• 著者: Jacob L. Leger, Marie-France N. Soucy, Vanessa Veilleux, Robert D. Foulem, Gilles A. Robichaud, Marc E. Surette, Eric P. Allain, Luc H. Boudreau
  • Corresponding author: Luc H. Boudreau (Department of Chemistry and Biochemistry, Université de Moncton, Moncton, NB, Canada)
  • 雑誌: EMBO Reports
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-09-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36125343

背景

血小板 (PLT) は核を持たない小型の血液細胞であり、その主な機能は止血と凝固であると長らく認識されてきた。しかし、近年ではPLTが炎症応答にも積極的に関与することが明らかになっている。活性化血小板はマイクロベシクルを放出するだけでなく、細胞外へ完全に機能的なミトコンドリアを遊離させる (freeMitos) ことが、Boudreau et al. (2014) により発見された。これらのfreeMitosは血中に循環する細胞遊離ミトコンドリアとして検出されており、無菌性炎症 (sterile inflammation) の文脈でもその血中濃度が上昇することが報告されている。

ミトコンドリアは進化的に細菌と共通祖先を持つオルガネラであり、その構造と分子組成には細菌様の特徴が認められる。具体的には、(1) 未メチル化CpG円状DNA、(2) N-ホルミル化ペプチド、(3) 内膜のカルジオリピンといった分子パターンを持つ。これらはパターン認識受容体である FPR1 (formyl peptide receptor 1) や FPR2 (formyl peptide receptor 2)、TLR (toll-like receptor) などに認識される DAMPs (damage-associated molecular patterns: 損傷関連分子パターン) として機能し、炎症カスケードを活性化しうる。実際、外傷、心筋梗塞、敗血症患者の血中では、循環ミトコンドリアDNAや細胞外ミトコンドリアが上昇することが Zhang et al. (2010) や Pittman & Kubes (2013) によって報告されており、これらが炎症反応の引き金となることが示唆されている。

PMN (polymorphonuclear neutrophil: 多形核好中球) は急性炎症の最前線で機能する自然免疫細胞であり、fMLP (N-formylmethionyl-leucyl-phenylalanine) やLPS (lipopolysaccharide) などの刺激に応答してマイクロベシクルである PMN-MVs (polymorphonuclear neutrophil-derived microvesicles、直径0.25〜1 µm) を放出することが知られている。PMN-MVsはmiRNAなどのバイオアクティブな内容物を内皮細胞に送達し、動脈硬化を促進するなど、様々な疾患において重要な役割を担う。しかし、血小板由来freeMitosがPMNを活性化してPMN-MVs産生を誘導するかどうかはこれまで未解明であった。また、無菌炎症における血小板-好中球連携の液性機構としてのfreeMitosの役割は十分に検討されておらず、この領域には知識のギャップが残されている。特に、可溶性のミトコンドリア成分と、完全な構造を保った遊離ミトコンドリアが好中球に与える影響の差異に関する知見が決定的に不足しており、無菌性炎症の病態生理を理解する上での大きな課題となっていた。

目的

本研究の目的は、血小板由来の遊離ミトコンドリア (freeMitos) がPMNと相互作用し、その生理機能に与える影響を包括的に検証することである。具体的には、freeMitosがPMNの細胞内カルシウム動員、転写応答、呼吸能、カルパイン活性化、PMN-MVs放出、およびIL-8産生に与える影響を、ミトコンドリアDAMPs (MTD) 調製品および陽性対照であるfMLPとの比較のもとで評価する。これにより、無菌炎症における新規の血小板-好中球液性コミュニケーション機構を解明し、freeMitosが炎症応答において果たす役割を明らかにすることを目指す。

結果

freeMitosとPMNの迅速な物理的会合: Percoll密度勾配遠心で精製した血小板溶解液由来freeMitosをMitoTracker Deep Redで標識し、CD66b-FITCおよびCD11b-PEで二重標識したPMNと共インキュベートした。フローサイトメトリー解析では、PMN:freeMitos比1:5で最も安定したPMN集団の右方シフトが確認された (n=4 replicates) (Fig 1A, B)。0.25〜1 µmサイズビーズをリファレンスとしたゲーティング戦略により、freeMitosのサイズ範囲内の粒子を明確に区別した。共焦点顕微鏡観察では、CellMask Orange標識PMN細胞膜の表面にfreeMitosが付着している像、および細胞質内に取り込まれている像の双方が観察され、膜融合または飲食作用による取り込みを示唆した (Fig 1C)。透過型電子顕微鏡 (TEM) でも二重膜構造を持つミトコンドリア形態がPMN近傍に確認された。静静PMN (未刺激) と活性化PMN (TNFα+GM-CSF前処理) の間で会合率に統計的有意差は認められず、PMN活性化状態に依存しない会合機構が示唆された。

DAMPsを上回る広範な遺伝子発現プロファイル変化: RNA-seq解析の結果、mitochondrial DAMPs処理PMNは15遺伝子 (全てアップレギュレート) の発現変化を示したのに対し (Fig 1D)、freeMitos処理では61遺伝子 (37遺伝子がアップレギュレート、24遺伝子がダウンレギュレート) の変化が確認された (Fig 1E)。両処理に共通して、いくつかのミトコンドリア関連遺伝子 (TRPM2を含む) がアップレギュレートされた。TRPM2はカルシウム流入シグナリングに関与するTRPチャネルであり、細胞内カルシウム動員の分子メカニズムへの手がかりを提供した。この結果は、freeMitosがDAMPsとは異なる、より複雑な遺伝子発現ネットワークをPMNに誘導することを示唆している。

PMNの細胞呼吸能およびCOX-IV発現への影響欠如: 安静PMNと活性化PMN (TNFα+GM-CSF) をfreeMitosと共培養しても、基礎呼吸 (2.5-fold増加傾向あり、p=0.0922)・リーク呼吸 (4-fold増加傾向、p=0.3249)・最大ETS容量のいずれにも有意差が認められなかった (n=3 replicates) (Fig 1F)。一方、DAMPs処理ではミトコンドリア電子伝達系最終酵素COX-IVが4.8-fold増加したのに対し、freeMitos処理でCOX-IVの発現は変化しなかった (Fig 1G, H)。この知見は、freeMitosが「呼吸能のある機能的ミトコンドリア」をPMNに移植して細胞呼吸を増強するというモデルを否定するものであり、freeMitosがPMNに取り込まれても、その呼吸機能がPMNに直接的に寄与するわけではないことを示唆している。

迅速な細胞内カルシウム動員の誘発: Fluo3 AMプローブによる蛍光モニタリングで、freeMitos処理PMNは添加後5秒以内という極めて迅速な細胞内カルシウムの動員を示した (Fig 2A)。この動員速度はfMLPなどの古典的PMN活性化因子と同等であり、受容体—セカンドメッセンジャー経路の関与が示唆される。定量的には、freeMitos処理で相対活性化として44.7%の蛍光増加が観察され、DAMPs処理 (44.3%) と同等であり、Vehicle (HBSS) の0%に対して有意に高かった (n=3 replicates、p<0.05) (Fig 2B)。この結果は、freeMitosがPMNの迅速な細胞内シグナル伝達を活性化する強力な因子であることを示している。

カルパイン活性化を介したPMN-MVs放出促進: PMN-MVsのフローサイトメトリー定量では、freeMitos処理で安静PMNから約300〜500 MVs/µLが産生され、Vehicle対照より有意に多かった。これはDAMPs処理 (約400 MVs/µL) と統計的に同等であった (p<0.05、n=3 replicates) (Fig 2F)。fMLP処理 (陽性対照) ではより大型のPMN-MVsが産生されたことがTEMで確認された (Fig 2E)。カルパイン活性アッセイでは、PMN:freeMitos比1:5でのインキュベーション後に活性化PMNでカルパイン活性が有意に上昇した (安静PMNでは非有意) (Fig 2G)。カルシウム依存性プロテアーゼであるカルパインはマイクロベシクル放出に必要なカスケードの中核分子であり、freeMitosがカルシウム動員を介してカルパインを活性化し、PMN-MVs放出を誘導するシグナルカスケードを活性化することが示された。一方、IL-8産生はfreeMitos処理で変化せず (p>0.05)、DAMPsとfMLPでは有意に増加した (Fig 2H)。

考察/結論

本研究は、血小板由来遊離ミトコンドリア (freeMitos) が無菌炎症の文脈でPMN-MVs放出を誘導する新たな機構を初めて示した。

先行研究との違い: Boudreau et al. (2014) は血小板がfreeMitosを放出することと、freeMitosが炎症経路の活性化に関与することを示したが、好中球マイクロベシクル誘導は示されていなかった。また、Zhang et al. (2010) はミトコンドリアDAMPsが好中球などの免疫細胞を活性化することを示したが、DAMPs (可溶性分子) とfreeMitos (完全なオルガネラ) の効果を系統的に比較した研究はこれまで報告されていなかった。本研究の重要な知見は、freeMitosがPMNに取り込まれても呼吸能の転移がないにもかかわらず (OCR変化なし・COX-IV変化なし)、PMN活性化に十分であることを示した点である。これは、細胞内への取り込みと呼吸能転移が無菌炎症シグナリングに必須ではないという点で、これまでのミトコンドリア移植に関する知見とは対照的である。

新規性: 本研究で初めて、freeMitosとDAMPs (可溶性ミトコンドリアDAMP調製品) を同一実験系で並行比較し、両者が異なるPMN活性化プロファイルを示すことを明らかにした。特に、転写応答の広さ (freeMitos: 61遺伝子 vs DAMPs: 15遺伝子)、PMN-MVs誘導量 (ほぼ同等)、およびIL-8産生 (freeMitos: 変化なし vs DAMPs: 増加) において明確な差異が認められたことは新規の発見である。TRPM2 (カルシウム流入チャネル) のfreeMitos選択的上昇も特徴的であり、freeMitosがFPR1/FPR2とは異なる独自のシグナル経路を活性化する可能性が示唆される。

臨床応用: 心筋梗塞、関節リウマチ、敗血症などの無菌炎症状態では循環freeMitosが上昇しており、本研究の知見は、freeMitosが好中球マイクロベシクル産生の増加を介して炎症増悪や組織障害に寄与する可能性を示唆する。例えば、関節リウマチ患者の滑液にfreeMitosが検出される (Boudreau et al. 2014) ことと、同滑液でPMN由来EVが増加する (Foers et al. 2020) こととの関連も、本研究の文脈で再評価できる。freeMitosによる炎症増幅を遮断する(freeMitosの産生・放出阻害、またはPMNでの受容体/シグナル阻害)ことは、無菌炎症疾患の新規治療戦略として臨床応用が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、freeMitosがどのようなPMN表面受容体に結合してカルシウム動員を誘導するのかは未解明である (FPR1/FPR2の関与は示唆されるが証明されていない)。また、freeMitosにより産生されたPMN-MVsの内容物 (miRNA・脂質メディエーターなど) とその機能も未知である。本研究は健康ドナー由来のin vitro実験系であり、in vivoでの生理的意義の検証が必要である。さらに、本研究で用いたfreeMitosは活性化血小板から放出されたものではなく、溶解した血小板から精製したものであり、実際の生理的freeMitosとの組成・機能的差異も考慮すべきlimitationである。

方法

freeMitosの単離: 健康ドナーの全血から275 g遠心で PRP (platelet-rich plasma: 多血小板血漿) を回収し、1,300 g遠心で血小板をペレット化した。血小板を ACD (acid citrate dextrose) 抗凝固剤を含むバッファー、または Isolation Buffer (IB: 0.2 M sucrose、11 mM Tris、1 mM EDTA、pH7.5) に再懸濁し、プロテイナーゼK (150 µg/ml) でホモジナイズした。その後、1,300 g遠心と8,000 g遠心により粗ミトコンドリア画分を得た。この画分をPercoll不連続密度勾配 (15% Percoll/10% sucrose 2.5 M/75% IB、21,000 g、8分) を用いて精製し、最終的なfreeMitosペレットをIBに再懸濁して13,000 gで再遠心した。MitoTracker Deep Red (100 nM) 標識は共局在実験のみに使用し、代謝経路への影響を避けるため機能アッセイには未標識freeMitosを用いた。

PMN単離: ACD血液から275 g遠心後、dextran沈降、800 gでのLymphocyte Separation Medium遠心、および低張溶血によりPMNを精製した。フローサイトメトリーで純度95%以上であることを確認した。安静PMNと、TNFα (100 U/ml) およびGM-CSF (10 ng/ml) で30分間プライミングした活性化PMNを使用した。

主要アッセイ:

  1. freeMitos-PMN会合: MitoTracker Deep Red標識freeMitosと抗CD11b-PE標識PMNを1:5比でインキュベートし、フローサイトメトリーで定量した。共焦点顕微鏡を用いてCellMask Orange標識PMN細胞膜に対するfreeMitosの局在を可視化した。
  2. 深RNA-seq: 4生物学的反復で実施した。STAR v2.7.6でhg38にアライメント後、featureCounts v2.0.1で定量し、Robinson et al. Bioinformatics 2010 を用いて差次発現解析を行った。バッチ効果補正には SVAseq (surrogate variable analysis for sequencing) を使用した。データはGene Expression Omnibus (GEO) のアクセッション番号GSE186166で公開されている。
  3. 酸素消費速度 (OCR): 高解像度O₂レスピロメトリー (Oroboros Oxygraph-2k) を用いて測定した。オリゴマイシンとFCCPの逐次投与により、リーク呼吸と最大ETS容量を評価した。
  4. カルシウム動員: Fluo3 AM蛍光プローブを用いて、10⁶個のPMNにおける細胞内カルシウム動員を120秒間モニタリングした。
  5. PMN-MVs定量: freeMitos処理後の上清を1,500 g遠心後、CD66b-FITCとCD11b-PEで標識し、0.25〜1 µmの粒子をフローサイトメトリーで計数した (n=4 replicates、サイズ参照ビーズ使用)。透過型電子顕微鏡 (TEM) でPMN-MVsの形態を確認した。
  6. カルパイン活性アッセイ: 蛍光基質法 (Ex370/Em450 nm、MilliporeSigmaキット) で測定した。
  7. IL-8 ELISA: 8時間インキュベーション後に上清中のIL-8濃度を測定した。

統計解析: データはGraphPad Prismソフトウェア (バージョン9.0) およびRバージョン4.0.4を用いて解析した。統計手法として one-way ANOVA または two-way ANOVA に続き、Tukey’s または Dunnett’s 多重比較検定を実施した。p値が0.05未満を有意差ありと判断した。なお、本研究の基本バリデーションとして、ヒト由来初代細胞のほか、一部の条件検討や対照実験においてヒト前骨髄球性白血病細胞株である HL-60 分化細胞や HEK293T 細胞などの標準的な細胞株のプロトコルも参照された。