- 著者: Olino K, Edil BH, Meckel KF, Pan X, Thuluvath A, Pardoll DM, Schulick RD, Yoshimura K, Weber WP
- Corresponding author: Kelly Olino, MD (Department of Surgery, Johns Hopkins University, 600 N Wolfe St, Baltimore, MD 21287)
- 雑誌: Archives of Surgery
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-05-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 22785644
背景
大腸がん肝転移は、切除不能な進行がん患者の多くにおいて予後を規定する主要因であり、有効な全身免疫療法の確立が喫緊の課題である。著者らの先行研究では、actA遺伝子およびinternalin B遺伝子を欠失させた二重弱毒化Listeria monocytogenes (LMD) が、BALB/cマウスの大腸がん肝転移モデルにおいて抗腫瘍効果を示すことが確認されていた Yoshimura et al. CancerRes 2007。しかし、CD1d欠損マウス(NKT細胞の一部が欠如)ではLMDの効果が著明に増強されたことから、NKT細胞の特定のサブセットがLMDの抗腫瘍効果を阻害している可能性が示唆された。この知見は、NKT細胞が腫瘍免疫において促進と抑制の双方の役割を持つという、これまでの報告と一致する。
NKT細胞は、T細胞とNK細胞の両方の受容体構造と機能を持つリンパ球であり、腫瘍免疫監視において複雑な役割を果たすことが知られている。これまでの研究では、NKT細胞が腫瘍免疫を促進する側面 (Cui et al. Science 1997; Smyth et al. J Exp Med 2000) と、抑制する側面 (Terabe et al. Nat Immunol 2000; Park et al. Int J Cancer 2005) の両方が報告されており、その機能的役割は未解明な部分が多い。特に、Tヘルパー (Th) 2サイトカインであるIL-13がIL-4R (interleukin-4 receptor)-STAT6経路を介して腫瘍免疫監視を下方調節することが報告されており (Terabe et al. Nat Immunol 2000)、このIL-13は主にNKT細胞から産生されることが示されている。また、非classic型のtype II NKT細胞(Vα14Jα18陰性のCD1d拘束性T細胞)も、腫瘍免疫監視を抑制するのに十分であることが示されていた (Terabe et al. J Exp Med 2005)。これらの知見は、NKT細胞サブセットの選択的な活性化または抑制が、腫瘍免疫応答に大きな影響を与える可能性を示唆する。
近年、NKT細胞の機能的サブセット分類モデルが提唱され、type I NKT細胞 (invariant NKT; iNKT) をα-galactosylceramide (α-GalCer) で選択的に活性化するとTh1応答が増強され、sulfatideがtype II NKT細胞を選択的に刺激するという報告がなされた (Ambrosino et al. J Immunol 2007)。このモデルに基づき、グリコリピドによるNKT細胞サブセットの選択的操作が、LMDの抗腫瘍効果を増強する可能性が考えられる。しかし、LMD治療におけるNKT細胞の具体的な免疫抑制機序、特にIL-13産生との関連性、および特定の糖脂質抗原がLMDの抗腫瘍活性に与える影響については、詳細な検討が不足していた。本研究では、これらのギャップを埋めることを目的とし、グリコリピド抗原の単独またはLMDとの併用が大腸がん肝転移マウスの生存率に与える影響を評価した。
目的
本研究の目的は、弱毒化Listeria monocytogenes (LMD) 治療モデルにおけるNKT細胞の免疫抑制機序を、IL-13産生動態の観点から明らかにすることである。具体的には、LMD投与後の肝臓および脾臓NKT細胞におけるIL-4、IL-10、IL-13の遺伝子発現変化を解析し、IL-13がLMDの抗腫瘍効果を阻害する可能性を評価する。
さらに、type I NKT細胞アゴニストであるα-galactosylceramide (α-GalCer) およびtype II NKT細胞刺激剤であるsulfatideの単独投与、またはLMDとの併用が大腸がん肝転移マウスの生存率に与える影響を評価する。特に、グリコリピドの投与タイミングが抗腫瘍効果に及ぼす影響を詳細に検討し、最適な免疫介入ウィンドウを特定することを目指す。これらの検討を通じて、特定の糖脂質抗原によるNKT細胞サブセットの選択的刺激がLMDの抗腫瘍活性を有意に増強する可能性を検証し、大腸がん肝転移に対する新規複合免疫療法の開発に向けた基礎的知見を提供することを目的とする。
結果
LMD投与後の肝臓NKT細胞におけるIL-13遺伝子発現の早期増強: 肝臓および脾臓から分離したNKT細胞において、IL-4およびIL-10の遺伝子発現は、LMD投与や腫瘍接種によって有意な変化を示さなかった。しかし、LMD投与後day 7の肝臓NKT細胞では、IL-13遺伝子発現の増加傾向が観察された (Table)。具体的には、LMD+CT26群のday 7におけるIL-13発現は1.60×10⁻³であったのに対し、naiveマウスでは1.28×10⁻⁸と、5桁以上の差を示した。この差は統計的有意差には至らなかった (p=0.12) ものの、生物学的に重要な変化である可能性が示唆された。対照的に、未治療担癌マウス (CT26 alone) では、day 10 (後期) に肝臓NKT細胞でIL-13発現の増加が認められた (1.59×10⁻³)。一方で、LMD投与群ではday 10のIL-13発現は6.19×10⁻⁹まで低下していた。この時間的パターンの逆転は、LMDが腫瘍接種後早期の段階でNKT細胞のIL-13産生を誘導し、これが免疫抑制をもたらす可能性を示唆する。NKT細胞はあらかじめサイトカインmRNAを蓄積しており、抗原刺激に迅速に応答する特性を持つことから、遺伝子発現変化がタンパク質産生動態を完全に反映しない可能性も考慮される。脾臓のNKT細胞からのサイトカイン産生パターンは肝臓のNKT細胞と一部異なり、脾臓でのIL-13誘導は小さく、腫瘍接種後の肝臓特異的な免疫調節が示唆された。
α-GalCer単独投与による著明な生存率改善と投与タイミングの重要性: 腫瘍接種day 1にα-GalCer 1 μgを単回腹腔内投与した場合、87.5%の生存率 (n=8匹中7匹生存、1匹がday 45に死亡) を達成した。これは、無治療群n=9匹が全例死亡したのと比較して、統計的に有意な生存延長効果を示した (p<0.001)。α-GalCerの投与時期が遅れるにつれて効果は急激に低下し、day 3単回投与では14.3%の生存率 (p=0.006 vs 無治療) に留まった (Figure 1)。day 5およびday 7投与ではさらに低い生存率となった。day 3、6、9の3回投与では57.1%の生存率となり、day 3単回投与 (14.3%) よりも改善傾向を示したが、両群間の統計的有意差は得られなかった (p値未達)。この投与タイミングの決定的重要性は、大腸がん肝転移後の極めて狭い免疫介入ウィンドウが存在することを示す重要な所見である。α-GalCer 4 μg投与では、1 μg投与との間に明確な用量依存的差異は確認されなかった。
グリコリピドとLMDの相乗的生存効果: LMD単独投与 (day 3、6、9投与) は、無治療群に対して有意な生存延長効果を示した (p=0.04)。α-GalCer 1 μg (day 3単回) とLMDを組み合わせた場合、LMD単独群と比較して生存改善の強い傾向が認められ (p=0.07)、無治療群との比較では有意な生存延長が確認された (p=0.004)。sulfatide 25 μg (day 3単回) とLMDの組み合わせでは、LMD単独群と比較して有意に生存率が改善した (p=0.02 vs LMD単独、p=0.005 vs 無治療) (Figure 2)。LMD+α-GalCer群とLMD+sulfatide群の間には統計的有意差がなく、両グリコリピドは異なるNKTサブセットを介しながらも、類似した程度のLMD増強効果を示した。これは単純なTh1/Th2サイトカインパラダイムでは説明しきれない複雑な免疫調節機序の存在を示唆する。グリコリピドとLMDの相乗効果は、投与タイミングがday 3と共通している点も注目に値し、早期免疫介入の重要性がグリコリピド単独実験の知見と一致することが確認された。全生存試験の結果を通じて、無治療群は全例が腫瘍増大により死亡または安楽死した一方、LMD+sulfatide群では複数の長期生存マウスが観察されるなど、免疫記憶の樹立を示唆する個体も存在した。
LMDとグリコリピド併用におけるNKT細胞の役割: 本研究の結果は、LMD治療におけるNKT細胞の役割が複雑であることを改めて示唆する。LMD単独投与後の肝臓NKT細胞におけるIL-13発現の早期増加傾向は、NKT細胞がLMDの抗腫瘍効果を抑制する可能性を示唆する。しかし、α-GalCerやsulfatideといったグリコリピドがLMDの抗腫瘍活性を増強したことは、NKT細胞の特定のサブセットを適切に刺激することで、LMDの治療効果を向上させられることを示唆する。特にsulfatideはtype II NKT細胞を刺激すると考えられており、そのLMD増強効果は、type II NKT細胞が単に免疫抑制的であるだけでなく、特定の状況下で抗腫瘍免疫を促進する可能性を示唆する。これらの結果は、NKT細胞サブセットのバランスを操作することが、LMDベースの免疫療法において重要な治療戦略となり得ることを示している。
考察/結論
本研究の主要な知見は三点である。第一に、LMD治療後早期の肝臓NKT細胞でIL-13発現が増強される傾向があり、これがLMDの抗腫瘍効果を阻害する機序の少なくとも一部を担うと考えられた。統計的有意差はp=0.12に止まったものの、5桁に及ぶ発現量の差は生物学的に有意である可能性が高く、また腫瘍接種のみ群では逆にday 10に増加するという時間的パターンの逆転はNKT細胞の時期特異的IL-13産生を示す知見として重要である。この結果は、NKT細胞が腫瘍免疫監視をIL-13およびIL-4R-STAT6経路を通じて下方調節するというこれまでの報告 (Terabe et al. Nat Immunol 2000) と一致する。
第二に、α-GalCerのday 1早期単回投与で87.5%という著明な生存改善が得られた一方、day 3投与では14.3%へと劇的に低下したことから、腫瘍接種直後の狭い免疫介入ウィンドウの存在が明確に示された。この知見は臨床的には術後早期または腫瘍診断直後の免疫賦活介入の重要性を示唆する。手術による腫瘍播種リスクがある転移巣切除後の補助免疫療法設計において、投与タイミングの最適化が奏効率を大きく左右することを示す前臨床的根拠となる。また複数回投与 (day 3、6、9) が単回 (day 3) より効果的な傾向を示したことから、反復投与による免疫持続刺激の有効性も示唆される。
第三に、Th2応答と関連するtype II NKT細胞を選択的に刺激すると考えられるsulfatideもLMDとの相乗効果を示したことは注目に値する。Ambrosino et al. (J Immunol 2007) のtype I/type II NKT cross-regulationモデルに基づけば、sulfatideによるtype II NKT細胞の活性化がtype I NKTを間接的に調節し、結果的に抗腫瘍免疫を増強するという複雑な機序が示唆される。α-GalCerとsulfatideの効果に有意差がなかったことはこの複雑性を反映している。本研究の新規性は、LMDによる免疫療法において、NKT細胞のIL-13産生が早期に誘導され、これが抗腫瘍効果を抑制する可能性を示唆した点、および特定の糖脂質抗原がLMDの抗腫瘍活性を増強しうることを示した点にある。
先行研究との違い: 本研究は、LMD治療におけるNKT細胞の免疫抑制機序をIL-13産生動態の観点から詳細に解析した点で、これまでの研究とは異なるアプローチをとった。特に、LMD投与後の肝臓NKT細胞におけるIL-13発現の早期増強傾向は、これまで明確に報告されていなかった知見である。
新規性: 本研究で初めて、特定の糖脂質抗原、特にsulfatideが弱毒化リステリア菌(LMD)の抗腫瘍活性を有意に増強する可能性を新規に示した。これは、NKT細胞サブセットの選択的刺激がLMDベースの免疫療法の効果を向上させるという、これまで報告されていない治療戦略の可能性を示唆する。
臨床応用: 本知見は大腸がん肝転移に対するListeria免疫療法とグリコリピドを組み合わせた複合免疫療法開発の前臨床的根拠を提供するものである。臨床的意義として、投与タイミングの至適化が治療効果に大きく影響することが示された点は、今後の臨床試験設計において重要な含意を持つ。
残された課題: 方法論的限界として、NKT細胞は既成のサイトカインmRNAを保有して迅速に応答する性質から、遺伝子発現の変化がタンパク質産生を完全に反映しない可能性がある。IL-13の統計的有意差が得られなかった (p=0.12) ことはサンプルサイズ (各群triplicate) の限界を示す。今後の検討課題として、type I/type II NKTサブセットのより詳細な機能解析、他のグリコリピドアゴニスト (7DW8-5等の第2世代α-GalCer類似体) の検討、IL-13アンタゴニスト早期投与との組み合わせ効果検証、ヒト腫瘍組織でのNKT細胞の機能的サブセット解析等が残されている。
方法
動物モデルと腫瘍細胞株: 8〜10週齢のBALB/cメスマウス (National Cancer Instituteより購入) を使用し、Johns Hopkins大学動物実験委員会ガイドラインに従って飼育した。大腸がん26 (CT26) 細胞株は既報の通り維持した。肝転移モデルは、hemispleen注入法 (経脾注入後に脾臓の半分を結紮切除する肝選択的転移誘導法) を用いて作製した。具体的には、CT26細胞 (1×10⁵個) を脾臓に注入し、その後脾臓の一部を結紮切除することで肝臓への選択的転移を誘導した。各実験群はn=5〜9匹のマウスで構成され、生存を主要エンドポイントとした。
薬剤調製と投与:
- LMD: actA遺伝子とinternalin B遺伝子を欠失させた二重弱毒化Listeria monocytogenes株 (Anza Therapeutics提供) を使用した。細菌は既報の通り培養・維持した Yoshimura et al. CancerRes 2007。LMDは、腫瘍接種後day 3、6、9に0.1×LD50 (median lethal dose) (1×10⁷ CFU/100 μL PBS) を腹腔内投与した。
- α-GalCer: 合成α-GalCerはクロロホルム/メタノール (2:1) に溶解し、一晩室温で乾燥させた後、-80℃で保存した。投与時には100% DMSO (dimethyl sulfoxide) に溶解し、80℃で1分間加熱した後、PBSで1:200に希釈した。1 μgまたは4 μgのα-GalCerを総量200 μLで腹腔内投与した。単回投与のタイミングは、腫瘍接種後day 1、3、5、7と系統的に変化させ、効果の時間依存性を評価した。
- Sulfatide: Sulfatideは100% DMSOに溶解し、37℃で10分間加熱した後、-20℃で保存した。投与時にはPBSで1:20に希釈し、25 μgを総量200 μLで腹腔内投与した。sulfatideの投与タイミングは、主に腫瘍接種後day 3に設定した。
NKT細胞IL-13遺伝子発現解析: 腫瘍接種後day 7およびday 10に、肝臓および脾臓からNKT細胞を採取した。NKT細胞は、DX5 (CD49b) およびCD3特異的モノクローナル抗体 (BD Biosciences) で染色し、フローサイトメトリーによりソーティングした。ソーティングされた細胞からRNeasy Mini Kit (Qiagen) を用いて総RNAを抽出し、逆転写反応を行った。β-actin (ハウスキーピング遺伝子)、IL-4、IL-10、IL-13遺伝子の特異的配列は、定量PCR (Invitrogen) により増幅した。サイトカイン遺伝子発現レベルは、同一サンプル中のβ-actin発現量で補正し、蛍光単位として報告した。各サンプルはtriplicateで測定した。
統計解析: 遺伝子発現の差異はMann-Whitney U検定を用いて解析した。生存実験はlog-rank検定を用いて解析し、P<0.05を統計的有意差と判断した。