• 著者: Rossana Domenis, Marco Marino, Adriana Cifù, Giulia Scardino, Francesco Curcio, Martina Fabris
  • Corresponding author: Martina Fabris (Clinical Pathology, Azienda Sanitaria Universitaria Integrata Friuli Centrale, Udine, Italy)
  • 雑誌: PLoS ONE
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-11-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33180848

背景

炎症性腸疾患 (IBD) は、潰瘍性大腸炎 (UC) およびクローン病を含む慢性かつ難治性の腸管炎症性疾患であり、その病態生理には免疫系の異常が深く関与している。近年、生物学的製剤がIBD治療の主要な選択肢となっており、特にvedolizumab (VDZ) はα4β7インテグリンを標的とするヒト化IgG1モノクローナル抗体として注目されている。VDZは、腸管特異的なリンパ球ホーミングを遮断することで、腸管炎症を選択的に抑制する作用機序を持つ。α4β7インテグリンは、腸管粘膜への移行を担う特定のサブセットのT細胞に高発現しており、VDZはこれらのCD4+ T細胞上のα4β7に結合し、リガンドであるMAdCAM-1 (mucosal addressin cell adhesion molecule-1) との相互作用を阻害することで腸管炎症を沈静化させる (Wyant et al. 2016)。

VDZは臨床的に良好な成績を示しているものの、一部の患者では一次無効(導入療法に反応しない)や二次無効(一度奏効した後に効果を失う)が問題となっている (Peyrin-Biroulet et al. 2018)。VDZの免疫原性は抗TNF製剤と比較して極めて低く、抗VDZ抗体 (ADA) の発現率はわずか2〜4%であり、ADAがVDZの効果に影響することはほとんどないとされている (Bian et al. 2017)。このため、VDZ無効の機序として、薬物動態(トラフ濃度低下)以外の因子が注目されてきたが、循環エクソソームによる薬剤隔離というメカニズムは、本研究以前にはIBD領域で十分に検討されていなかった。

エクソソームは、細胞から分泌される直径40〜200 nmの膜小胞であり、細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たすことが知られている (Zhang et al. 2019)。エクソソームは分泌細胞の表面抗原、脂質、核酸を内包しており、UC患者では循環エクソソームの数や組成が変化するという報告がある (Mitsuhashi et al. 2016)。先行研究では、HER2を発現する乳がん細胞由来エクソソームがトラスツズマブを隔離して薬効を低下させること (Ciravolo et al. 2012)、また抗CD20抗体リツキシマブに対してB細胞リンパ腫エクソソームが「おとり標的」として機能し、リンパ腫細胞が液性免疫療法から逃避するメカニズムが報告されている (Aung et al. 2011)。これらの知見は、エクソソームによる抗体製剤の薬物隔離が腫瘍学領域では既知の現象であることを示している。しかし、UC患者の循環エクソソームがα4β7インテグリンを発現し、VDZを隔離する可能性についてはこれまで報告がなく、この概念をIBD領域に拡張する研究が不足していた。VDZの治療効果が不十分な患者群において、その原因が未解明な部分が多く、特にエクソソームを介した薬物動態の変化については知識ギャップが残されている。

目的

本研究の目的は、潰瘍性大腸炎 (UC) 患者におけるvedolizumab (VDZ) の治療効果低下に寄与する可能性のある新たなメカニズムを解明することである。具体的には、以下の3点を検証することを目的とした。

  1. UC患者(抗TNF既治療群および抗TNF未治療群)ならびに健常対照者から単離された循環エクソソームが、VDZの主要な標的であるα4β7インテグリンを表面に発現するかどうかを実験的に確認すること。
  2. 循環エクソソームがVDZと直接結合し、その結果としてCD4+ T細胞へのVDZの利用可能量を減少させる「薬剤隔離」現象をin vitroおよびex vivoで実証すること。
  3. 先行する生物学的製剤療法(特に抗TNF治療歴)が、循環エクソソームの数、α4β7インテグリン発現、およびVDZ隔離能に与える影響を定量的に評価し、VDZ治療効果の予測因子としてのエクソソームの可能性を探ること。

これらの目的を達成することで、VDZの治療効果が不十分な患者群における薬剤無効化のメカニズムを明らかにし、将来的な個別化医療や治療戦略の改善に貢献することを目指した。

結果

エクソソーム濃度:抗TNF歴による有意な増加: 潰瘍性大腸炎 (UC) 患者全体の循環エクソソーム濃度は1.3×10¹¹ ± 8.5×10¹⁰ 粒子/mLであり、健常対照群 (7.1×10¹⁰ ± 3.8×10¹⁰/mL) と比較して高い傾向を示したが、統計的有意差には達しなかった (p=0.058)。しかし、抗TNF既治療患者のエクソソーム濃度は4.9×10¹¹ ± 2.3×10¹⁰/mLであり、抗TNF未治療患者の8.3×10¹⁰ ± 4.0×10¹⁰/mLと比較して有意に高値であった (p=0.047)。この結果は、先行する抗TNF治療を受けた患者では循環エクソソームが約6倍に増加している可能性を示唆している (Figure 1A, B)。フローサイトメトリー解析では、UC患者および健常対照から単離されたエクソソームが、予想される表面テトラスパニンであるCD9、CD63、CD81を発現していることが確認された (Figure 1C)。

エクソソームのα4β7インテグリン発現:抗TNF歴依存的増加: エクソソーム表面のα4β7インテグリン発現(ビーズ結合率として定量)は、抗TNF既治療患者で27.6±20.8%であり、抗TNF未治療患者の14.1±4.1%と比較して有意に高値であった (p=0.047)。UC患者全体 (22.8±17.9%) と健常対照群 (16±12.4%) の比較では有意差は認められなかった (p=0.097)。重要な点として、エクソソームはvedolizumab (VDZ) のリガンドであるMAdCAM-1を発現しておらず、エクソソームへのVDZ結合はα4β7インテグリン介在性であることが確認された (Figure 2E, F)。エクソソーム上のCD9、CD3、CD14発現は、患者群と健常群の間で差異は認められなかった (Figure 2B, C, D)。

エクソソームへのVDZ直接結合の確認と単離法間の比較: 健常対照のプール血清から単離したエクソソームを、6.3〜100 μgのVDZと2時間インキュベートすると、VDZはエクソソームに用量依存的に結合し、飽和曲線を描いた。この結合特性は、真の受容体介在性結合の特徴を示していた (Figure 5A)。ELISAによる測定でもVDZのエクソソームへの結合が確認された。ExoQuick、exoEasy、qEV2の3種の単離法で得られた10¹⁰個あたりのVDZ結合量に有意差はなく、結果が単離法に依存しないことが示された (Figure 4D)。NTAによるサイズ測定では、ExoQuick (平均径120±11.4 nm、モード88.9±7.8 nm) とqEV2 (平均128.9±6.9 nm、モード96.5±6.7 nm) は類似したサイズ分布を示し、exoEasy (平均174±8.5 nm、モード168.8±9.6 nm) のみ有意に大型粒子が多かった (p<0.05) (Figure 4C)。

VDZ隔離率の定量:抗TNF既治療患者で61.5%: 血清中の総VDZ量とエクソソーム結合VDZ量をELISAで定量し、エクソソームに隔離されるVDZの割合を算出した。抗TNF既治療患者では総VDZの61.5±26%がエクソソームに隔離されており、抗TNF未治療患者の36.7±16.8%と比較して有意に高値であった (p=0.037)。これは、先行抗TNF治療を受けた患者に投与されたVDZの約60%がエクソソームに吸収され、CD4+ T細胞に利用可能な薬剤量が大幅に減少する可能性を示唆している (Figure 3C)。エクソソームのα4β7インテグリン発現量とVDZ結合量 (10¹⁰個あたり) の間には有意な相関が認められた (Spearman r=0.72、p=0.0054) (Figure 3D)。

エクソソームによるCD4+ T細胞へのVDZ競合結合と機能的影響: 精製CD4+ T細胞 (n=3 independent experiments) とエクソソーム (n=3 independent experiments) を60 μgのVDZとともにインキュベートすると、エクソソーム非存在下と比較してCD4+ T細胞に結合するVDZ量がネイティブ電気泳動/ウェスタンブロットで明確に低下した。エクソソームをVDZとあらかじめインキュベートした場合も、VDZと同時添加した場合も、いずれもCD4+ T細胞へのVDZ結合が阻害された (Figure 5B)。MAdCAM-1接着アッセイでは、VDZ (5 ng/mL) はCD4+ T細胞のMAdCAM-1コーティングプレートへの接着を有意に抑制したが、エクソソームとの共存下ではこの接着抑制効果が消失し、接着細胞数が有意に増加した (p<0.05 vs VDZ単独群) (Figure 5C)。これにより、エクソソームがVDZを隔離することでVDZのリンパ球移行阻害機能が実質的に無効化されることが機能的に実証された。

考察/結論

本研究は、潰瘍性大腸炎 (UC) 患者の循環エクソソームがα4β7インテグリンを表面発現し、vedolizumab (VDZ) と競合的に結合することで、CD4+ T細胞への薬剤利用可能量を低下させることを初めて実証した。特に抗TNF治療失敗歴を有する患者において、(1) 循環エクソソーム数が約6倍増加 (4.9×10¹¹ vs 8.3×10¹⁰/mL, p=0.047)、(2) エクソソーム上のα4β7インテグリン発現が約2倍増加 (27.6% vs 14.1%, p=0.047)、(3) VDZ隔離率が約25ポイント高値 (61.5% vs 36.7%, p=0.037) という3重の変化が確認されたことは、先行生物製剤療法がエクソソームの特性を変化させ、後続治療薬の薬物動態に影響するという「エクソソームシンク」仮説を支持する重要な知見である。

先行研究との違い: エクソソームによる抗体製剤の薬剤隔離は、HER2/トラスツズマブ系 (Ciravolo et al. 2012) やCD20/リツキシマブ系 (Aung et al. 2011) で先行報告があったが、これらはいずれも腫瘍学の文脈であった。本研究は、このコンセプトを慢性炎症疾患であるIBD、特にVDZ治療における薬剤隔離メカニズムに初めて適用した点で、これまでの研究と異なる。VDZの免疫原性(ADA発現率2〜4%)が極めて低いことから、VDZ無効の機序として薬物動態的要因(エクソソーム隔離)が相対的に重要となる可能性を示唆する。

新規性: 本研究で初めて、UC患者の循環エクソソームがVDZの標的であるα4β7インテグリンを発現し、VDZと直接結合して薬剤を隔離するという新規メカニズムを同定した。さらに、先行する抗TNF治療歴がエクソソームの数、α4β7インテグリン発現、およびVDZ隔離能に影響を与えることを定量的に示した点は、これまで報告されていない重要な知見である。

臨床応用: 本知見は、VDZ治療効果の予測バイオマーカーとしてのエクソソームα4β7インテグリン発現量およびVDZ隔離率の臨床応用を示唆する。VDZトラフ濃度が「治療域」に達しているにもかかわらず臨床的無効が生じる一部の症例は、エクソソームによる活性VDZの消費が一因である可能性がある。また、VDZと同時にコルチコステロイドやカルシニューリン阻害剤を使用することでエクソソーム産生が抑制され、VDZ隔離量が減少して治療効果が改善する可能性が示唆されており (Pellet et al. 2019; Tarabar et al. 2018)、これは実臨床でのコンビネーション療法の根拠となりうる。

残された課題: 本研究の主要な限界は、(1) 単施設後方視的デザイン、(2) 小規模サンプル (n=17 UC patients、n=12 healthy donors)、(3) 異なる時点で採取した単一血液サンプルが疾患経過を完全に反映できない点にある。VDZ隔離率と内視鏡的・臨床的治療反応との関係を評価するには、大規模前向き試験が必要である。また、in vitro競合実験はエクソソームとCD4+ T細胞が等量の場合での競合を見ており、実際の体内動態(VDZの分布容積やエクソソームのターンオーバー速度など)との関係は未検証である。今後の検討課題として、エクソソームα4β7発現量のVDZ投与前測定が個別化医療(VDZ投与量調整や生物製剤の選択)に活用できる可能性を探ることが挙げられる。

方法

研究デザインと対象患者: 本研究は、イタリア・ウーディネ大学附属病院で実施された単施設後方視的研究である。倫理委員会承認 (10/IRB_CURCIO_2019) を得て実施された。対象は、vedolizumab (VDZ) 治療を開始した潰瘍性大腸炎 (UC) 患者17名(平均年齢40.7±17.5歳、女性50%)であった。患者の内訳は、抗TNF既治療群11名(インフリキシマブ n=2、アダリムマブ n=3、両者 n=6)と抗TNF未治療群6名であった。全例でVDZ開始前にMayoスコア6〜12の中等度〜重度活動期UC(内視鏡サブスコア2〜3)が確認された。比較対照として、年齢・性別マッチした健常血液ドナー12名(平均年齢41±16.5歳、女性50%)の血清を使用した。

血液採取と血清分離: VDZ点滴静注直前に採血を行い、2500gで10分間遠心分離して血清を分離した。得られた血清はアリコートに分注し、-80℃で分析まで保存した。

エクソソーム単離: エクソソームは、血清250 μLから以下の3つの異なる技術を用いて単離された。

  1. ポリマー沈殿法 (ExoQuick): 血清を3000gで15分間遠心後、0.22 μmフィルターでろ過し、Amicon Ultra-4 (100 kDa) で濃縮した。その後、ExoQuick (System Biosciences) とともに4℃で30分間インキュベートし、1500gで30分間、さらに5分間遠心分離した。エクソソームを含むペレットは250 μLのPBSバッファーに再懸濁し、-20℃で保存した。
  2. サイズ排除クロマトグラフィー (qEV2): 血清2 mLをqEV2サイズ排除カラム (Izon) にアプライし、メーカーのプロトコルに従ってPBSで溶出した。エクソソームを含む画分をプールし、0.22 μmフィルターでろ過後、Amicon Ultra-4 (100 kDa) で最終容量150 μLに濃縮した。
  3. 膜親和性法 (exoEasy Maxi Kit): exoEasy Maxi Kit (Qiagen) を用いて、メーカーのプロトコルに従ってエクソソームを抽出した。4 mLのろ過済み血清を同量のバッファーXBPと混合し、exoEasyスピンカラムに移して500gで1分間遠心した。フロースルーを廃棄し、スピンカラムを10 mLのバッファーXWPで洗浄した。最後に、400 μLのバッファーXEを膜に添加し、5000gで5分間遠心してエクソソームを溶出した。

エクソソーム特性評価:

  • エクソソーム数定量: Exocetキット (System Biosciences) を用いて、メーカーのプロトコルに従って単離されたエクソソームの数を定量した。
  • 表面抗原発現解析: Exo-Flow免疫親和性ビーズ (System Biosciences) でエクソソーム (3x10⁹個) を捕捉した後、フローサイトメトリーにより、CD81 FITC、CD63 FITC、CD9 PE、CD3 APC、CD14 PE、MAdCAM-1 FITC、α4β7インテグリン FITC (Biorbyt) の表面発現を評価した。エクソソーム結合ビーズの割合をビーズ単独と比較して算出した。
  • ウェスタンブロット: 単離されたエクソソーム(ExoQuickおよびexoEasyで単離されたものは50 μg、qEV2で単離されたものは25 μg)をLaemmliサンプルバッファーで煮沸し、Mini-PROTEAN TGXプレキャスト10%ゲル (BioRad) で電気泳動した。flotillin-2 (1:1000, Cell Signaling)、CD9-HRP結合 (1:500, Novus biologicals)、TSG101-HRP結合 (1:1000, Santa Cruz) の一次抗体を用いて免疫ブロット解析を行った。
  • ナノ粒子トラッキング解析 (NTA): NanoSight LM10システム (Malvern) を用いてエクソソームのサイズ分布を解析した。各サンプルはPBSで1000〜10000倍に希釈し、検出閾値16で60秒間ビデオを撮影した。
  • VDZ結合量定量: Promonitor-VDZ ELISAキット (Progenika Biopharma-Grifols) を用いて、患者血清およびエクソソームサンプル中のVDZレベルを定量した。抗TNFαおよびVDZに対するADAのモニタリングも、Progenika Biopharma-Grifolsの非交差反応性ADA検出ELISAキットを用いて実施されたが、いずれの血清にも検出可能なADAレベルは認められなかった。

VDZ結合解析: 健常対照者のプール血清から単離したエクソソームを、6.3〜100 μgのVDZと4℃で2時間インキュベートし、その後ExoQuickで再精製した。エクソソーム結合VDZレベルは、ネイティブポリアクリルアミドゲル電気泳動とウェスタンブロットにより解析された。VDZ-HRP結合抗体 (1:1000, Progenika Biopharma-Grifols) を用いて検出した。

VDZ競合結合実験: 健常血液ドナーの血清1 mLから精製したCD4+ T細胞とエクソソームを、60 μgのVDZとともに単独または同時に4℃で1時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、RIPAバッファーで溶解した。抽出されたタンパク質はネイティブ電気泳動で分離し、VDZ-HRP結合抗体でプローブした。

MAdCAM-1接着アッセイ: 96ウェルプレートに組換えヒトMAdCAM-1 Fc Chimera (2.5 μg/mL, R&D system) をコーティングし、1% BSAで非特異的結合をブロックした。CD4+ T細胞 (4x10⁵ cells) を、VDZ (50 μg/mL, 5 μg/mL, または5 ng/mL) とエクソソーム (5x10⁹ exosomes) の有無にかかわらず、結合バッファー中で15分間前培養した。その後、細胞をMAdCAM-1コーティングプレートに添加し、37℃で90分間インキュベートした。接着細胞はHoechst色素で染色し、蛍光顕微鏡 (Leica DMI 6000B) で観察した。

統計解析: データは平均±標準偏差で表示された。対照群とUC患者群、および抗TNF未治療患者群と抗TNF既治療患者群の比較には、unpaired t testまたはMann-Whitney検定が使用された。p値が0.05未満を有意差ありと判定した。