• 著者: Maarten P. Bebelman, Philippe Bun, Stephan Huveneers, Guillaume van Niel, D. Michiel Pegtel, Frederik J. Verweij
  • Corresponding author: D. Michiel Pegtel (d.pegtel@amsterdamumc.nl) (Amsterdam UMC, Vrije Universiteit Amsterdam); Frederik J. Verweij (frederik.verweij@inserm.fr) (Institut de Psychiatry et de Neurosciences de Paris, INSERM U1266)
  • 雑誌: Nature Protocols
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-12-13
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 31836866

背景

後期エンドソームである多胞体(MVB: multivesicular body)が形質膜(PM: plasma membrane)と融合することで、内部の小胞(ILV)がエクソソームとして細胞外空間に放出される。エクソソームは細胞の恒常性維持や細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を担うが、その放出動態を直接的かつリアルタイムで計測する手法はこれまで不足していた。従来のエクソソーム定量法、例えば差次遠心法、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)、フローサイトメトリーなどは、いくつかの重大な限界を有している。第一に、これらの手法はエクソソームを長時間収集する必要があり、その間に一次的・二次的な効果が混入する可能性がある。第二に、小型のエクソソーム(直径40〜70 nm)は検出限界未満であるため、過小評価される傾向がある。第三に、MVB由来のエクソソームとPM由来のマイクロベシクルを明確に識別することが困難であるという課題があった。これらの課題により、エクソソーム放出を制御する因子やメカニズムに関する研究は限定的であった。この分野には依然として知識のギャップが残されており、エクソソーム放出の動態をリアルタイムで直接観察する新しい方法論が不足していた。

本プロトコルでは、pH感受性蛍光タンパク質pHluorinをエクソソーム関連テトラスパニン(TSPAN: tetraspanin)であるCD63に融合させたCD63-pHluorinレポーターを用いることで、これらの課題を解決する。pHluorinは酸性環境(pH 5.5)では蛍光が消光されるが、中性環境(pH 7.4)では蛍光を発する特性を持つ。MVBの内部は酸性であるため、CD63-pHluorinはMVB内では消光されている。しかし、MVBがPMと融合し、その内容物が細胞外空間(中性pH)に放出されると、pHの中和によりCD63-pHluorinの蛍光シグナルが瞬時に出現する。この原理を利用することで、MVB-PM融合イベント、すなわちエクソソーム放出をリアルタイムで直接可視化・定量することが可能となる。このアプローチは、エクソソーム放出の動態を高い時間分解能で捉え、外因性刺激、細胞内シグナリング経路、および融合複合体(SNARE)の関与を解明するための強力なツールとなることが期待される。先行研究では、このCD63-pHluorinレポーターを用いた高速イメージングにより、エクソソーム放出に関わる生理学的刺激や細胞内シグナリング経路の解明が進められている Verweij et al. J Cell Biol 2018。また、ゲノムワイドCRISPR-Cas9スクリーニングで同定されたMVBエキソサイトーシスの新規プレイヤーの検証にも応用されている Lu et al. eLife 2018。しかし、この手法を標準化し、広く研究コミュニティが利用できる詳細なプロトコルはこれまで未確立であった。エクソソームの放出動態を単一細胞レベルで直接的に解析する手法は依然として不足しており、このギャップを埋めることが本プロトコルの重要な背景である。

目的

本研究の目的は、pH感受性蛍光レポーターであるCD63-pHluorinと高速全反射蛍光(TIRF: total internal reflection fluorescence)顕微鏡(≥2 Hz)を組み合わせることで、単一細胞レベルでの多胞体(MVB)-形質膜(PM)融合(エクソソーム放出)をリアルタイムで可視化し、定量するための詳細なプロトコルを確立することである。このプロトコルは、エクソソーム放出を制御する外因性刺激、細胞内シグナリング経路、および融合複合体(SNARE)の同定に応用可能な標準手順を整備することを意図している。具体的には、HeLa細胞におけるCD63-pHluorinの一過性および安定発現、デュアルカラーイメージングの手順、そして開発されたImageJマクロ「Analyzer of MVB Exocytosis(AMvBE: Analyzer of MVB Exocytosis)」を用いた半自動画像解析の手順を体系化し、エクソソーム放出の動態研究に新たな道を開くことを目指す。さらに、本プロトコルが様々な接着細胞株や初代細胞、幹細胞にも適用可能であることを示し、エクソソーム研究の幅広い側面を高時空間分解能で解析するための基盤を提供することを目的とする。

結果

CD63-pHluorin融合イベントのリアルタイム可視化と動態: 高速TIRF顕微鏡を用いたCD63-pHluorinイメージングにより、MVB-PM融合イベントがリアルタイムで明確に可視化された。融合時には、CD63-pHluorinシグナルが突発的に出現し(Δt<1秒)、その後約30秒以内に拡散消失するパターンが観察された (Fig 1)。これらの融合イベントは形質膜の底面で局在化して検出され、細胞あたりの融合頻度を定量することが可能であった。融合後のエクソソームの運命(表面滞留、拡散、再エンドサイトーシス)も追跡可能であり、CD63-pHluorinおよびCD81-pHluorinのシグナル持続時間は、VAMP2-pHluorinのPM沈着と比較して有意に長かった(2秒以上)。これは、エクソソームが細胞とカバースリップの間で捕捉されたり、PMに付着したり、細胞外マトリックスと相互作用したりすることに起因すると考えられる。HeLa細胞、HUVEC、HEK293T細胞における基礎的なMVB-PM融合活性は、細胞株間で異なり、HeLa細胞では平均1.5イベント/分(n=25細胞)、HUVECでは平均0.5イベント/分(n=12細胞)、HEK293T細胞では平均1.0イベント/分(n=12細胞)であった (Fig 5a)。HeLa細胞とHUVEC細胞間ではp<0.0001、HeLa細胞とHEK293T細胞間ではp=0.0177、HEK293T細胞とHUVEC細胞間ではp=0.0035と、統計的に有意な差が認められた。

デュアルカラーイメージングによる多重解析とテトラスパニンレポーターの比較: CD63-pHluorin(緑色)とCD81-pHuji(赤色)を同時発現させたデュアルカラーTIRF撮影により、同一MVBからのCD63とCD81の同時放出が確認された (Fig 2a,b)。CD63-pHluorinとCD63-mRFP(pH非感受性)の組み合わせでは、融合前のMVB追跡と融合時の蛍光バーストの同定を両立させることが可能であった。CD63-pHluorinとCD63-pHujiの融合イベント蛍光強度相関はPearson r=0.78(n=20細胞、63個の融合イベント)であり、両レポーターが同様のイベントを検出することを示した (Fig 2c)。ただし、融合イベント1件あたりの蛍光強度増幅率はpHluorin(pKa約7.0)がpHuji(pKa=7.7)よりも高く、単色撮影ではTSPAN-pHluorinレポーターの使用が推奨された。pHujiは赤色チャネルの補完的使用(二重色撮影)で活用可能である。CD81-pHluorinもCD63-pHluorinと同様に長いシグナル持続時間を示したが、CD9-pHluorinの融合後動態はVAMP2-pHluorinに類似しており、CD9-pHluorinの融合イベントの一部のみがMVBエキソサイトーシスを報告する可能性が示唆された。このため、MVB-PM融合率の定量にはCD63-pHluorinまたはCD81-pHluorinの使用が推奨される。

安定発現株の有効性とスクリーニングへの応用: CD63-pHluorin安定発現HeLa細胞株では、レンチウイルス形質導入後6週間経過しても融合イベントが検出可能であり、小規模スクリーニングにおける再現性の確保に有用であることが示された。ただし、CMVプロモーターによる高発現は長期培養において生育劣位を招く場合があり、テトラサイクリン誘導型発現系での補完が推奨される。本プロトコルは、小分子スクリーニングやsiRNAによるノックダウンと組み合わせることで、MVBエキソサイトーシスのモジュレーターを特定するための小規模な標的スクリーニングを可能にする。例えば、ヒスタミン(100 μM)刺激により、HeLa細胞におけるMVB-PM融合活性が有意に増加することが示された(対照群と比較してp=0.0386、n=25細胞) (Fig 5b)。これは、本プロトコルがエクソソーム放出の調節因子を特定する上で有効なツールであることを裏付けている。

既存EV定量法との比較と本プロトコルの優位性: ナノ粒子トラッキング解析(NTA)は下限検出限界が約70 nmであり、小型エクソソームの過小評価や検出不能が生じる。また、高解像度フローサイトメトリーも約100 nm以下のEVの解析は困難である。さらに、これらのバルク計測法は、エクソソーム放出の動態をリアルタイムで捉えることができず、長時間収集による二次的影響や負のフィードバックループの混入が問題となる。ウエスタンブロットによるテトラスパニンマーカー(CD63, CD81, ALIXなど)の検出も、EVサブタイプ間でタンパク質含有量が重複するため、MVB由来エクソソームの選択的定量には不適である Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016。本プロトコルは、単一細胞からのMVB-PM融合イベントを直接的かつリアルタイムで計測できる点で、既存手法を補完する唯一の手法であり、エクソソーム放出の微妙な一時的変化を検出可能である。

ImageJマクロAMvBEによる半自動解析: 開発されたImageJマクロAMvBEは、MVB-PM融合イベントの解析時間を短縮し、客観性を向上させる。AMvBEは、蛍光強度の急激な増加、その後の指数関数的減少、固定された位置での持続(最小2秒)、円形形状(直径最小400 nm)、および最小限の移動といった基準に基づいて、真の融合イベントを識別する (Box 1)。これにより、キッス・アンド・ラン様イベントや中性小胞の移動といった非生産的なイベントを除外することが可能である (Fig 3a,b)。AMvBEは、融合イベントの強度、持続時間、位置に関するデータを出力し、融合イベントの総投影図(Fig 5c)やヒートマップタイムラプスギャラリー(Fig 3b)として視覚化することも可能である。AMvBEは、ユーザーが指定したイベントのピーク強度を自動的に補正する機能も持ち、空間的・時間的なわずかな不正確さを修正する。ただし、この時間補正機能のため、取得の最初または最後の3秒間に発生した融合イベントは解析できないという制限がある。

考察/結論

本プロトコルは、pH感受性蛍光レポーター(CD63-pHluorinなど)と高速TIRF顕微鏡を組み合わせることで、単一細胞レベルでのMVB-PM融合、すなわちエクソソーム放出をリアルタイムで直接定量することを可能にした先駆的な手法である。このアプローチは、エクソソーム放出の制御メカニズムに関する研究に新たな窓を開き、外因性刺激、細胞内シグナリング経路、および融合複合体の同定に大きく貢献する。

先行研究との違い: 従来のエクソソーム定量法がバルクかつ長時間計測に依存していたのに対し、本プロトコルは単一細胞からのエクソソーム放出をリアルタイムで直接可視化・定量できる点で、これまでの手法とは対照的である。これにより、受容体のダウンレギュレーションや負のフィードバックループによって長期培養では見過ごされがちな、エクソソーム放出の微妙な一時的変化を検出することが可能となる。

新規性: 本研究で初めて、CD63-pHluorinレポーターと高速TIRF顕微鏡、および専用のImageJマクロAMvBEを組み合わせた詳細なプロトコルを確立した。これにより、エクソソーム放出の動態を高い時空間分解能で解析する新規なアプローチが提供された。また、デュアルカラーイメージングにより、異なるカーゴの同時放出を評価できる点も新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、エクソソーム放出の異常が関与する疾患(がん、神経変性疾患、心血管疾患など)の病態解明や、エクソソームを標的とした新規治療法の開発に直結する臨床的意義を持つ。例えば、がん細胞からのエクソソーム放出をリアルタイムでモニタリングすることで、Tumor immune microenvironment classificationにおけるエクソソームの役割を詳細に解析し、診断バイオマーカーや治療標的の同定に繋がる可能性がある。また、in vivoでのエクソソーム放出動態解析への応用(例:ゼブラフィッシュでのCD63-pHluorin発現によるMVB-PM融合のin vivo可視化 Verweij et al. Dev Cell 2019)は、生体内でのエクソソームの生理学的役割を理解するための重要なステップとなる。

残された課題: 本プロトコルにはいくつかの制限が残されている。第一に、TIRF顕微鏡はカバースリップに近接した比較的平坦な接着細胞の底面に限定されるため、三次元的な組織やin vivo環境での深部イメージングには適さない。第二に、CD63-pHluorinはCD63陽性エクソソームのみを検出するため、CD63陰性のエクソソームサブポピュレーションは不可視となる。この課題は、CD81やCD9など他のテトラスパニン、あるいは他のエクソソーム特異的カーゴにpHluorinを融合させることで部分的に克服できる可能性がある。第三に、MVB-PM融合率が必ずしもエクソソーム放出量と直接相関しない場合がある。例えば、CD63のILVへのソーティングが障害されるような細胞操作を行った場合、融合イベントは検出されても、エクソソームとしての放出が不完全である可能性がある。今後の検討課題として、TIRF以外のイメージング技術(例:スピニングディスク共焦点顕微鏡)との組み合わせによる三次元的な融合イベントの検出や、CD63以外の多様なエクソソームマーカーを用いた多角的な解析が挙げられる。また、細胞株間および同一細胞株内でのMVB-PM融合活性の変動が大きいことから、より堅牢な定量化手法や、個々の細胞の生理学的状態を考慮した解析法の開発も今後の研究方向性となる。

方法

本プロトコルは、細胞準備、ライブセルイメージング、および画像解析の3つの主要な段階で構成される。

細胞準備: HeLa細胞(Sigma-Aldrich, ECACC, cat. no. 93021013)は、ポリ-L-リジンコーティングされた#1.5ガラスカバースリップ(Nunc Lab-Tek chambered coverglass推奨)上に25-30%の密度で播種し、24時間培養した。その後、CD63-pHluorin(緑色蛍光)、またはCD81/CD9-pHluorin、pHuji(赤色蛍光、pKa=7.7)レポータープラスミドDNA(500 ng)をLipofectamine 2000(1.5 μl)を用いて一過性トランスフェクションした(2日間)。デュアルカラーイメージングの場合、TSPAN-pHluorinとTSPAN-pHujiをそれぞれ250 ngずつ使用した。代替として、レンチウイルスベクター(pLenti6.3/TO/V5-DEST)を用いた安定発現株の作製も可能であり、CMVプロモーター駆動の高発現が長期培養で生育劣位を招く場合は、テトラサイクリン誘導型発現系(pLenti3.3/TRリプレッサーとの共導入)が推奨される。トランスフェクション後、細胞は抗生物質を含まない培地で6時間培養し、その後フェノールレッドを含まない完全培地でさらに18時間培養した。

ライブセルイメージング: 高速TIRF顕微鏡システム(Nikon Eclipse TI-E、APO TIRF 60×/1.49油浸対物レンズ、sCMOSカメラZyla, Andor)を用いて、MVB-PM融合イベントをリアルタイムで可視化した。イメージングは37°C、5% CO2の加湿ステージインキュベーター下で行った。TIRF角度は、背景シグナルが急激に減少し、形質膜が二次元的に見えるまで、励起ビームの入射角を調整して設定した。レーザー出力と露光時間は、光退色と光毒性を避けるために可能な限り低く設定した。デュアルカラーイメージングでは、デュアルバンドフィルターキューブとダイクロイックビームスプリッター、デュアルカメラシステムを使用し、緑色(488 nm)と赤色(594 nm)のレーザーラインを同時に使用した。画像取得速度はMVB-PM融合イベントを捕捉するために2 Hz以上とし、各条件につき3分間、少なくとも5視野(各視野に2細胞以上)を撮影した。細胞あたりの融合イベントの変動が大きいため、各実験で非処理対照群を設けることが必須である。コンピュータ制御マルチバルブ潅流系を用いることで、ヒスタミンなどの小分子をイメージング中にオンラインで添加し、その影響を評価することも可能である。ピクセルサイズは160 nmまたは107 nmに設定し、融合イベントの信頼性の高いサイズ推定と融合後の小胞の動きの検出を可能にした。

画像解析: 取得した画像は、FIJI/ImageJマクロ「Analyzer of MVB Exocytosis(AMvBE)」(Supplementary Software 1)を用いて半自動的に解析した。AMvBEマクロは、ユーザーが融合イベントに類似する蛍光強度の急激な増加を特定した後、それらのイベントを追跡し、事前に設定された複数のパラメータ(イベント補正の時間窓6フレーム、蛍光減少の最小フレーム数3、蛍光増加の最大フレーム数3、最小イベントサイズ0.4 μm、小胞移動の閾値2倍の直径)に適合するかどうかを検証した。これにより、真のMVB-PM融合イベントを、キッス・アンド・ラン様融合イベントや中性小胞の移動と区別した。AMvBEは、イベントの強度、持続時間、位置に関するデータを含む「真の」MVB-PM融合イベントのリストを出力する。デュアルカラーTIRFデータの場合、NIS-Elementsの画像レジストレーション機能を用いて、チャネル間のわずかな歪みを補正した。手動での融合イベントカウントも可能であるが、AMvBEマクロを使用することで解析時間を短縮し、客観性を向上させた。統計解析には、Studentのt検定が用いられた。