• 著者: Weronika Ortmann, Anna Such, Iwona Cichon, Monika Baj-Krzyworzeka, Kazimierz Weglarczyk, Elzbieta Kolaczkowska
  • Corresponding author: Elzbieta Kolaczkowska (ela.kolaczkowska@uj.edu.pl, Department of Experimental Hematology, Institute of Zoology and Biomedical Research, Jagiellonian University, Krakow, Poland)
  • 雑誌: Scientific Reports
  • 発行年: 2024
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38409254

背景

細胞外小胞 (extracellular vesicles; EV) と好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular traps; NETs) は、いずれも炎症・敗血症の重要なメディエーターであり、いずれも生体内で動的に放出される構造体である。先行研究 (Brinkmann et al. Science 2004、Papayannopoulos NatRevImmunol 2018) はNETsが細菌捕捉だけでなく敗血症性臓器障害のbystander damageを引き起こすことを示し、EV側ではvan Niel et al. NatRevMolCellBiol 2018やGurung et al. NatRevMolCellBiol 2021がEVのbiogenesisと細胞間情報伝達における役割を体系化してきた。さらに敗血症 (Sepsis-3、Singer et al. JAMA 2016) の文脈ではEVが疾患メディエーター/予後マーカーとして注目され、Wang et al. FrontImmunol 2019が単離好中球系でnEVがNETsにヒストン-ホスファチジルセリン相互作用で結合することを示し、Leal et al. FrontImmunol 2017は腫瘍由来エクソソームがNET形成を誘導する経路を提示した。しかし、これらの相互作用は単離細胞または静的サンプルで観察されたものであり、in vivoでEV-NETs相互作用をリアルタイム観察した先行研究は存在しなかった。具体的には、(i) 血液・腹腔洗浄液から採取したEV組成が実際に血管内壁・白血球・NETsと相互作用するEV組成を反映するのか、(ii) NETsとEVの相互作用が双方向か非対称か、(iii) どの細胞由来EVがNET形成を制御しうるのか、という3つの基本問が未解決のまま残っていた。特に、血液EVをバイオマーカーとして用いる従来研究は、循環EVが血管内皮接着EVを代表すると暗黙裡に仮定していたが、この仮定が生体内で成立するかは検証されたことがなく、敗血症バイオマーカー研究の方法論的限界を直接示すデータが足りなかった。Intravital microscopy (IVM、生体顕微鏡法) を用いて生きたマウスの血管内でEV-NETs相互作用をリアルタイム観察した研究は、本論文の登場まで存在せず、体液ベースのEVバイオマーカー研究の生物学的限界も検証されてこなかった。

目的

LPS内毒素血症マウスのcremaster筋および肝臓洞様毛細血管 (liver sinusoids) でEVとNETsのリアルタイム相互作用をSpinning Disk Confocal Intravital Microscopy (SD-IVM) で可視化し、(1) 血液・腹腔洗浄液中のEV組成と血管内でEV-NETs/内皮と相互作用するEV組成を細胞起源別に比較する、(2) PAD4阻害剤Cl-amidineを用いてNET形成阻害がEV放出に影響するかを検証する (NETs→EVの方向性検証)、(3) ex vivoで好中球・単球/好中球共培養・赤血球から精製したEVを用いてどの細胞由来EVがNET形成を制御するかを同定する、(4) Siglec-E遮断抗体でその作用機序の受容体依存性を検証する、ことを目的とした。

結果

所見1 — 体液中のEV組成は血液と腹腔で著しく異なる: NTAで定量した血漿中の大型EV濃度は内毒素血症進行に伴い増加し12時間でピーク (約2×10¹¹ particles/mL、n=3-5) を示した後24時間で基線まで低下した (Fig 1a、p<0.05)。腹腔洗浄液では健常時に血漿より高値 (約3-fold) で、内毒素血症初期 (0-4時間) に一時低下した後6-8時間から再上昇し12時間で最大に達した (Fig 1a)。フローサイトメトリーで細胞起源を解析すると、血漿では CD41陽性pEV > F4/80陽性mEV > TER-119陽性eEV > Ly6G陽性nEV > CD62P陽性活性化pEV の順で優位であり、内毒素血症関連の有意変化はCD41陽性EVの24時間低下のみ (p<0.05、n=3-5) であった (Fig 1b,d)。腹腔洗浄液ではmEV > 全pEV > 活性化pEV > nEVの順でeEVはほぼ検出されず (Fig 1c,e、n=3-5)、両体液のEV組成が各コンパートメント内の常在細胞 (血液=血小板、腹腔=マクロファージ) の数的優位性を反映することが示された。

所見2 — IVMでは肝洞様毛細血管内で好中球由来nEVがNETsと選択的に共局在する: SD-IVMでcremaster筋を観察すると、健常時 (0時間) ではnEVは検出されず、内毒素血症8時間 (peak) と12時間で多数のnEVが内皮に付着またはローリング (EV rolling) で観察された (Supplementary Fig S5b、n=3)。しかし cremaster筋ではNETs (exDNA・NE・H2A.X三成分共染色) は検出されなかった (Fig 2c)。一方、肝臓洞様毛細血管ではNETsが明瞭に観察され (Fig 2d)、40×倍率での2,000 EV解析 (21匹) は多様なサイズ分布 (平均径 約105 nm、143 nm、326 nm の3クラスタ) を示した (Fig 2e, f)。nEVは内毒素血症6時間から増加し12時間でピーク (面積%最大、対照比 約5-fold増加、A vs AC統計的有意 p<0.05、n=3)、24時間に急減した (Fig 3a, b)。重要なのは、nEVとNETsの共局在が12時間で最大となり、肝洞様毛細血管内で血液中で多数派の血小板EVではなく、少数派の好中球EVが選択的にNETs・内皮と相互作用することが3D再構築 (z-stack) で確認された (Fig 4a, b、n=3)。リアルタイム観察では非極性 (non-polarized) および極性 (polarized) いずれの好中球からもnEV放出が捕捉され、Kupffer細胞によるnEV貪食も確認された。

所見3 — PAD4阻害剤Cl-amidineによるNET形成阻害はEV放出に影響しない (非双方向性の確認): PAD4阻害剤Cl-amidine 40 mg/kg前処置はNET形成 (NE = NETs 面積、Mann-Whitney *** p≤0.001、対照比で約80%減少、n=3) を有意に抑制した一方で、SD-IVMで観察した肝洞様毛細血管のEV面積、ならびにNTAで定量した血漿および腹腔洗浄液のEV濃度はDMSO対照と差を示さなかった (Fig 5a-e、n=3、p>0.05 fold change ≈1.0)。これによりNETs→EVの方向 (NETsがEV放出を制御する経路) は存在しないことが直接実験で確認された。

所見4 — 外因性標識EVの注入は5分以内にKupffer細胞 (主) と好中球 (少数) に貪食されるが、一部はNETs内部に取り込まれる: 内毒素血症8時間マウス腹腔から分離・標識した大型EVを静注すると、観察開始から5分以内に大部分がKupffer細胞 (bulk) または好中球 (一部) に貪食された (Fig 6a-c, Supplementary Fig S10)。一部のEVは内皮に付着し、3D再構築でNETs内部に存在することも確認された (Fig 6b, c)。非貪食EV量は40分間の観察期間中変化せず (Supplementary Figs S10b, c)、半透明モード解析で好中球とマクロファージ細胞内のEV存在も確認された (Fig 6ci, cii)。ただし急速な貪食のためin vivoでEVがNET形成に与える影響は確定できず、ex vivo系での検証が必要となった。

所見5 — ex vivoでは赤血球由来eEVのみがNET形成を完全に阻害し、その作用はSiglec-E依存的である: ex vivoでLPS刺激した好中球由来nEVと単球/好中球共培養由来m+nEVはいずれもNET形成 (骨髄好中球LPS 100 ng/mL刺激、exDNA面積で評価) に有意な影響を与えなかった (Fig 8a, b、n=3、p>0.05、fold change ≈1.0)。一方、LPS刺激赤血球由来eEVをLPS添加前または同時に添加するとNET形成は完全に阻害された (Fig 8c, ci、対照比でNET面積がほぼ0%まで低下、約10-fold減少、n=3、p<0.001)。LPS後30分の遅延添加では効果がなく、eEVのNET抑制はLPSによる好中球活性化前のpre-conditioning windowに限られた。Siglec-E中和抗体 (1:200) の前処置によりこの抑制は完全に解除され、NET形成が回復した (Fig 8d, e、Supplementary Fig S13、n=3、回復率 約100%)。これによりeEVのNET阻害はSiglec-E依存的であることが確定し、本論文で報告された4つの主要発見 (時間依存性EV放出 / 非対称EV-NETs相互作用 / 体液EV組成と血管内相互作用EV組成の乖離 / eEVによるSiglec-E依存的NET抑制) のうち最も機序的に新規性の高い所見が確立された。

考察/結論

本研究は、(i) 体液 (血液・腹腔洗浄液) 中のEV組成が実際に血管内でNETs・内皮と相互作用するEVの起源を反映しない、(ii) NETsとEVの相互作用は非双方向的でEV→NETsの方向のみ存在する、(iii) 赤血球由来eEVがSiglec-Eを介してNET形成を抑制する、という3点を初めてin vivoで実証した点で意義深い。これまで単離細胞系でWang et al. FrontImmunol 2019や Leal et al. FrontImmunol 2017 (FrontImmunol 2017) がEV-NETs相互作用を示してきたが、これまでとは異なり本論文はSD-IVMで生体内血管環境を直接観察した点で方法論的に対照的であり、循環EV組成が血管内相互作用EV組成を代表すると暗黙的に仮定してきた先行研究 (Mortaza et al. CritCareMed 2009、Reid et al. CritCareMed 2012) の前提を覆した。これまで報告されていない非双方向性 (PAD4阻害でNETを止めてもEV放出は不変) と新規な制御細胞としての赤血球機能を提示しており、これは本研究で初めて示された分子機序である。臨床応用の観点では、敗血症で観察される赤血球減少 (sepsis-induced anemia) とNET過剰形成の臨床的相関に対する分子機序仮説を与え、マウスSiglec-Eに対応するヒトオルソログSiglec-9がヒト赤血球膜上に存在することから、ヒト赤血球がSiglec-9リガンドを呈示することで好中球の過剰活性化を抑制する制御機構として機能する可能性が示唆される (Brinkmann et al. Science 2004 = Science 2004 が確立したNETsの細菌捕捉機能と、本研究のeEV-Siglec-E制御は対立せず、抗菌活性を保ちつつbystander damageを限定する生理的バランスを示唆)。臨床応用の観点では、体液EVを用いた敗血症バイオマーカー研究 (血漿EV組成のフローサイトメトリー解析) が血管内でNETs/内皮と相互作用するEV組成を反映しない以上、循環EVプロファイルから組織レベルの病態を推定することの限界を再評価する必要があり、bench-to-bedsideでは「組織関連EVを直接捕捉する手法」の開発 (内皮接着EVのカテーテルベース回収、組織生検EV抽出など) や、ヒトSiglec-9アゴニストを用いた敗血症性NETopathyの臨床応用が求められる。残された課題として、(1) 本研究はマウス内毒素血症モデルに限定されており、ヒト敗血症患者血液・組織での検証が必要であること、(2) eEVのSiglec-Eリガンド分子実体 (シアリル化糖鎖種、CD235a (glycophorin A) など赤血球膜タンパク質) が未同定であること、(3) 観察された非対称性 (NETs→EV方向の不在) がLPS-induced endotoxemia以外の敗血症サブタイプ (グラム陽性菌、ウイルス、polymicrobial cecal ligation and puncture (CLP) モデルなど) でも保持されるか不明であること、(4) 24時間時点でのnEV急減のメカニズム (Kupffer細胞によるclearance加速か、好中球アポトーシスか) が未解明であること、(5) ヒトSiglec-9を標的としたNET制御による敗血症治療への発展可能性、が今後の検討課題である。IVMによるEV-NETsのリアルタイム可視化は、EVとNETsの分子レベル相互作用解析の新しい実験基盤を提供する。

方法

動物モデル: C57BL/6Jマウス (メス、6-8週齢) にlipopolysaccharide (LPS、Escherichia coli O111:B4、1 mg/kg) を腹腔内 (i.p.、intraperitoneal) 投与して内毒素血症を誘発、観察時点は0, 2, 4, 6, 8, 12, 24時間 (n=3-5/時点)。EV分離・特性解析 (ISEV2023 MISEV推奨に準拠): (i) 分離手法 (isolation method) — 血漿および腹腔洗浄液を low-speed differential centrifugation (800×gで細胞・破片除去 → 2,500×gで大型EVペレット化) で大型EV (large EVs、0.1-2 μm) を分離、小型EV (small EVs、30-150 nm) は超遠心 (100,000×g, 70分) で並行回収、(ii) characterizationマーカー — Nanoparticle Tracking Analysis (NTA、NanoSight NS300) で粒子径分布と濃度を定量、透過型電子顕微鏡 (TEM、JEOL JEM-2100) で形態 (主に球形、サイズ範囲100-300 nm) を確認、フローサイトメトリーで膜マーカー陽性率を測定、(iii) 細胞起源マーカー — Ly6G陽性 (好中球nEV)、F4/80陽性 (単球/マクロファージmEV)、TER-119陽性 (赤血球eEV)、CD41陽性 (全血小板pEV)、CD62P陽性 (活性化血小板pEV) をフローサイトメトリーで定量。Spinning Disk Confocal Intravital Microscopy (SD-IVM): cremaster筋 (光学倍率20×, 40×) と肝臓洞様毛細血管 (20×, 40×, 63×) で蛍光標識nEV (Ly6G-PE)、NETs (extracellular DNA = exDNAをSYTOX Green、neutrophil elastase = NE、ヒストン H2A.X の3成分を共染色)、Kupffer細胞 (F4/80) をリアルタイム観察し、ImageJ v1.53aで EV個数/領域 (% per FOV) を定量。3D再構築 (z-stack) でEV-NETs共局在を解析。NET形成阻害: PAD4阻害剤 Cl-amidine 40 mg/kg を5% dimethyl sulfoxide (DMSO) 希釈でLPS投与1時間前にi.p.投与し、8時間後にIVMおよびNTA解析。外因性EV追跡: 8時間内毒素血症マウス腹腔洗浄液から大型EVを分離し、cytoplasmic成分染色色素で標識後、健常または8/24時間内毒素血症レシピエントに静注 (i.v.、intravenous)、観察40分間。ex vivo NET形成アッセイ: 骨髄好中球 (Percoll勾配、純度>95%) と単球 (純度80%) と赤血球を分離、LPS刺激ex vivoで分泌されたnEV/m+nEV/eEVを別途精製、骨髄好中球をLPS (100 ng/mL) で4時間刺激してexDNA面積を測定。EV添加タイミングを3条件 (LPS前/同時/後30分) で評価。Siglec-E遮断: 抗マウスSiglec-E中和抗体 (sialic acid-binding immunoglobulin-like lectin E、1:200) を好中球前処置に使用しeEV+LPS共刺激を行いNET形成を測定。統計はKruskal-Wallis + Dunn検定または one-way ANOVA + Bonferroni post hoc、unpaired two-tailed Student’s t-testを用い、結果はmean ± SDで p<0.05を有意とした。