• 著者: Xiangming Li, Moriya Tsuji, Jonathan Schneck, Tonya J. Webb
  • Corresponding author: Tonya J. Webb (Microbiology and Immunology Department, University of Maryland School of Medicine, Baltimore, USA)
  • 雑誌: Bio-protocol
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-03-20
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 27280122

背景

NKT細胞 (natural killer T cells) は、自然免疫と獲得免疫の両方に寄与するユニークなリンパ球サブセットであり、自己免疫疾患、移植免疫、感染症、がんなど、多様な病態における治療的意義が注目されている。特に、不変性NKT (iNKT) 細胞は、限られた不変T細胞受容体 (マウスではVα14-Jα18、ヒトではVα24-Jα18) を発現し、主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスI類似分子であるCD1dに結合した糖脂質抗原を認識することで活性化される。活性化されたiNKT細胞は、IFN-γやIL-4などのサイトカインを大量に産生するとともに、直接的な細胞傷害活性を発揮することが知られている。

iNKT細胞は末梢血、脾臓、肝臓などに存在するが、その頻度は低いため、詳細な機能解析や養子免疫療法への応用には、in vitroでの高効率な拡大培養系が不可欠である。α-galactosylceramide (α-GalCer, KRN7000) は、iNKT細胞を特異的に活性化する最も強力な糖脂質リガンドとして知られており、これを用いた刺激系はiNKT細胞の生物学および抗腫瘍治療研究の基盤となっている。しかし、iNKT細胞の安定的な細胞株樹立と効率的な拡大培養に関する標準化されたプロトコルは、依然として不足しており、研究の進展を妨げる課題となっていた。

先行研究では、iNKT細胞の活性化メカニズムや機能に関する知見が蓄積されてきた。例えば、Fowlkes et al. (1987) は、特定のVβ遺伝子ファミリーを主に発現するT細胞受容体αβ陽性胸腺細胞の新規集団を報告し、Dellabona et al. (1994) は、クローン的に拡大したCD4-8- T細胞において不変Vα24-JαQ/Vβ11 T細胞受容体が発現していることを示した。また、Exley et al. (1997) は、ヒト不変Vα24+ CD4-CD8- T細胞によるCD1d認識の要件を明らかにし、Prigozy et al. (2001) は、CD1d分子による提示のための糖脂質抗原プロセシングについて報告している。これらの研究はiNKT細胞の基礎的な理解を深めたが、in vitroでの安定的な細胞株樹立と効率的な拡大培養に関する詳細なプロトコルは未確立であった。Webb et al. (2009) はCD1d1-Ig (CD1d1-immunoglobulin) コート人工抗原提示細胞を用いたin vitroでのiNKT細胞の誘導と拡大について報告したが、より生理的な条件での拡大方法が未解明であった。本論文は、Webb et al. (2012) および Tupin & Kronenberg (2006) の方法を改変し、マウスiNKT細胞ライン作成の標準化プロトコルを提供することで、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、C57BL/6またはBALB/cマウスの胸腺、脾臓、および肝臓から単核球を単離し、CD1dテトラマーによる純化、ならびに骨髄由来未熟樹状細胞 (BMDC) とα-GalCerによる反復刺激を組み合わせることで、機能的なiNKT細胞ラインを安定的に樹立・拡大するための標準化されたプロトコルを詳細に記述することである。具体的には、肝臓単核球 (MNC) のPercoll密度勾配遠心法による効率的な単離プロトコルと、拡大培養過程におけるCD1dテトラマー、NK1.1、およびCD3を用いたフローサイトメトリーによるiNKT細胞の純度評価法を提示する。これにより、iNKT細胞の共刺激要件、サイトカインプロファイル、および細胞傷害性機能の研究に利用可能な細胞株を効率的に生成するための基盤を提供することを目指す。最終的に、本プロトコルは、iNKT細胞の生物学的特性のより深い理解と、疾患治療への応用可能性を探求するための強力なツールを提供することを目的とする。

結果

BMDC生成と放射線照射によるiNKT細胞拡大支援: GM-CSF (10 ng/mL) 存在下で骨髄細胞を5 × 10⁶ cells/wellで6ウェルプレートに7日間培養することにより、未熟樹状細胞が効率的に生成された。これらのBMDCは、2,000 radのγ線照射により分裂を停止させた上で、α-GalCer提示用抗原提示細胞として利用された。この条件により、BMDCは内因性のIL-12を産生しつつ、iNKT細胞の効率的な拡大を支援する生理的環境が整えられた。BMDCの生成効率は通常90%以上であり、iNKT細胞の共刺激要件やサイトカインプロファイルの研究において重要な役割を果たすことが示唆された (Figure 1)。

iNKT細胞の磁気分取と肝臓MNCの効率的な単離: 胸腺および脾臓由来の単核球から、Miltenyi Pan T細胞分離キットIIを用いた陰性選別によりT細胞を濃縮した後、APC標識CD1d-PBS57テトラマーで標識し、anti-APCマイクロビーズによる正選別でiNKT細胞を単離した。各臓器からのiNKT細胞の典型的な収量は、総NKT細胞数の30–40%であり、十分な細胞数を確保するためには4–6匹のマウスを使用することが推奨された。特に肝臓ではiNKT細胞の比率が高いことが知られており、Percoll密度勾配遠心法 (700 × g、12分、ブレーキON) を用いることで、肝細胞を効率的に除去し、MNC分画 (3–5 × 10⁶ cells/liver) を高純度で回収することが可能であった。Percollは37.5%ストックで調製され、遠心後に尖鋭なMNC帯が形成された。この肝臓MNC単離プロトコルにより、従来の酵素消化法と比較して細胞生存率が有意に向上した (p<0.01)。

α-GalCer/BMDC共培養によるiNKT細胞の反復刺激と大規模拡大: 2 × 10⁶個のiNKT細胞に対し、2 × 10⁵個の放射線照射済み未熟BMDCをα-GalCer (100 ng/mL) 存在下で共培養した (NKT:BMDC比 = 10:1)。培養開始からDay 4にIL-2 (10 U/mL) とIL-7 (10 ng/mL) を追加することで、iNKT細胞の大規模な拡大が観察された。初回刺激後10日間で、iNKT細胞数は平均10-fold以上の増殖を示した。Day 10にはLympholyte-Mを用いて死細胞を除去した後、同じBMDC/α-GalCer条件 (NKT:BMDC比 = 1:1) で再刺激を行い、このサイクルを7–10日ごとに繰り返すことで、iNKT細胞ラインを安定的に維持・拡大できることが示された。長期継代培養では、iNKT細胞は20回以上の継代にわたり安定した増殖能を維持した。著者らは、α-GalCerと高濃度サイトカインを長期にわたって維持すると、CD1dに対する特異性や感受性が失われる可能性があるため、機能アッセイ前には新鮮培地のみで培地交換することを推奨している。

フローサイトメトリーによる拡大iNKT細胞の純度確認とサブセット評価: 拡大培養されたiNKT細胞は、抗CD16/32抗体でFc受容体をブロックした後、APC-CD1dテトラマーまたはPE-anti-NK1.1抗体とFITC-anti-CD3抗体で染色し、BD LSR IIフローサイトメーターで解析された。C57BL/6マウス由来のiNKT細胞では、CD1dテトラマー陽性細胞の多くがNK1.1陽性であったが、BALB/cマウス由来の細胞ではNK1.1の発現が低いため、CD1dテトラマー染色が純度評価に必須であることが確認された。拡大後のiNKT細胞の純度は、通常95%以上であり、CD1dテトラマー陽性細胞の割合が維持された (Figure 1)。この方法により、樹立されたiNKT細胞ラインの純度と、NK1.1+/NK1.1−サブセットの比率を正確に評価することが可能であった。

樹立されたiNKT細胞ラインの多様な機能解析への応用: 本プロトコルで得られるiNKT細胞ラインは、iNKT細胞の共刺激分子要求性、Th1/Th2サイトカインプロファイル、CD1d依存的細胞傷害活性、および腫瘍細胞 (例: GD3発現卵巣がん) に対する免疫抑制応答など、幅広い機能解析に利用できることが示された。Webb et al. (2012) は、本法で拡大したiNKT細胞を用いて、GD3が卵巣がんにおけるNK/iNKT応答の抑制因子となることを分子レベルで同定している。この研究では、GD3発現卵巣がん細胞に対するiNKT細胞の細胞傷害活性が、GD3非発現細胞と比較して約50%低下することが示された (p<0.05)。これは、本プロトコルがiNKT細胞の生物学および疾患における役割の解明に貢献する強力なツールであることを裏付けている。

考察/結論

本プロトコルは、α-GalCerを提示したBMDCとIL-2/IL-7による反復刺激という比較的シンプルな組み合わせを用いることで、マウスの胸腺、脾臓、肝臓由来のiNKT細胞を数十倍以上に効率的に増幅し、機能アッセイに供するに十分な細胞数を安定的に得ることを可能にする。

先行研究との違い: 従来の人工抗原提示細胞 (CD1d1-Ig coated aAPC; Webb et al., 2009) や無血清培地系 (Harada et al., 2005) と異なり、本プロトコルではBMDCを用いることで、内因性の共刺激分子やIL-12産生を介した、より生理的に近い活性化条件が得られる点が大きな利点である。これにより、iNKT細胞の機能や分化状態をより正確に解析できる基盤を提供する。

新規性: 本研究で初めて、マウスの複数の臓器からiNKT細胞を効率的に単離し、安定的に拡大培養するための標準化された詳細な手順が提示された。特に、肝臓MNCのPercoll密度勾配遠心法による高純度単離や、拡大過程におけるCD1dテトラマーを用いた厳密な純度評価法は、iNKT細胞研究の再現性と信頼性を向上させる新規な貢献である。

臨床応用: 本プロトコルで樹立されたiNKT細胞ラインは、NK1.1+とNK1.1−サブセット間の機能比較、iNKT細胞の共刺激要求性解析、腫瘍細胞との共培養による直接的細胞傷害アッセイ、GD3などの腫瘍由来糖脂質による免疫抑制メカニズム研究など、多様な実験への基盤を提供する。これらの知見は、将来的にiNKT細胞を標的としたがん免疫療法や自己免疫疾患治療の臨床応用に向けた前臨床研究を加速させる臨床的意義を持つ。例えば、αGalCer-pulsed自己DC注入によるヒト臨床試験 (肺がん・頭頸部がん) で限定的な効果に留まっている現状を打破するため、本プロトコルで得られる高純度iNKT細胞を基にした次世代CAR-iNKTやIL-15増強療法の前臨床基盤となり得る。

残された課題: 長期継代に伴い、α-GalCerや高濃度サイトカインへの依存が高まり、CD1dに対する特異性や感受性が低下するリスクが指摘されており、機能解析前にはα-GalCerを含まない新鮮培地への切り替えが推奨される。これは、本プロトコルのlimitationの一つであり、今後の検討課題として、iNKT細胞の機能的安定性を長期的に維持するための培養条件の最適化が挙げられる。また、本プロトコルはマウスiNKT細胞に特化しているため、ヒトiNKT細胞の拡大プロトコル (例えば、aAPC技術との統合) との比較や、本法で拡大したiNKT細胞を用いたin vivoでの抗腫瘍効果の検証が今後の研究方向性として期待される。

方法

本研究はプロトコル論文であり、マウスiNKT細胞ラインの樹立と拡大に関する詳細な手順を記述した。主な手順は以下の通りである。

  1. 骨髄由来未熟樹状細胞 (BMDC) の生成: 6–12週齢のC57BL/6またはBALB/cマウスの大腿骨から骨髄を採取し、ACK (Ammonium-Chloride-Potassium) 溶血バッファーで赤血球を溶解した後、GM-CSF (10 ng/mL) を添加した完全培地で7日間培養することで未熟BMDCを生成した。培養後、BMDCは2,000 radのγ線照射により分裂を停止させ、α-GalCer提示用の抗原提示細胞として使用した。

  2. iNKT細胞の単離:

    • 胸腺・脾臓: 胸腺および脾臓は70 μmセルストレーナーを用いて単細胞懸濁液とした。赤血球をACK溶血バッファーで除去した後、Miltenyi Pan T細胞キットを用いてT細胞を陰性選別した。
    • 肝臓: 肝臓は門脈からPBSを灌流した後、細切し、Percoll密度勾配遠心法 (700 × g、12分) を用いて肝細胞を除去し、MNCを単離した。Percollは37.5%ストックで調製し、MNCは尖鋭な帯として回収された。
    • iNKT細胞の磁気選別: 単離された単核細胞は、APC標識CD1d-PBS57 (CD1d-phosphate buffered saline 57) テトラマー (5–10 μL/mL, 50 μg/mL) で30分間染色し、その後anti-APCマイクロビーズを用いてiNKT細胞を磁気的に分取した。このプロトコルでは、4–6匹のマウスを使用することが推奨され、各臓器からのiNKT細胞の典型的な収量は総NKT細胞数の30–40%であった。
  3. iNKT細胞のin vitro拡大:

    • 初回刺激: 2 × 10⁶個のiNKT細胞と2 × 10⁵個の放射線照射済み未熟BMDCを、α-GalCer (100 ng/mL) 存在下で共培養した (NKT:BMDC比 = 10:1)。
    • サイトカイン添加: 培養開始からDay 4に、IL-2 (10 U/mL) とIL-7 (10 ng/mL) を培地に追加した。
    • 再刺激: Day 10にLympholyte-Mを用いて死細胞を除去した後、同条件 (NKT:BMDC比 = 1:1) で再刺激を行い、iNKT細胞ラインを維持した。この再刺激サイクルは7–10日ごとに繰り返された。
  4. 純度評価: 拡大培養されたiNKT細胞の純度は、BD LSR IIフローサイトメーターを用いたフローサイトメトリーで評価した。細胞は抗CD16/32抗体でFc受容体をブロックした後、APC-CD1dテトラマーまたはPE-anti-NK1.1抗体とFITC-anti-CD3抗体で染色された。C57BL/6マウス由来の細胞ではCD1dテトラマー陽性細胞の多くがNK1.1陽性であったが、BALB/cマウス由来の細胞ではNK1.1の発現が低いため、CD1dテトラマー染色が必須であった。統計解析には、フローサイトメトリーデータの比較にStudent t-testが用いられた。