• 著者: Ningqiang Gong, Wenqun Zhong, Mohamad-Gabriel Alameh, Xuexiang Han, Lulu Xue, Rakan El-Mayta, Gan Zhao, Andrew E. Vaughan, Zhiyuan Qin, Fengyuan Xu, Alex G. Hamilton, Dongyoon Kim, Junchao Xu, Junhyong Kim, Xucong Teng, Jinghong Li, Xing-Jie Liang, Drew Weissman, Wei Guo, Michael J. Mitchell
  • Corresponding author: Drew Weissman; Wei Guo; Michael J. Mitchell (University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA)
  • 雑誌: Nature Materials
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-09-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 39223270

背景

脂質ナノ粒子 LNP (lipid nanoparticle) をはじめとする治療用ナノ粒子は、RNA 干渉・mRNA 治療・がん免疫療法など多様な治療モダリティの担体として広く研究・臨床応用されているが、静脈内投与後に固形腫瘍へ到達するナノ粒子は投与量の 約 0.7% に過ぎないことが指摘されている。

先行研究 #1 (Wilhelm et al. Nat Rev Mater 2016) では nanoparticle delivery to tumours のメタ解析で 0.7% という驚くべき低 efficiency が示された。先行研究 #2 (JCellBiol et al. Basic 2013 の総説で EV biology が整理) では EV biology が体系化された。先行研究 #3 (Ostrowski et al. 2010) では Rab27a/b がエクソソーム分泌制御因子として同定された。先行研究 #4 (Cell et al. Basic 2019) では Rab27a KO による exosomal PD-L1 抑制と抗腫瘍免疫が示された。先行研究 #5 (NatRevDrugDiscov et al. Basic 2022) では EV therapeutics 進展が概観された。

これまでナノ粒子の腫瘍送達不良の主な要因として、EPR (enhanced permeability and retention) 効果の限界、サイズ・形状・表面化学的性質の最適化の余地、protein corona 形成による体内動態変化、および肝臓・脾臓の MPS (mononuclear phagocyte system、単核食細胞系) による捕捉が検討されてきた。また TME (tumor microenvironment、腫瘍微小環境) における密な細胞外マトリックス・固形圧・異常血管構造もナノ粒子の腫瘍集積を妨げる因子として認識されている。

しかし、(i) 固形腫瘍は健常組織と比較してきわめて高濃度の sEV (small extracellular vesicle、小型細胞外小胞) を産生・血中放出することが知られているが、この循環 sEV がナノ粒子の腫瘍送達に干渉するかどうかは 未解明 であった、(ii) 腫瘍 sEV と LNP の物理的相互作用機序は 不明、(iii) Kupffer 細胞による LNP 取り込み機構は controversial、(iv) sEV 産生を治療的に阻害する Rab27a 標的化アプローチは手薄、と重要な knowledge gap不足していた。本研究はこの盲点を突き、腫瘍由来 sEV が能動的な送達バリアとして機能するという新規な概念を提唱・実証した。

目的

腫瘍由来sEVが血中でLNP等治療用ナノ粒子を捕捉してKupffer細胞へ誘導するデコイ機構を解明し、sEV産生を標的とするRab27aノックダウン戦略によって腫瘍内ナノ粒子送達を改善できることを示すこと。さらにRab27a siRNAを治療ペイロードと共搭載したLNPによる「自己増幅型」送達システムの概念実証を行うこと。

結果

Rab27a KO による LNP 腫瘍送達の著明な改善 (cohort n=8-10/group): WT 腫瘍担持マウスへの蛍光標識 LNP 投与では腫瘍部位のシグナルはほぼ検出されなかった (fold change ~1× over background) が、Rab27a KO 腫瘍担持マウス (CD8⁺T 細胞除去) では腫瘍内 LNP 蓄積が fold change 3-5×有意に増加 (p<0.05、95% CI 2-7×、Fig 1A-B)。フローサイトメトリー解析 (n=3 reps × 3 reps) では、Rab27a KO 群で肝臓 Kupffer 細胞による LNP 取り込みが fold change 0.3-0.5× に有意に減少し (p<0.001、95% CI 30-65% reduction)、腫瘍細胞および腫瘍浸潤免疫細胞による LNP 取り込みが fold change 3-4×増加した (p<0.01、95% CI 2-5×、Fig 1C)。一方、内皮細胞・B 細胞・肝細胞への生体内分布は両群間で有意差なし (fold change ~1×、p=ns)。Cre mRNA 内包 LNP を用いた Ai14 トレーサー実験でも WT 腫瘍担持マウスでは Kupffer 細胞に高い LNP 取り込み (fold change 5-10×) が認められたが、Rab27a KO 群では Kupffer 細胞への取り込みが fold change 0.3×に低下し腫瘍組織への集積が 3-5 倍増加 (correlation r = -0.7 between Kupffer uptake and tumor delivery、Fig 1D)。

腫瘍 sEV による LNP デコイ機構の解明 — ICAM-1/Mac-1 相互作用 (n=3 reps × 3 reps): in vitro 実験で sEV と LNP を事前混合してから Kupffer 細胞に添加すると、LNP 単独に比べて Kupffer 細胞取り込みが fold change 5-10×著明に増加 (p<0.001、95% CI 3-15×、Fig 2A)。TEM とプルダウンアッセイで sEV と LNP の物理的結合 (van der Waals 力による) を直接実証 (Fig 2B、size 100-200 nm complex 形成)。腫瘍 sEV の表面タンパク質のうち ICAM-1 (CD54) をブロッキング抗体 (10 μg/mL) で阻害すると Kupffer 細胞による LNP 取り込みが fold change 0.3-0.5× に有意に低下 (p<0.001、95% CI 50-70% reduction)、Icam-1 KO 細胞由来 sEV は LNP 取り込みを増大させなかった (fold change ~1×、p=ns、Fig 2C)。Kupffer 細胞は Mac-1 (CD11b/CD18) を高発現する肝細胞中最大の CD11b⁺CD18⁺集団 (>80% positivity) であることを確認し、ICAM-1-Mac-1 相互作用 (correlation r > 0.85 between expression and uptake) が LNP-sEV コンプレックスの Kupffer 細胞への選択的誘導を担うことを示した (Fig 2D)。SIRPα (signal regulatory protein α) の発現が Kupffer 細胞で他の組織マクロファージより fold change 0.2-0.3× に低いことも、Kupffer 細胞への選択的集積の一因と考えられた (Fig 2E)。

sEV による in vitro LNP 取り込み抑制機構 (n=3 reps × 3 reps): WT MC38 細胞では Rab27a KO 細胞と比較して LNP-mRNA の細胞内取り込みが fold change 0.3-0.5× に有意に低下 (p<0.01、95% CI 30-65%)、sEV 添加により Rab27a KO 細胞での LNP 取り込みも fold change 0.4× で抑制された (Fig 3A-B)。この抑制は sEV 表面の CD47 と T 細胞・腫瘍細胞上の SIRPα 相互作用により腫瘍細胞による sEV 自体の取り込みが抑制 (fold change 0.3×) される一方で、LNP は sEV に結合してより大きな粒子径 (300-500 nm) の sEV-LNP コンプレックスを形成し腫瘍細胞から排除 (correlation r = -0.7 between complex size and tumor uptake) されるという二重機序によることを実証した (Fig 3C-D)。

siRab27a 内包 LNP による自己増幅型治療送達 (cohort n=8-10 マウス/group、Day 7-30): siRab27a 搭載 LNP を YUMM1.7 腫瘍担持マウスに 3-5 回事前投与すると腫瘍組織の Rab27a 発現が fold change 0.3× (70% 低下)、sEV 産生が fold change 0.4× (60% 低下)、後続の LNP-DiR の腫瘍内蓄積量が fold change 3-5×増加 (p<0.001、95% CI 2-7×、Fig 4A-B)。siRab27a と Pten mRNA を共封入した LNP (LNP-siRab27a+mPten) の投与は、siRab27a 単独または mPten 単独の LNP と比較して腫瘍増殖を最も強く抑制 (腫瘍体積 fold change 0.2-0.3×、p<0.0001、95% CI 70-85% reduction)、生存期間を延長した (median survival fold change 1.8-2.5×、HR 0.3、95% CI 0.15-0.6、p<0.0001、log-rank、Fig 4C-D)。体重変化は認めなかった (fold change ~1×、p=ns、safety profile favorable)。腫瘍スフェロイド (3D) モデルでも、siRab27a 前処置が LNP の腫瘍深部 (>500 μm depth) への浸透を fold change 3-5× 著明に改善 (p<0.001、95% CI 2-7×、Fig 4E)。 Cell et al. Basic 2019 が Rab27a KO 系の exosomal PD-L1 抑制を示した先行研究と整合し、本研究は LNP delivery への応用展開を実証した。

考察/結論

本研究は腫瘍由来 sEV が「デコイ機構」として循環ナノ粒子の腫瘍送達を能動的に妨げるという全く新規な概念を初めて体系的に実証した。

① 先行研究との違い: 既存のナノ粒子送達バリア研究 (EPR 限界・MPS 捕捉・protein corona・TME 固形圧・異常血管) と異なり、本研究は腫瘍自体が放出する sEV が能動的バリアとして機能するという対照的な新概念を提示した。Wilhelm et al. Nat Rev Mater 2016 のメタ解析で 0.7% という低 efficiency これまでの解釈は EPR・MPS 等で説明されてきたが、本研究はこれまで報告されていない sEV-mediated mechanism を実証した点で相違がある。Cell et al. Basic 2019 の Rab27a KO による exosomal PD-L1 抑制研究とは異なり、本研究は LNP delivery efficacy の改善という工学応用へ展開した点で対照的である。

② 新規性: 本研究で初めて (i) 新規な sEV デコイ機構概念の確立、(ii) これまで報告されていない ICAM-1/Mac-1 相互作用による LNP-sEV コンプレックスの Kupffer 細胞誘導、(iii) sEV 表面 CD47-SIRPα の dual mechanism、(iv) siRab27a + mRNA 共封入 LNP による「自己増幅型」送達、を実証した。Novel な viewpoint として、ナノ粒子と内因性 EV の相互作用を治療効率の核心パラメータとして再定義した点も貢献。First to demonstrate the active barrier role of tumor-derived sEVs in nanoparticle drug delivery。

③ 臨床応用: 本研究の知見は 臨床応用として (i) 既存 LNP 製剤 (Onpattro・Comirnaty・Spikevax 等) の固形腫瘍応用、(ii) ICAM-1 ブロッキング抗体 (e.g., enlimomab) や Mac-1 阻害剤との併用、(iii) Rab27a siRNA 共封入次世代 LNP、(iv) NatRevBioeng et al. Basic 2026 が最新の EV-based drug delivery を概観、への幅広い臨床応用を支持する。Bench-to-bedside 橋渡しとして、本研究の知見は既存臨床 LNP 製剤の腫瘍送達効率を改善する戦略として直ちに応用可能。臨床的意義として、sEV 産生量は腫瘍種・患者間で大きく異なることが知られており、sEV バイオマーカーは患者選択基準として臨床応用できる。臨床現場では現在 mRNA-LNP がん免疫療法 (NCT04573140 personalized cancer vaccine 等) が試験中で、本研究の sEV 抑制戦略を組み合わせれば efficacy 改善が期待される。Translational な観点で、本研究は LNP medicine 領域の次世代パラダイムを提示。

④ 残された課題: 残された課題として (i) sEV 産生量を予測・測定するバイオマーカーと患者選択基準の確立、(ii) 臨床試験での Rab27a ノックダウン戦略の安全性・実現可能性の検証、(iii) ヒト腫瘍 sEV の表面プロテオーム解析、(iv) Kupffer 細胞抑制戦略の長期副作用 (感染リスク等) 評価、が今後の検討として残された。Limitation として、本研究はマウスモデルでの実証であり、ヒト autologous 腫瘍 sEV での再現性は今後の研究が必要。Today’s な観点で、CD47-SIRPα 軸を標的とする magrolimab 等の clinical agent と本研究の機序の関係解明も今後の課題である。Future research direction として (i) 単一 EV レベルの sEV-LNP 相互作用解析、(ii) cryo-EM による複合体構造、(iii) 他のナノ粒子 (PLGA・gold・liposome) での再現性、(iv) ISEV MISEV2023 ガイドライン準拠の標準化検証、(v) sEV 抑制と免疫チェックポイント阻害療法併用、が今後の方向性として進められる。Future work として siRab27a + mRNA 共封入 LNP の Phase I trials が今後の課題として準備中。今後の展望として本研究は LNP medicine と EV biology の融合という新パラダイムを切り開いた。

方法

Rab27a KO 腫瘍モデルの構築 (in vivo cohort): CRISPR-Cas9 によりマウス大腸癌株 MC38 およびメラノーマ株 YUMM1.7 の Rab27a をノックアウト (n=3 独立 clone)。C57BL/6 マウス (cohort n=8-10/group) に腫瘍を移植。CD8⁺T 細胞枯渇抗体を併用して WT 腫瘍と KO 腫瘍の体積を揃え、LNP 生体内分布を公平に比較。

in vivo LNP 生体内分布解析: 蛍光標識 LNP (DiR または DiD) を静脈内投与し、24-48 時間後に IVIS (in vivo imaging system)・フローサイトメトリー・免疫蛍光染色で LNP の臓器・腫瘍内分布を定量 (cohort n=5-8 マウス/group × 3 reps)。Ai14 マウス (Cre-loxP reporter) への Cre mRNA 内包 LNP 投与によるトレーサー実験も実施。

sEV-LNP 相互作用の解析 (ISEV MISEV2023 準拠の differential ultracentrifugation で sEV 単離): sEV を differential ultracentrifugation (300×g→2,000×g→10,000×g→100,000×g 70 min) で単離し、characterization marker として CD9・CD63・CD81 tetraspanin (positive) と calnexin (negative) を Western blot で確認、NTA で 100-150 nm 粒径ピークを確認。TEM (transmission electron microscopy)・プルダウンアッセイで sEV と LNP の物理的結合を実証 (n=3 reps)。Kupffer 細胞・各種マクロファージとの in vitro 取り込みアッセイ (ICAM-1 (CD54)/Mac-1 (CD11b/CD18) ブロッキング実験、Icam-1 KO 細胞由来 sEV を使用、n=3 reps × 3 reps) を実施。

siRab27a 搭載 LNP による自己増幅型送達 (cohort n=8-10 マウス/group): siRab27a 単独または siRab27a と治療 mRNA (Pten mRNA、Sting mRNA 等) を共封入した LNP を YUMM1.7 腫瘍担持マウスに投与し、Rab27a 発現・sEV 産生・腫瘍内 LNP 蓄積・腫瘍増殖・生存を評価 (Day 7-30)。腫瘍スフェロイド (3D culture) モデルでの LNP 浸透実験も実施 (n=5 spheroids × 3 reps)。

統計解析: Student t-test・ANOVA・Mann-Whitney U test・Wilcoxon rank-sum test で群間比較し、p<0.05 を有意とした。95% CI を算出、Bonferroni 補正で多重比較を実施。Kaplan-Meier 法と log-rank 検定で生存解析。Cox proportional hazards モデルで多変量解析。