- 著者: Catherine A. Sánchez, Eliana I. Andahur, Rodrigo Valenzuela, Enrique A. Castellón, Juan A. Fullá, Christian G. Ramos, Juan C. Triviño
- Corresponding author: Catherine A. Sánchez (csanchezn@clc.cl, Las Condes Clinic, Santiago, Chile)
- 雑誌: Oncotarget
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-12-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 26675257
背景
前立腺がん (PCa) は、男性におけるがん関連死亡の主要な原因であり、その早期診断と転移機序の解明は喫緊の課題である。腫瘍組織は不均一な細胞集団で構成され、特にがん幹細胞 (CSC) は、自己複製能、治療抵抗性、および再発の根源として注目されている。CSCは腫瘍全体の約1%を占め、ALDH (aldehyde dehydrogenase) +/CD44+/CD133+/ABCG2 (ATP-binding cassette sub-family G member 2)+/CD24-などの特定のマーカーの組み合わせで同定される。一方、バルク腫瘍細胞は腫瘍量の大部分を構成し、過渡増幅細胞として化学療法や放射線療法後の腫瘍再増殖を担うと考えられている。これらの細胞集団は、エクソソームを介して互いに、また腫瘍微小環境の非腫瘍性細胞と活発にコミュニケーションをとることが知られている。
エクソソームは、細胞から放出される脂質二重膜小胞であり、miRNA、mRNA、タンパク質などの生物活性分子を封入し、受容細胞に送達することで、その遺伝子発現や機能に影響を与える。これにより、エクソソームは腫瘍微小環境の形成、血管新生、免疫応答の調節、そして転移前ニッチの準備に重要な役割を果たすことが示されている。例えば、腎がんCSC由来のエクソソームが血管新生促進作用を持ち、肺の転移前ニッチ形成に寄与することが報告されている (Grange et al. Cancer Research 2011)。また、エクソソームを介したmRNAおよびmiRNAの細胞間輸送は、遺伝子交換の新規メカニズムとして確立されている (Valadi et al. NatCellBiol 2007)。しかし、PCaにおいて、CSCとバルク細胞それぞれから分泌されるエクソソームのmiRNAプロファイルがどのように異なるのか、また、それらの差異が腫瘍局所微小環境および遠隔臓器(特に骨やリンパ節)の転移前ニッチにどのような差異的影響を与えるのかは、これまで十分に未解明であった。特に、両細胞集団由来のエクソソームが協調的に機能し、PCaの進行と転移を促進する可能性については、詳細な解析が不足していた。
miRNAは、がんの診断や予後予測のバイオマーカーとして、また治療標的としても大きな可能性を秘めている。循環miRNAの多くはエクソソーム内に存在するため、エクソソームmiRNAの解析は、低侵襲な液体生検によるバイオマーカー探索において特に有望である。しかし、従来のmiRNA解析手法であるマイクロアレイやqPCRでは、既知のmiRNA種に限定されるという限界があった。次世代シーケンシング (NGS) は、網羅的なmiRNAプロファイリングを可能にし、新規miRNAの同定や低発現miRNAの検出を可能にする点で、これらの課題を克服する (Metzker et al. NatRevGenet 2010)。本研究は、PCaにおけるCSCとバルク細胞由来エクソソームのmiRNAプロファイルの包括的な比較を通じて、これらのギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究の目的は、前立腺がん (PCa) 患者の原発腫瘍組織から分離したバルク腫瘍細胞とがん幹細胞 (CSC) それぞれから分泌されるエクソソームのmiRNAプロファイルを、次世代シーケンシング (NGS) を用いて網羅的に比較することである。これにより、両細胞集団に特異的なmiRNAを同定し、その差異的発現がPCaの進行および転移前ニッチ形成に与える影響を明らかにすることを目的とした。さらに、同定された差異的発現miRNAが、正常前立腺線維芽細胞 (WPMY-1) におけるマトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) およびRANKLの発現、ならびに細胞遊走に与える機能的影響を評価し、局所微小環境および骨転移前ニッチへの協調的作用機序を解明することを目指した。最終的には、PCaの早期診断、転移リスク層別化、および新規治療標的開発のためのバイオマーカー候補を探索することを目的とする。
結果
NGSによるmiRNAプロファイリングと高発現miRNAの同定: 前立腺がん患者5名から得られたバルク細胞およびCSC由来エクソソームのNGS解析により、合計1,839種のmiRNAが同定された。これには990種の既知ヒトmiRNAと849種の新規miRNAが含まれる。Z-scoreで標準化した相対発現量では、hsa-miR-100-5pが他のmiRNAと比較して10倍以上高発現しており、両細胞種由来エクソソームで最も高発現するmiRNAであった。次いでhsa-miR-21-5pも全エクソソームで高発現していたが、バルク由来エクソソームで有意に過剰発現していた。TaqMan miRNAアッセイによる検証では、miR-100-5p、miR-21-5p、miR-139-5p、miR-30c-5pがバルク細胞、CSC、およびそれらのエクソソームの両方で検出され、NGSの結果と一致した (Figure 4)。
CSC特異的miRNAプロファイル: DESeq2解析により、CSC由来エクソソームにおいて有意に過剰発現する6種のmiRNAが同定された。これらは、hsa-miR-1307-5p (FoldChange=11.18, padj=0.092)、hsa-miR-139-5p (FoldChange=10.06, padj=0.025)、hsa-miR-148a-3p (FoldChange=5.28, padj=0.092)、hsa-miR-7641 (FoldChange=4.93, padj=0.097)、hsa-miR-1307-3p (FoldChange=4.23, padj=0.092)、およびhsa-miR-183-5p (FoldChange=3.96, padj=0.092) であった (Table 2)。バイオインフォマティクスによるターゲット予測解析では、これらのmiRNAがWnt/β-カテニン経路、Notch経路、グルコース代謝、タンパク質合成および分解に関与するシグナル経路の調節に関わる標的遺伝子群を制御することが示唆され、CSCの幹細胞性維持に関連する機能が推定された (Figure 6)。
バルク腫瘍細胞特異的miRNAプロファイル: バルク由来エクソソームにおいて有意に過剰発現する13種のmiRNAが同定された (Table 2)。最も変化倍率が大きかったのは、hsa-miR-7-5p (FoldChange=9.52, padj=0.025)、hsa-miR-20a-5p (FoldChange=8.70, padj=0.025)、hsa-miR-93-5p (FoldChange=8.22, padj=0.025) であった。その他、hsa-miR-503-5p (FoldChange=7.82, padj=0.097)、hsa-miR-218-5p (FoldChange=7.76, padj=0.092)、hsa-miR-1290 (FoldChange=6.35, padj=0.092)、hsa-miR-25-3p (FoldChange=6.28, padj=0.090)、hsa-miR-17-5p (FoldChange=6.14, padj=0.092)、hsa-miR-378d (FoldChange=5.63, padj=0.025)、hsa-miR-378c (FoldChange=5.01, padj=0.025)、hsa-miR-21-5p (FoldChange=4.33, padj=0.025)、hsa-miR-30c-5p (FoldChange=3.69, padj=0.092)、hsa-miR-125b-1-3p (FoldChange=3.05, padj=0.092) が含まれた。これらのmiRNAは、PCaの進展、骨転移、および生存に関連するmiRNAとして既報文献と一致するものが多く含まれていた。バイオインフォマティクス解析では、バルクエクソソームのmiRNAがFGFシグナリング、上皮細胞増殖、EMT、MMP活性化を主要な制御対象とすることが示された (Figure 5)。
MMPおよびRANKL発現誘導と線維芽細胞遊走促進: WPMY-1細胞 (n=3 replicates) へのmiR-21-5p、miR-100-5p、miR-139-5pのトランスフェクション(25 μM)は、いずれもMMP-2、MMP-9、MMP-13のmRNAおよびタンパク質発現を有意に増加させた (p<0.05)。特にmiR-21-5pは、MMP-9の発現を強力に上昇させるなど、最も顕著な効果を示した。miR-100-5pはMMP-2およびMMP-13を増加させたが、MMP-9への効果は限定的であった。miR-139-5pもMMP-2、MMP-9、MMP-13の発現を調節した。RANKL(破骨細胞分化誘導因子)のmRNAおよびタンパク質発現も、miR-21、miR-100、miR-139のトランスフェクションにより有意に増加した (p<0.05) (Figure 7)。これらのmiRNAは、線維芽細胞の形態変化(突起増加)を引き起こし、トランスウェル遊走アッセイにおいて遊走細胞数 (n=3 replicates) を有意に増加させた。特にmiR-21-5p処置群では、遊走細胞数が対照群と比較して有意に増加し (p<0.05)、最も顕著な統計的有意差が認められた (Figure 8)。
考察/結論
本研究は、前立腺がん (PCa) のがん幹細胞 (CSC) とバルク腫瘍細胞が、明確に異なるmiRNAプロファイルを持つエクソソームを分泌し、これら両細胞集団由来のエクソソームが協調的かつ相補的にPCaの進展を促進することを初めて包括的に示した。
先行研究との違い: 腎がんCSCのエクソソームが前転移ニッチ形成に特異的に寄与することは、Grange et al. Cancer Research 2011によって既に報告されていた。しかし、PCaにおいて、同一患者由来のCSCとバルク細胞のエクソソームmiRNAプロファイルを次世代シーケンシング (NGS) により網羅的に比較し、両者の協調的機能を実証した研究は、本論文が初めてである。これまでの研究では、特定のmiRNAに焦点を当てたものが多かったが、本研究は網羅的なアプローチにより、より広範なmiRNAの差異を明らかにした点で対照的である。
新規性: NGSによる解析で、990種の既知miRNAに加えて849種の新規miRNAを同定したことは、先行研究を凌駕する新規性である。特に、miR-21-5pがMMP-2/9/13およびRANKLの発現誘導を介して、局所微小環境の再構築と骨転移前ニッチの形成を同時に制御するという概念は、単一のmiRNAが複数の転移機序に並列的に作用することを示す点で、これまで報告されていない重要な新知見である。循環miR-21が予後不良と関連することは既報であったが、そのエクソソーム積荷とバルク腫瘍細胞特異性が明らかにされた点も新規性である。
臨床応用: 本研究で同定されたバルク由来エクソソームのmiR-21-5p、miR-20a、miR-1290、miR-93-5pなどは、既報のPCa患者血液中で高発現する循環バイオマーカーと一致しており、これらが主にバルク細胞由来エクソソームに由来することを示唆する。これは、これらのmiRNAがPCaの液体生検における診断および予後予測バイオマーカーとして臨床応用される可能性を強く示唆する。一方、CSC特異的に高発現するmiR-1307-5p (FoldChange 11.18) は、バルク由来エクソソームでは低発現であるため、CSCの存在を特異的に反映する血漿バイオマーカー候補として期待できる。また、エクソソームmiRNAによるRANKL誘導機序は、PCa骨転移におけるRANKL/OPG軸の不均衡が「骨の悪循環」の中心的機序であることを踏まえると、デノスマブ(抗RANKL抗体)などの既存治療との組み合わせ戦略において臨床的意義を持つ可能性がある。
残された課題: 本研究の最大のlimitationは、患者数 (n=5) の少なさであり、統計的検出力の観点から結果の一般化には、多施設・大規模コホートでの検証が今後の検討課題である。また、(1) miRNAのin vivo前転移ニッチ形成への直接的影響を示すin vivoモデルの欠如、(2) CSCエクソソームの具体的な機能的ターゲット(例:Wnt・Notch経路のin vitro検証)、(3) 循環エクソソームmiRNAとPCa臨床病期・骨転移リスクとの前向き相関、(4) 同定された849種の新規miRNAの機能的意義、(5) エクソソームのorganotropism(特定臓器への指向性)を決定する積荷選択機構の解明が残された課題である。本研究が示したCSC/バルク二細胞集団のエクソソームmiRNA協調モデルは、PCaの液体生検開発と転移予防戦略の分子基盤として重要な貢献をなすものである。
方法
本研究では、前立腺がん患者5名(グリーソンスコア5〜6、T3A-T3B-NxMx)の手術検体から初代培養細胞を樹立した。バルク細胞は接着培養により、CSCは浮遊培養で21日間培養し、プロスタトスフェアを形成させることで作製した。CSCは、CD44+/CD133+/ALDH+/ABCG2+/CD24-のマーカー発現により確認された。エクソソームは、各細胞培養上清からExoQuick-TC試薬を用いた沈殿法により精製した。エクソソームからのRNA抽出はmirVana miRNA isolation kitを用いて行い、RNAの品質はAgilent 2100 Bioanalyzer(RNA 6000 Pico KitおよびSmall RNA Kit)で評価した。
miRNAプロファイリングには、Illumina HiSeq2000プラットフォームを用いたペアエンドシーケンシング(100×2)によるmiRNA-Seqを実施した。シーケンスデータは、FastQCプログラムで品質管理を行い、Trim Galoreで低品質リードとアダプター配列を除去した。高品質リードは、Langmead et al. GenomeBiol 2009を用いて、GRch37/hg19ヒトゲノムおよびmirBase v20データベースのヒト成熟miRNAおよびヘアピン配列にアラインメントした。既知および新規miRNAの同定と定量には、miRDeep2アルゴリズムとQuinlan et al. Bioinformatics 2010を適用した。差異発現解析はLove et al. GenomeBiol 2014を用いて行い、FoldChange ≥2かつFDR調整p値<0.1を統計的有意差の閾値とした。バイオインフォマティクスによるmiRNAターゲット解析はmiRTarBaseおよびTargetScanデータベースを用いて実施した。
機能実験として、正常前立腺線維芽細胞株WPMY-1 (CRL-2854) に、高発現miRNAであるmiR-100-5p、バルク細胞特異的に高発現するmiR-21-5p、およびCSC特異的に高発現するmiR-139-5pを25 μMの最終濃度でそれぞれトランスフェクションした。48時間後、MMP-2、MMP-9、MMP-13、およびRANKLのmRNA発現をqPCR(ΔΔCt法、GAPDHで正規化)で測定し、タンパク質発現をウエスタンブロット(アクチンで正規化、n=3 replicates)で評価した。細胞遊走能は、トランスウェル遊走アッセイ(5,000 cells/ウェル、24時間)を用いて評価し、遊走細胞数を計測した(n=3 replicates)。統計解析にはU Mann Whitney検定を用い、p<0.05を有意差ありとした。