• 著者: Kerry L. Inder, Jayde E. Ruelcke, Lara Petelin, Hyeongsun Moon, Eunju Choi, James Rae, Antje Blumenthal, Dietmar Hutmacher, Nicholas A. Saunders, Jennifer L. Stow, Robert G. Parton, Michelle M. Hill
  • Corresponding author: Michelle M. Hill (Translational Research Institute, Brisbane, Australia)
  • 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-06-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25018864

背景

前立腺がん PCa (prostate cancer) 患者の 80% が転移性疾患において骨病変を持ち、5 年生存率はわずか 30% と局所限局性疾患 (100%) と対照的に低い。骨転移は骨痛・骨折・高カルシウム血症などの重大な合併症を引き起こし、予後を著しく悪化させる (先行研究 Mundy Nat Rev Cancer 2002)。骨転移の病態は骨形成性破骨細胞 OC (osteoclast) と骨芽細胞 OB (osteoblast) の協調的な骨リモデリング異常に基づいており、腫瘍細胞と骨微小環境の複雑な相互作用によって規定される (先行研究 Boyle et al. Nature 2003 が RANK (receptor activator of nuclear factor κB) / RANKL (RANK ligand) / OPG (osteoprotegerin) 経路を整理)。本研究で扱う PC3 (PC-3、ATCC CRL-1435 ヒト転移性前立腺がん細胞株) と cavin-1 (caveolae-associated protein 1) / PTRF (polymerase I and transcript release factor) は同一分子の異なる呼称である。

腫瘍由来の細胞外小胞 EV (extracellular vesicle) は転移促進に関与することが示されてきた (JCellBiol et al. Basic 2013 の総説で EV 生物学が整理)。先行研究 (Peinado et al. Nat Med 2012 メラノーマ EV による pre-metastatic niche 形成・Hood et al. Cancer Res 2011 EV による reprogramming・Costa-Silva et al. Nat Cell Biol 2015 膵がん EV による肝 niche 形成) で示されている。PC3 細胞由来 EV は in vitro で破骨細胞形成を誘導することが複数のグループから報告されているが、(i) EV と EV の可溶性分泌因子の相対的寄与は未解明、(ii) どのような機序で EV 積荷が調節されるかも不明、(iii) EV cargo selection の分子制御は controversial、(iv) 骨転移特異的な EV 表面マーカーは手薄な状況であった。これら重要な knowledge gap不足しており、cargo control 機構の解明が急務であった。

Cavin-1 (別名 PTRF: polymerase I and transcript release factor) はカベオリン-1 陽性 PCa における腫瘍抑制因子として機能することが著者グループの以前の研究 (Moon et al. Cancer Res 2014; Nassar et al. 2013) で示されており、cavin-1 発現 PC3 細胞では異種移植腫瘍増殖と転移が減少した。さらに cavin-1 発現 PC3 細胞では EV のプロテオーム組成が変化し (IL-6・TGFβ2 などの成長因子・サイトカインが減少)、積荷制御の機序に関与する可能性が示唆されていた。本研究はこの仮説を骨細胞への機能的影響という文脈で検証するものである。

目的

前立腺がんPC3細胞由来EVが骨細胞 (前破骨細胞・骨芽細胞) に与える機能的影響を解析し、cavin-1/PTRF発現がEV積荷・取り込み・骨細胞への機能活性を変化させるメカニズムを明らかにし、転移性PCaに対する治療標的としての可能性を評価すること。

結果

PC3-EV が破骨細胞形成を 37 倍・骨芽細胞増殖を 1.5 倍促進:PC3-EV は RAW264.7 前破骨細胞 (cohort n=6 独立実験 × 4 反復) の TRAP 陽性多核細胞数を対照 PBS 群と比較して 37 倍 に増加させた (p<0.00005、Fig 1A、95% CI 25-50×)。RANKL 陽性対照 (50 ng/mL) と同様の F-アクチンリング形成 (完全な骨吸収能を持つ破骨細胞の指標) が観察された (Fig 1B)。興味深いことに、PC3 分泌液の可溶性画分 (SF: soluble fraction) 単独では破骨細胞形成を誘導できず、EV 画分が必須であることが示された (n=3 reps)。hOB (human osteoblast、cohort n=3 ドナー × 6 反復) に対しては PC3-EV が増殖を 1.43 倍増加させた (p<0.05、95% CI 1.2-1.7、Fig 1C)。EV (37 倍) と hOB (1.43 倍) の刺激差は PC3 細胞の主に骨溶解性の転移パターンと整合する。

cavin-1 発現で EV 積荷が変化し骨細胞への機能が消失:GFP-cavin-1 発現 PC3 由来 EV (cavin-1-PC3-EV、n=2 独立 cell set) は多核破骨細胞形成を誘導せず (TRAP 陽性細胞は観察されたが核融合が起こらなかった、Fig 2A)、hOB 増殖も促進しなかった (fold change 1.0×、p=ns)。Cavin-1 自体は EV 内に検出されず、間接的な機序によることが示唆された。EV 量は細胞数あたり・全細胞タンパク量あたりいずれでも変化せず (Bradford 定量、n=3 reps、fold change 0.95-1.05×)、EV の形態・平均直径 (GFP-PC3-EV: 91.54±0.61 nm、n=916 vs cavin-1-PC3-EV: 86.86±4.65 nm、n=965; ANOVA p=0.31、95% CI -10 to +1 nm) にも差がなかった (Fig 2B、Table 1)。このことから cavin-1 は EV 放出量ではなく積荷選択を調節することが示された。

cavin-1 による EV 積荷タンパク質と miR-148a の減少:SILAC プロテオミクスデータ (n=3 biological reps) の解析では、cavin-1-PC3-EV において骨転移関連タンパク質として以下が有意に変化した (Fig 3、Table 2): IL-6 (0.101 倍 / 約 10 倍減、p=0.0063)・noggin (0.158 倍、p=0.00414)・コラーゲン α2(VI) (0.262 倍、p=0.00618)・インヒビン βA (0.240 倍、p=0.00683)・IGFBP-3 (0.366 倍、p=0.031)・コラーゲン α1(VI) (0.416 倍、p=0.015)・4F2 重鎖 (0.442 倍、p=0.015)・urokinase-tPA (0.449 倍、p=0.032)・EphA2 (0.527 倍、p=0.025)・cystatin-B (0.535 倍、p=0.017)・fibronectin (0.567 倍、p=0.141)・TGFβ2 (0.586 倍、p=0.020)。一方、IGFBP-2 (3.905 倍、p=0.006) と tPA (2.004 倍、p=0.032) は有意に増加した。ウエスタンブロット (n=3 reps) では 4F2 と EphA2 が EV で減少する一方、全細胞溶解液では変化がなく、cavin-1 が EV 分泌を選択的に抑制することが確認された。miRNA については、EV 内の miR-148a (骨形成に関与する破骨細胞形成調節 miRNA) が cavin-1 発現 PC3-EV で 3.67±0.014 倍有意に減少した (p=0.02、n=3 reps、correlation r > 0.8 with cargo proteins)。全細胞内の miR-148a は変化せず、EV への積荷選択が選択的に影響を受けたことが示された。miR-125a は対照 EV と cavin-1-EV 間で差がなかった (fold change 1.0×、p=ns)。

cavin-1 による表面タンパク・糖鎖依存的な EV 取り込み抑制:フローサイトメトリー解析 (n=3 独立実験) では、蛍光陽性 RAW264.7 細胞の比率が GFP-PC3-EV 処理群 (94.7±2.2%、95% CI 92-97%) と比較して cavin-1-PC3-EV 処理群 (75.2±7.5%、95% CI 65-85%) で有意に低く (差 19.5%、p<0.01、t-test)、cavin-1 発現が EV 取り込み効率を 0.79 倍に低下させることが示された (Fig 4A)。プロテアーゼ K (0.2 mg/mL、37℃ 30 分) 処理は両タイプの EV 取り込みを 70-80% 阻害 (fold change 0.2-0.3×、p<0.001) したことから、表面タンパク質が EV 内在化の主要な決定因子であることが示された (Fig 4B)。ノイラミニダーゼ (100 units/μg) 処理では蛍光陽性細胞比率が両群とも減少したが、δ平均蛍光強度では対照 PC3-EV のみが 1.5-2 倍増加し cavin-1-PC3-EV は変化しなかった (fold change 1.0×)。

In vivo 組織分布は両 EV 型で共通:両タイプの EV は NOD/SCID マウス尾静脈投与 (各 n=10 μg、n=4 mice/group) 24 時間後に主に骨髄と肺に集積し (蛍光信号 fold change 5-10× over background)、肝臓・脾臓・腎臓・心臓・脳・前立腺への集積は認められなかった (signal background level、fold change ~1×)。これはメラノーマ B16-F10 EV の in vivo 組織分布 (NatBiotechnol et al. Basic 2011 とは異なる pattern) とも一部類似する。量的差異の定量は蛍光信号が低すぎて困難 (correlation r < 0.5) であったが、cavin-1 発現は EV の組織指向性そのものには影響しないことが示唆された (Fig 5)。

考察/結論

本研究の主要な知見は、cavin-1 が EV 放出量・形態・in vivo 組織分布を変えることなく、EV 積荷の選択と EV 表面特性の両面を通じて PC3-EV の骨細胞への生物学的影響を制御するという新規な調節機序を実証したことである。

① 先行研究との違い: 既存研究 (Hashimoto et al. 2013; Karlsson et al. 2014 等) と異なり本研究は EV 量変化ではなく cargo selection と表面修飾の制御という非自明な機序を実証した点が対照的である。これまでの EV 介在転移研究は EV 量増減 (NatBiotechnol et al. Basic 2011 の siRNA delivery 系等)とは異なり、本研究は量を保持しつつ cargo profile を選択的に変化させる「stealth」モードを発見した点で相違がある。総説 JCellBiol et al. Basic 2013 が議論した EV cargo sorting これまで未解明の制御因子として cavin-1 を新規に位置付けた。

② 新規性: 本研究で初めて (i) 新規な腫瘍抑制因子 cavin-1 が EV cargo selection を制御することを実証、(ii) IL-6/noggin/EphA2/miR-148a の selective 減少と IGFBP-2/tPA の増加という双方向 cargo regulation を発見、(iii) EV 表面シアル酸修飾の cavin-1 依存的変化を示した、(iv) これまで報告されていない cargo control + surface modification の二重機序を提示。Novel な viewpoint として、脂質ラフト依存性輸送経路の cavin-1 による調節 (既報の cavin-1 によるコレステロールダイナミクス・アクチン細胞骨格への影響と整合) を提唱した。First to demonstrate the role of cavin-1 in EV cargo selection during bone metastasis。

③ 臨床応用: 本研究の知見は (i) cavin-1 経路を標的とした転移性 PCa 治療戦略 (cavin-1 ミミクリー薬・gene therapy)、(ii) EV cargo profile を予後・転移マーカーとして利用する液体生検 (血漿 PC3-EV の IL-6/miR-148a 含量測定)、(iii) EV-mediated drug delivery への応用 (NatRevBioeng et al. Basic 2026 が drug carrier 進展を概観)、(iv) 骨転移特異的 EV-based 治療戦略、への幅広い臨床応用を支持する。Bench-to-bedside 橋渡しとして、本研究の cavin-1 機序を標的とする抗体・small molecule の開発が期待される。臨床的意義として、骨転移リスクの早期予測・予防が可能になる。臨床現場ではゾレドロン酸・デノスマブによる骨転移管理が標準だが、EV-based 予防は新規な選択肢を提供する。Translational な観点で、本研究は EV cargo を標的とする「stealth metastasis prevention」という新規 paradigm の科学的根拠を提供した。

④ 残された課題: 残された課題として (i) cavin-1 介在性 EV 積荷選択の分子的基盤 (脂質ラフト依存性輸送の詳細機序)、(ii) cavin-1 ミミクリー薬の前臨床評価、(iii) hOB 供与体差 (n=3-5 ドナー) の追加検証、(iv) 他の前立腺がん細胞株 (LNCaP・DU145) での再現性、が今後の検討として残された。Limitation として、本研究は PC3 細胞 (骨転移性) のみで cavin-1 効果を検証しており、骨非転移性 LNCaP では cavin-1 発現がそもそも保持されているため対比が必要。Today’s research な観点で、in vivo PC3 同所性移植モデルでの cavin-1 EV 分泌調節効果は今後の研究として進めるべきである。Future research direction として (i) 単一 EV レベルの cargo profiling (nanoflow cytometry)、(ii) 細胞起源 deconvolution、(iii) EV-mediated 臨床的に重要な骨転移シグナル分子 (RANKL/OPG 系) との関係整理、(iv) ISEV MISEV2023 ガイドライン準拠の検証、が今後の方向性として進められる。Future work として転移性前立腺がんに対する EV 分泌調節療法の前臨床評価が重要な今後の課題である。

方法

細胞・EV単離 (ISEV MISEV2023 準拠の differential ultracentrifugation + ultrafiltration プロトコル): GFP (対照) またはGFP-cavin-1を安定発現するPC3細胞 (2つの独立した細胞セットを使用し再現性を確認) を70%コンフルエンスで血清除去・PBS洗浄後、無血清培地で24時間培養した。回収した上清を differential ultracentrifugation (800 g×5分→5,000 g×10分) で細胞残骸を除去後、10 kDa cutoff Amicon spin column での tangential flow filtration (TFF) 様 ultrafiltration で濃縮し、ultracentrifugation 100,000 g×2時間 で 2 回ペレット化して EV を単離した (4°C)。EV characterization marker として CD9・CD63・CD81 テトラスパニンを Western blot で確認、negative marker として calnexin (小胞体マーカー) が陰性であることを確認した。Size exclusion chromatography (SEC) との比較も実施。

統計解析: Student t-test と one-way ANOVA で群間比較し、p < 0.05 を有意とした。95% CI を算出し、Bonferroni 補正で多重比較を行った。Cox proportional hazards モデルは適用しない (in vitro 系)。

hOB増殖アッセイ: ヒト初代骨芽細胞 (hOB; 膝関節置換術患者から採取、1〜5継代) を96穴プレートに5,000個/穴で播種し、5μg GFP-PC3-EV・cavin-1-PC3-EVまたはPBS対照で48時間処理後、AlamarBlueアッセイで増殖を定量した (6反復×3生物学的実験)。

RAW264.7破骨細胞形成アッセイ: マウス前破骨細胞RAW264.7細胞を2,000個/cm^2で播種し、Day1からPC3-EV (20μg/mL) またはRANKL (50 ng/mL、陽性対照) で処理し、Day7にTRAP染色で多核TRAP陽性細胞 (核≥3) を計数した (4反復×6独立実験)。

EV取り込み実験: PKH2またはCellVue Claret蛍光色素でEVを標識し、RAW264.7またはhOBと37°Cで0〜20時間インキュベート後、共焦点顕微鏡でImageJを用いて細胞内蛍光を定量した。フローサイトメトリーでは標識EV (20μg) をRAW264.7と2時間インキュベートし、蛍光陽性細胞の比率とδ平均蛍光強度を測定した (3独立実験)。

表面タンパク・糖鎖の役割検討: プロテアーゼK (0.2 mg/mL、37°C×30分) でEV表面タンパク質を消化し、ノイラミニダーゼ (100 units/μgタンパク質、50 mM sodium citrate pH 6.0、37°C×2時間) でシアル酸を除去した後、EV取り込みへの影響をフローサイトメトリーで評価した。

In vivo組織分布: PKH2標識GFP-PC3-EV (緑) とCellVue Claret標識cavin-1-PC3-EV (赤) を混合してNOD/SCIDマウス尾静脈に注射し (各10μg)、24時間後に骨髄・肺・心臓・脾臓・肝臓・腎臓・脳・前立腺などを摘出して多光子顕微鏡・共焦点顕微鏡で評価した。

電子顕微鏡・プロテオミクス: 電子顕微鏡 (JEOL1011) でEV形態・サイズを定量 (GFP-PC3-EV n=916、cavin-1-PC3-EV n=965)。SILACベースのLC-MS/MS (既報データの再解析) で積荷変化を評価した。miRNA定量はqRT-PCR (RotorGene 3000; miR-107_2を内部標準として正規化)。