- 著者: Scharping NE, Menk AV, Whetstone RD, Zeng X, Delgoffe GM
- Corresponding author: Greg M. Delgoffe (delgoffeg@upmc.edu)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2017
- Epub日: 2016-12-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 27941003
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI)、特にPD-1 (programmed cell death 1)/PD-L1 (programmed death-ligand 1) 軸の阻害は多くのがん種で有効性を示す (Topalian et al. Cell 2015 が複数がん種における ICB 普遍性を総説) 一方、依然として多くの患者が奏効しない点が未解明であった。これまでの先行研究では腫瘍免疫抑制メカニズムとして免疫抑制細胞 (regulatory T cell, MDSC) の浸潤や抑制性サイトカイン (TGFβ, IL-10) が注目されてきたが、腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) の代謝的な側面も免疫抑制に寄与することが明らかになりつつある。腫瘍微小環境は低グルコース・酸性pH・低酸素 (hypoxia) を特徴とし、これはがん細胞自身の脱制御された代謝 (高 OXPHOS [oxidative phosphorylation] 能など) によって引き起こされる (Chang et al. Cell 2015 が示した tumor-T cell 代謝競合)。T細胞エフェクター機能 (増殖、サイトカイン産生、細胞傷害活性) は代謝的に要求が高く、OXPHOS と aerobic glycolysis を必要とする。
低酸素が T 細胞機能に与える影響については in vitro 実験で低酸素が T 細胞の増殖・IFNγ 産生・細胞傷害活性を低下させることが先行研究で示されていた (Doedens et al. ImmunolRev 2013 らによる HIF1α と CD8 T cell エフェクター応答 review)。著者らの先行研究 (Scharping et al. CancerRes 2016) では腫瘍内 TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) が正常リンパ球と比較してミトコンドリア機能が低下し代謝的に不利な状況に置かれることを示してきた。2 型糖尿病治療薬メトホルミンはミトコンドリア複合体 I (mitochondrial complex I) の阻害剤であり、腫瘍細胞の酸素消費率 (OCR; oxygen consumption rate) を低下させることで腫瘍内低酸素を改善し得ることが先行研究で示唆されていた (Evans et al. CancerCausesControl 2005 の疫学研究でメトホルミン服用糖尿病患者のがんリスク低下も報告)。しかし、これまで腫瘍低酸素が免疫チェックポイント阻害薬抵抗性に直接寄与する分子機構と、メトホルミンによる腫瘍低酸素軽減が ICI 効果増強につながるかという因果関係的検証は不足しており、特に in vivo PD-1 阻害単剤無効モデルでの相乗効果検証がギャップとして残されていた。
目的
腫瘍低酸素が免疫チェックポイント阻害薬抵抗性の障壁となるという仮説を立て、メトホルミンによる腫瘍低酸素の軽減が PD-1 阻害薬の効果を増強するかを前臨床マウスモデルで検証する。さらに腫瘍種間の代謝特性 (酸素消費能) の差異と免疫療法感受性の関係を機序的に明らかにする。
結果
所見1:腫瘍種により OCR が異なり高 OCR 腫瘍ほど TIL が低酸素状態となり免疫療法への感受性が低い:Seahorse Bioanalyzer による代謝解析 (n=3 biological replicates per cell line) では、B16-F10 メラノーマは MC38 大腸腺癌よりベースライン OCR が約 2-fold 高く、FCCP 誘導スペア呼吸能も有意に高かった (p<0.001, unpaired t-test; Fig 1A)。ECAR には両者で有意差がなく、B16 の高代謝特性は解糖ではなく OXPHOS に起因することが示された (Fig 1B)。In vivo 評価では B16 腫瘍担癌マウスの CD8+ TIL は MC38 担癌マウス TIL よりピモニダゾール蛍光強度 (MFI; mean fluorescence intensity) で約 2.5-fold 高い低酸素度を示した (p<0.01, n=6 mice/group; Fig 1C, 1D)。抗 PD-1 免疫療法に対する in vivo 感受性は MC38 (約 40% が完全奏効, 4/10) が高く、B16 は単剤抗 PD-1 に無効であった (0/11 完全奏効; Fig 1E)。低酸素条件 (1.5% O2) での活性化 OT-I T 細胞 in vitro 機能評価 (n=3 biological replicates) では、正常酸素 (21% O2) と比較して CellTrace Violet 希釈による増殖低下、IFNγ 産生の約 0.5-fold 低下 (p<0.05)、腫瘍細胞傷害活性の有意な低下が確認された (Fig 2A, 2B)。
所見2:メトホルミンは腫瘍細胞 OCR を優先的に低下させ腫瘍低酸素および TIL 低酸素を顕著に軽減する:In vitro Seahorse 解析 (n=3 biological replicates) では、メトホルミン (10 mmol/L, 24 時間) が B16・MC38 両腫瘍細胞の OCR を約 0.4-fold へ有意に低下させた (p<0.001, unpaired t-test; Fig 3A)。In vivo でも CD45+ 細胞除去後の B16 腫瘍細胞を ex vivo で測定したところ、メトホルミン投与群で腫瘍細胞 OCR が約 0.5-fold へ有意低下した (n=4 mice/group, p<0.05; Fig 3B)。免疫蛍光染色ではメトホルミン腹腔内投与 3 日間で B16 腫瘍内のピモニダゾール陽性面積 (低酸素領域) が約 0.6-fold へ有意に縮小した (n=5 mice/group, p<0.05; Fig 3C)。メトホルミントランスポーター OCT1 (SLC22A1) mRNA 発現は腫瘍細胞 (B16) の方が TIL T 細胞より約 8-fold 高く (n=3 biological replicates, p<0.01; Fig 3D)、腫瘍細胞への優先取り込み機序を支持した。Seahorse でリンパ節 T 細胞と腫瘍内 T 細胞 OCR を比較すると、メトホルミン未処理マウスでは腫瘍細胞 OCR が TIL T 細胞を大きく上回ったが、メトホルミン処理後は両者の OCR が同程度となり代謝的不利が解消された (Fig 3E)。メトホルミン処理は CD44hi 活性化 CD8+ T 細胞割合をわずかに増加させた (約 1.3-fold, p<0.05) が、2-NBDG グルコース取り込みは in vivo TIL で変化がなく、T 細胞への効果は腫瘍細胞 OCR 低下の間接結果であることを支持した。メトホルミン単剤では腫瘍容積の有意縮小は得られなかった。
所見3:メトホルミン+抗 PD-1 併用は B16 モデルで劇的な相乗効果を示し MC38 モデルでも奏効率を大幅向上:B16 腫瘍モデルにおいて、抗 PD-1 単剤群 (n=11) vs IgG+PBS 対照群 (n=11) では腫瘍縮小に有意差なく、メトホルミン単剤群 (n=11) も無効であった (Fig 4A)。しかし併用群では 11例中 9例 (約 82%) に腫瘍縮小が認められ、70% (8/11) で完全奏効 (継続的に腫瘍が 14 mm3 未満) が得られた (併用 vs 抗 PD-1 単剤, p<0.001, two-way ANOVA; Fig 4A, 4B)。TIL 機能解析 (Fig 4C-4F) では併用群の CD8+ TIL が IgG+PBS 対照群・抗 PD-1 単剤群・メトホルミン単剤群と比較して IFNγ 産生 (約 2.5-fold) および TNFα 産生 (約 2-fold) が有意に増加 (n=6 mice/group, p<0.01)、Ki67+ 比率も併用群で最高値を示した (約 1.8-fold)。MC38 モデル (Fig 5A, 5B) では抗 PD-1 単剤で約 40% (4/10) の完全奏効が得られていたが、メトホルミン追加により 88% (10/11) が完全奏効、全例 (11/11) で腫瘍縮小が確認された (p<0.001, log-rank)。腫瘍サイズが大きい (>10 mm2) 段階から治療開始では B16 モデルで相乗効果が認められず治療開始時期の重要性が示された (Fig 4G)。メトホルミン飲水投与 (1 g/L) でも相乗効果は観察されたが腹腔内投与ほど顕著ではなく、持続投与による T 細胞へのメトホルミン直接作用が一部効果を減弱させた可能性を示唆した (Fig 6A, 6B)。
所見4:HIF1α 動態と T 細胞活性化マーカーの統合解析:メトホルミン処理後の TIL では HIF1α (hypoxia-inducible factor 1-alpha) 発現が増加または不変であった (n=4 mice/group; Fig 5C, 5D)。これは HIF1α が T 細胞では低酸素に加えて T 細胞活性化によっても誘導されることを反映し、腫瘍低酸素の改善と T 細胞活性化の増大が並行して生じていることを示唆する。CD44 高発現比率が約 1.3-fold up (p<0.05) する一方、PD-1・Tim-3 共発現も併用群で増加し、T 細胞活性化増大とチェックポイント発現上昇が並行するパターンが観察された。長期生存解析では併用群の中央生存が抗 PD-1 単剤群と比較して有意に延長した (B16 モデル, log-rank p<0.001; Fig 4H)。
考察/結論
これまでの先行研究 (Chang et al. Cell 2015 の tumor-T 代謝競合、Ho et al. CancerCell 2016 の PEP 代謝チェックポイント) と異なり、本研究は腫瘍細胞の OXPHOS 能の高低が腫瘍低酸素の程度を規定し、それが免疫チェックポイント阻害薬抵抗性の代謝的バリアとなるという新規概念を初めて確立した点で対照的に新しい。B16 (高 OCR/高低酸素) と MC38 (低 OCR/低低酸素) のモデルペアを用いることで、これまで報告されていない「腫瘍 OXPHOS-低酸素-TIL 機能-PD-1 感受性」軸を機序的に対比実証した。メトホルミンが腫瘍細胞に OCT1 (SLC22A1) を介して優先取り込みされ TIL 直接作用が小さいという観察は、腫瘍免疫微小環境での代謝「均一化」 (level playing field) という新規概念を支持する。メトホルミン処理で TIL OCR が相対的に上昇 (腫瘍細胞 OCR 低下の反動) する点も、腫瘍-T 細胞代謝競合解消という新規メカニズムを示す novel な発見である。
臨床応用の観点から本研究の意義は大きく、bench-to-bedside に直結する translational research である。臨床応用上、メトホルミンは広く普及した安価で毒性プロファイルが明確な 2 型糖尿病薬であり、PD-1 阻害薬との安全な併用が期待できる。臨床的意義として、(1) 既存薬の re-purposing による低コスト免疫増感戦略、(2) 腫瘍低酸素シグネチャー (pimonidazole IHC, HIF1α PCR, OCR ex vivo) を予測バイオマーカーとして用いた患者層別化、(3) 治療開始時期 (小腫瘍段階) の最適化、の 3 点が直接的な臨床応用候補である。臨床応用への次ステップとして抗 PD-1 抵抗性メラノーマ・NSCLC におけるメトホルミン併用臨床試験が自然な拡張となる。
残された課題として、第一に limitation として本研究は B16・MC38 マウスシンジェニックモデルに限定されており、ヒト腫瘍におけるメトホルミン PD-1 併用効果検証 (humanized mouse model や臨床試験) が future work として必要である。第二に、飲水投与実験の結果は持続的なメトホルミン暴露が T 細胞にも抑制的影響を与えうることを示唆しており、最適な投与スケジュール・用量・タイミングの設定が今後の検討課題である。第三に、他の免疫療法モダリティ (抗 CTLA-4・刺激性抗体・養子 T 細胞療法・CAR-T) でも低酸素軽減による効果増強が成立するかの検証が future research direction として求められる。第四に、ヒト腫瘍の OCR 測定方法 (生検 ex vivo Seahorse) の臨床的実装と、HIF1α IHC や FMISO PET など非侵襲的低酸素イメージング検証も今後の研究展望として残されている。
方法
C57/BL6 マウス (n=6-11/group, two-three independent experiments) に B16-F10 メラノーマまたは MC38 大腸腺癌を皮内移植した。B16-OVA (OVA 発現 B16) を用いた OT-I T 細胞アッセイも実施した。代謝解析は Seahorse XFe96 アナライザーによる OCR (酸素消費率) および ECAR (extracellular acidification rate; 細胞外酸性化率=解糖指標) の測定を腫瘍細胞および直接 ex vivo 単離 TIL CD8+ T 細胞で行った。低酸素評価にはピモニダゾール (不可逆的低酸素トレーサー, 60 mg/kg, 尾静脈注射, 1.5 時間 prior to harvest) を投与し、抗ピモニダゾール抗体でフローサイトメトリーにより TIL 内低酸素度を定量した。In vitro 低酸素実験では活性化 OT-I T 細胞を低酸素チャンバー (1.5% O2, 48 時間) または正常酸素下で再刺激し、CellTrace Violet 希釈による増殖・IFNγ 産生・腫瘍細胞傷害活性を比較した。メトホルミン投与は腫瘍担癌マウスにメトホルミン (50 mg/kg, 腹腔内, 2 日ごと) を投与し、腫瘍 OCR 低下および低酸素改善を確認した。抗 PD-1 併用試験では触知可能な腫瘍 (1-10 mm2) 形成後に治療開始: 抗 PD-1 抗体 (clone J43, 0.2 mg, 4 日ごと腹腔内投与) を、メトホルミン (50 mg/kg, 2 日ごと腹腔内) と併用、B16 モデルおよび MC38 モデルで評価。飲水投与 (1 g/L) のコホートも設定した。TIL 機能解析は PMA/ionomycin 刺激後の細胞内 IFNγ・TNFα 染色、Ki67 染色による増殖評価、PD-1・Tim-3・CD44・CD38 など表面マーカー解析をフローサイトメトリーで実施した。OCT1 (SLC22A1; メトホルミントランスポーター) mRNA 発現を qPCR で測定した。統計解析は unpaired Student t-test、two-way ANOVA、log-rank 検定 (生存) を用い、p<0.05 を有意とした。