• 著者: Manouchehri Doulabi E, Fredolini C, Gallini R, Löf L, Shen Q, Ikebuchi R, Dubois L, Azimi A, Loudig O, Gabrielsson S, Landegren U, Larsson A, Bergquist J, Kamali-Moghaddam M
  • Corresponding author: Masood Kamali-Moghaddam (Department of Immunology, Genetics & Pathology, Science for Life Laboratory, Uppsala University)
  • 雑誌: Communications Biology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-12-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36550367

背景

細胞外小胞 (EV) は脂質二重膜に包まれたナノ粒子であり、エクソソーム (30-150 nm)・マイクロベシクル (100-800 nm)・アポトーシス小体 (200 nm-5 µm) の3サブグループに分類される。EVは細胞間でタンパク質・脂質・核酸を輸送する細胞間通信の重要メディエーターであり、疾患特異的バイオマーカーとしての潜在価値が注目されている Simons et al. CurrOpinCellBiol 2009。EV表面タンパクは受容細胞との物理的接触を確立し、取り込みや膜融合を制御するため、生物機能解析と診断アッセイ標的の双方において特に重要である Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014

精液小型EV (SF-sEV、精漿小体とも呼ばれる) は主に前立腺から精液中に分泌され、精子機能調節 (運動性・capacitation) に重要な役割を果たすことが知られている。SF-sEVは男性不妊と前立腺がんのバイオマーカーとして注目されているが、その表面タンパク組成については網羅的解析が進んでいなかった。既存の質量分析 (MS) 解析は全タンパクプロファイルに焦点を当てることが多く、無傷のsEV上での表面露出タンパクのみを特定する手法は確立されていなかった。さらに、MSによる同定結果を独立した抗体ベース手法で検証する直交的ワークフローも不足していた。

近接ライゲーションアッセイ (PLA) は抗体-DNA結合体ペアが近接した際にDNA増幅シグナルを生成する高感度技術である。フローサイトメトリーベースのExo-PLAはローリングサークル増幅 (RCA) を介してサイズ的に検出困難なsEVを個別に解析可能にする Wu et al. NatCommun 2019。ソリッドフェーズPLA (SP-PLA) はリアルタイムPCR読み出しで溶液中のsEVを定量できる。これら相補的な2つのPLAフォーマットと高分解能質量分析 (HRMS) の組み合わせにより、sEV表面プロテオームの発見から検証までを一貫したパイプラインで実施できると著者らは着想した。しかし、これらの技術を統合し、SF-sEVの表面プロテオームを網羅的に解析し、その結果を独立した手法で検証する汎用的なワークフローは未確立であった。特に、SF-sEVの表面タンパク質が精子機能や疾患バイオマーカーとして果たす役割を深く理解するためには、表面に特異的に露出するタンパク質の包括的な同定と検証が不可欠である。この知識ギャップを埋めることが、男性不妊や前立腺がんの診断・治療戦略開発に繋がる重要な課題であった。

目的

本研究の目的は、精液由来小型EV (SF-sEV) およびPC3前立腺がん細胞由来sEVに対し、膜非透過性ビオチン化試薬による表面タンパク質標識と高分解能質量分析 (HRMS) 解析を組み合わせ、sEV表面に露出したタンパク質を網羅的に同定することである。次に、フローサイトメトリーベースのExo-PLAおよびソリッドフェーズPLA (SP-PLA) による独立検証を行い、sEV表面プロテオーム解析のための再現性高い汎用ワークフローを確立することを目指した。このワークフローを通じて、SF-sEVの生物学的役割を評価し、診断目的でSF-sEVを分子レベルで同定・分類するための新たな表面バイオマーカー候補を特定することも重要な目的である。最終的には、この統合された戦略が、患者や病理学的状態を横断したEV表面タンパク質の詳細な解析と、超高感度な標的解析を可能にすることを示すことを意図した。

結果

sEV精製品質と技術的再現性の確立: NTA解析ではSF-sEVの平均粒子径190 nm、PC3 sEVの160 nm (TEM・NTAによるモード径155.8 nmと192.2 nm) が確認され、濃度はそれぞれ1.3×10⁹ particles/ml、1.4×10⁹ particles/mlと算出された (Fig. 2)。Western blotでsEVマーカー (CD9・CD63・CD81・TSG-101) の陽性とERマーカー calnexinの陰性を確認し、精製物の高純度が実証された (Fig. 2b)。n=2のSF-sEVサンプルとn=1のPC3 sEVサンプルが解析された。

技術的再現性評価では、同一生物学的サンプルの複製間 (n=3 replicates) で相対タンパク量 (正規化ペプチドスペクトラムマッチ nPSM) の高い相関が確認された (Pearson’s r=0.84-0.99、全複製間) (Supplementary Fig. 2)。技術的複製 (Rep 2とRep 3) の比較では、Total minus Surface画分で1,086/1,364タンパク質、Surface画分で653/915タンパク質が共通していた。サンプル調製の変動係数は7-19%と低く、ワークフローの高い技術的再現性が実証された。生物学的複製間比較 (Rep 1 vs Rep 2/3) でも41-64 (total minus surface) および31-46 (surface) 共通タンパク質が同定され、分析の堅牢性が確認された。

HRMS表面プロテオーム解析:1,014種の表面タンパク質と273種の新規タンパク質同定: 全複製をマージした後の最終解析では、total lysate画分で1,414種、surface画分で1,014種、total minus surface画分で1,460種のタンパク質が同定された (Fig. 3b)。875種が全サンプル間で共通して同定された。最も重要な知見として、同定されたタンパク質のうち273種はExoCARTAデータベースにもUniProtKBにも未掲載の新規EVタンパク質であった (Fig. 3a)。

FC>2 and/or p<0.05の基準で表面濃縮タンパク質を74種同定し、そのうち43/74 (58%) がGO細胞コンポーネント分類で膜タンパク質と確認された (Supplementary Data 1, 2)。Surface画分で最も高いFC値を示したタンパク質はKRT2・DNAJC3・CASP14であった (Fig. 4a)。最も豊富なSF-sEV表面タンパク質はSEMG1 (nPSM 8.1)・SEMG2 (5.05)・ANPEP/CD13 (1.74)・フィブロネクチンFN1 (1.35)・ネプリライシンMME/CD10 (1.09)・FASN (0.98) の順であった (Table 1)。Surface画分タンパク質の13%が「extracellular region」に注釈されていたのに対し、cargo画分では3%のみで、約3倍の細胞外タンパク質濃縮が表面画分で確認された (Fig. 3c, d)。

GO機能解析による表面タンパク質の生物学的特性: DAVID機能アノテーション解析では、surface濃縮タンパク質のGO上位タームとして「calcium-binding」と「intermediate filament」が同定されたのに対し、cargo濃縮タンパク質では「cytoplasm」と「acetylation」が上位を占め、両画分の機能的プロファイルが明確に異なることが示された (Fig. 3e, f)。Surface画分で特に濃縮されたcalcium-binding タンパク質として5種 (CRTAC1・AGRN・GAS6・NUCB2・NUCB1) が同定された。SF-EVsにおける神経系関連タンパク質 (KIF5C・YWHAQ・EEF1A1・BASP1) の同定は、SF-EVsの神経内分泌起源を示す既報と一致しており、神経伝達物質としての機能的役割を示唆する。STRING解析で74種の表面濃縮タンパク質を7基準 (疾患・免疫・精子機能・MVB・細胞質・精嚢・EV) に基づいて機能ネットワーク分類した結果、多くのタンパク質が複数基準を満たすことが示された (Supplementary Fig. 3)。

Exo-PLAとSP-PLAによる独立的検証: HRMS解析で同定した表面タンパク質のうち9種 (SEMG1・ACPP・PSA・PSMA・PTGDS・AKAP4・CRISP1・GAPDS・CD59) をExo-PLAで検証した (Fig. 5a)。フローサイトメトリー解析では、SF-sEVに2つの明確な亜集団 (SEMG1+CD59集団とSEMG1+PSMA集団) が識別され、PC3 sEVではSEMG1・CD59の発現が少なかった。SEMG1・PSMA・PTGDSの3重陽性集団がSF-sEV・PC3 sEV双方で検出された一方、SEMG1・GAPDS・AKAP4の3重陽性はSF-sEVにのみ見られ、HRMS結果との一致が確認された (AKAP4のnPSM最高値がPC3よりSF-sEVで高い)。SP-PLAでは、CRISP1・SEMG1・PTGDSを捕捉抗体としたとき最も高い検出シグナルが得られ、AKAP4・GAPDSでは低いが検出可能なシグナルが確認された (Fig. 5b)。n=3 replicatesで実施されたSP-PLAにおいて、calnexin (ER marker) 陰性対照は全濃度で未検出であり、本アッセイの高い特異性が実証された。これらの結果は、HRMSで同定された表面タンパク質が実際にsEV表面に存在することを強く支持する。

考察/結論

本研究は、膜非透過性ビオチン化試薬によるSF-sEV表面タンパク質分離・HRMS解析・Exo-PLA/SP-PLAによる検証という3段階のワークフローを構築し、SF-sEV表面に1,014種のタンパク質を同定した。このうち273種は既存データベース未掲載の新規タンパク質であり、EVプロテオームデータベース (ExoCarta・Vesiclepedia) の大幅拡充に貢献する。74種の表面濃縮タンパク質 (FC>2/p<0.05) の中から、PSA・ACPP・PSMAという既知の前立腺がんバイオマーカーの表面露出が確認された点は、PSA血中検出の一部がsEV表面への結合に由来することを示唆し、液体生検としてのsEVの可能性を支持する。

先行研究との違い: MS単独ではEV表面タンパク質と内腔タンパク質を区別できないという従来の課題を、本ワークフローが効果的に解決している点で、これまでの研究とは異なるアプローチである。また、Castillo et al. AnnOncol 2018 が膵臓がんEVで表面プロファイリングを行ったが、本研究はSF-sEVに特化し、より包括的な検証手法を組み合わせた点で対照的である。

新規性: SEMG1やAKAP4・GAPDS・PTGDSはこれまでsEV表面発現が報告されておらず、本研究で初めてその表面局在が実証された。SF-sEVがスペルマトゾアに融合して機能タンパク質を転送するというモデルに基づけば、表面濃縮されたカルシウム結合タンパク質 (CRTAC1等) や運動性関連タンパク質 (AKAP4・GAPDS) は精子capacitation過程の新規制御因子候補として注目される。

臨床応用: 技術的再現性の観点では Pearson r=0.84-0.99 という高い複製間相関と7-19%という低い変動係数が確認されており、本プロトコルの臨床検体への適用可能性を示す。SP-PLAの高感度定量とExo-PLAの個別sEV多重解析は相補的であり、前立腺がん患者と健常者間でのsEV亜集団比較 (surface marker-based subtyping) への展開が期待される。これは、男性不妊や前立腺がんの早期診断および病態モニタリングのための新規診断アッセイ開発に繋がる臨床的意義を持つ。

残された課題: 本研究のlimitationとして、(1) sulfo-NHS-SS-ビオチン化の効率が一次アミン (リジン残基) の利用可能性に依存するため、一部タンパク質が過少評価された可能性、(2) ストレプトアビジンビーズによる精製時の非特異的結合による画分間コンタミネーション (特に高発現タンパク質では全画分に検出される現象が観察)、(3) sEV表面を取り巻くプロテインコロナ (体液・培養液由来タンパク質の吸着) が含まれる可能性がある。今後の検討課題として、前立腺がん患者コホートでのSF-sEV表面プロファイルの比較検討、個別患者でのsEV亜集団変化の追跡、およびAKAP4/SEMG1等の表面タンパク質を標的としたPLA診断アッセイの臨床検証が期待される。

方法

SF-sEVはウプサラ大学病院生殖センターで採取した精液 (各サンプルは5名分のプールド精漿由来、倫理委員会承認 Ups 01-367) から、3,000×gで10分、10,000×gで30分遠心分離後、100,000×gで2時間超遠心分離した。得られたペレットはリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) に再懸濁し、Superdex 200サイズ排除クロマトグラフィー (GE Healthcare) でさらに精製した。その後、密度勾配分離を行い、SF-sEVは密度範囲1.13-1.19 g/mlの画分から回収された。PC3前立腺がん細胞 (ATCC-CRL1435) 由来sEVは、EV除去済みFBSを含む培地で48時間培養後、300×gで10分遠心分離し、0.22 µmフィルターでろ過した。その後、112,000×gで120分超遠心分離によりsEVを単離した。品質管理はネガティブ染色透過型電子顕微鏡 (TEM)・Western blot (CD9/CD63/CD81/TSG-101陽性; calnexin陰性) ・ナノ粒子トラッキング解析 (NTA) (Nano sight LM10HSB、500倍希釈、5回×30秒測定) で実施した。これらの手順はMISEV2018ガイドライン Thery et al. JExtracellVesicles 2018 に準拠した。

表面タンパク質単離は、2 mg/ml sEV (500 µl) をスルホ-NHS-SS-ビオチン (1 mM、30分、氷上) で処理後、50 mM Tris-HClでクエンチした。遊離ビオチンを除去するため、ビオチン化sEVをPBSで希釈し、112,000×gで120分超遠心分離した。ペレットを溶解バッファー (6 M尿素、プロテアーゼ阻害剤、1% n-オクチル-β-D-グルコピラノシドを含むPBS) に再懸濁し、ストレプトアビジン磁気ビーズ (5 mg Dynabeads MyOne、各チューブに300 µgの全溶解sEV) で捕捉し、50 mM DTTで溶出した。得られた「Surface」「Total minus Surface」「Total lysate」の3画分をトリプシン消化後、HRMSで定量解析した。HRMS解析はQE-Orbitrap質量分析計 (90分C18逆相グラジェント) を用い、SequestアルゴリズムをProteome Discoverer 1.4に組み込み、UniProt Homo sapiens reviewed database (20,421エントリ、2019年5月版) に対して検索した (≥2マッチングペプチド、95%信頼度)。表面濃縮タンパク質は、Surface画分とTotal minus Surface画分を比較し、fold change (FC) >2 and/or p<0.05の基準で同定した。

Exo-PLAは、抗CD9・CD63・CD26抗体結合磁気ビーズでsEVを捕捉後、RCA産物をフローサイトメトリー (BD FACS Aria III または BD LSR Fortessa) で検出した。SP-PLAは、HRMSで同定したタンパク質に対する捕捉抗体でsEVを捕捉し、CD9・CD26に対するPLAプローブ (リアルタイムPCR読み出し) で定量した。統計解析にはR環境とGraphPad Prismを使用し、Pearsonの相関係数とt検定を用いて再現性と有意差を評価した。