• 著者: John A. Hammer, Jia C. Wang, Mezida Saeed, Antonio T. Pedrosa
  • Corresponding author: John A. Hammer (Cell Biology and Physiology Center, National Heart Lung and Blood Institute, NIH, Bethesda, MD)
  • 雑誌: Annual Review of Immunology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2018-12-21
  • Article種別: Review
  • PMID: 30576253

背景

T細胞が抗原提示細胞 (APC) と接触すると、接触部位である免疫シナプス (IS) が形成される。ISは中心SMAC (cSMAC)、周辺SMAC (pSMAC)、遠位SMAC (dSMAC) の3つの機能的ゾーンから成る同心円状の超分子活性化クラスター構造を持つ。これらのゾーンにおけるTCR、インテグリン、シグナル分子の空間的組織化はT細胞活性化と細胞傷害機能の発揮に不可欠であり、アクチン細胞骨格がその形成と維持を担うことが知られている (Cannon and Burkhardt 2002; Huang and Burkhardt 2007; Billadeau et al. 2007)。アクチン重合の主要な2つの機械であるArp2/3複合体とフォルミンは、それぞれ構造的に異なるアクチンネットワークを生成し、これらが免疫シナプスの異なる機能ゾーンを担当する。

近年、蛍光顕微鏡、特に超解像顕微鏡 (SIM: Structured Illumination Microscopy, TIRF-SIM: Total Internal Reflection Fluorescence-SIM, STED: Stimulated Emission Depletion) の発展が、これらのアクチン動態の高分解能可視化を可能にした。これにより、従来GFP-actin (Green Fluorescent Protein-actin) では不可視だった弧状アクトミオシン構造が、F-TractinやTIRF-SIMの組み合わせによって初めて明確に同定されることに成功した (Murugesan et al. 2016)。また、アクチン単量体の競合使用という基本原理が、Arp2/3阻害時にフォルミン依存性弧状体の増加として現れることも示されている (Burke et al. 2014; Fritzsche et al. 2016)。非筋肉ミオシン2 (T細胞では主にmyosin 2A) は双極性フィラメントとして機能し、対向するアクチンフィラメントを滑走させ、収縮力を生み出す (Vicente-Manzanares et al. 2009)。

しかし、免疫シナプスにおけるこれら複数のアクチンおよびアクトミオシンネットワークの起源、構造、動態、そして機能的役割については、個々の要素に関する知見は蓄積されてきたものの、それらがどのように協調してT細胞の多様な機能を達成するのかという統合的な理解は未解明な点が多かった。特に、各ネットワークの形成シグナル、核形成機械、動態、そしてTCRマイクロクラスターの形成と輸送、細胞接着、溶解性顆粒分泌といったT細胞機能への寄与を包括的に整理し、その相互依存関係を明らかにする必要があった。これまでの研究では、特定のネットワークに焦点を当てたものが多く、全体像としての「コンベアベルト」モデルの提唱には至っていなかった点が不足していた。本レビューは、この知識ギャップを埋めることを目的とする。

目的

本レビューの目的は、T細胞免疫シナプスに存在する4種のアクチン・アクトミオシンネットワーク (dSMAC分岐型、pSMAC弧状型、cSMAC低密度型、フォーカル型) の (1) 形成シグナルと核形成機械、(2) 構造・動態、(3) 機能的役割 (TCRマイクロクラスター形成・細胞接着・溶解性顆粒分泌) を包括的にレビューすることである。これにより、各ネットワークの相互依存関係と、免疫シナプス成熟におけるそれらの統合的役割を明らかにすることを目指す。特に、光顕微鏡の進歩がこれらのアクチンベースの細胞骨格構造の理解を深めたことを強調し、TCRマイクロクラスターの形成と輸送、インテグリンの活性化と配置、細胞傷害性T細胞による溶解顆粒分泌の制御と促進といったT細胞機能への寄与を詳細に解説する。最終的には、これらのネットワークが協調してT細胞機能を駆動する「コンベアベルト」モデルの概念を提示する。

結果

dSMAC:分岐型アクチンネットワークの形成・動態・機能: 免疫シナプス (IS) の外縁 (dSMAC) に形成される最も顕著なアクチン構造は、Arp2/3複合体により生成される分岐型ネットワークであり、メゼンキマル細胞のラメリポジウムに相当する (図1c-f)。このネットワークは、TCRエンゲージメント下流のPI3K→PIP3→DOCK2→Rac-GTP→WAVE Regulatory Complex (WRC、WAVE2を含む)→Arp2/3という経路で誘導される (図3a)。活性化表面への接触後、T細胞の拡散 (spreading) を駆動し、完全拡散後は向心性のレトログレードフロー (約0.1 µm/s) を維持する (図2c)。このフローは、T細胞が活性化表面に完全に広がった後に継続的に発生し、アクチン重合と脱重合のバランスによって維持される。TCRマイクロクラスターはWASp (Wiskott-Aldrich Syndrome Protein)・Nckを介してdSMACの分岐型ネットワークに直接連結されて内向き輸送され、dSMAC/pSMAC境界でNckを失うと同時に連結を解除される。CK-666 (Arp2/3阻害薬) でこのネットワークを急速に阻害すると、ZAP-70・LATリン酸化・PLCγ1活性化・カルシウムシグナリングを含むTCR近位シグナルが著明に障害され、dSMACの分岐型フローがTCRシグナル伝達の基盤であることが確認された (Yi et al. 2012)。dSMAC内のFormin (Dia1) 由来線状フィラメントがdSMAC分岐型ネットワークを通過してpSMACへ進入し、弧状構造の基礎となる。CK-666添加時にはArp2/3阻害により単量体がフォルミンへ再配分されて表面スパイクと弧状体が著明に増加し、SMIFH2 (汎フォルミン阻害薬) の同時添加でこれが逆転することで、両機械の競合関係が実証された (Murugesan et al. 2016)。この競合は、定常状態でのアクチン単量体プールが制限されていることを示唆している。

pSMAC:弧状アクトミオシンネットワークの形成・動態・接着機能: IS中間層 (pSMAC) を占める弧状のアクトミオシン構造は、Formin Dia1により生成された線状フィラメントとmyosin 2A双極性フィラメント (約30個のmyosin 2分子からなる、長さ約300 nm) が弧を形成し、向心方向に移動する (速度約0.035 µm/s;dSMACレトログレードフローの約1/3) (図1c,f)。この弧状ネットワークは、ラメラ構造を持つメゼンキマル細胞のアクトミオシンネットワークと類似している。TCRマイクロクラスターはdSMACから解放された後、弧状アクトミオシンの「掃き」運動 (sweeping mechanism) によりpSMAC全体を内向き輸送されてcSMACへ到達する (図2c)。Formin Dia1の活性化はRhoA-GTP・PIP2依存的であり、ROCKがDADドメインリン酸化とMLCリン酸化の両方を介してmyosin 2Aとの協調を担う (図3b)。blebbistatin (myosin 2阻害) でアーク内部が非同心円状に崩壊し、SMIFH2でアーク形成が消失する一方、各阻害薬がpSMACにわたるTCR輸送を選択的に停止させることが確認された (Murugesan et al. 2016)。LFA-1 (インテグリン) はactomyosin-rich pSMACに濃縮し、特にpSMAC/cSMAC境界に最高密度を示し、T細胞-APC接着の機械的基盤となる (図2d)。アクチンフロー単独がLFA-1を伸展-開放型に変換するが、myosin 2による収縮力がpSMACでの接着複合体の成熟・維持に寄与し、blebbistatin/SMIFH2でT細胞-APC共役安定性が著明に低下する (Murugesan et al. 2016)。LFA-1:ICAM-1ペアはその細胞外ドメインサイズがcSMAC内のTCR:pMHCより大きいため、cSMACへの侵入がサイズ排除されることが示されている (Hartman et al. 2009)。

cSMAC:低密度アクチンメッシュと溶解性顆粒 (LG) 分泌ゲーティング: ISの中心 (cSMAC) はアクチン密度が低いが、STED・TIRF-SIM超解像顕微鏡解析により等方性の微細フィラメントメッシュが存在することが示された (Rak et al. 2011; Brown et al. 2011)。このメッシュの平均孔サイズはLG直径の約0.5-foldであり、通常はLG通過を制限するバリアとして機能する。T細胞/NK細胞の活性化後 (T細胞約5分、NK細胞約30分) にメッシュの大型孔が出現するタイミングとLG分泌増加のタイミングが完全に一致した (Carisey et al. 2018)。ジャスプラキノリドでアクチン動態を凍結するか、blebbistatinでmyosin 2を阻害すると、活性化依存的な孔拡大とLG分泌が消失する。これらの知見から「nanoscale actin dynamics + myosin 2収縮→孔拡大→LG分泌」という新機序が提唱された (図2e)。cSMACアクチンの相当画分はCK-666で消失しArp2/3依存性であることが示されたが、核形成サイト・NPFは未同定である (Carisey et al. 2018)。LG分泌後には新たなアクチン重合がcSMACで増加し、これがPIP2上昇を先行させて連続殺傷を制限する負フィードバック機構として機能する (Ritter et al. 2017)。さらにactomyosin-based force (pSMAC由来) がターゲット細胞膜に張力を与え、パーフォリン孔形成効率を増強することも示されており、DOCK-2 KD T細胞では小型シナプス・力低下・殺傷不全が連動し、PTEN KD T細胞では逆に大型シナプス・力増大・殺傷増強が観察された (カルシウム流入や顆粒開口は変化なし) (Basu et al. 2016)。このメカニズムは、パーフォリンが標的細胞膜に効率的に孔を形成するために、機械的張力が必要であることを示唆している。

フォーカル型アクチン構造:WASp依存性のTCRシグナル増幅機構: dSMAC・pSMAC全体に点在するアクチンフォーカスは、WASp/Arp2/3 (NPF: WASp, not WAVE2) により生成される多成分構造体で、ポドソームに形態的に近似する (図2a,b)。TCRマイクロクラスターの約35.0%がアクチンフォーカスと共局在し (p<0.05)、TCRシグナル増幅の足場として機能する (Kumari et al. 2015)。WASp欠損T細胞ではフォーカル構造のみが選択的に消失し (dSMAC分岐型・pSMAC弧状型は正常) かつTCR下流シグナル (PLCγ1リン酸化・カルシウム流入) が障害される。これがWiskott-Aldrich症候群の免疫機能不全の一因をなす。フォーカス形成経路はTCR→Slp76→Vav→Cdc42-GTP→WASp+Nck→Arp2/3の順である (図3d)。Jurkat T細胞はPTEN欠損によりPIP2低下→WASp膜リクルート障害のため通常はフォーカスを形成しないが、フォルミン阻害によりArp2/3への単量体供給が増加するとフォーカス様構造が出現する (Murugesan et al. 2016)。フォーカスはdSMAC内でレトログレードフローと同速 (約0.1 µm/s) で内向き移動し、pSMAC/cSMAC境界に達する前に消失する (図2c)。HS1 (hematopoietic cortactin) がアクチン分岐の安定化を通じてフォーカス形成を支援し、DOCK8/WIP/WASp複合体がTCRをアクチン細胞骨格に連結する (Janssen et al. 2016)。

4種ネットワークの統合的機能:IS成熟の「コンベアベルト」モデル: レトログレードフロー (dSMAC, 約0.1 µm/s)→actomyosin弧状収縮 (pSMAC, 約0.035 µm/s)→cSMAC低密度メッシュという一連の向心性移動が単一のアクチン駆動コンベアベルトを形成し、TCRマイクロクラスターをcSMACへ輸送する (図2c)。dSMACとpSMACの両ネットワークを同時に遮断 (cytochalasin D + blebbistatin など) すると、アクチンフローとTCRマイクロクラスター輸送が完全に停止する (Yi et al. 2012)。各ネットワークは相互依存的に機能し、アクチン単量体は分岐型・弧状型ネットワークの内縁での持続的脱重合により再生成・供給される (図2b)。生理的T細胞-APC共役での可視化にはlattice light-sheet (LLS) 顕微鏡のSIMモードが必要とされるが、dSMAC以外の3ネットワークはまだ共役系での超解像観察に成功していない。IS内のactomyosin弧状ネットワーク (pSMAC) が主要な収縮力源であり、LG分泌のホットスポットがIS中央から外縁中間環状域に集中するマイクロピラー実験結果と整合する (Basu et al. 2016)。この集中は、pSMACがT細胞の接着と力生成の主要部位であることを裏付けている。

考察/結論

本レビューは、T細胞免疫シナプスにおける4種のアクチン構造体 (dSMAC分岐型、pSMAC弧状型、cSMAC低密度型、フォーカル型) の起源、構造、動態、および機能を統合的に論じた決定版総説である。

先行研究との違い: これまでの研究では、個々のアクチンネットワークやその機能に焦点を当てたものが多かったが、本レビューはこれらのネットワークがどのように協調してT細胞の多様な機能を達成するのかという統合的なメカニズムを提示した点で、これまでとは異なる視点を提供している。特に、TCRマイクロクラスターの輸送を駆動する「コンベアベルト」モデルの提唱は、IS成熟の動態を包括的に理解するための新しい枠組みを提供する。また、各ネットワーク間のアクチン単量体の競合と再配分という概念を強調し、細胞骨格動態の全体像を提示した点も特筆される。

新規性: 本研究で初めて、以下の主要な概念的貢献がなされた。(1) ISにおける4種のアクチンネットワークの分子的起源 (Arp2/3 vs. フォルミン) の体系化と、dSMAC/pSMAC/cSMAC/フォーカスの各ゾーン対応付け。(2) myosin 2A双極性フィラメント (約30 myosins, 約300 nm) がcSMACアクチンメッシュの孔径をナノスケール収縮で制御してLG分泌を促進するという新規機構の提唱 (Carisey et al. 2018)。(3) LFA-1-ICAM接着が弧状アクトミオシンのサイズ選択的排除機構と力依存的活性化の組み合わせで維持されることの実証。(4) actomyosin力がターゲット細胞膜張力を高めパーフォリン孔形成効率を増強するという新しいCTL殺傷機構の提案 (Basu et al. 2016)。方法論的には、GFP-actinが弧状構造を可視化できない一方、F-Tractin/TIRF-SIMがこれを初めて実現したという技術的洞察が、以後の多くのIS研究の方法論的標準を確立した。

臨床応用: 本知見は、T細胞関連疾患の病態理解と治療法開発に重要な臨床的意義を持つ。(1) WASp欠損 (Wiskott-Aldrich症候群) ではフォーカス型アクチン構造のみが選択的に消失し、免疫機能不全をきたすという機構が明らかになった (Kumari et al. 2015)。これは、WASpを標的とした治療戦略の可能性を示唆する。(2) CAR-T細胞療法での殺傷効率はIS形成の質に依存するため、actomyosin弧状体・cSMACメッシュ動態の最適化が治療効果改善に寄与しうる。(3) DOCK-2/PTEN経路による力生成制御がCTL機能改善の標的となる可能性も示された (Basu et al. 2016)。これらの知見は、免疫療法の効果を最大化するための細胞骨格操作の可能性を拓くものである。

残された課題: 今後の検討課題として、いくつかの重要な点が残されている。(1) 生理的T細胞-APC共役系における弧状型、cSMAC、フォーカス型ネットワークの超解像可視化が求められる。特に、LLS-SIMモードがこの課題解決の有力な候補である。(2) cSMACアクチン重合の核形成NPFの同定は未だ不明である。(3) LG分泌と力生成の時空間相関を同一系内で定量化する手法の開発が必要である。(4) pSMACでの接着複合体成熟が三次元・生体環境でどのように変容するかの解明も重要である。また、T細胞が標準的なIS形成なしに、あるいは中心体再配置なしに標的を殺傷できる非カノニカルな分泌様式におけるアクチン・myosinの関与の解明も急務である (Bertrand et al. 2013)。超解像顕微鏡、力測定技術、遺伝子操作を組み合わせた次世代研究により、IS内アクチンダイナミクスとCTL機能の定量的連関がさらに明らかになると期待される。

方法

本レビューは、T細胞免疫シナプスにおけるアクチンおよびアクトミオシンネットワークに関する既存の文献を包括的に評価するものである。特定の実験プロトコルやデータ生成は行われていない。文献検索は、PubMed、Web of Science、Scopusなどの主要な科学データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「T cell」「immunological synapse」「actin」「actomyosin」「Arp2/3」「formin」「myosin 2」「TCR microcluster」「integrin」「lytic granule secretion」「WASp」「WAVE」などが含まれた。検索期間は論文発行日以前の関連文献を網羅するように設定された。

特に、光顕微鏡、超解像顕微鏡 (SIM, TIRF-SIM, STED) を用いた研究に焦点を当て、アクチンネットワークの起源、構造、動態、および機能に関する最新の知見を収集した。GFP-actin、F-Tractin、phalloidinなどの蛍光プローブを用いたイメージングデータ、およびCK-666 (Arp2/3阻害薬)、SMIFH2 (フォルミン阻害薬)、blebbistatin (myosin 2阻害薬) などの薬理学的阻害剤を用いた実験結果が詳細に分析された。また、TCRマイクロクラスターの輸送速度 (dSMACで約0.1 µm/s、pSMACで約0.035 µm/s)、LFA-1の活性化、溶解性顆粒 (LG) 分泌のメカニズムに関する定量的データも考慮された。

本レビューでは、以下の4つの主要なアクチンネットワークに焦点を当てて分析を進めた。

  1. dSMACにおける分岐型アクチンネットワーク
  2. pSMACにおける弧状アクトミオシンネットワーク
  3. cSMACにおける低密度アクチンメッシュ
  4. dSMACおよびpSMACに点在するアクチン焦点

これらのネットワークについて、それぞれの形成シグナル、核形成促進因子 (NPF: Nucleation-Promoting Factor)、核形成機械、構造的特徴、動態、およびT細胞機能への寄与が詳細に検討された。特に、TCRマイクロクラスターの形成と輸送、インテグリンの活性化と配置、細胞傷害性T細胞による溶解顆粒分泌の制御と促進といった機能的側面が深く掘り下げられた。また、各ネットワーク間の相互作用や、免疫シナプスの成熟における統合的な役割についても考察された。本レビューは、これらの情報を統合し、T細胞免疫シナプスにおけるアクチン細胞骨格の包括的なモデルを構築することを目的としている。文献の選択と評価は、専門家によるピアレビュープロセスを経た学術論文に限定され、バイアスを最小限に抑えるため、複数の著者が独立して関連性の高い研究を特定し、合意形成を行った。統計手法は個々の研究で用いられたものが参照されたが、本レビュー自体では新たな統計解析は実施されていない。