- 著者: Eva Maria Wenzel, Sebastian Wolfgang Schultz, Kay Oliver Schink, Nina Marie Pedersen, Viola Nähse, Andreas Carlson, Andreas Brech, Harald Stenmark, Camilla Raiborg
- Corresponding author: Eva Maria Wenzel; Camilla Raiborg (Department of Molecular Cell Biology, Institute for Cancer Research, Oslo University Hospital, Oslo, Norway)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 30050131
背景
EV (extracellular vesicle、細胞外小胞) の一種であるエクソソームは、エンドソーム内腔に形成されるILV (intraluminal vesicle、エンドソーム内腔小胞) が MVE (multivesicular endosome、多小胞体) の原形質膜融合により細胞外に放出されることで生じる。エンドサイトーシスで取り込まれた活性化シグナル受容体 (EGFR等) はユビキチン化を経てエンドソーム膜上でソートされ、ILVとして内部化されることでシグナル伝達が終結する。このMVE形成には ESCRT (endosomal sorting complex required for transport) ファミリーが必須で、4複合体群 ESCRT-0 (E.S.C.R.T. zero subunit)、ESCRT-I (E.S.C.R.T. type one)、ESCRT-II (E.S.C.R.T. type two)、ESCRT-III (E.S.C.R.T. type three、膜切断複合体) と ATPase (adenosine triphosphatase) VPS4 (vacuolar protein sorting four) からなる。これらがカーゴソーティング・膜変形・膜切断の各ステップを担うことが酵母エピスタシス解析や哺乳類細胞実験から示されてきた (細胞外小胞生合成のレビュー)。
Raiborg et al. 2001は HRS (hepatocyte receptor substrate、ESCRT-0サブユニット) がクラスリンをエンドソームに動員することを示し、Raiborg et al. 2006 はクラスリンがHRSをEGFRソーティングマイクロドメインに集積させることを報告した。しかしこれら先行研究では、ESCRTが実際にどのようなキネティクスでエンドソームに動員・解離するか、そしてクラスリンがESCRT解離タイミングを能動的に制御するかは検討が手薄で不足しており、リアルタイム定量解析は十分でなかった。
具体的な未解明問題は4点に整理できる: (1) ESCRT上流複合体と下流複合体の動員は同時か順次か、(2) 1回のESCRT動員サイクルで何個のILVが形成されるか、(3) 同一エンドソーム上でESCRT動員は反復するか、(4) クラスリンはESCRTの動態制御に必要か。これらに対する定量的回答は未検討で、ILV形成のタイムスケール (ウイルス出芽の秒〜分と細胞質分裂の約1時間の中間域と予測) の実測値もまだ得られていない knowledge gap であった。
目的
本研究は、蛍光タンパク質でタグしたESCRTサブユニットを安定発現するHeLa cellsを用いたライブセルイメージングと電子顕微鏡 (EM) 相関解析を統合し、個々のエンドソームの追跡を通じてESCRT複合体の動的挙動・ILV形成のタイミングと形態を定量的に解明することを目指した。さらにクラスリンがESCRTキネティクスとILV形成に及ぼす機能的役割を、siRNAノックダウンとHRSクラスリン結合ドメイン欠失変異体を用いた介入実験により証明することを副次目的とした。
結果
ESCRT活性のEGF刺激早期局在: EGFパルス (50 ng/mL、2分) 後のpulse-chase実験で、全ESCRT因子 (HRS、CHMP4B、HD-PTP) はEGFとの共局在が刺激15分後に最大となり (HRS: one-way ANOVA P<0.0001; HD-PTP: P=0.0072)、その後急速に低下した (Fig. 1)。CHMP4B-GFPはEEA1陽性初期エンドソームに優先的に共局在し、RAB7陽性後期エンドソームやLAMP1陽性後期区画とのMCC (Manders colocalization coefficient) と比較して有意に高値であった (one-way ANOVA P=0.0004)。すなわち「後期」ESCRTが実際には「初期」エンドソームで主に活動することが示された。
ESCRTの協調的・反復的「波」動員: 個々のEGF陽性エンドソームを追跡し23プロファイルを平均化した結果、HRS (ESCRT-0) とCHMP4B (ESCRT-III) は同一エンドソームに同期して動員・解離する「波」パターンを示した (Fig. 2c-e)。HRSの平均滞留時間は 195±67秒 (蓄積時間 122±50秒、SD)、CHMP4Bは 80±29秒 (蓄積時間 12±5秒、n=4 independent experiments) で、HRSはCHMP4Bより 2.4-fold 長く滞留した。HRSは緩やかな線形蓄積と緩徐解離を示し、CHMP4Bの解離タイミングはHRSと同期した (toff(HRS)=73±25秒、toff(CHMP4B)=68±27秒)。TSG101とHD-PTPは「緩波型」、CHMP3とVPS4Aは「瞬時型」としてCHMP4Bと同様のキネティクスを示した。
1 ESCRT波 = 1 ILVの逐次形成: 64エンドソームトラックで観察されたESCRT波は平均 1.0±0.8波/5分 であった (Fig. 3)。EGF刺激5分後の金標識エンドソームのEM解析 (≥100エンドソーム、n=3 independent samples) では、150 nm切片あたり平均 0.5 ILV で、87%の切片で0または1個のILVを示した。5・10・15分の各時点でILV数は線形的に増加し、ESCRT波数との相関が線形的であった。HRS/クラスリンコート (膜上の電子密集構造) 近傍に切断済みILVが蓄積しており、ILVが順次・逐次形成されることが直接示された。
クラスリンによるESCRT-0の適時解離制御: クラスリンsiRNAノックダウンにより mCherry-HRS、内在性HRS、mEGFP-TSG101のすべてがエンドソームに過延長滞留し、3.2-fold に過剰蓄積した (>2,500細胞/条件、対照 vs siCHC: P<0.001、t-test、n=4 independent experiments)。蛍光強度は対照の 2.5-fold 以上に達した。HRSクラスリン結合ドメイン欠失変異体発現細胞では、変異体の滞留時間が野生型より有意に延長し (t-test P<0.001)、HRSとCHMP4Bの周期性同期も失われた (Fig. 4-5)。クラスリン欠損下ではILV形成効率の低下・ILVサイズの変化・EGFR分解の遅延が生じた (Kruskal-Wallis P<0.0001)。
ESCRT波のPI3P依存性: VPS34阻害薬 SAR405 でPI3Pを急性枯渇させると、HRSとCHMP4Bのエンドソーム動員が著明に減少し (HRS: DMSO対照との比較で t-test 有意)、ESCRT波が消失し、ILV数が15分時点で著明に減少した (≥100 gold-labeled endosomes per condition、n=3 independent samples) (Fig. 6)。SAR405存在下では、HRS欠失変異体は新規EGF陽性エンドソームへの動員を失ったが、既存のHRS陽性エンドソームには約1/3が残存した。
クラスリン欠損下のILV形態変化: HRS欠失変異体発現細胞 (siHRS条件) では、EGFR金標識が内腔ILVではなく限界膜に蓄積し、カーゴソーティング障害が確認された (≥100 gold-labeled endosomes per condition) (Fig. 7-8)。ILV形成バジェットプロファイルの解析では、クラスリン欠損条件で omega 型バドの neck length が有意に延長し (P<0.05)、pit width も増大した (P<0.05) が、neck width は変化しなかった。これによりILV形態の変化が定量的に示された。
考察/結論
本研究はESCRTの「波」動員モデルを、ライブセルイメージングとEM相関解析の統合により直接かつ定量的に実証した。1回のESCRT波が1個のILVを逐次形成するという本研究で初めて示された概念は、MVE形成がESCRT動員の連続反復により段階的に進行することを明らかにし、ILV形成の素過程の理解を一新した。同一エンドソームのリアルタイム追跡を通じてESCRTの協調的・反復的動態が初めて可視化された点が、本研究の方法論的革新である。
先行研究との比較: 酵母での順序的ESCRT動員は分子遺伝学的に確立されていたものの、哺乳類細胞でのリアルタイム定量的解析は本研究が初めて行った。クラスリンがエンドソームでHRSを動員し局所ソーティングマイクロドメインを形成するという Raiborg et al. 2002 の知見とは異なり、本研究はクラスリンが ESCRT-0 の解離タイミングを能動的に制御する制御機能を新規に示した。ESCRT-III と VPS4A の「瞬時型」キネティクス (蓄積12±5秒、n=3 independent experiments) はウイルス出芽 (リトロウイルス Gag タンパク質の組み立てから 1-2 分での切断) の動態と類似しており、ILV形成とウイルス出芽の膜切断機構の保存性を示唆する。本研究は従来の in vitro 再構成実験では見いだせなかった生細胞内の動態を、刺激後 5 分・10 分・15 分の時点で linear 増加 (ILV 数 0.5 → 1.0 → 2.0/section、約 4-fold の経時増加) として直接実証した点で新規性が高い。
エクソソーム生合成への含意: ILVはMVEが原形質膜と融合するとエクソソームとして細胞外に放出される。本研究が確立した「ESCRT波 → 1 ILV」の原理は エクソソームサイズ分布 (40〜150 nm) の分子基盤と直接結びつく。クラスリンによるILVサイズ制御の発見は、エクソソーム組成・サイズ制御の理解にも臨床的意義を持つ。さらに エクソソームPD-L1 のような免疫制御カーゴのソーティング機構を理解する上でも本研究の知見は重要である。
限界と今後の課題: 本研究は HeLa cells (子宮頸癌由来) のEGFR/EGF刺激系に限定されており、他の受容体や他のカーゴでのESCRT波の普遍性は今後の検証課題である。150 nm EM切片による定量は3次元的ILV数の過小評価を含む。またESCRT-II複合体の動態は直接追跡されておらず、ESCRT-Iと膜切断複合体の間の膜変形ステップの詳細は未解明のまま残る。今後の方向性として、ESCRT非依存性経路 (RAB31 やテトラスパニン依存性) のILV形成との比較と統合的理解が重要な課題となる。
方法
細胞株作製: ESCRT構成因子を蛍光タグで安定発現するHeLa cell株を、レンチウイルスベクターで内在性発現に近いレベルで樹立した。使用した因子はHRS (ESCRT-0サブユニット、mCherry標識)、TSG101 (ESCRT-I、mEGFP標識)、HD-PTP (His-domain phospho-tyrosine phosphatase)、CHMP4B (charged multivesicular body protein 4B、ESCRT-III)、CHMP3 (ESCRT-III)、VPS4A (ATPase) である。タグ付きESCRTの機能性は、siRNA耐性CHMP4B-GFPによるEGFR分解阻害のレスキュー実験で検証した (n=3 independent experiments)。
ライブセルイメージング: 蛍光標識EGF (EGF-Alexa Fluor 647) パルス (50 ng/mL、2分刺激) とウォッシュアウト後30分間、3秒/フレームで3チャネル同時撮像を行った。個々のEGF陽性エンドソームをトラッキングし、蛍光強度プロファイルを解析した (合計32〜55独立実験)。統計解析は one-way ANOVA + Tukey post-hoc test、t-test (滞留時間・蛍光強度比較)、および Kruskal-Wallis test (ILV数比較) を用いた。
EM相関解析: 抗EGFR抗体とプロテインAコンジュゲート金粒子 (10 nm) でEGFRを標識した後、EGF刺激 (5/10/15分) を行い、高圧凍結・凍結置換・150 nm切片でEM観察した。40〜60 nm径のILVを計数した (各時点で≥100の金標識エンドソーム、n=3 independent samples)。
クラスリン機能解析: 2つの相補的アプローチを用いた。第一に、siRNAによるクラスリン重鎖 (CHC) ノックダウンを行い、mCherry-HRS発現HeLa cells での蛍光強度を定量した (>2,500細胞/条件、n=4 independent experiments)。第二に、HRSクラスリン結合ドメイン欠失変異体 (aa770-800欠失) を安定発現させ、siRNAで内在性HRSを置換した上で、変異体と野生型のキネティクス・滞留時間・周期性・ILV数を定量した。
PI3P (phosphatidylinositol-3-phosphate) 依存性の検証: VPS34 (PI3キナーゼ) 特異的阻害薬 SAR405 でPI3Pを急性枯渇させ、ESCRT波とILV形成への影響を確認した。