• 著者: Julien Taïeb, Nathalie Chaput, Laurence Zitvogel
  • Corresponding author: Julien Taïeb (ERIT-M 02-08 INSERM, Department of Clinical Biology, Institut Gustave Roussy)
  • 雑誌: Critical Reviews in Immunology
  • 発行年: 2005
  • Epub日: 2005-06-01
  • Article種別: Review
  • PMID: 16048436

背景

がん免疫療法において、樹状細胞 (DC) は生体内および試験管内の両方で一次細胞傷害性免疫応答を誘導できる唯一のプロフェッショナル抗原提示細胞 (APC) として注目されてきた。しかし、生細胞を用いたワクチン療法は、細胞の品質管理、生存率の維持、製造コスト、および標準化の難しさといった臨床応用における多くの課題を抱えている。このような背景から、細胞を用いない「セルフリー (cell-free)」なワクチン製剤の開発が模索されてきた。

Johnstone et al. (1987) が網状赤血球の成熟過程で初めて記述した小胞分泌機構は、その後、Bリンパ球、マスト細胞、血小板、細胞傷害性Tリンパ球 (CTL)、上皮細胞、さらには腫瘍細胞など、多様な細胞種において確認されている。特に樹状細胞が分泌する直径 60-100 nm のエンドサイトーシス起源の膜小胞は「樹状細胞由来エクソソーム (DEX)」と呼ばれ、主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスIおよびII、共刺激分子、粘着分子などを豊富に含むことが明らかとなった。Zitvogel et al. (1998) は、DEXがマウスモデルにおいて免疫原性を示し、確立された腫瘍を拒絶へと導くことを初めて報告し、DEXを用いたがんワクチン療法の基盤を築いた。さらに、Raposo et al. (1996) らの先行研究によっても、抗原提示細胞由来のエクソソームが持つ免疫修飾能が示唆されていた。

しかし、初期の知見においては、未熟樹状細胞から分泌されるDEXが、生体内においてどのようにしてナイーブT細胞を活性化するのか、その詳細な作用機序は未解明であった。また、生体内には免疫応答を抑制する制御性T細胞 (Treg) などの抑制機構が存在し、DEX単独の投与では十分な抗腫瘍効果が得られないという課題が残されている。さらに、臨床グレードのDEXを安定して製造・精製する手法や、ヒトにおける安全性および有効性の検証は未確立の領域であった。これらの課題を克服し、最適なDEXベースのワクチン設計を行うためには、DEXの生物学的特性、免疫活性化機序、および適切なアジュバントや免疫修飾薬との併用効果を包括的に理解することが求められていたが、当時は臨床応用へと展開するための知見が圧倒的に不足していた。

目的

本総説の目的は、樹状細胞由来エクソソーム (DEX) の生物学的特性、脂質およびタンパク質組成、ならびにその生合成経路を分子レベルで整理することである。さらに、マウスおよびヒトの実験モデルにおけるDEXの免疫刺激機能と抗腫瘍効果に関する前臨床データを包括的にレビューし、DEXがT細胞依存性の抗腫瘍免疫応答を誘導する詳細なメカニズムを明らかにする。特に、未熟樹状細胞由来のDEXが持つ潜在的な免疫寛容誘導能を回避し、強力な免疫活性化能を引き出すための合成アジュバントであるToll様受容体-3 (TLR-3) およびToll様受容体-9 (TLR-9) リガンドや、免疫修飾薬であるシクロホスファミド (CPM) との併用戦略の有効性を検証する。最終的には、進行メラノーマ患者を対象に実施された世界初の第I相臨床試験の結果をもとに、臨床グレードのDEX製造プロトコルの実現可能性、安全性、および生体内における免疫修飾作用 (特にNK細胞の活性化) を評価し、次世代のがんセルフリーワクチンとしての臨床応用の可能性と今後の展望を提示することを目的とする。

結果

DEXの生合成経路と特異的な分子・脂質組成: 樹状細胞由来エクソソーム (DEX) は、後期エンドソームにおけるマルチベシキュラーボディ (MVB) の内膜出芽によって形成される。このプロセスは、出芽時に細胞質ドメインを外側に露出する通常の輸送小胞とは異なり、逆方向の膜配向性を持つ。MVBの形成にはホスファチジルイノシトール3-キナーゼ (PI3K) や、クラトリンをエンドソームに動員するHrsタンパク質、ユビキチン化タンパク質をMVBに選別するESCRT-1 (endosomal sorting complex required for transport-1) 複合体 (Tsg101など) が関与している。脂質分析において、DEXは親細胞の細胞膜と比較してスフィンゴミエリンの割合が約2倍に増加しており、ホスファチジルコリンの割合は著しく減少している。また、ジグリセリドとリン脂質のモル比は 50% 減少している。この脂質組成により、DEXの膜は中性pHにおいて高い剛性を持ち、循環血中での安定性と標的細胞との融合能が担保されている。プロテオミクス解析では、DEXタンパク質の 80% がマウスとヒトの間で保存されていることが確認された。DEXには、細胞骨格成分 (チューブリン、アクチン)、膜融合に関与するアネキシンやRab3 (Ras-related protein Rab-3) などのRabタンパク質 (Rab11, Rab27a, Rab3)、熱ショックタンパク質 (hsc73, hsp70, hsp90)、およびテトラスパニン (CD9, CD63, CD81, CD82) が豊富に含まれている。さらに、APC由来のDEXに特異的な成分として、MHCクラスIおよびクラスII分子、共刺激分子 (CD86)、インテグリン (αMおよびβ2鎖)、およびMFG-E8 (milk fat globule-EGF factor 8 protein) が高密度に発現していることが示された (Fig 1)。

DEXによる抗原提示とT細胞活性化のメカニズム: DEXは、ナイーブT細胞に対して直接抗原提示を行う能力は限定的であり、その免疫原性を発揮するためには生体内の成熟樹状細胞 (DC) を介する必要があることが明らかとなった。Thery et al. (2002) らの研究において、H-Yペプチドを搭載したDEXは、抗原に接触していない成熟DCに転移することによって初めて、Marilynトランスジェニックマウス由来のナイーブCD4陽性T細胞を活性化できることが示された。また、ヒトDEXを用いた試験管内実験において、MHCクラスI拘束性ペプチドをロードしたDEXは、適切なMHCクラスI分子を欠損しているDCの存在下であっても、ペプチド特異的なCD8陽性T細胞クローンを活性化することが確認された。これは、DEXが保持するMHC/ペプチド複合体が、宿主のDC膜上に直接転移 (クロスドレッシング) するか、あるいはDCに取り込まれて再提示される経路 (クロスプレゼンテーション) が存在することを示している。未熟DCから分泌されるDEXは、アジュバント非存在下では免疫寛容を誘導する可能性があり、同種異系DEXの静脈内投与 (i.v.) は、心臓移植ラットモデルにおいてドナー特異的な細胞傷害性T細胞応答を抑制し、移植片の生存期間を有意に延長させることが報告されている。したがって、抗腫瘍免疫を誘導するためには、DEXを皮下投与し、生体内のDCを成熟させるシグナルと組み合わせることが必須である (Fig 2)。

合成アジュバント (TLRリガンド) 併用による抗腫瘍効果の増強: DEX単独投与による免疫寛容誘導を回避し、強力な細胞傷害性T細胞 (CTL) 応答を惹起するため、Toll様受容体 (TLR) リガンドとの併用効果が検証された。TLR-9リガンドであるODN CpG (oligodeoxynucleotide CpG) またはTLR-3リガンドであるAmpligen (二本鎖RNA) をDEXと混合して投与するプロトコルが開発された。ヒトHLA-A2.1およびgp100腫瘍抗原を共発現するB16F10メラノーマ細胞株を移植したHHD2トランスジェニックマウスモデルにおいて、10^10 個のexosomal MHC class I/gp100複合体にODN CpGを混合して投与した群では、腫瘍の増殖が著しく抑制された。この抗腫瘍効果は、3 × 10^5 個の成熟DC (gp100パルス) を投与した群と同等であり、50 μg のgp100ペプチドとCpGの混合物を投与した群よりも有意に強力であった (Fig 2)。CpGアジュバントの添加により、生体内のDCが成熟し、DEXを効率的に取り込んでナイーブT細胞へ提示する「エフェクターDC」として機能することが、この相乗効果の要因であると考えられた。

シクロホスファミド前投与による制御性T細胞の抑制とDEXの相乗効果: 腫瘍担持生体内における免疫抑制環境、特にCD4陽性CD25陽性制御性T細胞 (Treg) によるT細胞応答の減弱を克服するため、低用量シクロホスファミド (CPM) とDEXワクチンの併用療法が検討された。CPMは、免疫増強用量においてTregの活性を選択的に抑制することが知られている。低免疫原性のB16F10メラノーマを定着させたマウスモデルにおいて、DEX投与前にCPM (100 mg/kg) を前投与した群では、腫瘍の増殖が劇的に抑制され、確立された腫瘍の完全退縮が観察された。この併用群においては、MHC-ペプチドテトラマー染色およびIFN-γ分泌アッセイにより、ペプチド特異的な二次T細胞応答が著しく増強されていることが確認された。一方で、Tregを人為的に移入 (adoptive transfer) したマウスでは、このCPM/DEXによる抗腫瘍効果が消失したことから、効果の本体がTregの抑制に依存していることが証明された。なお、NK細胞の除去 (depletion) は、このモデルにおける抗腫瘍効果に影響を与えなかった。

進行メラノーマ患者を対象とした第I相臨床試験の安全性と免疫学的転帰: フランスのGustave Roussy研究所およびCurie研究所において、MAGE-3抗原陽性の進行メラノーマ (ステージIII/IV) 患者15名を対象とした、世界初のDEXワクチンによる第I相臨床試験が実施された。患者自身の白血球アフェレーシスから誘導した単球由来樹状細胞 (MD-DC) の培養上清から、GMP基準に準拠した限外濾過およびショ糖クッション超遠心法を用いて臨床グレードのDEXを精製した。MAGE-3ペプチド (HLA-A1/B35拘束性) は、MD-DC培養時に添加するか (n=6)、または精製DEXペレットに直接ローディング (n=9) された。ヘルパー効果を誘導するため、MAGE-3クラスIIペプチド (DP04) および破傷風トキソイドエピトープも搭載された。患者には、0.13 × 10^13 または 0.4 × 10^13 個のMHCクラスII分子量に相当するDEXが、4週間にわたり毎週皮下/皮内投与された。 治療の忍容性は極めて良好であり、グレード2を超える有害事象 (NCI-CTC基準) は観察されなかった (毒性発現率 0%)。臨床評価において、評価可能な15名のうち5名 (33%) で臨床的ベネフィット (部分奏効 1名、マイナー奏効 1名、混合奏効 1名、長期病勢安定 2名) が確認され、特に標準的なMAGE-3ペプチドワクチン療法で進行した2名の患者において腫瘍縮小効果が認められた。免疫モニタリングでは、CD4陽性T細胞におけるCD122 (IL-2Rβ鎖) の発現が有意に上昇した。さらに、末梢血中のCD3陰性CD56陽性NK細胞の絶対数が、3回のワクチン投与後に有意に増加した (p<0.05, Table 1)。また、評価可能患者の50%以上において、IL-2またはDCによる生体外 (ex vivo) 再刺激後のNK細胞の細胞傷害活性およびIFN-γ分泌能の向上が認められた。

感染症モデルにおけるDEXの応用可能性: DEXの応用範囲はがん免疫療法にとどまらず、感染症に対するワクチンとしての有用性も示されている。Aline et al. (2004) らの研究において、トキソプラズマ (Toxoplasma gondii) 抗原をパルスした樹状細胞から回収されたDEXは、マウスモデルにおいて抗原特異的な細胞性および体液性免疫応答を強力にプライミングすることが示された。このDEXワクチンを投与されたマウスでは、致死的なトキソプラズマ原虫の感染に対して、急性期および慢性期のいずれにおいても良好な生存率と感染防御効果が確認された。この知見は、DEXが腫瘍抗原だけでなく病原体由来抗原に対しても極めて有効なセルフリーワクチン担体として機能することを示しており、広範な免疫標的に対するプラットフォーム技術としての可能性を広げるものである。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究で示されたDEXワクチン療法は、従来の生細胞を用いた樹状細胞ワクチン療法と異なり、細胞を含まない「セルフリー」な製剤として機能する点で決定的に異なる。従来のDCワクチンは生存細胞の品質管理や凍結保存後の生存率低下が課題であったが、DEXは物理化学的に極めて安定しており、-80℃での長期保存が可能である。また、DEXは親細胞であるDCの細胞膜特性を保持しているため、単純なペプチドワクチンや人工的なリポソーム製剤と異なり、MHCクラスI/II分子だけでなく、CD86などの共刺激分子やインテグリンなどの接着分子を天然のトポロジーで保持している。これにより、生体内のAPCに対して極めて効率的に抗原情報を伝達できる。

新規性: 本研究で初めて、DEXが単なる抗原提示の代替物にとどまらず、生体内でエフェクターT細胞を強力に活性化するための分子基盤を明らかにした。特に、DEXがその効果を発揮するためには宿主の成熟DCの介在が必要であるという「間接提示モデル」を提唱し、これを支援するためのTLR-3/9リガンド (CpG等) の併用が必須であることを新規に示した。さらに、低用量シクロホスファミドによるTreg抑制がDEXの抗腫瘍効果を劇的に増強するという免疫修飾作用を実証した点、および第I相臨床試験においてDEX投与がヒトのNK細胞数とエフェクター機能を直接的に活性化するという、これまで報告されていない新規の生体内作用機序を明らかにした点は極めて独創的である。

臨床応用: 本知見は、がん免疫療法におけるセルフリーワクチンの臨床応用に直結する。GMP基準に準拠した超遠心および限外濾過プロセスの確立により、1回の白血球アフェレーシスから 10^14 - 10^15 個のexosomal MHCクラスII分子を回収可能であり、これは数十回分の個別化ワクチン投与量に相当する。第I相試験における良好な安全性プロファイル (グレード3以上の毒性 0%) および33%の臨床的ベネフィット率は、進行メラノーマやその他の難治性固形がんに対する新規治療オプションとしての臨床的有用性を強く支持している。

残された課題: 今後の検討課題として、DEXが標的とする生体内の最適なAPCサブセットの同定、およびDEX表面のどの接着分子 (インテグリンなど) がin vivoでの標的化を規定しているのかを解明する必要がある。また、未熟DC由来のDEXが持つ潜在的な免疫寛容誘導能を完全に排除するため、臨床試験においてTLRリガンド (CpGなど) を実際に配合した複合製剤としての評価を進めることが求められる。さらに、より大規模な第II相臨床試験において、客観的奏効率 (ORR) や無増悪生存期間 (PFS) に対する有効性を検証することが、今後の重要な研究方向性である。

方法

本総説で言及されている基礎研究および臨床試験における主要な文献検索手法、製造プロセス、および解析手法は以下の通りである。

文献検索およびエビデンスの評価: 本総説の作成にあたり、PubMed、Embase、およびCochrane Libraryの各データベースを用いて、1987年から2005年までに発表されたエクソソーム、樹状細胞、がん免疫療法、および抗原提示に関する文献を網羅的に検索した。検索キーワードには “exosomes”, “dendritic cells”, “cancer immunotherapy”, “cross presentation” を用いた。抽出された前臨床研究および臨床試験のエビデンスレベルは、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムに準拠して定性的に評価され、臨床グレードの製造プロセスに関するデータはAMSTAR (A Measurement Tool to Assess Systematic Reviews) の評価基準を参考にその信頼性を担保した。

臨床グレードDEXの製造と精製: 進行メラノーマ患者の末梢血単核球から、GM-CSFおよびIL-4存在下で7日間培養することにより、未熟な単球由来樹状細胞 (MD-DC) を誘導した。培養にはAIM-V培地を使用した。DEXの回収は、GMP (Good Manufacturing Practice) 基準に準拠した方法で行った。具体的には、DC培養上清を回収し、最初のステップとして500 kDaの中空糸膜を用いた限外濾過により、培養上清を約200倍に濃縮した。続いて、30%ショ糖/重水素酸化物クッション (密度 1.210 g/cm^3) を用いた超遠心分離を4-5時間行い、タンパク質不純物を約1000倍除去しつつ、高純度のDEXペレットを回収した。品質管理として、フローサイトメトリーおよび免疫キャプチャーアッセイを用いて、DEX表面のMHCクラスIおよびクラスII分子の定量と、テトラスパニン (CD9, CD63, CD81) の発現を確認した。

抗原ペプチドのローディング: MHCクラスI結合性ペプチド (MAGE-3由来HLA-A1またはB35拘束性ペプチド) のローディングは、DEXペレットに対してマイルドな酸処理を施して内因性ペプチドを除去した後、過剰量の合成ペプチドを直接添加してインキュベートする「直接ローディング法」を用いた。MHCクラスII結合性ペプチド (MAGE-3由来DP04拘束性ペプチドなど) については、MD-DCの培養時にペプチドを添加して間接的にDEXに搭載させる「間接ローディング法」を併用した。

動物実験モデルおよび統計解析: DEXの生体内免疫原性および抗腫瘍効果の検証には、C57BL/6Jマウス、Marilyn T細胞受容体 (TCR) トランスジェニックマウス、およびヒトHLA-A2.1を発現するHHD2トランスジェニックマウスを使用した。腫瘍モデルとして、HLA-A2.1およびgp100抗原を共発現するB16F10メラノーマ細胞株を皮下移植した。治療プロトコルでは、DEX投与の前に、Tregを標的として除去するためにシクロホスファミド (100 mg/kg) を腹腔内投与した。アジュバントとして、TLR-9リガンドであるODN CpG (10-50 μg) またはTLR-3リガンドであるAmpligenをDEXと混合して皮下投与した。免疫応答の評価には、MHC-ペプチドテトラマー染色、および脾細胞を再刺激した後のIFN-γ ELISPOTアッセイを用いた。統計解析には、生存曲線の比較にログランク (log-rank) 検定を用い、群間比較にはStudent’s t検定またはMann-Whitney U検定を適用した。