- 著者: Montesion M, Murugesan K, Jin DX, Sharaf R, Sanchez N, Guria A, Minker M, Li G, Fisher V, Sokol ES, Pavlick DC, Moore JA, Braly A, Singal G, Fabrizio D, Comment LA, Rizvi NA, Alexander BM, Frampton GM, Hegde PS, Albacker LA
- Corresponding author: Lee A. Albacker (lalbacker@foundationmedicine.com)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 33127846
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) はCD8 T細胞が腫瘍特異的変異ペプチド (ネオ抗原) をHLA-I (MHC class I) 分子上に提示された際に認識するという免疫監視機構を回復させて抗腫瘍効果を発揮する。腫瘍変異量 (TMB; tumor mutational burden) はネオ抗原負荷の代理指標として広く使用され、高TMB はICIへの奏効と関連することが報告されてきた (Hellmann et al. NEnglJMed 2018 の CheckMate-227 で nivolumab+ipilimumab の PFS 改善が TMB high で示された)。さらに mismatch-repair deficient 腫瘍におけるICI奏効もLe et al. NEnglJMed 2015 によって示され、ネオ抗原免疫の重要性が裏付けられた。一方、進行 NSCLC での後期フェーズ第III相試験 (Hellmann et al. NEnglJMed 2018 CheckMate-227 OS 単独解析) では TMB 単独では全生存延長予測に失敗するケースが相次ぎ、ネオ抗原「量」のみならずその「提示能力」を考慮する必要性が提唱されてきた。染色体 6p21 領域に存在する HLA-A・HLA-B・HLA-C 遺伝子座の体細胞的 LOH (loss of heterozygosity; HLA-I LOH) はネオ抗原提示を直接阻害することで CD8 T細胞免疫監視から腫瘍を解放しうる機構として注目され、McGranahan et al. Cell 2017 が早期 NSCLC TRACERx コホートで 40% の頻度を報告し allele-specific な免疫逃避を示した。しかし、これまで大規模なパンがんデータにおける HLA-I LOH の頻度・分布・TMB との関係・ICI 治療成績への影響は系統的に未解明であり、特に商用検査で実装可能な tumor-only パイプラインによる allele-specific HLA-I LOH 推定とリアルワールド ICI コホートでの予測能の検証が不足していた。
目的
Foundation Medicine の大規模臨床ゲノムデータベース (n=83,664) を用いてパンがん 59 疾患群における HLA-I LOH の景観を解析し、TMB との関係を明らかにしたうえで、非扁平上皮 NSCLC の ICI 治療転帰への影響を定量化し、TMB と HLA-I LOH を組み合わせた複合バイオマーカーの有用性を独立コホートで検証する。
結果
所見1:HLA-I LOH のパンがん景観と TMB との「Goldilocks 効果」:83,664例のパンがん解析 (Foundation Medicine database) で HLA-I LOH は 17% (n=14,222/83,664) に検出され、事象の 85% は HLA-A・HLA-B・HLA-C 全 3 遺伝子座を同時に失う LOH であった (Fig 2A)。59 疾患群で頻度は 2-42% と広く分布し、扁平上皮がん群で最高 (30%, n=11,300)、非扁平上皮がん群 16% (n=46,200)、神経内分泌腫瘍 11%、肉腫 11%、非扁平上皮皮膚がん 6% の順であった (Fig 2A)。HLA-I LOH と PD-L1 陽性率は疾患をまたいで線形正相関を示し (PD-L1+ 25% vs PD-L1- 16%, p<0.0001, Fisher exact; F test on linear regression p<0.0001; Fig 2B)、TMB high 群と TMB low 群でも HLA-I LOH 頻度に差があった (21% vs 16%, p<0.0001; Fig 2C)。一方、TMB と HLA-I LOH の per-sample 関係は非線形であり、中間 TMB 帯 (10-30 mut/Mb) で HLA-I LOH 頻度が最高となり、低 TMB (神経内分泌腫瘍等, <5 mut/Mb) と高 TMB (皮膚メラノーマ・MSI-H 腫瘍等, >50 mut/Mb) ではともに HLA-I LOH 頻度が低いという「Goldilocks 効果」が観察された (Fig 2D, n=83,664 samples binned)。膵島細胞腫瘍と ACC (adrenocortical carcinoma; 副腎皮質がん) は TMB hi 率・PD-L1 陽性率が低いにもかかわらず HLA-I LOH 頻度が高い (36-38%) 異常値を示し、いずれも近傍腫瘍抑制遺伝子 DAXX の機能喪失変異と有意に関連していた (p<0.05; Fig 4)。
所見2:ネオ抗原提示アリルの優先的消失と免疫選択の証拠:6 種類の putative ドライバーネオ抗原 (KRAS G12D, KRAS G12V, TP53 R175H, TP53 Y220C, TP53 R248W ほか) について HLA-I LOH 事象を解析すると、提示アリルが 74-94% の事象で消失しており (n>15 events/neoantigen)、いずれも Binomial Test で有意 (p<0.05; Fig 3A) であった。NetMHCpan-4.0 による予測 127 種の recurrent ドライバーネオ抗原 (n>5 events/neoantigen) では 98% (125/127) で提示アリルがより頻繁に消失し、62% (77/125) が有意水準に達した (p<0.05; Fig 3B)。この結果は HLA-I LOH がランダムな LOH ではなく、ネオ抗原免疫圧に対する腫瘍の適応的回避として選択されていることを強く示唆する。腫瘍ウイルスによる細胞内在性がん化 (EBV 関連胃癌・上咽頭癌、HPV 関連子宮頸癌・頭頸部扁平上皮癌) でも HLA-I LOH 頻度が EBV+/HPV+ 群で virus-negative 群より有意に高く (p<0.05, Fisher exact; Fig 3C)、肝炎ウイルス (HBV+ 肝細胞癌) のような間接的がん化 (cell-extrinsic, HBV-: 506例, HBV+: 64例) との違いが明確に示された。TP53 変異は 14 疾患群、CDKN2A 変異は 16 疾患群で HLA-I LOH と有意に関連し (Fisher exact p<0.05; Fig 4A, 4B)、ゲノム不安定性と HLA-I LOH の連鎖が示唆された。APOBEC・喫煙・UV 変異シグネチャーとも有意に関連した。
所見3:非扁平上皮 NSCLC における ICI 治療転帰への影響:Foundation Medicine-Flatiron clinico-genomics コホートにおいて非扁平上皮 NSCLC の 2nd-line ICI 単剤療法を受けた 240例 (HLA-I LOH 60例 vs HLA-I intact 180例; 25%) で、HLA-I LOH 群の中央 OS 8.0 ヶ月 (95% CI: 5.2-13.1) vs HLA-I intact 群 11.3 ヶ月 (95% CI: 8.2-15.3), HR 0.68 (95% CI: 0.49-0.95, p=0.02, log-rank; Fig 1B) と有意な差を示した。OS は「TMB high (≥10 mut/Mb) + HLA-I intact」群で最長 (n=82, mOS 14.1 ヶ月, 95% CI: 9.0-21.1) vs「TMB low + HLA-I LOH」群で最短 (n=29, mOS 4.8 ヶ月, 95% CI: 2.9-12.6) と二極化した (Fig 1C)。多変量 Cox 解析でも HLA-I LOH は TMB とは独立した有意な予後因子であり、HR 0.65 (95% CI: 0.47-0.91, p=0.013) vs HR 0.74 (95% CI: 0.54-0.99, p=0.046, TMB high) であった。複数 TMB 閾値 (1-20 mut/Mb) でグリッドサーチした結果、TMB=13 mut/Mb が最適閾値であった (Fig 1D)。
所見4:複合バイオマーカーの優位性と独立コホート検証:複合バイオマーカーとして「HLA-I intact 全例 + TMB ≥13 mut/Mb の HLA-I LOH 例」という分類を採用すると、240例中 biomarker-positive 群 n=203 (mOS 12.2 ヶ月, 95% CI: 9.1-15.3) vs biomarker-negative 群 n=37 (mOS 6.0 ヶ月, 95% CI: 2.9-8.9), HR 0.45 (95% CI: 0.31-0.66, p=0.00004) という強力な OS 予測能を示した (Fig 1E)。これは TMB 単独分類 (TMB high vs low) よりも HR 値が有意に小さく、AUC も改善した。MSK-IMPACT コホート 180例での独立検証では、HLA-I LOH は PFS の独立した負の予測因子であり、HR 0.67 (95% CI: 0.46-0.99, p=0.044) vs HR 0.72 (95% CI: 0.51-1.0, p=0.066, TMB high) と同等の効果サイズを示した (Fig 1F)。MSK での mPFS は TMB high+HLA-I intact (n=46) 5.5 ヶ月 vs TMB low+HLA-I LOH (n=22) 2.1 ヶ月であった (95% CI: 1.7-5.4)。
考察/結論
これまでの ICI バイオマーカーは TMB 単独・PD-L1 単独に焦点を当ててきたが、それらと異なり、本研究はネオ抗原「提示能」(HLA-I 状態) を加味した複合バイオマーカーの優位性を 83,664 例の大規模パンがん解析と二つの独立 ICI コホート (Flatiron n=240 + MSK n=180) で初めて示した点で対照的に新しい。これまで報告されていない知見として「Goldilocks 効果」— TMB が中間域で HLA-I LOH 頻度が最高となる非線形分布 — を発見した点も新規性が高い。これまでのMcGranahan et al. Cell 2017 の TRACERx 解析が早期 NSCLC 約 100 例での allele-specific HLA-I LOH を示したのに対し、本研究は商用 tumor-only パイプラインでパンがん 59 疾患群を網羅した点と、ICI 治療転帰への影響を多変量で定量化した点で先行研究と異なる規模と臨床的妥当性を達成している。
「Goldilocks 効果」の機序的解釈として、高 TMB 腫瘍 (>50 mut/Mb) ではネオ抗原数が過多であり、HLA-I LOH による allele-specific な喪失では免疫監視を十分に回避しきれず (NK 細胞応答も活性化しうる)、むしろ B2M 完全欠失や JAK1/2 変異など別の免疫逃避機構が選択される可能性が示唆される。一方、中間 TMB 帯 (10-30 mut/Mb) では特定のネオ抗原を HLA-I LOH で選択的に隠蔽するのが最も合理的な戦略となる。この概念は「腫瘍免疫編集の巧妙さ」を示すと同時に、なぜ TMB 単独では ICI 奏効を十分に予測できないかを説明する理論的枠組みを提供する。
臨床応用の観点で本研究の意義は大きく、bench-to-bedside に直結する。Foundation Medicine と MSK-IMPACT という商用 NGS パネルですでに実装可能な解析のため、prospective NSCLC ICI 治療において HLA-I LOH を TMB と並行して測定することは現状の検査インフラで実現可能である。臨床応用として、HLA-I LOH を有する非扁平上皮 NSCLC 患者は ICI 単剤のみでは不十分な治療成績が予測されるため、より強力な治療戦略 (例: CTLA-4 との併用 Hellmann et al. NEnglJMed 2018・ネオアンチゲンワクチン設計での HLA-I LOH の考慮・NK 細胞活性化戦略) の前向き層別化に有用と考えられる。translational research においても、neoantigen ワクチン設計時に HLA-I LOH を有するアリルを優先的に避けることで personalized ワクチンの実効性が向上する可能性がある。
残された課題として、第一に limitation として本研究は後ろ向き観察 cohort 解析であり、prospective randomized clinical trial における複合バイオマーカーの予測能検証が future work として必須である。第二に、tumor-only パイプラインでの HLA-I LOH 推定は germline DNA を用いた matched normal 解析と比較してまだ感度・特異度の検証余地が残されており、特に腫瘍純度が低い検体での性能評価が今後の検討課題となる。第三に、HLA-I LOH 検出後の治療介入 (NK 細胞活性化・抗 CTLA-4・personalized vaccine) の有効性を検証する future trial が求められる。第四に、扁平上皮 NSCLC・尿路上皮癌・腎細胞癌など他の ICI 適応疾患での複合バイオマーカーの有効性検証も今後の研究課題として残されている。
方法
Foundation Medicine の CLIA/CAP/NY 認定検査 (FoundationOne) で解析した 83,664例の腫瘍組織 NGS (next-generation sequencing) データを対象とした。独自開発の tumor-only HLA-I LOH 検出パイプラインは、germline HLA-I タイピング (OptiType) → アリル頻度偏倚の HLA-I タイプ依存性補正モデル (association constant k を用いた obsAF 補正) → SGZ (somatic-germline-zygosity) アルゴリズムによる腫瘍純度・腫瘍倍数性・MAF (minor allele frequency) を考慮した LOH 同定から構成される。パンがん 59 疾患群での HLA-I LOH 頻度・TMB (mut/Mb 単位)・PD-L1 (tumor proportion score ≥1% を陽性) との相関は Fisher 正確検定および線形回帰・loess 回帰で解析した。ドライバー変異・変異シグネチャー (APOBEC・喫煙・UV) との関連解析を Fisher 正確検定で実施した。ネオ抗原予測は NetMHCpan-4.0 を用い、6 種類の putative ドライバーネオ抗原 (KRAS G12D/G12V, TP53 R175H/Y220C/R248W) と 127 種の recurrent ドライバーネオ抗原について HLA 提示アリルと LOH 選択性の関係を Binomial Test で評価した。臨床コホート解析として Foundation Medicine-Flatiron Health 統合データベース (前向きリアルワールド clinico-genomics データ) から EGFR/ALK 野生型非扁平上皮 NSCLC 240例 (2014-2019 年に 2nd-line ICI 単剤療法を受けた患者) を抽出し、OS (overall survival) を Cox 比例ハザードモデル (多変量で TMB・age・sex で調整) と Kaplan-Meier 解析 (log-rank test) で評価した。複数 TMB 閾値 (1-20 mut/Mb) でグリッドサーチして最適閾値を同定した。独立検証コホートとして MSK-IMPACT データから同適格基準の 180例を抽出し、PFS (progression-free survival) を Cox モデルで解析した。腫瘍ウイルス (EBV; Epstein-Barr virus・HBV; hepatitis B virus・HPV; human papillomavirus) 関連がんと HLA-I LOH の関連も解析した。