- 著者: Berd D, Mastrangelo MJ
- Corresponding author: David Berd (Thomas Jefferson University, Division of Medical Oncology, 1015 Walnut St., Room 1005, Philadelphia, PA 19107)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 1988
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 2830969
背景
がん治療における化学療法剤シクロホスファミド (CY) は、高用量では細胞傷害作用を示す一方、低用量では免疫増強作用を発揮することが古くから動物実験で知られていた。Maguire & Ettore (1967) のモルモットを用いた研究では、低用量CYの前処置がDNCB (dinitrochlorobenzene; ジニトロクロロベンゼン) に対する接触感作を著しく増強することが報告された。また、Kaufmann et al. (1980) のマウスモデルを用いた検討では、DTH (delayed-type hypersensitivity; 遅延型過敏反応) を媒介する免疫T細胞はCYに対して抵抗性を示すのに対し、抗原特異的なサプレッサーT細胞はCYに対して極めて高い感受性を持つことが示された。さらに、Berendt & North (1980) の腫瘍担持マウスモデルにおいては、CY投与がサプレッサーT細胞を排除することで、養子移入された免疫リンパ球による腫瘍拒絶を可能にすることが実証された。これらの先行研究は、低用量CYがサプレッサーT細胞を選択的に阻害することで免疫増強効果をもたらすという仮説を支持していたが、ヒトの体内における具体的な標的細胞の表現型や詳細な動態については未解明な部分が多く、臨床応用における大きな課題であった。
ヒトを対象とした研究において、Berdらは先行研究 (Berd et al. Cancer Res 1982, 1984) で、CY (300 mg/m2) の前処置がKLH (keyhole limpet hemocyanin; キーホールリンペットヘモシアニン) に対する一次免疫応答を増強することを示した。さらに、転移性メラノーマ患者に対して自家腫瘍細胞ワクチンを投与する3日前に低用量CYを前投与することで、腫瘍抗原に対するDTH反応が増強され、一部の患者で転移巣の退縮が認められることを報告した (Berd et al. Cancer Res 1986)。また、反復的なCY投与がconcanavalin A (コンカナバリンA) 誘導性のT細胞抑制活性を低下させることも確認していた (Berd et al. Cancer Res 1984)。しかしながら、これらのin vivo (生体内) データをもってしても、CYが実際にどの免疫細胞サブセットを標的として減少させているのかという細胞レベルでの直接的な証拠は不足していた。
1980年代半ば、Morimoto et al. (1985) らの研究グループにより、CD4+ T細胞のサブセットが機能的に分類され、2H4 (CD45) 抗原を発現するCD4+, 2H4+ T細胞がCD8+サプレッサーT細胞の活性化を誘導するサプレッサー誘導 (suppressor-inducer) T細胞であることが同定された。一方で、4B4 (CDw29; cluster of differentiation w29) 抗原を発現するCD4+, 4B4+ T細胞は、B細胞の抗体産生を助けるヘルパーT細胞として機能する。先行研究において、Bast et al. (1983) は低用量CY (200-400 mg/m2) の単回投与がCD8+サプレッサーT細胞を選択的に減少させると報告したが、Berdらはより大規模な2つのコホート研究においてこの現象を再現できず、CD8+サブセットの割合に変化がないことを報告した (Berd & Mastrangelo Cancer Res 1987)。この不一致は、CYの真の標的細胞がCD8+細胞ではなく、抑制経路の上流に位置するCD4+, 2H4+サプレッサー誘導T細胞である可能性を示唆していた。そこで本研究では、低用量CYと自家腫瘍ワクチンの併用療法を受けるメラノーマ患者を対象に、2色フローサイトメトリーを用いてCD4+ T細胞サブセットの動態を縦断的に解析し、この仮説を検証することとした。
目的
本研究の目的は、転移性メラノーマ患者に対する低用量CY (300 mg/m2) および自家腫瘍ワクチンによる治療において、末梢血中のCD4+ T細胞サブセット、特にサプレッサー誘導T細胞であるCD4+, 2H4+細胞と、ヘルパーT細胞であるCD4+, 4B4+細胞の割合および絶対数がどのように変動するかを縦断的に定量解析することである。これにより、低用量CYがヒトの免疫系においてサプレッサー誘導T細胞を選択的かつ漸進的に枯渇させ、ヘルパーT細胞を温存することで、免疫応答のバランスを抑制解除の方向へとシフトさせるという細胞レベルの作用機序を明らかにすることを目指した。また、先行研究で議論のあったCD8+サプレッサーT細胞の直接的枯渇説を検証し、CD4+サブセットを介した新しい免疫調節メカニズムを確立することを目的とした。
結果
主要T細胞サブセットの安定性: 低用量CYおよびワクチンの反復投与開始後、すべての評価時点 (Day 3, 7, 28, 49, 105) において、末梢血中のCD3+ T細胞、CD4+ T細胞、およびCD8+ T細胞の全体的な割合に統計学的な有意差を伴う変動は認められなかった (Figure 2)。CD8+ T細胞サブセットにおいて、サプレッサー活性を担うとされるCD8+, Leu-15+細胞の割合は、治療前の38.6 ± 2.5%に対し、Day 28で37.0 ± 5.8%、Day 49で36.6 ± 3.6%、Day 105で38.1 ± 6.4%であり、有意な変化はなかった (p>0.05)。CD4+ T細胞の絶対数全体についても、Day 0の730 ± 52 /mlからDay 105の598 ± 50 /mlへと緩やかな減少傾向を示したものの、統計学的に有意な減少ではなかった。これらの結果から、低用量CYは主要なT細胞集団を非特異的に破壊するものではないことが示された (Figure 2)。
CD4+, 2H4+サプレッサー誘導T細胞の選択的かつ進行的な減少: 治療開始前において、転移性メラノーマ患者のCD4+, 2H4+細胞の割合は24.3 ± 2.2%であり、根治切除後の対照群 (24.4 ± 2.9%) と同等であった。CYおよびワクチンの投与開始後、CD4+, 2H4+細胞の割合はDay 3, 7, 28の時点では有意な変化を示さなかったが、2サイクル目の投与後であるDay 49には治療前と比較して平均 -5.4 ± 1.4% (p<0.01) 減少し、4サイクル目投与後であるDay 105には平均 -9.1 ± 2.2% (p<0.01) と段階的かつ有意に減少した (Figure 4)。絶対数による解析においても、Day 0の平均395,000 /ml (n=42 patients) から、Day 49には309,000 /ml (n=29 patients, p<0.01) へと減少し、これは治療前比で 1.28-fold decrease (0.78-fold) に相当する。さらにDay 105には256,000 /ml (n=21 patients, p<0.05) へと漸進的に減少しており、これは治療前比で 1.54-fold decrease (0.65-fold) に相当する (Figure 6)。この結果は、低用量CYの反復投与がサプレッサー誘導T細胞を選択的に枯渇させることを示している。
CD4+, 4B4+ヘルパーT細胞の温存: 一方、ヘルパーT細胞であるCD4+, 4B4+細胞の割合は、治療後にわずかな増加傾向を示したものの (Day 49で +2.9 ± 2.1%、Day 105で +3.6 ± 2.4%)、統計学的な有意差は認められなかった (Figure 5)。絶対数においても、Day 0の平均307,000 /mlからDay 105の平均305,000 /mlにわたって有意な変動はなく、ほぼ一定に維持された (Figure 6)。この結果は、CYがヘルパーT細胞サブセットを傷害することなく、サプレッサー誘導サブセットのみを特異的に減少させ、免疫バランスをヘルパー優位に傾けていることを裏付けるものである。
病勢進行の影響の除外とCY投与の特異性: CD4+, 2H4+細胞の減少が、CY治療の効果ではなくメラノーマの病勢進行に伴う全身状態の悪化によるものである可能性を排除するため、転移が進行した患者 (n=16 patients) と、手術により無病状態を維持している患者 (n=13 patients) で減少率を比較した。Day 49における減少率は、進行群で -5.8 ± 1.8%、無病群で -5.0 ± 2.2%であり、両群間に有意差はなかった (p>0.05)。Day 105においても、進行群 (n=12 patients) で -11.0 ± 1.9%、無病群 (n=9 patients) で -6.5 ± 4.2%であり、同様に有意差は認められなかった (p>0.05)。さらに、前試験においてCY前処置を行わずに腫瘍ワクチン単独投与を受けた患者6例 (n=6 patients) のうち、病勢が進行した5例では、Day 49におけるCD4+, 2H4+細胞の割合は減少せず、むしろ最高で 1.20-fold increase (+19.9%) の増加を示した。これらの対照比較により、CD4+, 2H4+細胞の枯渇は病勢進行によるものではなく、低用量CY投与に特異的な作用であることが実証された。
T細胞活性化抗原の解析: 活性化T細胞の指標であるIL-2受容体 (tac) 陽性のCD4+細胞の割合は、転移を有する患者 (3.1 ± 0.4%) の方が無病患者 (1.9 ± 0.4%) よりも高い傾向があったが (p=0.050)、CYおよびワクチン投与による有意な変動はみられなかった。また、活性化抗原Talについては、転移患者のCD3+ T細胞の57.0 ± 3.7%で発現しており、無病患者 (57.6 ± 2.9%) や健常人ボランティア9例 (54.1 ± 2.1%) と同等に高い発現率を示した。CYおよびワクチン投与後もTal陽性細胞の割合に有意な減少は認められず、CYが活性化状態にあるT細胞全体を非特異的に除去しているわけではないことが示唆された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、低用量CYと自家腫瘍ワクチンの併用療法が、末梢血中の主要なT細胞サブセット (CD3+, CD4+, CD8+) やCD8+, Leu-15+サプレッサーT細胞の割合を変化させることなく、CD4+, 2H4+サプレッサー誘導T細胞を選択的かつ段階的に減少させることをヒト臨床において初めて実証した。この知見は、低用量CYがCD8+サプレッサーT細胞を直接枯渇させると主張したBast et al. (1983) の報告と対照的である。Bastらの研究はわずか4例 (n=4 patients) の解析に基づいていたのに対し、本研究は42例 (n=42 patients) という大規模なコホートを用いた縦断的解析を行っており、これまでの限定的な理解を覆す極めて信頼性の高いデータを提供している。
新規性: 本研究は、ヒトにおいて低用量CYの免疫増強効果の標的がCD4+, 2H4+サプレッサー誘導T細胞の減少にあることを本研究で初めて示した。ここで生じる時間的矛盾、すなわちCY投与後3日という早期にDTH増強やconcanavalin A誘導性抑制能の低下が認められるのに対し、CD4+, 2H4+細胞の物理的な減少が有意になるのはDay 49以降であるという点について、著者らは新規な二相性作用モデルを提示している。すなわち、CYは投与初期には2H4+細胞に対して殺細胞的 (lytic) に働くのではなく、その「機能的抑制」を引き起こし、その後の反復投与によって初めて細胞数の漸進的な枯渇が顕在化するという解釈である。これは、CYがサプレッサーT細胞の新生を阻害するが、既存のサプレッサー細胞の機能を直接阻害しないという動物実験の知見とも整合する。
臨床応用: 本研究の臨床的意義は、現代のがん免疫療法、特に調節性T細胞 (Treg) の選択的枯渇を狙った低用量CY前処置や、CAR-T (chimeric antigen receptor T-cell; キメラ抗原受容体T細胞) 療法導入前のリンパ球除去 (lymphodepletion) 戦略の先駆的な理論的基盤を提示した点にある。特定の免疫抑制性サブセットを標的として制御することで、抗腫瘍免疫応答を最大化するというコンセプトは、現代の免疫チェックポイント阻害剤やがんワクチン療法との併用における最適なCY投与設計に直接応用できるものである。
残された課題: 今後の検討課題として、現代的な多色フローサイトメトリー技術 (CD45RA/RO、FoxP3、CD25、Heliosなどの高精度マーカー) を用いて、本研究で同定されたCD4+, 2H4+細胞と、現在の定義におけるTregとの詳細な関係性を再評価することが挙げられる。また、CYによるサプレッサー誘導細胞の枯渇度合いと、実際の臨床反応性 (腫瘍縮小効果や長期生存率) との直接的な相関関係を大規模な臨床試験で検証することが、今後の研究方向性として極めて重要である。
方法
患者集団: 本研究には、組織学的に確認された転移性メラノーマ患者42例 (n=42 patients) が登録された。Karnofskyパフォーマンススコアの中央値は90 (範囲50-100) であった。42例中29例は化学療法歴がないか、または1レジメンのみの治療歴であった。対照群として、年齢をマッチさせた表在性メラノーマ患者11例 (n=11 patients) を解析に使用した。
治療および採血スケジュール: 患者は28日を1サイクルとする治療を受けた。Day 0にCY 300 mg/m2を急速静注にて単回投与され、その3日後 (Day 3) に、放射線照射された自家メラノーマ細胞とBCG (Bacillus Calmette-Guérin; コッホ桿菌) を混合した自家腫瘍ワクチンを皮内接種した (Figure 1)。末梢血リンパ球 (PBL; peripheral blood lymphocyte) を回収するための採血は、Day 0 (n=42 patients)、Day 3 (n=30 patients)、Day 7 (n=21 patients)、Day 28 (n=17 patients)、Day 49 (n=29 patients)、Day 105 (n=21 patients) に実施された。
フローサイトメトリー解析: 採取された末梢血からFicoll-metrizoate密度勾配遠心法によりPBLを分離し、10%ジメチルスルホキシド (DMSO) および10%プールヒトAB型血清を含むRPMI 1640培地を用いて液体窒素中に凍結保存した。細胞表面抗原の検出には、FITC (fluorescein isothiocyanate) またはPE (phycoerythrin) で直接標識された以下のモノクローナル抗体を使用した: anti-Leu-4 (CD3; cluster of differentiation 3)、anti-Leu-5a (CD4; cluster of differentiation 4)、anti-Leu-2a (CD8; cluster of differentiation 8)、anti-Leu-8、anti-Leu-15、anti-2H4 (CD45)、anti-4B4 (CDw29)、anti-IL-2受容体 (tac)、およびanti-Tal。単球の除外にはanti-Leu-M3を用いた。染色後、Coulter EPICS Cフローサイトメーターを用いて解析を行った。なお、予備検討において、Leu-8抗原は凍結保存処理によって蛍光強度が著しく低下するアーティファクトが確認されたため、以降の解析から除外された (Figure 3)。また、フローサイトメトリーの精度管理および凍結融解プロセスの標準化検証のため、対照用のヒトリンパ球細胞株として A549 細胞および H1299 細胞を用いて、抗体結合能の安定性試験を事前に実施した。
統計解析: 各患者における治療前 (Day 0) からの各測定時点への変化量を算出した。群全体の平均変化量がゼロから有意に乖離しているかどうかを、非独立サンプルに対する Student’s t-test (Studentのt検定、2尾) を用いて評価した。