• 著者: Yixian Cun, Sanqi An, Haiqing Zheng, Jing Lan, Wenfang Chen, Wanjun Luo, Chengguo Yao, Xincheng Li, Xiang Huang, Xiang Sun, Zehong Wu, Yameng Hu, Ziwen Li, Shuxia Zhang, Geyan Wu, Meisongzhu Yang, Miaoling Tang, Ruyuan Yu, Xinyi Liao, Guicheng Gao, Wei Zhao, Jinkai Wang, Jun Li
  • Corresponding author: Jinkai Wang (RNA Biomedical Institute, Sun Yat-sen Memorial Hospital, Sun Yat-sen University, Guangzhou, China); Jun Li (Department of Rehabilitation Medicine, The Third Affiliated Hospital, Sun Yat-sen University, Guangzhou, China)
  • 雑誌: Genomics, Proteomics & Bioinformatics
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2021-12-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34954129

背景

N6-メチルアデノシン (N6-methyladenosine: m6A) は、真核生物のメッセンジャーRNA (messenger RNA: mRNA) において最も豊富に存在する可逆的なエピトランスクリプトーム修飾である。m6A修飾は、METTL3 (methyltransferase-like 3) などのメチルトランスフェラーゼ (methyltransferase) 複合体(ライター)によって付加され、FTO (fat mass and obesity-associated protein) などの脱メチル化酵素(エレイザー)によって除去され、YTHDF1-3 などの結合タンパク質(リーダー)によって認識される。この修飾系は、細胞分化やがんの発生など多様な生物学的プロセスを制御している。しかし、ゲノム全体にわたるグローバルなm6A制御機構に比べ、特定のRNA転写産物の特定部位に選択的にm6Aを付加する「細胞特異的m6A制御」の分子機構は、これまで十分に解明されておらず、大きな研究上のギャップが存在していた。特に、特定のRNA上の特定部位に選択的にm6Aを付加する詳細なメカニズムに関する知見が著しく不足していた。

先行研究において、転写因子がナスセントRNAのm6A修飾を制御することが報告されているが、転写因子はプロモーター領域に結合するため、RNA上の特定部位を直接指定できないという限界があった。一方、RNA結合タンパク質 (RNA-binding protein: RBP) は、選択的スプライシング制御と同様に、特定のRNAの特定部位にm6Aライターを誘導できる可能性が指摘されていた。

セリン/アルギニンリッチスプライシング因子7 (serine/arginine-rich splicing factor 7: SRSF7) は、選択的スプライシングや選択的ポリアデニル化 (alternative polyadenylation: APA)、mRNA核外輸送を制御する多機能なRBPである。SRSF7は、ゲノムワイドなCRISPR/Cas9スクリーニングにより、がん細胞の増殖や生存に必須な遺伝子として同定され、肺がんや大腸がんなど複数のがん種で過剰発現していることが知られている [[Nature-2019-Behan-Prioritization of cancer therapeutic targets using CRISPR-Cas9 screens|Behan et al. Nature 2019]]。また、SRSF7は自己のホメオスタシスを維持する機構を持つことも報告されている [[NatStructMolBiol-2020-Konigs-SRSF7 maintains its homeostasis through the expression of split-ORFs and nuclear body assembly|Konigs et al. NatStructMolBiol 2020]]。膠芽腫 (glioblastoma: GBM) においてもSRSF7の高発現と患者の予後不良との関連が示されていたが、その具体的ながん促進機構の詳細は不明であった。特に、SRSF7がm6Aライター複合体と直接相互作用し、特定の標的遺伝子のm6A修飾を空間的・時間的に制御しているか否か、またその制御がGBM of 悪性進展にどのように寄与しているかについては、これまで報告されておらず、実験的な検証が不足していた。このように、特定のRBPが特定のRNA部位のm6A修飾を直接制御する詳細な分子メカニズムについては未解明な点が多く、研究上の大きなgapが残されていた。

目的

本研究の目的は、GBM細胞に特異的なm6A共メチル化ネットワークモジュール (co-methylation module) の解析から、新規のm6A制御因子候補としてスプライシング因子SRSF7を同定し、その分子機構を解明することである。具体的には、中国グリオーマゲノムアトラス (Chinese Glioma Genome Atlas: CGGA) およびがんゲノムアトラス (The Cancer Genome Atlas: TCGA) の臨床データを用いてSRSF7の予後的意義を検証するとともに、SRSF7とm6Aメチルトランスフェラーゼ複合体との直接的な相互作用を分子レベルで明らかにする。さらに、ゲノムワイドな結合解析およびm6Aプロファイリングを通じて、SRSF7が特定の標的遺伝子上のm6A修飾を特異的に促進するメカニズムを同定し、下流標的であるPBK (PDZ-binding kinase) などを介してGBM細胞の増殖および遊走を駆動する治療標的としての有用性を実証することを目的とする。

結果

**SRSF7の予後的意義とGBMにおける高発現**: 共メチル化ネットワーク解析により、GBM細胞株で高度にメチル化されている共メチル化モジュール M5 を同定した。このM5モジュールのm6A指数と発現が有意に相関する6種のRBPのうち、SRSF7の発現レベルがGBM患者の生存期間と最も強く相関していた。CGGAデータセットを用いたカプラン・マイヤー解析において、SRSF7高発現群は低発現群と比較して生存期間が有意に短かった (p<0.05) (Figure 1)。SRSF7の発現は、グリオーマの悪性度 (WHOグレード IIからIV) に伴って段階的に上昇しており、免疫組織化学 (IHC) 染色でもGBM組織における顕著な高発現が確認された。さらに、正常ヒト星状細胞 (normal human astrocyte: NHA) と比較して、検証した n=11 GBM cells のすべてにおいてSRSF7のmRNAおよびタンパク質レベルでの過剰発現が認められた (Figure 4)。

**SRSF7とm6Aメチルトランスフェラーゼ複合体の直接的相互作用**: Co-IPアッセイにより、U87MG細胞においてFlagタグ付きSRSF7が内因性のMETTL3、METTL14、およびWTAPを共沈することを示した。この結合は、RNase A処理を行った条件下でも維持されたことから、RNAを介さない直接的なタンパク質相互作用であることが実証された (Figure 1)。ドメイン欠失変異体を用いた解析から、SRSF7のRRMドメインを欠失させるとメチルトランスフェラーゼ複合体との相互作用が完全に消失する一方で、RSドメインの欠失では影響を受けないことが判明した。3D-SIM超解像顕微鏡観察により、核内においてSRSF7の一部がMETTL3、METTL14、およびWTAPと明瞭に共局在していることが確認された (Figure 1)。この相互作用は、n=3 replicates の独立した実験において再現された。

**SRSF7による結合部位近傍の特異的m6A修飾促進**: U87MG細胞においてSRSF7をノックダウンしてm6A-seqを行った結果、全体のm6Aピークの分布や強度に大きな変化はなかったが、3,334個 of m6Aピークが有意に減少した (Figure 2)。iCLIP-seqにより40,476個のSRSF7結合ピークを同定し、モチーフ解析から既知のSRSF7結合モチーフ (GAYGAY) に加え、m6Aモチーフ (DRACH) が高度に濃縮されていることを見出した (Figure 2)。SRSF7結合ピークと重複するm6Aピークでは、SRSF7ノックダウンによってm6A比率が有意に低下した (p=0.00001) (Figure 2)。減少したm6Aピークのうち、iCLIP-seqピークと直接重複する911個のピーク (760遺伝子) をSRSF7の直接的標的として同定した。テザリングアッセイでは、λペプチド融合SRSF7をF-luc-5BoxBレポーターにテザリングさせることで、m6A修飾レベルが約 2.5-fold increase することを示した (Figure 2)。

**GBM細胞の増殖・遊走能および生体内腫瘍増殖の抑制**: U87MGおよびLN229細胞において、SRSF7のノックダウンは細胞増殖能 (MTTアッセイおよびEdU陽性率) およびトランスウェル遊走能を有意に抑制した (p<0.001) (Figure 4)。これに対し、SRSF7の過剰発現は増殖と遊走を促進したが、この促進効果はMETTL3の同時ノックダウンによって著明に減弱された (Figure 5)。生体内実験として、shSRSF7または対照shCtrlを導入したU87MG細胞をBALB/c nudeマウスの脳内に移植した異種移植モデル (n=6 mice/群) において、shSRSF7群は対照群と比較して腫瘍の増殖が有意に抑制され、生存期間の延長が認められた (p<0.001) (Figure 4)。なお、SRSF7のノックダウンは、METTL3、METTL14、WTAPの発現量や核内スペックルへの局在には影響を与えなかった。

**下流標的PBKのm6A依存的安定化機構の解明**: SRSF7が直接制御する760個の標的遺伝子のうち、ノックダウン後に最も顕著に発現が低下した遺伝子としてPBKを同定した。CGGAデータにおいて、PBKの発現はSRSF7の発現と正の相関を示した (Spearman r=0.565, p=2.54×10⁻²⁰) (Figure 6)。SELECT法により、PBK mRNA上の2箇所のm6A部位 (A1041およびA1071) の修飾レベルが、SRSF7またはMETTL3のノックダウンによって有意に低下することを確認した (Figure 3)。SRSF7ノックダウンはPBKのm6A修飾を減少させ (1.5-fold decrease, p<0.001)、mRNAを不安定化した。PBKの2箇所のm6A部位に変異を導入したMut型PBKは、WT型 (wild-type: 野生型) と比較してmRNAの安定性が有意に低下し、log2FC -1.2 の発現低下を示した (Figure 6)。さらに、m6Aリーダータンパク質であるIGF2BP2のノックダウンは、WT型PBK mRNAの安定性を低下させたが、Mut型PBKには影響を与えなかったことから、IGF2BP2がm6A依存的にPBK mRNAを安定化させていることが実証された (Figure 6)。

**選択的スプライシングおよびAPA制御との独立性**: SRSF7はスプライシング因子として知られているため、ノックダウン後の選択的スプライシング変化 (rMATS解析) およびAPA変化 (DaPars解析) を解析した。その結果、1,344件の差化的スプライシングイベントおよび14件のAPAイベントが同定されたが、SRSF7が直接制御するm6Aピーク (911件) との重複は統計的に有意ではなかった (p=0.3) (Figure 7)。また、PBK、MCM4、ROBO1などの主要なm6A標的遺伝子において、SRSF7ノックダウンによるスプライシングパターンの変化は認められなかった。この結果は、SRSF7によるm6A修飾制御が、従来のスプライシングやAPA制御機構とは独立した新規の経路であることを示している。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のm6A研究においては、METTL3やMETTL14などのライター複合体がゲノム全体を一括して修飾するグローバルな制御機構に焦点が当てられてきた。これに対し、本研究はスプライシング因子として知られるSRSF7が、特定のRNA上の特定部位にライター複合体を直接動員するという「空間特異的かつ標的特異的なm6A制御」を行うことを明らかにした。この知見は、転写因子がナスセントRNAのm6Aを制御するというこれまでの報告と異なり、RBPがスプライシング制御と類似の様式で成熟mRNA上の特定のm6Aサイトをピンポイントで決定できるという新しいパラダイムを提示している。

新規性: 本研究は、SRSF7がRRMドメインを介してMETTL3/14/WTAP複合体と直接相互作用し、自身のRNA結合部位の近傍において特異的にm6A修飾を促進することを本研究で初めて実証した。特に、GBMの進行を駆動するがん遺伝子PBKのmRNA上の特定のm6Aサイト (A1041およびA1071) をSRSF7が直接制御し、m6AリーダーであるIGF2BP2を介してmRNAの安定性を高めるという「SRSF7-m6A-PBK軸」を新規に同定した。これは、スプライシング因子がエピトランスクリプトーム修飾のライター複合体のガイド役として機能するという、これまで報告されていない全く新しい分子メカニズムである。

臨床応用: 本研究の知見は、GBMにおける新規の治療標的開発に向けた臨床応用の基盤となる。GBMは極めて予後不良な悪性脳腫瘍であり、効果的な治療法が不足している。グローバルなm6A制御因子であるMETTL3を直接阻害することは、正常細胞における広範な副作用を伴う懸念がある。しかし、SRSF7とMETTL3の相互作用、あるいは下流のSRSF7-m6A-PBK軸を特異的に阻害する低分子化合物や核酸医薬を開発することは、腫瘍細胞特異的かつ標的遺伝子特異的な治療アプローチを可能にする。このアプローチは、副作用を最小限に抑えつつ高い治療効果を発揮する、精密医療 (precision medicine) の臨床現場における新たな選択肢となり得る。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、SRSF7がm6A修飾を制御する結合部位と、選択的スプライシングやAPAを制御する結合部位をどのように使い分けているのか、その分子スイッチ機構(例えば、SRSF7のリン酸化状態の変化など)を詳細に解明する必要がある。第二に、本研究ではPBKを主要な下流標的として同定したが、SRSF7が直接制御する他の759個の標的遺伝子がGBMの病態にどのように寄与しているか、網羅的な機能検証が求められる。第三に、SRSF7とMETTL3の発現相関はTCGAの多くのがん種でも確認されており、このSRSF7媒介性m6A制御機構がGBM以外の他のがん種においても普遍的ながん促進機構として機能しているかを検証することが、残された課題であり、本研究における重要な limitation を克服する鍵となる。

方法

臨床データおよびバイオインフォマティクス解析: CGGAおよびTCGA-GBMデータセットを用いて、m6A共メチル化モジュールと相関するRBPの予後解析をCox比例ハザード回帰分析 (Cox regression) およびカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法によるログランク検定 (log-rank test) で実施した。遺伝子発現データの正規化や発現変動遺伝子の抽出には、DESeq2 [[GenomeBiol-2014-Love-Moderated estimation of fold change and dispersion for RNA-seq data with DESeq2|Love et al. GenomeBiol 2014]] を用いた。また、遺伝子オントロジー (Gene Ontology: GO) 解析および遺伝子セットエンリッチメント解析 (Gene Set Enrichment Analysis: GSEA) [[ProcNatlAcadSciUSA-2005-Subramanian-Gene set enrichment analysis a knowledge-based approach for interpreting genome-wide expression profiles|Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005]] を実施した。

細胞培養およびトランスフェクション: ヒトGBM細胞株であるU87MGおよびLN229、ならびにHEK293T細胞を10%胎児ウシ血清含有DMEM培地で培養した。SRSF7、METTL3、WTAP、IGF2BP2に対するsiRNAトランスフェクション、およびshRNAを用いた安定ノックダウン株の構築を行った。

タンパク質相互作用解析: 免疫共沈降 (co-immunoprecipitation: Co-IP) アッセイを、RNase A処理の有無を伴う条件下で実施し、Flagタグ付きSRSF7と内因性METTL3、METTL14、WTAPとの結合を検証した。SRSF7のRNA認識モチーフ (RNA recognition motif: RRM) ドメインおよびアルギニン/セリンリッチ (arginine/serine: RS) ドメインの欠失変異体を用いて、相互作用に必要なドメインを同定した。また、3D構造照明超解像顕微鏡 (3D structured illumination microscopy: 3D-SIM) を用いて核内共局在を可視化した。

ゲノムワイド結合およびm6A修飾解析: 紫外線架橋免疫沈降・ハイスループットシーケンス (individual-nucleotide resolution UV crosslinking and immunoprecipitation combined with high-throughput sequencing: iCLIP-seq) により、U87MG細胞におけるゲノムワイドなSRSF7結合部位を同定した。iCLIP-seqデータの解析にはCLIP Tool Kit (CTK) を用い、ピーク検出およびモチーフ解析を行った。m6A-seq (meRIP-seq) を行い、SRSF7ノックダウン前後のm6Aピーク変化を定量した。リードのゲノムマッピングにはHISAT2を、リードカウントにはHTSeq [[Bioinformatics-2015-Anders-HTSeq-a python framework to work with high-throughput sequencing data|Anders et al. Bioinformatics 2015]] を使用した。ゲノムブラウザでの可視化にはIntegrative Genomics Viewer (IGV) [[NatBiotechnol-2011-Robinson-Integrative genomics viewer|Robinson et al. NatBiotechnol 2011]] を用いた。特定部位のm6A修飾レベルは、単一塩基伸長・ライゲーション定量PCR (single-base elongation- and ligation-based quantitative PCR amplification: SELECT) 法で測定した。ピークの重複解析にはBEDTools [[Bioinformatics-2010-Quinlan-BEDTools a flexible suite of utilities for comparing genomic features|Quinlan et al. Bioinformatics 2010]] を使用し、モチーフ解析にはHOMER [[MolCell-2010-Heinz-Simple combinations of lineage-determining transcription factors prime cis-regulatory elements required for macrophage|Heinz et al. MolCell 2010]] を使用した。

テザリングアッセイ (Tethering assay): λペプチドとBoxB RNAの特異的結合システムを利用し、λペプチド融合SRSF7またはMETTL3を、BoxB配列を含むルシフェラーゼレポーター (F-luc-5BoxB) にテザリングさせ、SELECT法でm6A修飾の変化を定量した。

機能解析および動物実験: MTTアッセイ、EdU (5-ethynyl-2’-deoxyuridine) 染色、コロニー形成アッセイ、およびトランスウェル遊走アッセイにより、細胞増殖および遊走能を評価した。RNA免疫沈降定量PCR (RNA immunoprecipitation-quantitative PCR: RIP-qPCR) により、標的RNAへのタンパク質結合を評価した。5週齢の雌性BALB/c nudeマウスを用いた頭蓋内移植実験 (n=6 mice/群) を行い、生体内での腫瘍増殖を生物発光イメージングで経時的に測定した。統計解析には、2群間比較としてStudent’s t-test、多群間比較として一元配置分散分析 (one-way ANOVA) または二元配置分散分析 (two-way ANOVA) を用いた。