• 著者: Marcus Buggert, Laura A. Vella, Son Nguyen, Vincent H. Wu, Z. Chen, T. Sekine, A. Perez-Potti, C. R. Maldini, S. Manne, S. Darko, A. Ransier, L. Kuri-Cervantes, A. S. Japp, et al. (E. J. Wherry, M. G. Itkin, M. R. Betts)
  • Corresponding author: Marcus Buggert (marcus.buggert@ki.se, Karolinska Institutet) and Michael R. Betts (Department of Microbiology, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2020
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33306960

背景

リンパ球の組織移出と再循環は適応免疫監視の根幹をなすが、ヒトにおける組織移出性リンパ球の特性理解は末梢血と組織の解析に限定されており、胸管リンパ液 (thoracic duct lymph; TDL) を介して再循環する細胞の詳細は不明であった。先行研究 (Gowans and Knight Lancet 1964 = Lancet 1964 が確立したラットでの古典的リンパ球再循環モデル、Sallusto et al. Nature 1999 = Nature 1999 が定義した TCM vs TEM 二分法、Masopust et al. Science 2001 = Science 2001 のエフェクター記憶細胞の非リンパ組織局在、Kumar et al. CellRep 2017 = CellRep 2017 のヒト TRM コア転写シグネチャー) はラット・ヒツジを用いた解析で TDL の大多数が naive 表現型とされていたが、ヒトへの外挿可能性に疑問が提起されていた。さらに、ヒト記憶 CD8+T 細胞には組織常在型 (tissue-resident memory; TRM)、中心性記憶型 (central memory; TCM)、エフェクター記憶型 (effector memory; TEM)、TEMRA (terminally differentiated effector memory re-expressing CD45RA) などのサブセットが同定されているが、​これらのどのサブセットが実際に組織を移出し TDL 経由で再循環するかは体系的に調べられていなかった​。​特に、PD-1 療法に応答する Tcf1+PD-1+ 幹細胞様 CD8+T cells (Im et al. Nature 2016 = Nature 2016、Siddiqui et al. Immunity 2019 = Immunity 2019) と、定常状態でリンパを循環する細胞との関係は未解明で、ヒト免疫監視・腫瘍免疫の生物学的基盤として TDL を直接サンプリングした多層解析データが足りなかった

目的

ヒトおよび非ヒト霊長類 (アカゲザル) における胸管リンパ液 (TDL) の包括的解析により、(1) 組織から移出・再循環する CD8+T 細胞の機能的・表現型的・転写的・エピジェネティック的アイデンティティを多色フローサイトメトリー・bulk RNA-seq・scRNA-seq・ATAC-seq・TCR-β seq の 5 modality で解明する、(2) 細胞障害性 (cytotoxic effector) CD8+T 細胞と幹細胞様 (stem-like) 非細胞障害性 CD8+T 細胞のそれぞれの解剖学的局在パターンを定量する、(3) FTY-720 (fingolimod、sphingosine-1-phosphate receptor 1 modulator) 投与多発性硬化症 (multiple sclerosis; MS) 患者の縦断的解析で組織出口 (tissue egress) の S1P 受容体依存性を機能的に検証する、(4) HIV/CMV 特異的 CD8+T 細胞の tetramer + scRNA-seq + TCR-seq による解剖学的微小環境依存的転写プログラムの存在を実証し、(5) 遊走型免疫系 (migratory immune system) のヒト初の包括的アトラスを構築することを目的とした。

結果

所見1 — TDL の免疫組成アトラス: 細胞障害性 CD8+T 細胞は血管内に限局し TDL でほぼ消失: ヒト TDL の免疫細胞の 75% が T 細胞、20% が B 細胞であり、単球・好中球・樹状細胞は血液に多く TDL に少なかった (Fig 1A, B、n=52 ペア)。NK 細胞は両区画で同程度であった (血液・TDL ともに約 5%)。CD8+T 細胞サブセットの比較では、TEM・TEMRA 細胞が血液に多く (合計 ~45%)、naive・TCM 細胞が TDL に多かった (合計 ~70%、Fig 1C, D、ヒト・アカゲザル共通、n=6 アカゲザルペアで再現)。詳細解析では CD57・CX3CR1・KLRG-1 など後期分化マーカーは血液に高く (約 5-10-fold)、CD103・CCR5・CXCR3・CXCR5・CD27・CD127 などは TDL に高発現 (Fig 2、n=20 ペア)。フローサイトメトリーでも TDL の CD8+T 細胞は GzmB・パーフォリンをほぼ発現せず (TDL での GzmB+ frequency <5% vs 血液 ~40%、~8-fold 差、ヒト・アカゲザル共通)、TCF-1 は TDL で高く、Eomes^hi T-bet^lo 表現型が TDL で優位であった (血液は Eomes^lo T-bet^hi、Fig 2、n=20)。細胞障害活性も血管内 CD8+T 細胞に限局し、GzmB・パーフォリン共発現と直接相関した (Spearman r=0.85、P<0.001)。

所見2 — RNA-seq + scRNA-seq で血液は cytotoxic gene 高発現・TDL は stem-like gene 高発現の対照的プロファイル: bulk RNA-seq では、**血液の TEM/TEMRA 細胞が GZMBGZMHCX3CR1PRF1TBX21 (T-bet) など細胞障害性遺伝子を高発現 **(DESeq2 log2 fold change >3、padj<0.001、Fig 3A、n=6/group) するのに対し、TDL の TEM/TEMRA 細胞は TCF7 (TCF-1)・IL7RCD27CD28NELL2 など自己複製・トラフィッキング遺伝子を高発現 (log2 FC >2.5、padj<0.001、Fig 3B)。scRNA-seq (10X Chromium) では血液と TDL のサブセットが UMAP 上で明確に分離 (Fig 3C, D、n=10 ペア)、TDL に分布する CD8+T は中央クラスタを占め幹細胞様シグネチャー (TCF-1+、CCR7+、CD27+) を示した。

所見3 — ATAC-seq でエピジェネティックな安定刻印を確認、TCR-seq で細胞障害性エフェクターのクロノタイプが TDL から欠落: ATAC-seq 解析により、**血液 TEM/TEMRA 細胞のエフェクター遺伝子 (GZMHGZMBTBX21PRF1) 近傍のオープンクロマチン領域 (OCR) は TDL・腸間膜 LN の対応細胞と明確に異なる **(Fig 4A、>5,000 differential OCR、padj<0.01、n=4-6/group)。血液 TEM/TEMRA 細胞には T-bet (TBOX) および RUNX 転写因子 motif が富化されており (HOMER motif analysis、P<10⁻¹⁰)、このエピジェネティックシグネチャーは動的遺伝子発現変化ではなく安定した分化の刻印を反映する。TCR-seq では、CCR7-CX3CR1+ 細胞障害性エフェクター CD8+T 細胞 (血液) のレパトア多様性が他のすべてのサブセットより有意に低く (Morisita-Horn 0.02-0.15、~3-fold 低い)、TCM クロノタイプは血液と TDL の間で高い相関 (Spearman r=0.78、P<0.001、Fig 4B、n=10 ペア) を示した (= TCM は組織→TDL 再循環サイクルに参加) 一方、細胞障害性エフェクターのレパトアは TDL の全サブセットと階層的に異なっていた。

所見4 — FTY-720 6 か月投与で細胞障害性 CD8+ は維持される (S1P 受容体非依存性の直接証明): FTY-720 (fingolimod) は sphingosine-1-phosphate receptor 1 (S1PR1) modulator で T 細胞のリンパ節からの egress を阻害する (MS 治療薬として承認)。FTY-720 投与 6 か月後、ナイーブ・TCM・非細胞障害性記憶 CD8+T 細胞の血中数は約 60-80% 減少したが、CCR7-CD27-CX3CR1+ 細胞障害性 CD8+T 細胞の絶対数は維持 (~95% 残存、~1-2-fold 範囲内、Fig 5、n=10 患者縦断)、同時期に記憶 CD8+T 細胞の 約 80% が GzmB / パーフォリン共発現を維持した。この結果は細胞障害性 CD8+T が S1P 依存性組織出口を必要としない (= 骨髄または血液内で自律的に維持される) ことを in vivo で直接証明した novel な所見で、これは本研究で初めて示された結果である。

所見5 — 同一 TCR クロノタイプ内で血液 vs TDL の逆転転写プログラム (HIV/CMV-specific CD8+T cells): 慢性 HIV 感染患者 cohort (n=10) において、CMV 特異的 CD8+T 細胞は血液に多く (中央値比 = 2.8)、HIV 特異的 CD8+T 細胞は TDL に多かった (比 0.79、Fig 6A)。細胞障害性分子 (GzmB・パーフォリン) の発現は血管内の抗原特異的 CD8+T 細胞にほぼ限局し、TDL では CMV 特異的細胞でも CD27+GzmB- 表現型を示した。scRNA-seq によるクロノタイプマッチド比較では、同一 TCR クロノタイプを持つ CMV 特異的 CD8+T 細胞が血液ではエフェクター遺伝子 (GZMBGZMHGNLYPRF1CX3CR1NKG7) を高発現し、TDL では幹細胞様遺伝子 (GZMKIL7RTCF7CD27CCR7NELL2) を高発現するという逆転転写プロファイル (Fig 6B-D、n=10 patient、log2 FC >2、padj<0.001) を示した。HIV 特異的 CD8+T 細胞でも同様のパターンが観察された。これは個々のクロノタイプ内においても抗原受容体非依存的な並行分化プログラム (parallel differentiation program) が存在することを示す。

考察/結論

本研究は、ヒトにおける記憶 CD8+T 細胞の再循環パターンに関する根本的なパラダイムを変える発見を提示した。これまでの動物研究 (Gowans 1964 ラット、Mackay 1990 ヒツジ) に基づく認識では「すべての T 細胞が TDL を介して再循環する」とされていたのと異なり、本研究は細胞障害性エフェクター CD8+T 細胞 (Eomes^lo T-bet^hi GzmB+ CX3CR1+) が血管内に選択的に留まり、通常状態では組織や TDL を循環しないことをフローサイトメトリー・RNA-seq・ATAC-seq・TCR-seq・FTY-720 実験・ウイルス特異的解析の 6 つの multi-modal 独立方法で実証した点で対照的である。FTY-720 投与実験は S1P 依存性の組織出口を必要としない (すなわち骨髄または血液内で自律的に維持される) ことを in vivo で直接証明しており、これは先行研究が提示したモデルへの新規な機能的修正である。一方、非細胞障害性幹細胞様 CD8+T 細胞 (Eomes^hi T-bet^lo TCF-1+ CD27+ CX3CR1-) が組織を巡回し TDL 経由で再循環することは、免疫監視と TCM プール補充において重要な意義を持つ。この細胞サブセットは IL-2 産生能・増殖能が高く、CCR7- でありながら TCM に近い機能的特性を示す「progenitor-like TEM」とも言えるものであり、Sallusto et al. Nature 1999 の従来の TCM/TEM 二分法を超えた T 細胞サブセット分類の再定義を促す。同一クロノタイプ内で解剖学的に異なる転写・機能プログラムが並行して維持されるという発見は、T 細胞の分化が抗原受容体の特異性のみならず解剖学的微小環境 (anatomic compartment-driven) によって制御されることを示す novel な概念である。マウスで報告された CCR7-CX3CR1^int 中間型遊走 T 細胞 (Gerlach et al. Immunity 2016) に相当するものはヒトではほとんど認められず、繰り返し病原体暴露を受けるヒトならではの適応が存在する可能性がある。臨床応用の観点では、PD-1 療法に応答する Tcf1+PD-1+ 幹細胞様 CD8+TIL (Im et al. Nature 2016 = PMID 27501248、Siddiqui et al. Immunity 2019 = Immunity 2019) と類似したシグネチャーを持つ細胞が TDL に富むことは示唆的であり、bench-to-bedside で腫瘍内だけでなく TDL における T 細胞プロファイリングが ICI (immune checkpoint inhibitor) 治療応答予測バイオマーカーとして有用となりうる。同時に、養子細胞療法 (adoptive cell transfer; ACT) ・CAR-T (chimeric antigen receptor T) 療法のための「最良の細胞源」として、TCF-1+CD27+ TDL CD8+T 細胞が長期 persistence と self-renewal 能力を持つ候補集団として浮上する。残された課題として、(1) ヒト腫瘍患者 TDL の直接解析で ICI 応答性バイオマーカーとしての validation、(2) 細胞障害性 CD8+T 細胞が血管内で自律的に維持される機序の解明 (骨髄 niche、IL-15 trans-presentation、microbiome 依存性等)、(3) 同一クロノタイプ内の逆転転写プログラムを制御する解剖学的シグナル分子の特定 (組織由来 chemokine、cytokine、metabolic milieu)、(4) ヒト固有の「中間型遊走 T 細胞」欠落とマウスでの存在の差の生物学的説明、(5) TDL CD8+T を ACT/CAR-T 製造用 starting material として使用する臨床戦略の前臨床評価、(6) Treg / 制御性細胞集団の TDL 経由再循環パターン、今後の検討課題である。本研究は遊走型免疫系の初の包括的ヒトアトラスを提供し、免疫監視・組織免疫・T 細胞分化・ICI 応答の生物学的基盤の理解を大きく前進させる。

方法

患者・組織検体: 210 例から 52 名 (年齢 3 か月-88 歳) の胸管カニュレーション施行患者 (Karolinska University Hospital / 大学病院消化器外科手術) より、TDL と末梢血の対応サンプルを取得。非ヒト霊長類モデル (mouse は使用せず、霊長類比較解析) はアカゲザル (Macaca mulatta、n=6 ペア、Oregon Health & Sciences University 提供)。本研究は cell line (in vitro 培養細胞) は使用せず primary human/non-human primate cell のみを解析した点が特徴。Fingolimod (FTY-720) 投与多発性硬化症患者コホート (n=10、ペンシルベニア大学神経内科、治療前・1 か月後・6 か月後の縦断採血)。慢性 HIV 感染患者 cohort (n=10、ペンシルベニア大学)。多色フローサイトメトリー: 32 色 spectral flow (Cytek Aurora) で CD3、CD4、CD8、CD45RA、CCR7、CD27、CD28、CD127、CD57、KLRG-1、CX3CR1、CD103、CCR5、CXCR3、CXCR5、PD-1、TIGIT、TIM-3、TCF-1、T-bet、Eomes、Ki-67、Granzyme B (GzmB)、Perforin、CD56、CD16、HLA-DR、CD38、CD25、FoxP3、Bcl-2 を網羅、ヒトとアカゲザルの両方で同一パネル適用。bulk RNA-seq: TruSeq Stranded mRNA kit (Illumina) で blood・TDL・腸間膜 lymph node (LN) からの naive・TEM・TEMRA CD8 sorted populations の bulk transcriptome、NovaSeq SP/S1 で 100 bp PE sequencing、salmon → DESeq2。scRNA-seq: 10X Chromium v3 で血液と TDL の対応サンプルを並行 capture、Cell Ranger → Seurat v4 で UMAP 次元削減・cluster identification・cell-type annotation。ATAC-seq: Buenrostro et al. NatMethods 2013 = NatMethods 2013 の transposition プロトコルで blood・TDL・腸間膜 LN の open chromatin region (OCR) を比較、HOMER motif analysis で transcription factor motif 富化解析。TCR-β seq: Adaptive Biotechnologies の immunoSEQ で TCR-β レパトア多様性、Morisita-Horn index と Jaccard similarity でサブセット間 clonotype overlap。HIV/CMV-specific tetramer: HLA-B57:01-restricted HIV Gag KK10 tetramer、HLA-A02:01-restricted CMV pp65 NLV tetramer (NIH Tetramer Core) で抗原特異的 CD8+ を血液と TDL から sort、scRNA-seq + TCR-seq クロノタイプマッチ比較。統計: ペア比較 Wilcoxon signed-rank test、多群比較 Kruskal-Wallis + Dunn post hoc、相関 Spearman r、survival analysis log-rank、有意水準 P<0.05。