivo ヒト膵島でも β-cell dysfunction を再現する:膵癌患者 20 名の門脈血 / 末梢血由来 PC-Exo (各 50 μg/mL) を商業購入ヒト膵島に添加すると、GSIS が約 45% 低下し (p < 0.01)、ER stress (Bip mRNA 2.1-fold up) と Annexin V+ apoptosis (約 2-fold) が誘導された (Fig 6)。これは細胞株所見の ex vivo 検証で、臨床的妥当性を裏付ける重要な所見である。
考察/結論
本研究は、PC が AM 陽性かつ CA19-9 陽性 exosome を循環血中に分泌し、β-cell に到達してインスリン分泌を障害するという傍腫瘍性機序を 新規な 形で初めて実験的に実証した。EV が体液循環を介した遠隔臓器への生理活性物質輸送担体として機能するパラダイムを PC-DM 病態に応用した点が最重要 contribution である。これまで報告されていない fascinating な機構として、AM が exosome 内に packaging されて輸送されることで遠隔膵島 β-cell の細胞内 ADMR と高効率に相互作用しうることを示した。
先行研究 (Kitamura et al. BiochemBiophysResCommun 1993 の AM 発見・Pannala et al. Gastroenterology 2008 の PC-DM 疫学・Aggarwal et al. Endocrinology 2002 の AM-insulin 関係) と異なり、本研究は (i) PC-Exo の AM 含有実証、(ii) caveolin/macropinocytosis 経路の同定、(iii) ER stress + UPR 破綻 + Chop apoptosis pathway の系統的解析、(iv) 患者由来 ex vivo ヒト膵島系での再現、という4点で方法論的に新しい。「新規な」発見として、cAMP-PKA 過剰刺激 → インスリン生合成亢進 → ER 折り畳み異常蛋白蓄積 → UPR 破綻 → Bip-proinsulin 異常複合体 → Chop apoptosis という連鎖機序を分子レベルで解明したことが挙げられる。
臨床応用 の観点では、(1) PC-Exo の CA19-9 + AM 二重陽性は新規発症糖尿病から PC を早期診断する血液 biomarker として有望であり、特に new-onset DM 患者 (年間 PC 発症 1% 超のハイリスク群) の screening に 臨床的意義 を持つ (Chari et al. Gastroenterology 2008)。(2) AM-ADMR 軸 (AM 22-52 antagonist) を標的とした PC-DM 予防・治療戦略は bench-to-bedside に直結する translational 概念で、糖尿病管理だけでなく PC 進展抑制への応用も期待される。(3) Exosome-targeting 戦略 (GW4869 nSMase 阻害等) や PC-Exo depletion plasmapheresis は次世代 臨床応用 の候補である。
残された課題 として、(i) AM 以外の PC-Exo 内 cargo (miRNA・lipid・他の peptide) と β-cell dysfunction の関係、(ii) in vivo マウスモデル (orthotopic PC + glucose tolerance test) での因果実証、(iii) PC-Exo の β-cell-specific uptake mechanism (ADMR 高発現の組織選択性), (iv) PC-Exo を biomarker として用いた prospective 検証研究、(v) AM 22-52 のヒト臨床試験への展開、が 今後の検討 課題として残る。Limitation として、(a) サンプル数 (患者 20 名) が比較的小規模、(b) in vitro / ex vivo 系のみで in vivo 因果未検証、(c) commercially purchased human islets のドナー個体差、(d) UC ベース isolation が他の EV subtype (microvesicle) を一部包含する可能性、が挙げられ 今後の研究 で改善されるべき。
方法
細胞株・患者サンプル: 膵臓癌細胞株 5 種 (cell line PANC-1 + 患者由来 xenograft cell lines 4 種、由来 patient-derived xenograft mouse model)、対照 cell line として HUVEC (human umbilical vein endothelial cell) と HPDE (human pancreatic duct epithelial cell line)、β-cell モデルとして INS-1 (Insulinoma Number 1 rat β-cell line) を使用。膵臓癌患者 20 名 (Mayo Clinic IRB 承認、Mayo Clinic cohort) の門脈血 (n=2) と末梢血 (n=18) から血漿分離。
EV isolation method (differential ultracentrifugation, UC、MISEV 概念前 era): 条件培地・血漿を 300 ×g 10 min → 2,000 ×g 10 min → 10,000 ×g 30 min で逐次清浄化 → 100,000 ×g 70 min × 2 回 (Beckman Optima L-90K) で exosome pellet 化。一部実験では sucrose cushion (30%) で密度精製。
EV characterization (NTA + EM + WB markers): NanoSight NS300 NTA (nanoparticle tracking analysis) でサイズ分布・濃度を確認 (mode ≤100 nm)。走査型電子顕微鏡 (SEM) で cup-shaped morphology 確認。Western blot (WB) で exosome markers ALIX・TSG101 と PC-specific CA19-9・AM を検出 (anti-CA19-9 mAb 1116-NS-19-9)。
取り込み経路解析: PKH67 (緑色蛍光膜色素) で標識した PANC-1 exosome をヒト膵島と 48 時間共培養。阻害剤: chlorpromazine 30 μM (clathrin-mediated endocytosis 阻害)・nystatin 50 μg/mL (caveolin 阻害)・amiloride 100 μM (macropinocytosis 阻害)・nocodazole 10 μM (endosomal trafficking 阻害) を 30分前処理。共焦点顕微鏡 (Zeiss LSM 510) と蛍光定量で取り込みを評価。
AM-ADMR 相互作用: Duolink in situ proximity ligation assay (PLA) で AM と ADMR の細胞内 ≤ 40 nm 近接を赤色 punctate dot として可視化。AM 22-52 (AM receptor antagonist) 1 μM で拮抗試験。
機能アッセイ: INS-1 β-cell および商業購入ヒト膵島 (Prodo Labs) を用い GSIS (低グルコース 3 mM → 高グルコース 17 mM) を ELISA (Mercodia) で定量。ER stress mRNA (Bip = GRP78・Chop = DDIT3・Xbp-1s) を SYBR Green RT-qPCR (Applied Biosystems 7500) で定量。ROS/RNS (reactive oxygen/nitrogen species) は CellROX Green / MitoSOX Red 蛍光検出キットで定量。アポトーシスは Annexin V-FITC / propidium iodide (PI) 二重染色 FACS で評価。
統計手法: 平均 ± SEM (n=3-5 independent experiments)、対応 Student t-test (2 群)、one-way ANOVA + Bonferroni post-hoc (多群)、Prism software (GraphPad)。有意水準 *p < 0.05, **p < 0.01, ***p < 0.001, ****p < 0.0001。