- 著者: James W. Clancy, Alex C. Boomgarden, Crislyn D’Souza-Schorey
- Corresponding author: Crislyn D’Souza-Schorey (Department of Biological Sciences, University of Notre Dame, Notre Dame, IN, USA)
- 雑誌: Nature Cell Biology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-12-09
- Article種別: Commentary
- PMID: 34887514
背景
細胞が分子物質を絶えず放出しており、これらの物質が生理学的プロセスを調節し、非侵襲的に生体液からアクセス可能な分子バイオマーカーとして機能することが、現在では広く認識されている。特に、過去10年間で細胞外小胞(EV: extracellular vesicles)に関する研究が飛躍的に増加した。これは、EVが細胞間コミュニケーションにおいて果たす役割や、がんを含む様々な疾患における効果的なバイオマーカーとしての治療的潜在性によるものである vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018。現在では、EVという用語が、ほぼ全ての細胞種から放出される膜結合性小胞の不均一なファミリーを指すことが理解されている。近年、分離技術のさらなる改良により、エクソメア(exomeres)と呼ばれる新たな細胞外粒子が同定された Zhang et al. NatCellBiol 2018。これらの小型(約35 nm)ナノ粒子は、膜を持たないが、タンパク質、核酸、脂質、N-グリコシル化を含む独自の生物活性成分のシグネチャーを有し、これらが複合的に独自の生物学的機能を示唆している。同様の内容と形態を持つ非膜性ナノ粒子は、小型細胞外小胞(sEV: small extracellular vesicles)分離後の上清を超遠心分離することによっても単離可能であることが報告されていた Zhang et al. CellRep 2019。しかし、このサブタイプの詳細な特性解析はこれまで未発表であった。
2021年に同号に掲載されたZhang et al. NatCellBiol 2021の研究は、この新規粒子を「スーパーメア(supermere = supernatant of exomeres)」と命名し、その包括的なプロテオーム・RNAプロファイル、in vivoでの取り込み、および機能特性を報告した。スーパーメアは、既存の全ての細胞外小胞・粒子(EVP: extracellular vesicles and particles)分類に加わる第5のサブタイプとして、EV研究に新たな局面を開く可能性を秘めている。細胞内容物(核酸、タンパク質、脂質)を非侵襲的に血液、尿、脳脊髄液(CSF)などの体液からアクセスする液体生検は、がんの診断、病期分類、モニタリングに革命をもたらす可能性が示されており、マイクロベシクルやエクソソーム由来のバイオマーカーが注目されてきた。これに加えて、EVP血漿プロテオーム全体が、がんの高感度・特異的検出およびがん種識別を可能にすることが報告されたことで Hoshino et al. Cell 2020、スーパーメアを含む全てのEVPサブタイプの統合的な液体生検への展開が期待されていた。しかし、これらの非膜性ナノ粒子の詳細な特性と、それが疾患バイオマーカーとしてどのように活用できるかについては、依然として多くの点が未解明であり、特にその生合成経路や細胞内での機能に関する知識が不足していた。
目的
本コメント論文の目的は、Nature Cell Biology 同号に掲載されたZhang et al. NatCellBiol 2021によるスーパーメアの発見、特性解析、および機能解析の意義を解説することである。具体的には、EVP分類の進展、分離技術の課題、液体生検および治療標的としての応用という観点から、スーパーメアが持つ可能性と、今後の研究で残された問題を論じることを目指す。スーパーメアが細胞の分泌物レパートリーの定義にどのように貢献し、疾患バイオマーカー開発に新たな機会をもたらすかを包括的に評価する。また、既存のEVPサブタイプとの比較を通じて、その独自性と生物学的役割を明確にすることも重要な目的である。
結果
本Commentaryは一次データを提示しないが、Zhang et al. NatCellBiol 2021の主要知見を体系的に解説している。
スーパーメアの発見と特性: Zhang et al. NatCellBiol 2021は、まずエクソメア(167,000 g超遠心ペレット)を単離した後、この上清をさらに367,000 gで追加超遠心することでスーパーメアを単離した。流体力学的AFM解析により、スーパーメアは直径50 nm未満の非膜性ナノ粒子という形態的特徴を持つことが示された。スーパーメアはエクソメアやsEVとは独自のプロテオームを持ち、疾患関連分子が高濃縮されていることが判明した。例えば、大腸がん患者血漿(n=10例)では、TGFβ1が健常人比で約3倍高濃縮されており、AGO2(miRNA機能・転移関連)、ACE2(COVID-19の受容体)、ACE(高血圧)、APP・APLP2(アルツハイマー病)、PCSK9(脂質代謝)、α-enolase・グリピカン1(がん)などが同定された。さらに、多数のmiRNAとmiRNA処理タンパク質(AGO2を含む)といったRNA種が同定された。注目すべきは、細胞外RNAの約60%以上がsEV・エクソメアではなくスーパーメア画分に存在することが明らかにされた点である。スーパーメアのin vivo取り込み効率は、同条件で比較したsEVと比べて肝、肺、腎などの試験全組織で有意に高かった(p<0.05)。
EVPとしての分類上の意義: スーパーメアの発見により、EVP分類は大型EV(マイクロベシクル・大型オンコソーム、>200 nm)、小型EV(エクソソーム・ARMM、60-200 nm)、細胞外粒子(エクソメア・スーパーメア、<50 nm)という3大カテゴリーに整理された。スーパーメアは「エクソメアサブタイプ」または独立カテゴリーとして位置づけられる可能性が論じられた。EVP図(Fig. 1)には、エクソソーム(60-120 nm、CD63・Syntenin-1・Alix・Rab27a)、ARMM(50-200 nm、ARRDC1・Tsg101)、エクソメア(<50 nm、Hsp90β・ENO1・GANAB)、スーパーメア(<50 nm、TGFβ1・AGO2・ACE2・PCSK9)を含む全EVPサブタイプが体系的に示された。この分類は、細胞分泌物の複雑なヘテロジェニティーを理解する上で重要な枠組みを提供する。
生物学的機能と臨床応用可能性: スーパーメアはin vivoでsEV・エクソメアと比較して全試験組織での取り込み効率が著明に高いことが示された。がん由来スーパーメアが受容細胞での乳酸分泌増加(代謝変化)、セツキシマブ耐性の転移(薬剤耐性の細胞間伝達)、肝代謝変化を引き起こすことが示された。大腸がん患者血漿中TGFβ1がスーパーメア画分に高濃縮されることは、液体生検バイオマーカーとしての直接的応用可能性を示した。エクソメアとスーパーメアはマウスへの全身投与で一部共通の肝病態生理学的効果(乳酸分泌増加等)を示したが、シグナル経路の差異も認められ、両者の独自性と機能的オーバーラップが確認された。これらの機能的知見は、スーパーメアが疾患の進行や治療応答に影響を与える可能性を示唆する。
分離技術の現状と課題: 現在スーパーメアの単離に用いられた最適化超遠心プロトコル(167,000 gでエクソメア単離後、残余上清を367,000 gでスーパーメアペレット化)の他、AF4(エクソメア同定に使用)、マイクロフルイディクス(抗原特異的捕捉、既知分子マーカー要)、音響流体遠心(数nmまで分離、低コスト・高速化課題)が新興技術として紹介された。臨床応用には機器コスト、サンプル処理スケール、速度の改善が必要であることが強調された(Fig. 2)。特に、超遠心分離法はバルクの小胞集団を生成するのに効果的であるものの、得られる沈降画分は特定のEVPクラスに富む一方で、他の未特徴化ナノ構造や血清タンパク質が混在する可能性が指摘された。
EVPヘテロジェニティーと残された問題: 大型EVP内クラス(マイクロベシクル・エクソソームサブタイプ等)や小型EVP内クラス(エクソメア・スーパーメアサブタイプ等)のヘテロジェニティーの全貌は未解明である。スーパーメアとエクソメアはプロテオームの大部分を共有するが、多くの独自タンパク質も保有し、従来の細胞外クロマチメアなどの既報ナノ粒子との関係整理が必要と指摘された。スーパーメアの生合成機序も未解明であり、ゴルジ体・ERやオートファジー経路等との関連が今後の課題として残された。これらの課題は、EVP生物学の包括的な理解を深める上で重要である。
考察/結論
本Commentaryは、スーパーメアの発見がEVP生物学に与える多面的な意義を3つの観点から論じた。
EVP分類の完成に向けた意義: スーパーメアの発見は「細胞分泌物の全貌」の解明において重要なマイルストーンとなった。エクソソーム、ARMM、エクソメア、スーパーメアという4サブタイプ分類の確立と、これら全てが50 nm未満の細胞外粒子カテゴリー内のサブタイプとして共存するという認識は、EV研究の分類学的基盤を根本的に拡充した。著者らは、各EVPサブタイプの機能的積荷、生物学的役割の詳細解明と、クラス間・クラス内ヘテロジェニティーへの理解が将来の液体生検・治療応用の実現に不可欠であると論じた。この発見は、これまでのEV研究の枠組みを大きく広げるものであり、細胞が放出する多様なナノ粒子の全体像を理解する上で極めて重要である。
液体生検の進展: EVP血漿プロテオーム全体ではがん検出の高感度・特異度(Hoshino et al. Cell 2020)が示されていたが、スーパーメアの発見は特定疾患に高濃縮された分子(大腸がんのTGFβ1など)を提供し、より特異的なバイオマーカー探索の基盤を提供した。スーパーメアが体液中で安定して検出可能であることは、非侵襲的疾患モニタリングへの応用可能性を示唆する。先行研究との比較では、2018年のZhang et al. NatCellBiol 2018によるAF4を用いたエクソメア発見と、2020年のHoshino et al. Cell 2020によるEVP血漿プロテオームのがん診断応用という2つのマイルストーンがスーパーメア発見の直接的背景をなしており、本研究はそれらの延長線上にありながら、より小さなサブタイプ分類を新規に付加した点で独自性を持つ。特に、大腸がん患者血漿中のTGFβ1がスーパーメア画分に高濃縮されるという知見は、臨床応用への直接的な道筋を示すものである。
治療標的の観点: スーパーメア内のTGFβ1、AGO2、PCSK9などが各疾患(がん、心血管疾患、COVID-19)の既知治療標的であり、これらをスーパーメアとして追跡・標的化する新しい治療戦略の開発が期待される。また、in vivoでの高い取り込み効率は薬物デリバリーベヒクルとしての潜在的有用性を示唆した。本研究で初めて、スーパーメアが特定の疾患関連タンパク質やRNA種を豊富に含むことが示されたことは、新規治療標的の探索に新たな視点を提供する。
残された課題: 今後の検討課題として、スーパーメアとエクソメアの生合成経路の分子機序(ゴルジ体/ER起源か否か)、病理条件での産生量変化、臨床検体(血漿、尿、CSFなど)からの安定単離プロトコルの最適化が挙げられる。また、スーパーメアが細胞外クロマチメアなどの他の非膜性ナノ粒子とどのように異なるのか、その関係性を明確にすることも今後の研究で残された課題である。本Commentaryが強調する「EV研究の翻訳は各EVPサブタイプの正確な定義・内容・機能の理解なしには実現できない」という方向性は、その後のEV研究の標準化・臨床応用加速の重要な指針となった。
方法
本論文は、Zhang et al. NatCellBiol 2021の研究成果を解説するCommentary(News & Views)であるため、著者らによる一次データ生成のための実験的手法は含まれない。本稿では、Zhangらによるスーパーメアの発見、特性解析、および機能解析に関する報告を基に、その生物学的意義、臨床応用可能性、および関連する技術的課題について考察している。具体的には、Zhangらの研究で用いられた超遠心分離法によるスーパーメアの単離プロトコル、流体力学的原子間力顕微鏡(AFM: atomic force microscopy)による形態学的特徴の評価、プロテオーム解析、RNAシーケンス解析による分子組成の同定、in vivoでの生体内分布および取り込み効率の評価、ならびに機能解析(代謝調節、薬剤耐性伝達など)の結果が、本コメント論文の議論の基礎となっている。また、非対称フロー電界-流動分画(AF4: asymmetric flow field-flow fractionation)、マイクロフルイディクス、音響流体遠心などの新興分離技術についても言及し、EVP分離技術の現状と課題を論じている。本コメント論文は、これらの知見を統合し、EVPのヘテロジェニティー、液体生検バイオマーカーとしての潜在性、および治療標的としての可能性について、批判的かつ展望的な視点から分析を行っている。