- 著者: Shashi Bala, Timea Csak, Fatemeh Momen-Heravi, Dora Lippai, Karen Kodys, Donna Catalano, Abhishek Satishchandran, Victor Ambros, Gyongyi Szabo
- Corresponding author: Gyongyi Szabo (gyongyi.szabo@umassmed.edu, University of Massachusetts Medical School, Worcester, MA)
- 雑誌: Scientific Reports
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-05-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 26024046
背景
循環マイクロRNA (miRNA) は、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体といった細胞外小胞 (EV) と結合した形態、またはAgo2などのRNAサイレンシング複合体 (RISC) タンパク質と結合した非膜型形態で血中に存在することが知られている。これらの細胞外miRNAは、細胞間シグナリングにおいて重要な役割を果たす可能性が示唆されており、その機能発現のためには標的組織への到達、取り込み、そして機能発揮が必要となる。しかし、in vivoにおけるEV-miRNAの半減期、臓器分布、および細胞レベルでの取り込みメカニズムについては、これまで詳細なデータが不足しており、その生理的関連性も未解明な点が多かった。
miRNAは、非コードRNAの一種として遺伝子発現を調節し、その高い安定性から血漿や血清を含む様々な体液中で検出され、バイオマーカーとしての可能性が注目されている Ambros Nature 2004。また、miRNAは様々な疾患における治療標的としても関心を集めている。EV、特にエクソソームは、核酸 (mRNAおよび非コードRNA)、タンパク質、脂質など多様なカーゴを輸送し、細胞間および臓器間の物質輸送を担うことが示されている Valadi et al. NatCellBiol 2007。エクソソームを介したmiRNAの輸送は、細胞間コミュニケーションの新たな様式として提唱されており Kosaka et al. JBiolChem 2010、炎症や転移においてもその役割が報告されている Skog et al. NatCellBiol 2008。さらに、エクソソームはin vivoでの薬剤や核酸の送達媒体としても期待されており Alvarez et al. NatBiotechnol 2011、siRNAの脳や他臓器へのエクソソームを介した送達に関する研究も報告されている。
miR-155は、炎症および免疫応答の多段階を調節する代表的な炎症関連miRNAである。著者らは以前、TLR9リガンド (CpG) およびリポ多糖 (LPS) 処置後に、血漿およびEVにおいてmiR-155が誘導されることを示している。しかし、血中の細胞外miRNAが細胞間シグナリング効果を発揮するのに十分な生理的量で存在するかどうかは不明であり、循環miRNAの半減期と生体内分布に関する知見が不足していた。本研究は、miR-155ノックアウト (KO) マウスモデルを用いて、エクソソーム搭載miR-155 (exo-miR-155 mimic) および野生型 (WT) 血漿中のmiR-155のin vivo半減期と生体内分布を詳細に解析し、さらにKupffer細胞における機能的役割を評価することを目的とした。本研究は、細胞外miRNAの生理的役割を理解する上で重要な知識ギャップを埋めることを目指す。
目的
本研究の目的は、miR-155 KOマウスモデルを用いて、エクソソームに搭載されたmiR-155ミミック (exo-miR-155 mimic) およびWT血漿中のmiR-155のin vivoにおける半減期、臓器分布、および細胞レベルでの取り込みを定量的に評価することである。具体的には、静脈内投与後の血漿中miR-155レベルの経時的変化、主要臓器への分布、および肝細胞と肝単核球 (MNC) におけるmiR-155の取り込みを解析する。さらに、miR-155欠損Kupffer細胞において、エクソソームを介したmiR-155の補充がLPS誘導性の単球走化性タンパク質-1 (MCP1) 産生を増強する能力を実証し、エクソソーム結合miR-155が生体内で機能的な役割を果たすことを示すことも目的とした。これにより、細胞外小胞を介したmiRNAの細胞間シグナリングにおける生理的意義と、miRNA治療におけるエクソソーム送達システムの可能性を明らかにすることを目指した。
結果
exo-miR-155 mimicの血漿動態と特異性: miR-155 KOマウス (n=6-8 mice) にexo-miR-155 mimicを静脈内投与 (100 μL、約2×10⁸粒子/100 μgエクソソームタンパク質) すると、5分後に血漿miR-155レベルがWTベースラインと比較して約15倍に急峻に上昇した (p<0.05)。その後、miR-155レベルは急速に減少し、30分後には約90%が消失し、WTベースラインレベルに回帰した。血漿からの半減期は約5分と極めて短かった。スクランブルmimic搭載エクソソーム投与群では、全時点で血漿中にmiR-155は検出されず、in vivoプローブとしての特異性が確認された (Fig. 1C)。エクソソームの単離方法 (抗CD63磁気ビーズ単離 vs ExoQuick法) による血漿miR-155のクリアランス動態に差は認められず、急速なクリアランスが単離法によるアーティファクトではないことが示された。また、スクランブルmimic搭載エクソソームをWT動物に投与した事前実験では、肝単核球 (MNC) の腫瘍壊死因子α (TNFα)、MCP1、IL-1β mRNAおよびタンパク質に有意な変化はなく、エクソソーム基剤自体が炎症を誘導しないことが確認された。
臓器分布のキネティクスと細胞レベルの取り込み: exo-miR-155 mimic静注後10分で、全臓器においてmiR-155の統計的に有意なピーク値が検出された (p<0.05 vs scrambled mimic群)。灌流後の臓器におけるmiR-155の分布は、WTベースラインと比較して肝臓が最も高く、次いで脂肪組織、肺、筋肉、腎臓の順であった (Fig. 1D-H)。肝臓と脂肪組織では10分時点でWTベースラインを超える発現を示し、40分後にはWTレベルに回帰した。脳では軽度の上昇傾向が認められたものの、サンプル間変動が大きく有意差には至らなかった。胸腺および心臓では有意な増加は観察されなかった。細胞レベルでは、灌流肝臓から単離した肝細胞 (Fig. 1I) および肝単核球 (MNC) (Fig. 1J) においても、10分にmiR-155のピークが認められ (p<0.05)、血漿および臓器と同様の速やかな減少動態を示した。脾臓および骨髄細胞では有意なmiR-155の増加は認められなかった。これらの結果は、exo-miR-155 mimicが特定の臓器および細胞集団に迅速に取り込まれることを示している。
Kupffer細胞での機能的miR-155回復とMCP1誘導: miR-155 KOマウス由来のKupffer細胞 (KC) (n=3 cells/experiment) をexo-miR-155 mimic (約2×10⁸ particles/mL) と6時間共培養すると、スクランブルmimic対照と比較してmiR-155発現がWTベースラインを超えて有意に上昇した (p<0.05) (Fig. 2B)。このmiR-155の回復は、LPS (100 ng/mL) チャレンジ後の炎症応答に影響を与えた。LPSチャレンジ後6時間で、exo-miR-155 mimic群のKCではMCP1 mRNA (Fig. 2D)、MCP1タンパク質 (ELISA、細胞上清) (Fig. 2E)、およびMIP2 mRNA (Fig. 2C) がスクランブルmimic + LPS群と比較して有意に増加した (p<0.05)。MCP1 mRNAはスクランブルmimic群と比較して約20倍の増加を示した。一方、同条件で処置した肝細胞では、LPS後のMCP1タンパク質産生に有意差は認められなかった。スクランブルmimicおよびexo-miR-155 mimicのいずれも、LPS非添加条件下では炎症応答を誘導しなかった。in vitroではKCの取り込み効率が肝細胞よりも高かったが、in vivoでは肝細胞の方がMNCよりも高いmiR-155レベルを示した。これは、各細胞のWTベースラインCq値が肝臓全体でCq33、肝細胞でCq32、KCでCq28であり、KCの高い基礎発現がin vitroでの見かけ上の取り込み効率差を生む可能性が示唆された。
WT血漿トランスファー実験と投与ルートの比較: CpG+LPS処置WTマウス血漿 (n=6-8 mice) (約150 μL、EV型およびAgo2結合型の両方を含む) をmiR-155 KOマウスにi.v.投与すると、5分後に血漿miR-155が約4倍に上昇した (exo-miR-155 mimicの約15倍より低値) (Fig. 3A)。30分後には約50%減少し、1時間後にはWTベースラインレベルに、4時間後には不検出 (nd) となった。灌流および非灌流いずれの肝臓でも40分および60分時点でmiR-155が検出され (cDNA前増幅を実施)、RBC溶解バッファー処理により血液汚染が除外されたことから、肝実質への集積が確認された (Fig. 3C, D)。i.p.投与では、血漿への出現が低値かつ緩徐であり、4時間持続した (Fig. 3B)。脂肪組織および肺でも低レベルの検出があったが、腎臓、胸腺、骨髄、心臓、脳では検出されなかった。これらの結果は、天然の循環miR-155もエクソソーム結合miR-155と同様の生体内分布プロファイルを持つことを示唆している。
考察/結論
本研究は、炎症関連miRNAであるmiR-155を搭載したB細胞由来エクソソーム (平均径84 nm) が、マウスへの静脈内投与後5分以内に血漿中で約15倍のピークを形成し、主に肝臓および脂肪組織へと迅速かつ選択的に分布することをin vivoで初めて示した。投与後10分で臓器におけるピークが観察され、30分後には血漿中の約90%が消失するという動態は、細胞外小胞 (EV) が循環中を迅速に移行し、標的臓器に効率的に送達されることを示唆している。この知見は、肝臓を標的とするmiRNA治療の担体としてのEVの可能性を強く支持するものである。
先行研究との違い: これまで、エクソソームを介したmiRNAのin vivoでの詳細な薬物動態学的解析は不足していたが、本研究はmiR-155 KOマウスモデルを用いることで、内因性miR-155の影響を排除し、エクソソーム結合miR-155の生体内分布と半減期を定量的に評価した点で、これまでの研究と異なるアプローチをとっている。特に、肝細胞と肝単核球 (MNC) の両方でmiR-155の取り込みを確認した点は新規性が高い。
新規性: 本研究で初めて、エクソソーム結合miR-155のin vivo薬物動態と機能的役割を詳細に解明したことは新規性が高い。細胞レベルでの解析では、肝細胞と肝単核球 (MNC)、特にKupffer細胞 (KC) が主要な取り込み細胞であることが明らかになった。in vitroでの実験において、miR-155 KOマウス由来KCにexo-miR-155 mimicを投与することで、LPS誘導性のMCP1 mRNAおよびタンパク質、MIP2 mRNAが有意に増強されたことは、EV-miRNAが機能的な細胞間シグナリングを媒介することを明確に実証した。Kupffer細胞の高い取り込み効率は、食細胞としての本来の機能と整合する。しかし、in vivoでは肝細胞がMNCよりも高いmiR-155レベルを示したが、これはMNCがKC、樹状細胞、リンパ球などの混在集団であり、miR-155のシグナルが希釈されることを反映していると考えられる。WT血漿トランスファー実験では、天然のmiR-155 (EV型とAgo2結合型の混在) の生体内分布がexo-miR-155 mimicと類似したプロファイルを示すことを確認し、両実験系のデータの整合性を強化した。
臨床応用: 脳への有意な分布が認められなかった点は、脳への効率的なエクソソーム送達には、神経ペプチドRVGによる修飾や鼻腔内投与などの標的化戦略が必要であるとする先行研究 Alvarez et al. NatBiotechnol 2011 と一致する。exo-miR-155 mimicが-80°Cで安定保存可能であり、生体内で炎症反応を誘導しないという安全性プロファイルは、将来的な臨床応用上の利点である。これらの知見は、エクソソームを介したmiRNA送達システムの開発と、in vivoでの生物学的機能の解明に貢献し、肝疾患などの治療における新たな臨床的意義を持つ可能性がある。
残された課題: しかし、残された課題も存在する。第一に、KCにおけるMCP1誘導がmiR-155の直接的な標的遺伝子抑制を介するのか、あるいはAgo2などのRNAサイレンシング複合体との競合を介するのかといった詳細な分子メカニズムの解明が必要である。第二に、ex vivoでのエレクトロポレーション効率の改善 (siRNA凝集問題のEDTA添加による軽減など) が求められる。第三に、本KOモデルシステムを他のmiRNAの生体内分布と機能評価に応用する可能性が考えられる。第四に、反復投与による生理的miR-155レベルの回復と、それが肝炎症病態に与える機能的影響の検証が今後の検討課題である。
方法
エクソソームの調製とmiR-155 mimicの搭載: マウスB細胞株 (M12.4.1) をインターロイキン-4 (IL-4) (50 ng/mL) とCD40 (5 μg/mL) で3日間処置し、エクソソーム産生を誘導した。細胞培養上清から、差次的遠心分離と抗CD63磁気ビーズ選択法を用いてエクソソームを精製した。精製エクソソームはNanoSight LM10システムで平均径84 nmと測定され、透過型電子顕微鏡 (TEM) で典型的な形態が確認された。また、ウェスタンブロットによりCD63およびCD81陽性、グルコース調節タンパク質78 (GRP78) 陰性であることが確認され、細胞由来の混入がないことが示された。成熟型miR-155 mimicまたはスクランブルmimic (陰性対照) をGene Pulser II System (150 V/100 μF) を用いたエレクトロポレーションによりエクソソームに搭載した (exo-miR-155 mimic; 100 μL、約2×10⁸粒子/100 μgエクソソームタンパク質)。エレクトロポレーション後、細胞外に遊離したmiRNAを分解するためRNase A (1ユニット、30分) 処置を行い、ExoQuick-TCでエクソソームを再単離し、-80°Cで保存した。
in vivo生体内分布実験: 8〜10週齢のC57BL/6 miR-155 KOマウスに、exo-miR-155 mimicまたはスクランブルmimic搭載エクソソームを静脈内 (i.v.) 投与した。投与後5、10、20、30、40、60分の各時点で、マウスを灌流後に屠殺し、血漿および主要臓器 (肝臓、脂肪組織、肺、筋肉、腎臓、脳、胸腺、心臓) からRNAを抽出した。miR-155レベルはTaqMan miRNAアッセイを用いたリアルタイムqPCRで定量し、SnoRNA202 (組織/細胞) または合成cel-miR-39 (エクソソーム/血漿) で正規化した。この実験にはn=6-8 miceが各群に使用された。
細胞レベルでの取り込み評価: 灌流肝臓から、Percoll勾配遠心法を用いて肝細胞 (200×g、5分) と肝単核球 (MNC: 単球、リンパ球、樹状細胞など、40%/70% Percoll層間を1200×g、10分) を分離した。これらの細胞画分におけるmiR-155レベルも同様にqPCRで定量した。脾臓および骨髄細胞についてもmiR-155レベルを評価した。
Kupffer細胞 (KC) における機能評価: miR-155 KOマウス由来のKCは、Librerase酵素消化後にPercoll勾配遠心法 (1600×g、30分) で非肝細胞分画から単離した。単離したKC (1×10⁶ cells/mL) をexo-miR-155 mimic (約2×10⁸ particles/mL) またはスクランブルmimic搭載エクソソームと6時間共培養した。その後、LPS (100 ng/mL) で6時間チャレンジし、MCP1およびマクロファージ炎症性タンパク質-2 (MIP2) のmRNA発現レベルをqPCRで、MCP1タンパク質レベルをELISA (細胞上清を2000×g、10分遠心) で評価した。WTマウス由来の肝細胞についても同様の機能評価を実施した。
WT血漿トランスファー実験: CpG+LPS処置したWT雌マウス由来の血漿 (約150 μL、EV型および非EV型miR-155を含む) をmiR-155 KOマウスにi.v.または腹腔内 (i.p.) 投与した。投与後5分、30分、1時間、4時間の各時点で血漿および臓器 (肝臓、脂肪組織、肺、腎臓、胸腺、骨髄、心臓、脳) のmiR-155レベルをqPCRで定量した。低シグナル臓器ではcDNAの事前増幅を行った。血液汚染を除外するため、赤血球 (RBC) 溶解バッファー処理および灌流肝臓での検出も行った。
統計解析: データは平均±標準誤差 (SEM) で示し、非パラメトリックMann-Whitney検定を用いて統計解析を行った。p値が0.05未満の場合を有意差ありとした。