• 著者: Guo R, Yang S, Gao Y, Wen L, Wang H, Feng Y, Cheng S, Hu W, Li W, Rong J, Im HJ, Liu J, Lan X, An R, Jiang D
  • Corresponding author: Jianfeng Liu (Institute of Radiation Medicine, Chinese Academy of Medical Sciences); Xiaoli Lan, Rui An, Dawei Jiang (Union Hospital, Tongji Medical College, Huazhong University of Science and Technology)
  • 雑誌: Science Advances
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42139331

背景

細胞外小胞 (extracellular vesicles; EV) は、すべての細胞から自然に分泌される30〜2000 nmの膜小胞であり、タンパク質、脂質、核酸などの生体分子を内包して生体障壁を越え、遠隔臓器に積荷を届ける能力を持つ。EV は合成脂質ナノ粒子 (lipid nanoparticles; LNP) と比較して、siRNA (small interfering RNA) デリバリーにおいて1/10の用量で同等の遺伝子ノックダウン効率を達成し、さらに補体活性化関連偽アレルギー (complement activation-related pseudoallergy; CARPA) を引き起こさないなど、優れた生体適合性と安全性が報告されている。腫瘍由来EVは親細胞と組織親和性を共有する「オルガノトロピズム」を示すことが知られており、この性質は EV を臓器選択的なデリバリープラットフォームとして利用する根拠となる。

しかしながら、静脈内投与されたEVやLNPの大部分は肝臓に蓄積する「肝臓トロピズム」を有しており、これが肺疾患治療における大きな障壁となっていた (L1 et al)。肺がんの肺転移や慢性気道疾患の治療において、EVを肺に選択的に送達する手法は未確立であり、治療に必要な十分な量を肺に集積させる技術が不足していた。LNPの分野では、カチオン性脂質である DOTAP (1,2-dioleoyl-3-trimethylammonium-propane) を添加する SORT (selective organ targeting) 戦略により肺への選択的集積が得られることが知られていたが、この原理を複雑な生体由来膜構造を持つEVに適用して肺選択性を付与する実験的検証は行われておらず、その詳細な分子機序も未解明のままであった。さらに、EVの生体内分布をリアルタイムかつ定量的に追跡する高感度なイメージングツールも不足しており、PET (positron emission tomography) イメージングによる追跡と肺標的治療を統合したシステムの開発が強く望まれていた。

目的

本研究の目的は、カチオン性脂質である DOTAP (1,2-dioleoyl-3-trimethylammonium-propane) を用いて修飾した腫瘍細胞由来中型小胞である TMV (tumor cell-derived medium vesicle) を用いた肺選択的EV送達プラットフォームである TMVs-DOTAP (DOTAP-modified tumor cell-derived medium vesicles) を開発することである。さらに、高感度な68Ga-PET/CTイメージングを用いて生体内分布をリアルタイムかつ定量的に追跡・評価し、siPD-L1 (siRNA targeting programmed death-ligand 1) を搭載した治療用ナノ粒子 (TMVs-DOTAP/siPD-L1) がB16F10メラノーマ肺転移モデルにおいて優れた肺標的能と治療効果を発揮することを実証する。また、プロテオミクス解析を通じて、DOTAP修飾が肺臓器選択性を規定するプロテインコロナ形成に与える影響とその詳細な分子機序を解明することを目的とする。

結果

TMVs-DOTAPの物理化学的特性と安定性: DLS測定の結果、未修飾のTMVsは流体力学的直径が 211.03 ± 17.94 nm、表面のゼータ電位が -9.34 ± 3.03 mV であったのに対し、DOTAP修飾を施したTMVs-DOTAPでは直径が 241.81 ± 39.36 nm に増大し、ゼータ電位は -0.46 ± 1.14 mV とほぼ中性に変化した (Fig. 1B-C)。PDIはTMVsが 0.25 ± 0.07、TMVs-DOTAPが 0.19 ± 0.03 であり、優れた単分散性が維持されていることが確認された (Fig. 1D)。TSG101およびCD81の典型的なEVマーカーは修飾後も保持されていた。siNCの封入効率は 79.45 ± 2.79% と極めて高値を示した。また、68Ga標識後の放射化学的純度は68Ga-TMVsで 78.19 ± 7.78%、68Ga-TMVs-DOTAPで 76.56 ± 7.08% であり、25% FBS血清中において37°Cで2時間インキュベートした後も 74.76 ± 7.9% の放射化学的安定性が維持され、in vivo追跡に十分な性能を有していることが示された。

PET/CTイメージングによる肺選択的集積の定量的実証: 健常マウスに静脈内投与した結果、68Ga-TMVs-DOTAPは投与30分後において肺に極めて高い選択的集積を示し、その集積量は 10.45 ± 0.32 %ID/g に達した (Fig. 2E)。これに対し、未修飾の68Ga-TMVsは主に肝臓に集積し (16.74 ± 0.14 %ID/g)、肺への集積は極めて低値であった (Fig. 2F)。68Ga-TMVs-DOTAPの肺集積量は、未修飾68Ga-TMVsと比較して 8.65-fold increase に向上し、一方で肝臓への集積は 84.25% 減少 (2.15 ± 1.58 %ID/g) させることができた (Fig. 2D-E)。ex vivo蛍光イメージングにおいても、DiR-TMVs-DOTAPは投与後48時間時点で肺に (3.21 ± 0.6) × 10^9 の最高蛍光強度を示し、72時間以上にわたって肺に保持されたのに対し、DiR-TMVsは主に肝臓に集積した。

in vitroにおける細胞取り込みと遺伝子サイレンシング効率: B16F10細胞 (n=3 cells) を用いた共焦点顕微鏡観察において、TMVs-DOTAP/Cy5.5-siNCは細胞質内に効率的に取り込まれたが、遊離のCy5.5-siNCは細胞内にほとんど取り込まれなかった。また、正常肺上皮細胞MLE-12由来のEMVs-DOTAPと比較して、腫瘍由来のTMVs-DOTAPはB16F10細胞に対して有意に高い取り込み活性を示し (p<0.05)、同種細胞に対する親和性 (homotypic targeting) が確認された。さらに、TMVs-DOTAP/siPD-L1をB16F10細胞に添加して48時間インキュベートした結果、フローサイトメトリーおよびウェスタンブロット解析において、PD-L1タンパク質の発現量が対照群と比較して有意にノックダウンされることが実証された。

肺転移モデルにおける抗腫瘍効果と免疫微小環境の活性化: B16F10肺転移モデルマウス (n=6 mice) に対し、TMVs-DOTAP/siPD-L1を計4回静脈内投与した結果、投与20日目における肺の転移結節数は、PBS群、TMVs群、TMVs-DOTAP群、およびTMVs-DOTAP/siNC群と比較して著明に減少した (Fig. 5C-D)。免疫蛍光染色では、転移巣におけるPD-L1発現の顕著な低下とともに、CD4+、CD8+ T細胞の浸潤、およびIFN-γ、GZMBの発現上昇が確認された (Fig. 5E-I)。フローサイトメトリー解析により、腫瘍組織内の IFN-γ+ CD4+ T細胞および GZMB+ CD8+ T細胞の割合が対照群と比較して有意に増加していることが示された (p<0.0001、Fig. 6A-E)。さらに、ELISA解析により、腫瘍局所におけるTNF-α、IL-12、IFN-γ、GZMBの有意な上昇が確認された (p<0.05、Fig. 6F-I)。なお、主要臓器のH&E染色および血液生化学検査において、毒性を示す異常所見は認められなかった。

プロテインコロナ形成を介した肺標的化メカニズムの解明: C57BL/6Jマウス血漿を用いたプロテオミクス解析 (n=5 replicates) の結果、TMVs-DOTAP/siNCに吸着したプロテインコロナは、未修飾のTMVsと比較して617個のタンパク質が有意に増加し、1165個のタンパク質が減少していた (Fig. 7B)。特に、肺標的化に深く関与することが知られている ビトロネクチン (vitronectin)、フィブリノゲン (fibrinogen)、Apo A-I (apolipoprotein A-I)、およびプロトロンビン (prothrombin) が、TMVs-DOTAP/siNCのコロナ中に極めて豊富に富化していることが同定された (Fig. 7E)。これらの負に帯電した血漿タンパク質が、DOTAP修飾によって正電荷を帯びた小胞表面に選択的に吸着し、肺血管内皮細胞上に発現するαvβ3インテグリンやSR-B1などの受容体を介して、エンドジェナスな肺指向性を誘導している機序が強く示唆された。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のEV臓器標的化研究では、抗体、ペプチド、アプタマーなどの外因性リガンドをEV表面に化学的または遺伝子工学的に修飾する手法が主流であったが、これらの手法は製造工程が複雑であり、生体内での安定性低下や免疫原性の誘発といった課題が存在した。本研究は、合成LNPのSORTコンセプトを初めて生体由来EVシステムに移植し、カチオン性脂質DOTAPを単純にインキュベート・押出し法で添加するだけで、外因性リガンドを一切用いることなく、血漿中の特定のタンパク質を吸着させて肺へ送達する「エンドジェナスターゲティング」を達成した点で、これまでのアクティブターゲティング手法と大きく異なる。

新規性: 本研究は、DOTAP修飾を施した腫瘍由来中型小胞 (TMVs-DOTAP) が、血漿中のビトロネクチンやApo A-Iなどの特定のプロテインコロナを特異的に形成し、これが肺血管内皮細胞の受容体と相互作用することで、静脈内投与後に極めて高い肺選択的集積を示すことを本研究で初めて明らかにした。さらに、高感度な68Ga-PET/CTイメージングと治療用siRNAデリバリーを一体化した、新規の「theranostic EV プラットフォーム」を構築することに成功した。

臨床応用: 本プラットフォームは、既存の抗PD-L1抗体 (アテゾリズマブ) と比較して優れた肺転移抑制効果を示した。肺転移を有する進行がん患者に対する高効率な局所免疫療法としての臨床応用が期待される。また、PETイメージングによる生体内分布のリアルタイムモニタリングは、個別化医療における最適な投与量やタイミングの決定に有用である。さらに、搭載する核酸を他のsiRNAやmRNAに変更することで、肺がんのみならず、肺炎、ARDS、COPDなどの多様な難治性肺疾患に対する革新的な核酸医薬デリバリーシステムとしての展開が可能であり、臨床的意義は極めて大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で使用したTMVがB16F10メラノーマ細胞由来であるため、他のがん種や正常細胞由来のEVを用いた場合における汎用性と安全性の検証が必要である。また、正常肺組織におけるPD-L1のサイレンシングが引き起こす自己免疫関連有害事象 (irAE) のリスク評価や、SORT-LNPで懸念されている肺血栓症などの毒性プロファイルとの詳細な比較検討が求められる。さらに、臨床応用に向けて、GMP基準に準拠したEVの大量調製技術の確立や、長期保存安定性の確保が今後の重要な研究方向性である。

方法

EVの単離とキャラクタリゼーション: B16F10メラノーマ細胞 (cell line) を用いて、培養上清から MISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) ガイドラインに準拠した差分超遠心分離 (differential ultracentrifugation) によりTMVを単離した。単離したTMVは、EV典型マーカーであるTSG101およびCD81のウェスタンブロット解析、透過型電子顕微鏡 (transmission electron microscopy; TEM) による形態観察、動的光散乱 (dynamic light scattering; DLS) による流体力学的直径、ゼータ電位、およびPDI (polydispersity index) の測定によりキャラクタリゼーションを行った。対照群として、正常マウス肺上皮細胞株である MLE-12 から同様の手法でEMV (epithelial medium vesicles) を調製した。

TMVs-DOTAPの調製とsiRNA封入: カチオン性脂質DOTAPの無水エタノール溶液をTMVと1:10の体積比で混合し、37°Cで2時間インキュベートした後、400 nmのポリカーボネート膜を用いて押出し法を11回行うことでTMVs-DOTAPを調製した。siRNAの封入は、TMVs-DOTAPとsiPD-L1 (または対照用のsiNC) を混合して30分間インキュベートし、15000 gで20分間遠心分離して未封入のsiRNAを除去することで、TMVs-DOTAP/siPD-L1を構築した。

PET/CTおよび蛍光イメージング: TMV膜タンパク質のアミノ基に p-SCN-Bn-NOTA (S-2-(4-isothiocyanatobenzyl)-1,4,7-triazonane-1,4,7-triacetic acid) をコンジュゲートし、68GaCl3と37°Cで30分間インキュベートすることで放射性標識体を得た。健常マウス (C57BL/6J) に68Ga-TMVsまたは68Ga-TMVs-DOTAPを静脈内投与し、経時的なPET/CTスキャンを実施した。投与後の各臓器を回収し、ex vivo PET/CTスキャンおよびガンマカウンターを用いて各臓器の放射能集積量 (%ID/g) を定量評価した。また、DiRまたはDiD蛍光色素で標識した小胞を用いて、in vivoおよびex vivoでの蛍光イメージングを1〜72時間にわたり実施した。

in vivo治療効果の評価: C57BL/6Jマウス (mouse strain) の尾静脈にB16F10細胞を注射して肺転移モデルを作成した。腫瘍接種後7、10、13、16日目に、PBS、TMVs、TMVs-DOTAP、TMVs-DOTAP/siNC、またはTMVs-DOTAP/siPD-L1を静脈内投与した。20日目に肺組織を回収し、H&E染色による転移結節数のカウント、免疫蛍光染色 (PD-L1、CD4、CD8、IFN-γ、GZMB)、フローサイトメトリー解析、およびELISA法によるサイトカイン定量を行った。

プロテインコロナ解析: C57BL/6Jマウスから採取した血漿と、TMVsまたはTMVs-DOTAP/siNCを37°Cで30分間インキュベートした。0.7 Mスクロースクッションを用いた遠心分離により未結合の血漿タンパク質を除去し、回収した小胞表面の吸着タンパク質をSDS-PAGEおよびLC-MS/MSを用いたデータ独立検出 (data-independent acquisition; DIA) プロテオミクスにより解析した。統計解析には、SPSS V23.0ソフトウェアを用い、2群間比較には unpaired Student’s t-test、多群間比較には one-way ANOVA を使用し、p<0.05 をもって有意差ありとした。