• 著者: Jonathan R. Mayers, Ian Fyfe, Amber L. Schuh, Edwin R. Chapman, J. Michael Edwardson, Anjon Audhya
  • Corresponding author: Anjon Audhya (University of Wisconsin-Madison Medical School, Madison, WI; audhya@wisc.edu)
  • 雑誌: The Journal of biological chemistry
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2010-12-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21193406

背景

多胞体エンドソーム (multivesicular endosome; MVE) は、細胞表面タンパク質や活性化受容体のリソソーム分解経路における中間オルガネラであり、その内腔小胞 (intraluminal vesicle; ILV) の形成およびカーゴ分別は、ESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 機構によって担われる。ESCRT 機構は複数のマルチサブユニット複合体 (ESCRT-0、-I、-II、-III) から構成され、膜タンパク質のユビキチン化修飾を認識してリソソーム分解へと方向付ける重要な役割を果たす。この経路の異常は、恒常的な細胞シグナル伝達を引き起こし、疾患につながる可能性があることが報告されている Saksena et al. BiochemSocTrans 2009

ESCRT-0 は MVE 経路において最も上流に位置する複合体であり、HRS (Hrs) と STAM (signal-transducing adaptor molecule) の2つのサブユニットで構成される。どちらのサブユニットもユビキチン結合ドメイン (ubiquitin-binding domain; UBD) を持ち、ユビキチン化カーゴを捕捉する。Hrs には FYVE ドメイン (PI3P に結合して初期エンドソームに局在) と DUIM (double ubiquitin interacting motif、2つのユビキチン結合部位を持つ)、STAM には VHS (Vps27/Hrs/STAM) ドメインと UIM (ubiquitin interacting motif) が存在する。したがって、ESCRT-0 複合体は合計4つの UBD を持ち、理論上は4個のユビキチン分子に同時結合できると考えられてきた Katzmann et al. Cell 2001。Hrs はまた、クラトリンを MVE にリクルートし、初期エンドソームのミクロドメイン内にカーゴを保持する機能も示唆されている Raiborg et al. EMBOJ 2001

しかしながら、従来の研究では各 UBD の親和性は表面プラズモン共鳴 (SPR) を用いて個別ドメインのみで測定されており、intact な ESCRT-0 複合体内での各 UBD の相対的寄与は未解明であった。SPR は質量輸送効果やチップ固定化による人工的バイアスを受けやすいという課題も指摘されている。また、溶液中では 1:1 ヘテロ二量体として検出されてきた ESCRT-0 が、in vivo での主要な機能場である膜上においてどのような化学量論的状態をとるかも不明であった。これらの疑問は、ESCRT-0 がエンドソームでどのようにしてカーゴを効率的に捕捉・濃縮するかという機能モデルの核心に関わる知識ギャップを残している。特に、ESCRT-0 の膜上での会合状態がカーゴ認識にどのように影響するかについては、詳細な解析が不足していた。本研究では、これらの未解明な点を明らかにし、ESCRT-0 の機能に関するより包括的な理解を目指す。

目的

本研究の目的は、ESCRT-0 複合体の以下の点を包括的に解析することである。(1) 各ユビキチン結合ドメイン (UBD) のユビキチンに対する結合親和性を、インタクトな複合体内で等温滴定熱量測定 (ITC) を用いて定量的に決定すること。(2) 溶液中および膜上での ESCRT-0 のオリゴマー状態と化学量論を、流体力学的解析および原子間力顕微鏡 (AFM) を用いて詳細に解析すること。(3) これらの新規データに基づいて、エンドソームにおけるユビキチン化カーゴの認識、選別、および濃縮における ESCRT-0 の機能モデルを改訂し、その生物学的意義を考察すること。特に、膜上での ESCRT-0 の高次構造形成がカーゴ選別効率に与える影響を明らかにすることを目的とする。本研究は、ESCRT-0 の多価ユビキチン結合と膜上オリゴマー形成が、MVE 生合成におけるカーゴ選別と濃縮にどのように寄与するかという、これまでの研究では不足していた知見を補完することを意図している。

結果

ESCRT-0 複合体の溶液中化学量論 (1:1 ヘテロ二量体): C. elegans の組換え Hrs と STAM は、ニッケルアフィニティー精製後、ゲル濾過でストークス半径約7.05 nm、グリセロール密度勾配で沈降値約4.7 S を示した (Fig 1C, D)。これらから算出したネイティブ分子量は約139 kDa であり、1:1 ヘテロ二量体の予測分子量 134 kDa と一致した。この結果は、ヒト ESCRT-0 と同様に elongated (細長い) コンフォメーションをとることを示唆している。変異体解析では、各 UBD 変異が複合体の組立やコンフォメーションに影響しないことを確認した (Fig 2B, C)。野生型 ESCRT-0 の精製において、2つの細菌熱ショックタンパク質が共精製されたが、質量分析によりこれらはHrsやSTAMに直接結合していないことが示された (supplemental Fig. S1)。

各 UBD のユビキチン結合親和性 (ITC 測定): インタクトな ESCRT-0 複合体を用いた ITC 解析により、ユビキチンに対する解離定数 (Kd) を決定した。野生型 ESCRT-0 の Kd は 307 ± 14.5 µM であった (Fig 3A)。Hrs DUIM のみ活性な複合体 (STAM ΔVHS,UIM; Hrs DUIM) は Kd 127 ± 3.46 µM を示し、Hrs DUIM が最も高い親和性を持つことが明らかになった (Fig 3B)。STAM UIM のみ活性な複合体 (STAM ΔVHS; Hrs DUIM) は Kd 278 ± 20.1 µM、STAM VHS のみ活性な複合体 (STAM; Hrs DUIM) は Kd 549 ± 22.0 µM であった (Fig 3C, D; Table 1)。これらの結果から、Hrs DUIM が STAM の各 UBD の 2〜4 倍強い結合力を持つことが示された。ユビキチン結合は各 UBD 間で非協同的 (non-cooperative) であり、野生型複合体の Kd 307 µM は各 UBD の Kd の平均値に相当すると考えられる。全 UBD を不活化した変異体はユビキチン結合を示さず、ESCRT-0 内に追加の未知 UBD が存在しないことを確認した (n=3 experiments)。

膜上での ESCRT-0 オリゴマー化 (AFM 解析): C. elegans Hrs は in vivo で EEA-1 と共局在することを確認した後 (Fig 4A、n=12 embryos)、PI3P 含有支持二重膜上での組換え ESCRT-0 (150 nM) の AFM 解析を実施した。278粒子の体積分布解析により、2つの主要ピークが検出された (Fig 4E)。第1ピーク (100〜150 nm³) は 1:1 ヘテロ二量体の予測体積 (162.3 nm³) に相当し、第2ピーク (250〜300 nm³) はヘテロ四量体 (2:2 複合体) の予測体積に相当した。さらに大きな体積を持つ粒子も一定割合で観察され、より高次のオリゴマーの存在が示唆された。これらのデータは、ESCRT-0 が膜上でオリゴマー化する能力を持つことを明確に示している。共精製された細菌熱ショックタンパク質は膜に結合しなかったため、AFMで観察されたオリゴマーはESCRT-0に由来すると結論付けられた (supplemental Fig. S3)。

in vivo での ESCRT-0 ヘテロ四量体の確認: 野生型 C. elegans 全虫抽出物での流体力学的解析により、内在性 ESCRT-0 のネイティブ分子量は約310 kDa と算出された (Fig 5A, B、n=2 experiments)。これは 2:2 ヘテロ四量体 (Hrs 2分子 + STAM 2分子) の予測分子量と一致し、溶液中の組換え複合体 (139 kDa、1:1 ヘテロ二量体相当) と有意に異なった。STAM 欠損変異体 (stam∆ ok406) からの Hrs の流体力学的解析では、ストークス半径 6.5 nm、沈降値 7.1 S を示し、算出ネイティブ分子量は約200 kDa (Hrs 二量体に相当) であった (Fig 5A, B、n=2 experiments)。野生型 ESCRT-0 (約310 kDa) と STAM 欠損 Hrs (約200 kDa) の分子量差は STAM 2分子分 (約110 kDa) と一致し、in vivo の ESCRT-0 が 2:2 ヘテロ四量体であることを強く支持する。また、STAM 非存在下での Hrs 自己会合能 (約200 kDa 二量体形成) も示された。STAM欠損変異体ではHrsタンパク質レベルが約2倍減少していた (Fig 5C)。

塩濃度感受性: 高塩条件 (300〜500 mM KCl) では、内在性 ESCRT-0 の沈降値が組換え 1:1 複合体のレベルまで低下し、四量体化が解離した (Fig 6A)。一方、ゲル濾過でのストークス半径は保持されたことから (Fig 6B)、四量体化は 1:1 複合体のコンフォメーションには影響せず、膜会合を必要とする高次オリゴマー化であることが示唆された。これらの結果は、ESCRT-0 の四量体形成が膜との相互作用に依存する動的なプロセスであることを示している。

考察/結論

改訂された ESCRT-0 機能モデル: 本研究の結果は ESCRT-0 の機能モデルを大きく改訂する。従来「1:1 ヘテロ二量体として4個のユビキチンに結合する」と考えられてきた ESCRT-0 は、in vivo ではエンドソーム膜上で 2:2 ヘテロ四量体として機能し、最大8個のユビキチン分子に同時結合できることが示された。著者らは Figure 7 に ESCRT-0 の revised model を提示し、ESCRT-0 が MVE 形成の primary multivalent ubiquitin-binding factor として機能し、複数の UBD による多価結合がエンドソーム上でのカーゴクラスタリングを駆動するというモデルを提唱する。この新規モデルは、ESCRT-0 がカーゴを効率的に濃縮し、後続の ESCRT 複合体への受け渡しを促進するメカニズムを説明する上で重要である。本研究で初めて、in vivo での 2:2 ヘテロ四量体の存在が実証されたことは、ESCRT-0 の新規な機能的側面を明らかにする上で極めて重要である。

Hrs と STAM の機能的役割の差別化: Hrs DUIM が STAM の各 UBD の 2〜4 倍強いユビキチン結合親和性を持つことから、Hrs が主要なユビキチン結合タンパク質として機能し、STAM はアクセサリー的役割を担うというモデルが支持される。この解釈は、STAM 欠損 (stam∆ ok406) が C. elegans で致死にならない一方、Hrs 欠損が致死となる in vivo の遺伝学的データとも整合的である。この機能分担は、カーゴ選別の堅牢性を高める上で生物学的に有利であると考えられる。

非協同的 UBD 結合の生物学的意義: 各 UBD 間でユビキチン結合が非協同的 (non-cooperative) であることは、ESCRT-0 が複数のカーゴを同時かつ独立して認識するための分子設計を反映する。協同性があれば一部の UBD の占有が他の UBD の結合を強化し、カーゴ認識の柔軟性が失われる可能性があるため、非協同性は多様なユビキチン化カーゴを効率的に選別するために重要である。

膜誘導の四量体化と機能的意義: AFM および流体力学的データは、ESCRT-0 の四量体化が膜との会合に依存することを示唆する。これは Hrs FYVE ドメインの二量化 (PI3P への高親和性結合を促進) を介した homotypic Hrs-Hrs 相互作用によって駆動される可能性が高い。四量体化によって8つの UBD が集積することは、単なる4 UBD の二量倍増ではなく、膜上でのカーゴクラスタリングを効率化するミクロドメイン形成に寄与すると考えられる。このミクロドメインは後続の ESCRT-I、-II の会合を促進し、最終的に ESCRT-III による ILV スカシオンを効率化する Wollert et al. Nature 2010

臨床応用と残された課題: 本知見は、MVE 形成の初期ステップを理解する上で基本的に重要であり、ILV の一部がエクソソームとして分泌されることを考えると、ESCRT-0 のカーゴ認識機構の理解はエクソソーム cargome の選択性をどのような分子機序で決定するかという問いに直結する。Hrs:STAM 四量体が形成するカーゴクラスターが、特定のカーゴをエクソソームへ選択的にソーティングするかリソソーム分解へ向けるかの運命決定に関与する可能性がある。この理解は、エクソソームを介した疾患診断や治療への臨床応用につながる可能性がある。今後の検討課題として、Hrs の自己会合を媒介する部位の同定、エンドソーム上でのミクロドメイン形成の in vivo 検証、ESCRT-0 に結合したカーゴが ILV 内に放出される分子機序、さらに他の ESCRT 複合体 (特に ESCRT-I や -II) の intact 複合体内での UBD 解析が残されている。また、ESCRT-0 の四量体化が、特定のユビキチン鎖タイプ(例:K48、K63)に対して選択性を持つかどうかの検証も重要である。

方法

モデル生物および組換えタンパク質精製: C. elegans (線虫) を主たるモデル系として使用した。ヒト ESCRT-0 サブユニットのオルソログとして Hrs (C07G1.5) と STAM (C34G6.7) を同定し、ポリシストロニック発現コンストラクトを用いて大腸菌 (BL21(DE3) strain) から共精製した。Hrs の N 末端にポリヒスチジンタグを付加し、ニッケルアフィニティー精製後に Superose 6 ゲル濾過カラムで精製した。精製されたタンパク質は、50 mM Hepes (pH 7.6)、100 mM KCl、1 mM EDTA を含むバッファー中で透析し、ITC 実験に供した。

等温滴定熱量測定 (ITC): MicroCal ITC 200 カロリメーターを使用し、ユビキチン (8 mM) を組換え ESCRT-0 (約20 µM) に滴定した。この方法により、各 UBD のユビキチン結合親和性 (Kd) のみならず、自由エネルギー変化、エンタルピー変化、エントロピー変化を一実験で同時測定した。SPR と異なり溶液平衡下で測定するため、質量輸送効果やチップ固定化による人工的バイアスを排除できる利点がある。野生型および各 UBD 変異体 ESCRT-0 (Hrs DUIM (A263Q・A265Q)、STAM UIM (A181Q・S185A)、STAM VHS (W29A)) で系統的に測定を実施し、非線形最小二乗法プログラム (Origin, MicroCal) を用いてデータを解析した。結合定数 (Ka) は1サイトモデルでフィッティングし、解離定数 (Kd) は 1/Ka として算出した。

流体力学的解析: ゲル濾過クロマトグラフィー (Superose 6) でストークス半径を決定し、グリセロール密度勾配 (10-30%) 超遠心で沈降値 (S 値) を決定した。両値を組み合わせて Siegel-Monty 式 (M = 6πηNaS/(1-νρ)) を用いてネイティブ分子量を算出した。野生型 C. elegans 胚および全虫抽出物と、STAM 欠損変異体 (stam∆ ok406) を用いた比較解析を実施し、内在性 ESCRT-0 のオリゴマー状態を評価した。標準タンパク質を用いて標準曲線を作成し、ストークス半径と沈降値を算出した。統計解析には、各サンプルの移動度を比較し、有意差を評価するために t検定を用いた。

原子間力顕微鏡 (AFM): PI3P (1%) を含む支持二重膜 (PC 54%/PE 30%/PS 15%/PI3P 1%) 上に組換え ESCRT-0 (150 nM) を会合させ、室温で Veeco Multimode/Nanoscope IIIa を用いて AFM 観察を行った。278粒子の分子体積を測定し、その分布を解析することで、膜上での ESCRT-0 のオリゴマー化状態を評価した。画像は平面フィッティングにより傾きを除去し、各スキャンラインは一次方程式でフィッティングした。粒子の寸法は手動で測定し、高さと半径に基づいて分子体積を算出した。

免疫沈降および免疫蛍光: C. elegans 胚の抽出物から親和性精製抗体を用いて Hrs-STAM 相互作用を共免疫沈降 (co-IP) で確認した。また、Cy2標識抗EEA-1抗体とCy3標識抗Hrs抗体を用いて、Hrs と初期エンドソームマーカー EEA-1 との共局在を swept field confocal 顕微鏡 (Nikon Ti-E) で確認した。画像は Nikon Elements ソフトウェアで取得し、最大強度投影を生成した。

変異体解析: Hrs DUIM (A263Q・A265Q)、STAM UIM (A181Q・S185A)、STAM VHS (W29A) の点変異体を導入し、UBD-ユビキチン相互作用を選択的に阻害した。これらの変異が複合体の組立やコンフォメーションに影響を与えないことをゲル濾過解析で確認した。