• 著者: Laia Bonjoch, Meritxell Gironella, Juan Lucio Iovanna, Daniel Closa
  • Corresponding author: Daniel Closa (daniel.closa@iibb.csic.es, Institut d’Investigacions Biomèdiques de Barcelona-CSIC, IDIBAPS, Barcelona, Spain)
  • 雑誌: Scientific Reports
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-06-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28600520

背景

細胞外小胞 (EV) は、エクソソームやマイクロベシクルを含む直径50〜150 nmのナノサイズ膜小胞であり、タンパク質、核酸、脂質を内包し、細胞間コミュニケーターとして機能する Valadi et al. NatCellBiol 2007。かつては「細胞の廃棄物」と見なされていたEVは、現在、炎症、癌、免疫応答など多様な生理病理過程において中心的な役割を担うことが明らかになっている。特に、膵管腺癌 (PDAC) は最も予後不良ながんの一つであり、PDAC患者の血漿では循環EVの濃度が増加し、これらのEVが肝転移前ニッチの形成に寄与することが報告されている Melo et al. Nature 2015Costa et al. NatCellBiol 2015。EVの細胞内取り込みは、細胞表面の糖タンパク質を介した機序 (DEC-205やDC-SIGNなどのレクチン受容体) に依存することが知られており、EV表面の糖鎖パターンがその取り込み効率を規定する。このEVの取り込み機序の解明は、EVを介した細胞間コミュニケーションの制御において重要である。

PDAC腫瘍周囲の健常膵腺房細胞は、REG3β (Pancreatitis-Associated Protein/PAP、別称HIP) と呼ばれるC型レクチンを大量に分泌する。REG3βはN-アセチル-D-グルコサミン (NAG) やマンナン (重合マンノース) などの複合糖鎖に結合する単一レクチンドメインからなる小分子分泌タンパクであり、急性膵炎、膵障害、膵癌で血清中に著明に上昇することが報告されている。しかし、PDAC腫瘍周囲の健常組織がREG3βを局所的に分泌し、腫瘍内のEV表面糖タンパクに結合することで腫瘍微小環境 (TME) 内のEVシグナル伝達を修飾するという仮説は、これまで十分に検証されていなかった点が未解明であった。EVの取り込みを制御するメカニズムは多岐にわたるが、特定のレクチンがEVの機能に与える影響については知識が不足しており、特にPDACにおけるREG3βの役割は未開拓の領域であった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目指すものである。

目的

本研究の目的は、膵管腺癌 (PDAC) におけるREG3βの細胞外小胞 (EV) シグナル伝達への影響を多角的に解明することである。具体的には、以下の4つの主要な目的を設定した。

  1. REG3βによるEV取り込み阻害の検証: REG3βがEVの細胞内取り込みをin vitroおよびin vivoの両方で阻害するかどうかを実証する。これにより、REG3βがEVの標的細胞への到達を物理的に妨げる可能性を評価する。
  2. REG3βとEV表面糖タンパク質間相互作用の機序解明: REG3βがEV表面の糖タンパク質にどのように結合し、そのレクチン依存的機序がどのような糖鎖残基によって媒介されるかを詳細に解析する。これにより、REG3βのEV結合特異性を明らかにする。
  3. REG3βによるEV取り込み阻害の機能的影響評価: REG3βによるEV取り込み阻害が、マクロファージの表現型転換、癌細胞の遊走増加、および細胞の代謝変化といったPDACの病態生理学的に重要な機能にどのような影響を与えるかを定量的に評価する。
  4. PDAC患者血中におけるREG3β結合EVの存在確認: PDAC患者の循環血中にREG3β結合EVが存在するかどうかを確認し、その臨床的意義を検討する。これにより、REG3βがin vivoでEVの動態に影響を与えている可能性を示す。

これらの目的を達成することで、PDACの腫瘍微小環境におけるREG3βの新たな役割を明らかにし、EVを介した細胞間コミュニケーションの制御メカニズムに関する理解を深めることを目指す。

結果

REG3βによるEV取り込み阻害 (in vitroおよびin vivo): PKH26標識MPC-EV (3 μg/mL) をTHP-1マクロファージに処置すると、REG3β非存在下では顕著なEV取り込みが蛍光顕微鏡および蛍光プレートリーダーで確認された (Figure 1c)。REG3βを20 ng/mLから添加すると用量依存的な取り込み阻害が観察され、100 ng/mLおよび500 ng/mLでは有意に阻害された (p<0.001; ANOVA/Tukey)。この実験はn=4 replicatesで実施された。逆実験として、PKH26標識THP1-EV (3 μg/mL) をMPC細胞に処置した場合も、REG3β存在下で同様の取り込み阻害が認められた (p<0.01; Figure 1d)。この効果は特定の細胞種に限定されず、THP-1 (食細胞能が高い) とMPC (食細胞能が低い) の双方で同様のREG3β依存的阻害が観察された。さらに、CAF由来EVでも同様の結合が確認された。in vivo試験では、MPC細胞皮下異種移植モデルマウス (n=4 mice) にPKH26標識MPC-EV 5 μgを腫瘍内注射した。REG3β非処理群ではEVが腫瘍細胞の細胞質内に明確に取り込まれたが、REG3β処理EVを投与した群では、蛍光標識EVが腫瘍細胞内ではなく細胞間隙に停滞し、腫瘍細胞への取り込みが著明に減少した (Figure 1e)。

REG3β-EV結合のレクチン依存的機序: 固相ELISAでは、REG3β (0〜500 ng/mL) とEV (1 ng/μL) の結合量が明瞭な用量依存曲線 (one-site binding hyperbola, R^2=0.918) を示し、最大結合はREG3β 500 ng/mLで達成された (Figure 2b)。この結合はTHP1-EV、MPC-EV、CAF-EVの全3種のEVで確認された (n=4 replicates)。磁気ビーズ系でも同様に、REG3β量依存的なEV回収が確認された (Figure 2c)。免疫電子顕微鏡では、REG3β処理THP1-EV表面に12 nmの金粒子が特異的に集積し、REG3β非存在下ではほとんど標識されなかった (Figure 2d)。競合阻害実験では、マンノース単量体 (1 mg/mL) はREG3β-EV結合を修飾しなかったが、マンナン (1 mg/mL) とNAG (5 mM) の添加で結合が有意に阻害され、最大結合の60%にとどまった (p<0.001; F検定; Figure 2e)。この結果は、REG3βがNAGおよびマンナンに対するレクチン活性を介してEV表面糖タンパク質に結合することを直接確認するものである。

REG3β存在下でのEVによるマクロファージ表現型転換阻害: MPC-EV (3 μg/mL) 処置によりTHP-1マクロファージでは、M1関連遺伝子 (IL-1β、IL-8、CCL2、CXCL2) の有意な上昇とM2関連マーカーMRC1の有意な低下が認められ、マクロファージが炎症性M1表現型に転換した (p<0.001; ANOVA/Tukey; Figure 3a)。この遺伝子発現解析はn=6 replicatesで実施された。REG3β事前処理EVを用いた場合、これらの遺伝子発現変化がいずれも有意に消失または抑制され (p<0.001)、EVシグナルがREG3βによるブロックにより遮断されたことを示した。IL-1β、CXCL2、CCL2はいずれも有意な変化が観察されたが、REG3β存在下では統計的有意差が消失した。MRC1 (M2マーカー) の低下もREG3β処理EVでは回復した。これは腫瘍促進性マクロファージ極性化をREG3βが抑制するという機能的証拠を示す。

癌細胞遊走促進効果の阻害: スクラッチ創傷治癒アッセイにおいて、THP1-EV (3 μg/mL) 処置によりMPC細胞の遊走能が24時間後に対照と比較して有意に増加した (p<0.001; n=6 replicates; Figure 3b)。REG3β事前処理THP1-EVを用いた場合、遊走促進効果が有意に消失した (p<0.001、EV非処理群との比較でも有意差消失)。この結果はTHP1由来EVがMPC細胞の遊走を促進する機能を持ち、REG3βがこのEV仲介性シグナルを遮断することを定量的に証明した。

代謝変化の抑制 (メタボロミクス): MPC細胞、CAF、THP-1マクロファージに対するMPC-EVまたはTHP1-EVの処置は、各細胞種において固有のメタボロームプロファイルを変化させた。解析された408のLC-MS featuresのうち、EV処置によって有意に増減した代謝物の多くが、REG3β処理EVでは変化が抑制または回復した (Figure 4)。特にマクロファージにおいてはEV処置で増加した代謝物 (核酸、アミノ酸、脂質メディエーターを中心とした複数クラス) がREG3β存在下で増加しなかった。腫瘍細胞およびCAFでは、EV処置で起きた代謝物減少がREG3βにより抑制 (減少の解除) される傾向が見られた。これらの代謝変化は癌組織やマクロファージ極性化に既報の代謝プロファイル変化と一致し、EV仲介性の癌代謝リプログラミングをREG3βが広範に阻害することを示す。

PDAC患者血中REG3β+EVの増加: PDAC切除標本の免疫組織化学では、REG3βは腫瘍細胞には発現せず、腫瘍を取り囲む健常腺房細胞に強く限局性に発現した (Figure 5a)。この局在パターンは腫瘍周囲組織が腫瘍微小環境へREG3βを分泌する主要ソースであることを支持する。PDAC患者血漿 (n=15 patients) からのEV回収量は、Bradford法定量でPDAC群が健常ドナー群 (n=15 donors) より有意に多かった (p<0.05; t-test; Figure 5b)。さらに、同量のEVを抗REG3β抗体固定化プレートに添加すると、PDAC患者由来EVのREG3β結合量は健常ドナー由来EVと比較して著明に多かった (p<0.001; Mann-Whitney U; Figure 5c)。PDAC患者・健常ドナー双方のEVの免疫電子顕微鏡像でも、PDAC患者EVの表面に金粒子が豊富に存在し、REG3βがPDAC患者循環EVの大部分に結合していることが直接確認された (Figure 5e)。

考察/結論

本研究は、PDAC腫瘍周囲の健常膵腺房細胞が分泌するC型レクチンREG3βが、EV表面の糖タンパク質 (特にNAGおよびマンナン結合部位) に結合することでEVの細胞内取り込みを阻害し、EV仲介性のマクロファージ腫瘍促進極性化、癌細胞遊走促進、および代謝リプログラミングをin vitroおよびin vivoの両レベルで防ぐことを初めて実証した。さらに、PDAC患者の循環血中にREG3β結合EVが有意に増加することを15名のコホートで確認した。

新規性: 本研究で初めて、REG3βがEVの細胞内取り込みを直接的に阻害し、その結果としてEVが媒介する細胞機能変化 (マクロファージの極性化、癌細胞の遊走、代謝リプログラミング) を抑制するという新規メカニズムを明らかにした。これは、腫瘍微小環境におけるEVシグナル伝達の制御に関するこれまで報告されていない重要な知見である。REG3βが特定の糖鎖残基 (NAGおよびマンナン) に結合することでEVの取り込みを妨げるというレクチン依存的な機序も、本研究で初めて詳細に解明された。

先行研究との違い: これまでの研究では、EVの膜糖鎖が細胞取り込みに重要であることや、レクチンがEVに結合する可能性は示唆されていたが、REG3βのような特定の分泌型レクチンがEVの機能に与える影響をin vitroおよびin vivoで包括的に解析した報告はなかった。本研究は、REG3βがDEC-205やDC-SIGNなどのレクチン受容体を介したEV取り込み経路を競合的に阻害するという点で、これまでの知見と異なり、EVの取り込み制御における新たな側面を提示した。また、REG3βが腫瘍周囲の健常組織から分泌され、腫瘍内の細胞間コミュニケーションを制御するという概念は、これまでの腫瘍微小環境研究とは対照的な視点を提供する。

臨床応用: PDAC患者の循環血中にREG3β陽性EVが有意に増加しているという発見は、REG3β結合EVがPDACの診断バイオマーカーとして臨床応用できる可能性を示唆する。REG3βが腫瘍内EV取り込みを阻害することで「はじき出された」EVが血流に移行するという機序は、EVの血中動態がREG3βによって規定されることを意味し、EVの血中増加パターンが疾患進行指標となりうる。治療応用の観点では、外因性REG3βまたはREG3β模倣分子によってPDAC内のEVシグナルを遮断する戦略が考えられる。また、REG3βや抗REG3β抗体をEV仲介性シグナルが関与する他疾患 (炎症性腸疾患など、REG3βの抗炎症効果が既報) でも応用できる可能性が示唆される。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。まず、PDAC患者コホートが各15例と小規模であり、より大規模なコホートでの検証が今後の課題として必要である。in vivoモデルが免疫機能を持たないBALB/Cヌードマウスであるため、免疫応答が関与するEVシグナル伝達に対するREG3βの完全な影響を評価できていない。また、メタボロミクス解析で同定された代謝物変化の機能的意義については、さらなる詳細な検討が今後の課題として残されている。REG3βのEV遮断効果が、マクロファージのM1極性化抑制のように、文脈によっては腫瘍促進的に働く可能性も指摘されており、REG3β濃度、REG3β産生細胞と腫瘍の相対的位置、EVの種類と起源によって実際の効果が異なる可能性を考慮した今後の研究方向性が求められる。

方法

細胞株と試薬: 膵癌細胞株MIA PaCa-2 (MPC)、THP-1マクロファージ (100 nM PMAで48時間分化後、PMA非含有培地で24時間培養)、PDAC患者由来がん関連線維芽細胞 (CAF) を使用した。REG3βは組換えタンパク (Dynabio社製) を使用し、PDAC患者血漿中で報告されている0〜500 ng/mLの範囲で濃度を設定した。

EV精製と品質管理: 培養上清をEV除去FBS含有培地に交換後24時間培養し、2,000×g、10,000×g、120,000×gの差次遠心でEVを精製した。品質確認として、透過型電子顕微鏡 (TEM) でサイズ (50〜150 nm) と二重膜構造を確認し、ウェスタンブロットでEVマーカー (CD81、ALIX、TSG101) の陽性と小胞体汚染マーカー (カルネキシン) の陰性を確認した。EV量はBradford法でタンパク定量した。

EV取り込みアッセイ (in vitro): PKH26赤色蛍光色素でEVを5分間標識した。3 μg/mLのPKH26標識MPC-EVをREG3β (0/20/100/500 ng/mL) 存在下でTHP-1マクロファージに45分間処置した (n=4 replicates)。逆実験として、PKH26標識THP1-EVをMPC細胞に2時間処置した。取り込みは蛍光顕微鏡観察と蛍光プレートリーダーで定量し、統計解析にはANOVA with Tukey’s post-testを用いた。

EV-REG3β結合アッセイ: 抗REG3β抗体固定化96ウェルプレートを用い、PKH26標識THP1-EV (1 ng/μL) をREG3β (0〜500 ng/mL) と共に1時間インキュベーション後、蛍光強度を測定した (n=4 replicates)。競合阻害試験としてマンノース (1 mg/mL)、マンナン (1 mg/mL)、NAG (5 mM) を添加した条件を設定した。磁気ビーズ (Protein G Magnetic Beads) 系でも同様の結合を確認した。免疫電子顕微鏡 (12 nm金コロイド標識二次抗体) でEV表面のREG3β結合を可視化した。

機能実験:

  1. マクロファージ表現型転換: THP-1細胞をREG3β 500 ng/mL存在下でMPC-EV (3 μg/mL) またはREG3β処理MPC-EVで24時間処置し、IL-1β、IL-8 (M1マーカー)、CCL2、CXCL2、MRC1 (M2マーカー)、TGFβの遺伝子発現をqPCR (GAPDH正規化、n=6 replicates) で定量した。プライマー配列はTable 1に記載されている。
  2. 遊走アッセイ: マイトマイシンC (0.5 μg/mL) 処理により増殖を停止させたMPC細胞のスクラッチアッセイを実施した。THP1-EV (3 μg/mL) ±REG3β処理 (500 ng/mL) の条件下で24時間培養し、Cell^Rソフトウェアで遊走距離を定量した (n=6 replicates)。
  3. メタボロミクス: UHPLC-ToF-MSを用いた4プラットフォーム代謝物プロファイリングをOWL Metabolomics社に委託した。細胞ペレットからメタノールとクロロホルムを用いてタンパク質を沈殿させ、408のLC-MS featuresを解析した。データはTargetLynxソフトウェアで処理され、内部標準とタンパク質含有量で正規化された。

in vivo試験: BALB/Cヌードマウス4匹にMPC細胞 (20×10^6個) を皮下注射し、4週間後に腫瘍異種移植モデルを作製した。PKH26標識MPC-EV 5 μg (±REG3β処理) を腫瘍内注射し1時間後に腫瘍を摘出、蛍光顕微鏡でEV局在を評価した。

PDAC患者コホート: PDAC患者 (n=15 patients) と健常ボランティア (n=15 donors) の血漿から10 mL全血 (EDTA管、4℃、6時間以内に分離・-80℃保存) よりEVを精製した。Bradford法でEV量を定量後、抗REG3β抗体固定化プレートを用いてREG3β陽性EV量を定量した (Mann-Whitney U test)。免疫組織化学でPDAC切除標本のREG3β局在を評価した。統計解析にはGraphpad Prismソフトウェアを使用し、Student’s t-test、ANOVA with Tukey’s post-test、Mann-Whitney U testを適用した。P値が0.05未満を有意とした。