- 著者: Kotanides H, Li Y, Malabunga M, Carpenito C, Eastman SW, Shen Y, Wang G, Inigo I, Surguladze D, Pennello AL, Persaud K, Hindi S, Topper M, Chen X, Zhang Y, Bulaon DK, Bailey T, Lao Y, Han B, Torgerson S, Chin D, Sonyi A, Haidar JN, Novosiadly RD, Moxham CM, Plowman GD, Ludwig DL, Kalos M
- Corresponding author: Helen Kotanides (helen.kotanides@lilly.com), Michael Kalos (mkalos@arsenalbio.com)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-07-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 32873605
背景
PD-1/PD-L1経路は免疫チェックポイントの中核をなし、複数の承認済み抗PD-1抗体 (ニボルマブ、ペムブロリズマブなど) および抗PD-L1抗体 (アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ) が幅広ながん種で使用されている (Gong et al. 2018; Alsaab et al. 2017)。しかし、これらの治療法を受けた患者においても、長期持続奏効を得られる割合は限定的であり (Topalian et al. 2019)、新たな治療アプローチが求められている。既存の治療法では、応答が得られない患者群が存在するという課題が残されている。
PD-1経路は複数の受容体とリガンドで構成される複雑な系である。PD-1受容体はT細胞のほか、B細胞、NK細胞、骨髄系細胞、樹状細胞にも発現し、PD-L1とPD-L2の両リガンドに結合する (Sharpe et al. 2018)。PD-L1はさらにCD80にも結合し、CD28共刺激とCTLA-4阻害の調節にも関与する (Sugiura et al. 2019; Zhao et al. 2019)。腫瘍微小環境中の腫瘍内T細胞はPD-1経路療法後においてもPD-1の多くが抗体に占有されないことが示されており (Das et al. 2015)、より完全なPD-1経路遮断が必要であると考えられる。既存のPD-1またはPD-L1単剤療法、あるいは両者の併用療法では、PD-1経路の複雑な相互作用を完全に阻害しきれていない可能性があり、この点が治療効果の不足につながるギャップとして残されている。
二重特異性抗体 (bispecific antibody) は単一分子で2つの標的を同時に阻害できるだけでなく、細胞架橋効果により単剤または組み合わせ療法では達成できない独自の生物学的作用を発揮しうる (Spiess et al. 2015)。CD3二重特異性抗体 (BiTE) でのT細胞-腫瘍細胞架橋の成功は、この戦略の概念実証となっている (Dahlén et al. 2018)。著者らは、PD-1陽性活性化T細胞とPD-L1陽性腫瘍細胞を架橋することで、より完全なPD-1経路遮断と免疫シナプス形成増強が達成できると仮説立てた。このアプローチは、従来の単剤療法や併用療法では十分に解決できていなかった、PD-1経路の複雑な相互作用に対する包括的な阻害を可能にする点で、未開拓の治療戦略である。
目的
PD-1とPD-L1を同時標的とする二重特異性IgG1抗体LY3434172を設計・作製し、in vitroおよびin vivoにおけるT細胞活性化と抗腫瘍効果を、各単剤抗体および両者の組み合わせと比較評価する。
結果
LY3434172の結合・遮断特性とFcエフェクター機能の欠損: BiacoreによるKD測定では、LY3434172のPD-1アームはKD = 4.41×10⁻¹⁰ M、PD-L1アームはKD = 5.60×10⁻¹⁰ Mであり、各親抗体と同等の高い親和性を示した (Table 1)。種交差反応性はヒトおよびカニクイザルでのみ認められ、マウス・ラットとは結合が検出されなかった。ELISA遮断アッセイにより、LY3434172はPD-1/PD-L1、PD-1/PD-L2 (IC50 = 2.27 nmol/L) およびPD-L1/CD80 (IC50 = 0.75 nmol/L) の相互作用をすべて阻害した。FcγR結合はMSDアッセイで検出されず、NFATレポーターベースのADCC機能アッセイおよびCDCアッセイで活性が認められず、Fc effector-null設計が機能的に確認された (Supplementary Table S1, S2)。この結果は、LY3434172が標的特異性と経路遮断能を保持しつつ、非特異的な免疫細胞活性化を回避するように設計されていることを強く示唆する。
LY3434172によるT細胞機能の増強と細胞架橋・免疫シナプス形成: NFATレポーターアッセイでは、PD-L1発現CHO細胞において、LY3434172のEC50は0.12 nmol/Lであったのに対し、親抗体の組み合わせでは0.80 nmol/L (p = 0.002) であり、LY3434172が約6.7倍低い濃度でT細胞活性化を誘導した (Figure 1B)。PD-L1+PD-L2発現CHO細胞でも同様の増強 (p = 0.007) が認められた。MLRアッセイ (IFNγ産生) でのEC50はLY3434172が0.01 nmol/Lに対し、組み合わせは0.10 nmol/L (p = 0.038) であり、約10倍の効力増強が確認された (Figure 1C)。腫瘍細胞傷害アッセイでもLY3434172はEC50 0.005 nmol/L vs 組み合わせ0.022 nmol/L (p = 0.058) と優れた活性を示した (Figure 1D)。β-gal EFCアッセイでは、LY3434172のみがPD-1とPD-L1のシス会合を誘導し、細胞架橋アッセイでは蛍光二重陽性ダブレットが有意に増加した (Figure 2A, 2B)。ライブセル共焦点顕微鏡では、LY3434172添加によりPD1-neonGreenが細胞-細胞接触部位 (免疫シナプス) に97%の細胞で集積したのに対し、抗PD-L1単剤では12〜21%のみであった (Figure 2C)。これらのデータは、LY3434172が細胞架橋を介してT細胞活性化を強力に促進するメカニズムを裏付けている。
in vivo腫瘍モデルにおけるLY3434172の強力な抗腫瘍効果: HCC827 NSCLC樹立腫瘍モデル (n=8 mice/group) では、LY3434172は2、0.2、0.02 mg/kgの広い用量域で有意な抗腫瘍効果を示し (%T/C = 3.9、19.4、50.3、各p < 0.001)、特に0.02 mg/kgという低用量でも効果が認められた (Figure 3A, 3B)。対照的に抗PD-L1単剤は2 mg/kgのみで効果を示し (%T/C = 49.7, p < 0.001)、低用量や抗PD-1単剤・組み合わせでは有意差がなかった。NCI-H292 NSCLC予防モデル (n=8 mice/group) でもLY3434172 0.25 mg/kgで%T/C = 6 (p < 0.001) を示し、8例中5例で完全奏効 (CR) が得られた一方、抗PD-L1 0.25 mg/kgでは1例のみCRであった (p = 0.003でLY3434172が優位) (Figure 4A, 4B)。組み合わせ療法はいずれの用量でも有意差なし (p < 0.001でLY3434172が優位) (Figure 4C, 4D)。体重変化は全群で有意差なく良好な忍容性が確認された (Supplementary Figure S8A, S8B)。PK (pharmacokinetic) プロファイルは正常IgGと同等であり、クリアランス0.15 mL/hr/kg、t1/2 293時間であった (Supplementary Figure S7, Supplementary Table S3)。これらの結果は、LY3434172が既存の単剤療法や併用療法と比較して、in vivoでより強力かつ低用量で抗腫瘍活性を発揮することを示している。
考察/結論
新規性: 本研究の核心的発見は、PD-1とPD-L1を単一分子で同時遮断する二重特異性抗体LY3434172が、各単剤の組み合わせを超える独自の生物学的効果をもたらすという点の実証である。これはこれまでのPD-1またはPD-L1単剤療法、あるいは両者の併用療法とは異なるアプローチであり、その増強効果の機構として、細胞架橋 (PD-1発現T細胞とPD-L1発現腫瘍細胞の物理的接近) と免疫シナプスへのPD-1集積の増強が観察されたことが重要である。本研究で初めて、二重特異性抗体による細胞架橋がT細胞活性化と抗腫瘍免疫を劇的に増強する新規メカニズムを明らかにした。
先行研究との違い: LY3434172はPD-L1/CD80の相互作用も阻害するため、APC (antigen-presenting cell) 上のCD80がCTLA-4ではなくCD28と結合できるようになり、CD28共刺激が促進される可能性がある。この点は、既存のPD-1またはPD-L1単剤療法では十分に考慮されていなかったメカニズムであり、本研究の重要な知見である。また、PD-1/PD-L2の相互作用も遮断するため、PD-L2が発現している腫瘍微小環境でも抗PD-L1単剤より完全な経路阻害が達成される。この点はNFATアッセイでPD-L1+PD-L2共発現系において抗PD-L1単剤が無効であった結果と整合する。
高濃度での活性低下 (in vitroアッセイでの下方屈曲) は、過剰な抗体量では各受容体に別々の抗体分子が結合し細胞架橋が減少するという二重特異性抗体の特性に一致する。In vivoでは低用量での顕著な効果が、むしろ架橋優位の条件設定として機能していると考えられる。PKがヒト正常IgGと同等でありながら腫瘍への増強効果が認められた点は、PK改善ではなく細胞架橋という独自の生物学的機序が効果の根拠であることを支持する。
臨床応用: これらの知見は、LY3434172が既存の免疫チェックポイント阻害剤に抵抗性を示す患者群に対する新たな治療選択肢として臨床応用される可能性を示唆する。特に、低用量で高い抗腫瘍効果を発揮する特性は、副作用の軽減や腫瘍浸透性の改善に繋がる可能性があり、臨床的意義は大きい。
残された課題: 残された課題として、ヒト化マウスモデルがヒトの免疫レパートリーを完全に再現していないため、臨床設定での評価が本来の有効性評価には不可欠である。また、LY3434172がCD28およびCTLA-4経路に与える影響や、NK細胞や骨髄系細胞など他の免疫細胞に及ぼす影響について、さらなるメカニズム研究が必要である。LY3434172は進行がん患者を対象とした第I相試験 (NCT03936959) が進行中であり、その臨床的有用性が期待される。
方法
- LY3434172の設計: Zymeworks Azymetric二重特異性技術 (Von Kreudenstein et al. 2013) を用いて作製したヒトIgG1ヘテロマブである。PD-1アームはLY3342903 (Zhang et al. 2018) 由来、PD-L1アームはLY3300054 (Li et al. 2018) 由来である。Fc領域はL234A、L235A、D265S変異によりエフェクター機能を消失 (effector-null) させた。
- 結合・遮断特性: BiacoreによるKD測定を実施した。ELISA遮断アッセイでPD-1/PD-L1、PD-1/PD-L2、PD-L1/CD80の各相互作用に対する阻害活性 (IC50) を評価した。種交差反応性も評価し、ヒト、カニクイザル、マウス、ラットに対する結合を調べた。
- ADCC・CDC評価: FcγR結合ELISA、NFAT Luciferaseレポーターを利用したJurkat ADCC (antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity) アッセイ、CDC (complement-dependent cytotoxicity) 蛍光アッセイを用いて、Fcエフェクター機能の欠損を確認した。
- NFAT Reporter Assay: PD-L1発現CHO細胞およびPD-L1+PD-L2発現CHO細胞にNFAT (nuclear factor of activated T-cells)-luc2/PD1 Jurkat細胞を共培養し、LY3434172、単剤、組み合わせ間のEC50を比較した。
- 混合リンパ球反応 (MLR): 同種DCとCD4+ T細胞を共培養し、IFNγ産生 (ELISA) を指標にEC50を算出した。
- 腫瘍細胞傷害アッセイ: DCとT細胞を標識HEL腫瘍細胞と共培養し、7-AADによる腫瘍細胞生存率を測定した。
- 受容体会合 (β-gal EFCアッセイ): PD-1融合ProLinkとPD-L1融合酵素受容体を共発現するU2OS細胞を用いて、シス相互作用を測定した。
- 細胞架橋 (フローサイトメトリー): 異なる色素で標識したPD-1 CHO細胞とPD-L1 CHO細胞を混合し、トランス架橋を定量した。
- ライブセル共焦点顕微鏡: PD1-neonGreen Jurkat細胞とPDL1-scarlet CHO細胞の免疫シナプスにおけるPD-1再分布をリアルタイムで観察した。
- in vivo抗腫瘍試験: NSGマウス (n=8 mice/group) に樹立腫瘍 (HCC827 NSCLC、OV79卵巣癌) または予防モデル (NCI-H292 NSCLC) を構築し、ヒトT細胞またはPBMC (peripheral blood mononuclear cell) を注入後に各抗体を腹腔内投与した。腫瘍体積の経時変化とT/C比 (腫瘍増殖抑制率) を評価した。統計解析にはSASソフトウェアのMIXEDプロシージャを用いた二元配置反復測定ANOVAを実施した。