- 著者: Amin H. Nassar, Elio Adib, Sarah Abou Alaiwi, Talal El Zarif, Stefan Groha, Elie W. Akl, Pier Vitale Nuzzo, Tarek H. Mouhieddine, Tomin Perea-Chamblee, Kodi Taraszka, Habib El-Khoury, Muhieddine Labban, Christopher Fong, Kanika S. Arora, Chris Labaki, Wenxin Xu, Guru Sonpavde, Robert I. Haddad, Kent W. Mouw, Marios Giannakis, F. Stephen Hodi, Noah Zaitlen, Adam J. Schoenfeld, Nikolaus Schultz, Michael F. Berger, Laura E. MacConaill, Guruprasad Ananda, David J. Kwiatkowski, Toni K. Choueiri, Deborah Schrag, Jian Carrot-Zhang, Alexander Gusev
- Corresponding author: Alexander Gusev (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-09-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 36179682
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) であるペムブロリズマブは、米国食品医薬品局 (FDA) により、腫瘍変異負荷 (TMB) 高値 (TMB-high、≥10 variants/Mb) の固形がんに対する組織非特異的治療薬として承認された。この承認は、KEYNOTE-158試験の結果に基づいている。同試験では、TMBが175 mutations/exome以上の患者群で奏効率 (ORR) が31.4%であったのに対し、TMB低値群では9.5%であったことが示された (Marcus et al. 2021, Subbiah et al. 2020, Cristescu et al. 2022)。しかし、TMB判定に関する既存のエビデンスの大部分は欧州系集団で構築されており、他の祖先性集団への外挿性は十分に検証されていなかった。
腫瘍のみの次世代シーケンシング (NGS) パネルは、腫瘍組織からTMBを推定する際に、生殖細胞系列 (germline) バリアントを集団参照パネルでフィルタリングする。しかし、gnomADやTOPMED (Trans-Omics for Precision Medicine) などの参照パネルは欧州系集団が支配的であり (例: gnomAD v2.1では欧州系56,885エクソームに対しアフリカ系8,128エクソーム)、非欧州系集団では稀な生殖細胞系列バリアントが体細胞変異と誤判定され、TMBが過大評価される懸念が以前から指摘されていた (Parikh et al. 2020, Fancello et al. 2019)。この問題は、特に非欧州系集団におけるTMB-highの誤分類につながる可能性があり、臨床的意義が未解明なまま残されていた。
これまでの研究では、人種や民族といった社会的な構築概念ではなく、主成分分析 (PCA) に基づく「遺伝的祖先性 (genetic ancestry)」を用いた厳密な評価の重要性が強調されてきた (Jorde and Bamshad 2020, Kumar et al. 2010, Martin et al. 2019, Price et al. 2006, Sakaue et al. 2020)。しかし、tumor-onlyパネルによるTMB推定の祖先性特異的過大評価を定量化し、その臨床転帰への影響を評価した大規模な研究は不足していた。また、TMBおよび特定の遺伝子変異 (特にMGA) のICI治療転帰との関連が、欧州系と非欧州系 (アフリカ系・アジア系) の間で保存されるか (trans-ethnic portability) についても、体系的な検証が不十分であった。これらの知識ギャップが、精密医療における健康格差を拡大させる可能性が懸念されていた。
目的
本研究の目的は、以下の4点である。(1) Tumor-only NGSパネルによるTMB推定が、非欧州系集団において祖先性特異的な過大評価を引き起こす程度を定量的に評価すること。(2) Tumor/normalペアシーケンスデータをゴールドスタンダードとして、祖先性補正TMB (TMB-c) の新しい算出方法を開発し、その有効性を検証すること。(3) TMBおよび特定の遺伝子変異 (特にMGA) が、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療の臨床転帰と関連する効果が、欧州系と非欧州系 (アフリカ系・アジア系) の間で保存されるか (trans-ethnic portability) を検証すること。(4) これらの知見に基づき、精密医療における人種間の健康格差拡大を防止するための提言を行うこと。具体的には、TMB-highの誤分類がICI治療の適格性判断に与える影響を評価し、祖先性情報に基づくバイオマーカーの再評価の必要性を明らかにすることを目指した。
結果
遺伝的祖先性による集団分類の改善: DFCIコホート8,193例の遺伝的祖先性解析により、自己申告による人種分類を補完する情報が得られた。自己申告がBlack/African Americanであった患者のうち、219/312 (70%) がアフリカ系祖先性を有し、53/312 (17%) が自己申告Whiteであったにもかかわらずアフリカ系祖先性を有することが判明した。同様に、自己申告がAsianであった患者のうち、248/343 (72%) がアジア系祖先性を有し、57/343 (17%) が自己申告Whiteであったにもかかわらずアジア系祖先性を有することが示された (Figure S1A)。全体として、自己申告人種分類では見過ごされていたアフリカ系祖先性を持つ患者が42% (n=53 patients)、アジア系祖先性を持つ患者が38% (n=57 patients) 追加で同定された。
Tumor-only TMBの祖先性特異的過大評価: TCGAコホート3,618例の解析では、tumor-only TMBの中央値が5.3 variants/Mbであったのに対し、paired TMBの中央値は3.3 variants/Mbであり、tumor-only TMBが有意に高値であった (p<0.0001)。両推定値間の相関は高かったものの (Oncopanel v3でPearson r=0.92)、非欧州系集団ではtumor-only TMBの過大評価がより顕著であった。具体的には、非欧州系では平均2.2倍のTMBインフレーションが認められたのに対し、欧州系では1.5倍であった (Figures S2A-S2C)。AACR Project GENIE v11.0の120,000を超える腫瘍データを用いた解析では、tumor-onlyパネルで高VAFバリアント (germline汚染を示唆する50%付近のVAF) が非白人患者で偏在して認められたが、pairedパネルではこの傾向はなかった (Figure S3)。MSKCCコホートの456例のペアデータでも、tumor-only TMBとpaired TMBの差 (log変換) が非欧州系で1.4倍大きく (NSCLCコホートでp=1.1×10⁻⁹、pan-cancerコホートでp=1.1×10⁻⁶)、この祖先性特異的バイアスが確認された。
TMB校正 (TMB-c) の有効性: TCGAコホートで学習した校正係数をDFCI/PROFILEコホートに適用し、TMB-cを算出した。校正前は、7がん種中4がん種 (CRC、EGC、HNSCC、NSCLC) で非欧州系のTMBが欧州系と比較して有意に高値であった (Figure 2A)。しかし、TMB-cによる校正後は、EGCとNSCLCでは祖先性間のTMB-cの有意差が消失した。CRCとHNSCCでは依然として有意差が残存したが、CRCではMSI状態を調整後も差が認められた (Figure 2B)。さらに、詳細なサブ大陸系祖先性 (PC1-3) をモデルに追加しても、TMB校正への追加効果は限定的であり、TMB差に関連するのはPC1-3のみであった。PC3の追加による再分類はわずか1.2%であったため、大陸系祖先性のみに基づくモデルが採用された (Table S4)。
False TMB-highの頻度と臨床的影響: DFCIコホートのTMB-high患者2,800例中、「False TMB-high」 (raw TMB-highだがTMB-cではlowに分類される) の割合は、アフリカ系で51/117 (43.6%)、アジア系で54/145 (37%)、欧州系で528/2,538 (21%) であり、非欧州系で有意に高かった (p<0.0001) (Figure 2C)。ICI治療を受けたDFCI患者1,840例の解析では、True TMB-high群の全生存期間 (OS) 中央値は27.7ヶ月 (95% CI 22.6-36.2) であったのに対し、False TMB-high群は16.3ヶ月 (95% CI 13.7-18.7)、True TMB-low群は14.4ヶ月 (95% CI 13.1-16.2) であった (p<0.0001)。重要なことに、False TMB-high群とTrue TMB-low群の間にはOSの有意差は認められなかった (p=0.66) (Figure 2D)。これは、過大評価されたTMB-highがICI応答の予測価値を持たないことを示唆している。MSKCC NSCLCコホート234例の検証では、paired TMBをゴールドスタンダードとした場合、TMB-cによる校正が、tumor/normal一致の予後層別化を再現することが示された (Figures 3A, 3B)。
TMBのtrans-ancestry portabilityの限定性: DFCI/PROFILE NSCLCコホートにおいて、多変量Cox回帰分析で調整後、高TMB-cがOS延長と関連したのは欧州系患者のみであった (調整HR 0.64, 95% CI 0.53-0.77, p<0.0001) (Figure 5A)。一方、アジア系 (HR 1.00, 95% CI 0.95-1.05) およびアフリカ系 (HR 0.99, 95% CI 0.94-1.06) 患者では、高TMB-cとOSの有意な関連は認められなかった (Figures 5B, 5C)。MSKCC NSCLC pairedコホートでも同様の結果が再現され、欧州系患者 (n=1,534 patients) で調整HR 0.7 (95% CI 0.62-0.81, p<0.0001) であったのに対し、アジア系 (n=132 patients) およびアフリカ系 (n=78 patients) 患者では関連が認められなかった (Figures 5D, 5E, 5F)。また、RCCではアジア系祖先性がOS不良 (p=0.036) と、NSCLCではアジア系がTTF不良 (p=0.012) と関連することが示された (Figures 4B, 4C)。
MGA変異の祖先性特異的効果反転: 探索的解析として、35遺伝子を対象としたancestry-interaction scan (FDR<10%) を行った結果、MGA (MAX gene associated) 遺伝子変異の予後効果が祖先性によって異なることが判明した。DFCI NSCLCコホートにおいて、MGA変異は欧州系患者ではOSおよびTTFの延長と関連したが (HR 0.48)、アフリカ系患者では関連が認められず、アジア系患者では逆にOSおよびTTFの短縮と関連した (OS p interaction=0.029, TTF p interaction=0.03) (Figures 6A, 6B, 6C)。MSKCC NSCLC pairedコホートでもこの結果が再現され、欧州系患者ではMGA変異がOS延長と関連したが (OS中央値 26.9ヶ月 vs 15.6ヶ月, p=0.029)、アフリカ系およびアジア系患者では関連が認められなかった (Figures 6D, 6E, 6F)。これは、MGAがICIバイオマーカーとして非欧州系集団に外挿する際の限界を示唆している。
考察/結論
本研究は、tumor-only NGSパネルによるTMB推定が、生殖細胞系列参照データベースにおける非欧州系集団の過小表現という技術的偏りに起因して、祖先性特異的な過大評価を生じることを大規模な実データで初めて定量的に示した。この過大評価により、非欧州系患者の約4割がICI治療の適格となるTMB-high判定を誤って受ける可能性が示唆された。
新規性: 本研究で初めて、遺伝的祖先性に基づくTMBの過大評価が、非欧州系患者におけるICI治療の適格性判断に直接的な影響を与え、臨床転帰の予測精度を低下させることを明らかにした。また、MGA遺伝子変異の予後効果が祖先性によって逆転する可能性を指摘したことも新規の知見である。
先行研究との違い: これまでの研究 (Parikh et al. 2020, Asmann et al. 2021) はtumor-onlyシーケンシングによるTMB過大評価を指摘していたが、本研究はそれを多岐にわたる固形腫瘍において体系的に検証し、さらに遺伝的祖先性に基づいた校正手法 (TMB-c) を開発した点で異なる。また、TMBおよびMGA変異のICI治療転帰との関連が、欧州系と非欧州系で保存されない (trans-ethnic portabilityが限定的である) ことを明確に示した点は、これまでの欧州系中心の研究とは対照的である。
臨床応用: 本研究の知見は、精密医療の臨床現場において重要な含意を持つ。第一に、tumor-onlyパネルを用いてTMBを評価する際には、祖先性情報に基づいたTMB-cによる再計算が不可欠である。matched-normalシーケンシングが利用可能であれば、それが第一選択となるべきである。第二に、TMB-highバイオマーカーの適応は、主に欧州系集団から導出されたものであるため、非欧州系集団への適用は暫定的に留めるべきである。第三に、MGAのような特定のバイオマーカーも祖先性特異的な効果を示す可能性があり、非欧州系で逆効果となりうるバイオマーカーの同定が急務である。これらの提言は、精密医療における健康格差の拡大を防ぐために不可欠である。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationも存在する。第一に、非欧州系集団の患者数が欧州系と比較して依然として少なく (n=57 Asian patients, n=64 African patients)、特に一部のサブグループでは統計的検出力が不足していた可能性がある。第二に、TMB校正モデルの学習にTCGAのfresh-frozenサンプルを用いたが、実際の臨床検体はホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 由来DNAであることが多いため、FFPE由来DNAでのcalibration係数の再学習が今後の課題である。第三に、TMB校正は大陸系祖先性に基づくものであり、local ancestry (染色体片単位の祖先性) を組み込んだより細粒度の校正が今後の課題として残されている。最後に、社会的・環境要因 (医療アクセスや治療パターンなど) による交絡の影響を完全に分離できていない点も今後の検討課題である。これらの課題を克服するためには、非欧州系集団のゲノム参照パネルの拡充 (gnomADやTOPMEDへのアフリカ系・アジア系サンプルの追加) や、臨床試験における非欧州系集団の積極的な募集と層別解析が不可欠である。
方法
コホート: 本研究では、複数の大規模コホートデータを用いた。まず、TCGA (The Cancer Genome Atlas) コホートから3,618サンプル (全エクソームシーケンシング; WES) をTMB校正モデルの学習に利用した。次に、Dana-Farber Cancer Institute (DFCI) のPROFILEコホートから8,193患者 (Oncopanel tumor-onlyシーケンシング) をTMB-cの算出と検証に用いた。さらに、ICI治療を受けたDFCI患者1,840例 (7がん種: 結腸直腸がん [CRC]、食道胃接合部がん [EGC]、頭頸部扁平上皮がん [HNSCC]、悪性黒色腫、非小細胞肺がん [NSCLC]、腎細胞がん [RCC]、尿路上皮がん [UC]) を対象に、TMBと臨床転帰の関連を評価した。検証コホートとして、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) のNSCLC患者234例でTMB解析、MSK-IMPACTパネルでシーケンスされたpan-NSCLC患者1,898例でMGA遺伝子変異の解析を行った。
祖先性推定: 患者の遺伝的祖先性は、主成分分析 (PCA) を用いて推定された。これにより、大陸系祖先性 (European/African/Asian) およびサブ大陸系祖先性 (11主成分; PC) がそれぞれ定量化された。DFCIコホートでは、off-targetおよびon-targetシーケンシングリードから得られたgermline多型を用いて、参照パネルに投影することで祖先性を推定した。MSKCCコホートでは、ADMIXTUREソフトウェアを用いて祖先性を推定した。
TMB解析: TCGA WESデータを用いて、tumor-only TMB (germlineバリアントをマスクし、Oncopanel v1-3のベイトセットとTOPMEDデータベースによるフィルタリングを適用) とpaired TMB (tumor/normalペアシーケンス) を比較した。tumor-only TMBは、非同義変異の総数をシーケンスされたメガベース数で割ることで定義された。AACR Project GENIE v11.0 (>120,000腫瘍) のデータを用いて、tumor-onlyパネルとpairedパネルにおけるバリアントアレル頻度 (VAF) 分布を比較し、germline汚染の有無を評価した。
TMB校正 (TMB-c) の開発と検証: TCGAコホートで、tumor-only TMBとpaired TMBの間の祖先性特異的な線形関係を線形回帰モデルで学習し、ancestry-specific calibration coefficientを推定した。この係数をDFCI/PROFILEコホート全体に適用することで、祖先性補正TMB (TMB-c) を算出した。MSKCCコホートでは、paired tumor/normal TMBをゴールドスタンダードとして、TMB-cの予測精度を評価した。
統計解析: 臨床転帰の解析には、Cox比例ハザードモデルを用いた。このモデルでは、治療ライン数、ICIの種類、組織型、TMB-c、シーケンシングに対する治療時期などの共変量を調整した。遺伝子変異と祖先性の相互作用を評価するため、Wald χ2検定およびancestry-interaction scan (35遺伝子、遺伝子変異頻度 >5%、FDR <10%) を実施した。統計解析はRバージョン4.0.1を用いて行われた。