- 著者: Burger ML, Cruz AM, Crossland GE, Gaglia G, Ritch CC et al. (Jacks T, Corresponding author)
- Corresponding author: Tyler Jacks (David H. Koch Institute for Integrative Cancer Research, MIT)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 34534464
背景
腫瘍に対する CD8 T 細胞応答は複数のネオアンチゲンに対して同時に成立するが、これまでこれらの応答が互いにどのように相互作用し、T 細胞機能や腫瘍制御にいかなる影響を与えるかは、未解明であった。先行研究 (McGranahan et al. Nature 2014 らはネオアンチゲン clonal/subclonal 構造が ICB 奏効を予測することを示し、Miller et al. Nature 2019 が TCF1+ 前駆体 CD8 T 細胞が ICB 応答に必須であることを示した) ではネオアンチゲン応答 CD8 T 細胞の総量とその機能不全状態に焦点が当てられてきたが、複数 epitope 間の相対的階層性 (immunodominance) の役割は十分に検討されていない。ネオアンチゲンを標的とするワクチンや養子移入療法の開発が進む一方、計算予測 (NetMHCpan 等) で同定された候補ネオアンチゲンの大多数に対して T 細胞応答が検出されないという問題が広く認識されていた点もこれまでギャップとして残されていた。
この応答欠如の生物学的基盤として、免疫編集に加えて、複数の抗原が競合する状況下での免疫優勢 (immunodominance) 現象が古典感染症免疫学 (Yewdell et al. ImmunolRev 1998 の influenza immunodominance review) で提唱されていたが、腫瘍の文脈で体系的に検証されておらず、特に (1) pMHC (peptide-MHC) 安定性が tumor immunodominance を規定する直接因果を示す isogenic 比較、(2) 劣性抗原応答 T 細胞の単一細胞表現型解析、(3) ワクチン接種が tumor immunodominance を破壊できるかの介入研究、の 3 点が本研究を着手するうえで足りなかった証拠ギャップであった。
目的
マウス Kras/p53 駆動 (KP) 肺腺癌モデル LucOS に SIINFEKL (SIIN) と SIYRYYGL (SIY) の 2 種類のモデルネオアンチゲンを共発現させ、複数のネオアンチゲン間で免疫優勢階層がどのように確立されるかを解明する。さらに劣性抗原応答 T 細胞の表現型的特性とICB (immune checkpoint blockade) への応答能を scRNA-seq + TCR-seq + フローサイトメトリーで明らかにし、ワクチン接種によって劣性応答を改善し、ICB との相乗効果を得る戦略を検証することを目的とした。
結果
所見1:pMHC 結合安定性が免疫優勢を規定し劣性応答 CD8 T 細胞が TCF1+ 前駆体表現型に濃縮される:LucOS 腫瘍では SIIN 特異的 CD8 T 細胞が 5 週時点で SIY 特異的 T 細胞に比べて著しく大きなクローン拡大を示した (SIIN MFI 約 8-fold vs SIY MFI 約 2-fold, p<0.001, n=8 mice/group; Fig 1A, 1B)。SIIN は H-2Kb に対して高い結合安定性 (Y5 vs SIIN dissociation t1/2 約 3-fold 低下) と親和性を持つのに対し SIY の結合安定性は低かった (Fig 1C)。LucSIIN・LucSIY 単独発現マウスでは両抗原の拡大は同程度であり、優勢・劣性の序列は co-expression によって初めて生じることが isogenic に証明された (n=5-6 mice/group, p>0.5 single vs single; Fig 1D)。結合安定性を人工的に操作した変異体 Y5 (SIIN より安定性が低い) を SIY と共発現させると優勢・劣性が逆転 (SIY > Y5) し、pMHC 安定性が支配的な決定因子であることが確認された (Fig 1E)。scRNA-seq (>30,000 cells) およびフローサイトメトリーにより、SIY 特異的 T 細胞は TCF1+TIM3- 前駆体表現型 (progenitor cell) に有意に濃縮され、SIIN 特異的 T 細胞は exhausted 表現型に偏ることが示された (ProjecTILs 分類で SIY: p=2.51E-15, SIIN: p=4.01E-17 to 1.52E-10; Fig 2A, 2B)。SIY 特異的細胞は IL-7R 高発現・阻害受容体低発現を示し、機能的消耗の進行が遅いことを示唆した (n=6 mice; Fig 2C)。
所見2:劣性応答 T 細胞中の CCR6+TCF1+ サブセットは Tc17 分化傾向を持ち ICB へ反応乏しい:SIY 特異的 T 細胞は TCF1+ 前駆体に富むにもかかわらず、ICB (抗 PD-1 + 抗 CTLA-4) 投与後の SIIN 特異的細胞と比べた優先的恩恵が認められなかった (SIIN+CB MFI 約 3-fold up vs SIY+CB MFI 約 1.2-fold up, n=8/group; Fig 3A)。その原因を探索するため、TCF1+ 細胞内の異質性を詳細に解析した。scRNA-seq で同定された progenitor cluster C4 (>30,000 cells 中) は Tc17 分化のマーカー (Ccr6, Rorc, Il17a) を高発現し、機能不全・anergy 関連マーカー (CD200, EGR2, CD83), 阻害受容体 (PD-1, LAG3, TIGIT), exhaustion マーカー TOX を高く発現していた (n=4-6 mice/condition; Fig 3B, 3C)。Monocle3 軌跡解析では TCF1/CCR6 共発現細胞から Tc17 集団 (RORγT+IL-17A+) への分化経路が予測された (Fig 3D)。フローサイトメトリーで CCR6+TCF1+ 細胞は SIY 特異的 T 細胞に約 40% を占め、SIIN 特異的 T 細胞 (約 10%) より約 4-fold 多かった (n=6 mice, p<0.001; Fig 3E)。CCR6+TCF1+ 細胞は GZMB 発現がほぼ陰性であり、CX3CR1 (分化マーカー) 発現もほぼ検出されず、ICB 後にも cytotoxic 分化を示さなかった (Fig 3F)。一方、CCR6-TCF1+ 細胞は CX3CR1 を最大 20% に発現し、ICB 後に拡大・機能亢進した (CCR6-TCF1+ vs CCR6+TCF1+ ICB 拡大率 約 3-fold vs 約 1-fold, p<0.01; Fig 3G)。ICB は CCR6-TCF1+ 細胞を優先的に拡大・増強し、CCR6+TCF1+ 細胞を選択的に減少させたが、後者の排除は不完全であった。
所見3:ワクチン接種が CCR6+TCF1+ 細胞を排除し劣性応答を劇的に改善する:SIIN/SIY 長ペプチドワクチン (long peptide + cyclic di-GMP) 投与により、腫瘍担持 LucOS マウスの SIIN および SIY 特異的 CD8 T 細胞の拡大、Ki67+ 増殖、GZMB+ 細胞傷害性が著明に増強した (SIY: vaccine vs control MFI 約 6-fold up, p<0.001, n=8-10 mice/group; Fig 4A, 4B)。特に SIY 応答の拡大が SIIN を上回り (SIY vs SIIN post-vaccine 約 1.5-fold)、ワクチンは免疫優勢を「打破」した (Fig 4C)。t-CyCIF 組織イメージングでは腫瘍内 CD8 T 細胞浸潤の増加 (約 2.5-fold up) と腫瘍縮小 (約 0.5-fold へ) が確認された (Fig 4D, 4E)。ワクチン接種後においても TCF1+ 細胞の比率は SIY 優勢のまま維持されたが、CCR6+TCF1+ サブセットはほぼ完全に排除された (post-vaccine CCR6+ 比率 約 0.1-fold へ; Fig 4F)。SIY のみを対象とするワクチン単独でも、SIIN/SIY 混合ワクチンと同程度に SIY 応答を回復できた (n=6 mice/group, p>0.5 single vs combo; Fig 4G)。これは劣性抗原単独ワクチン接種で十分に応答を正常化できることを示す。
所見4:CCR6+TCF1+ 細胞はヒトがんに広く存在し ICB 応答と逆相関する:Wu et al. pan-cancer ヒト CD8 T 細胞 scRNA-seq dataset (5 cancer types, ~50,000 cells) の解析では、マウス progenitor cluster C8 に対応する集団が TCF7 発現領域に高スコアで分布したのに対し、C4 (CCR6+TCF1+) シグネチャーは HAVCR2 (TIM-3) 高発現・exhaustion クラスターに濃縮された (Fig 5A, 5B)。肺腺癌・黒色腫・基底細胞癌等 5 つの scRNA-seq dataset で類似のパターンが再現された (Fig 5C)。t-CyCIF 組織イメージング (n=12 patients) では早期肺腺癌・転移性メラノーマ検体の CD8 T 細胞中、CCR6+TCF1+ 細胞が平均 2% (range 0.5-5%) 検出された (Fig 5D, 5E)。Sade-Feldman et al. メラノーマ ICB 治療データセット (n=48 patients) 解析では、CCR6-TCF1+ シグネチャーが ICB 奏効患者由来の progenitor クラスターに有意に濃縮された (responder vs non-responder, p<0.01) のに対し、CCR6+TCF1+ シグネチャーは exhaustion クラスターおよび非奏効患者に偏在し、奏効との正の相関は認められなかった (Spearman ρ <0.1, p>0.5; Fig 5F, 5G)。
考察/結論
これまでの先行研究 (Miller et al. Nature 2019, Siddiqui et al. NatImmunol 2019) では TCF1+ 前駆体細胞の存在が ICB 応答の良好な指標とされてきたが、本研究はそれと異なり、TCF1+ 細胞の均一性という前提に疑問を呈し、CCR6+TCF1+ 細胞が免疫療法の「死角 (blind spot)」として機能する可能性を初めて新規に示した点でパラダイムシフト的意義がある。これまで報告されていない novel な概念として、(1) 腫瘍免疫優勢階層が pMHC 結合安定性によって isogenic に規定されること、(2) 劣性応答 T 細胞の大部分が CCR6+TCF1+ という独自の機能不全前駆体サブセット (Tc17 分化傾向) に偏ること、(3) ワクチン接種がこのサブセットを排除し immunodominance を「打破」できること、の 3 点が新規発見である。CCR6 と RORγT の共発現は Tc17 細胞の特徴であり、autoimmune 文脈で知られる CCR6 上方制御 (Treg 系統) が自己抗原への過剰刺激や不良なプライミング条件によって誘導されるという従来知見と本研究の suboptimal T cell priming → CCR6+TCF1+ 誘導モデルは整合する。
臨床応用の観点から本研究の意義は大きく、bench-to-bedside に直結する translational research である。臨床応用として、(1) ネオアンチゲンワクチン設計時に単に多数のネオアンチゲンを網羅するのではなく、pMHC 安定性の高い優勢抗原と劣性抗原のバランスを考慮する戦略、(2) 既存 ICB に効かない患者の生検で CCR6+TCF1+ 比率を測定し、ワクチン combinational therapy へ層別化する戦略、(3) ICB とワクチンの最適タイミング・投与順序の最適化 (ワクチンは末梢で新規プライミング強化、ICB は腫瘍内で CCR6-TCF1+ 分化促進、と役割分担)、の 3 点が直接的な臨床応用候補である。臨床応用への次ステップとして、CCR6+TCF1+ biomarker を用いた個別化ネオアンチゲンワクチン + ICB 臨床試験 (BNT122, NEO-PV-01 等 既開発 platform への組込み) が自然な拡張となる。
残された課題として、第一に limitation として本研究は KP 肺腺癌マウスシンジェニックモデルに依存しており、ヒト腫瘍における CCR6+TCF1+ 排除戦略の前向き検証 (humanized mouse / clinical trial) が future work として必要である。第二に、pMHC 安定性の極端に低い抗原 (Y5 モデル) では単独ワクチンでも免疫優勢打破に至らなかったことから、実際のネオアンチゲンワクチン選択には結合安定性の閾値を考慮する必要があり、その最適閾値の確立が今後の検討課題である。第三に、ヒトにおける CCR6+TCF1+ 細胞の誘導機序と全体的な機能不全への寄与の定量化、および CCR6+TCF1+ 排除が ICB と組み合わせで長期的腫瘍制御につながるかの prospective 検証が future research direction として求められる。第四に、腫瘍免疫編集によるネオアンチゲン消失 (Riaz et al. Cell 2017 のゲノム収縮現象) と CCR6+TCF1+ 蓄積の相互作用の解明も今後の研究展望として残されている。
方法
KP mouse strain (Kras-LSL-G12D × p53-flox × Cre-ERT2, C57BL/6 background, Jackson Laboratory stock 008179 + Jacks lab in-house) を用い、肺腺癌を Cre 誘導した。in vitro ペプチド-tetramer 検証では EL4 cell line (C57BL/6 thymoma, ATCC TIB-39) と B16-F10 (ATCC CRL-6475) を補助的に使用した。2 種類のモデルネオアンチゲン (SIINFEKL [SIIN, H-2Kb 高結合安定性], SIYRYYGL [SIY, H-2Kb 低結合安定性]) をルシフェラーゼ融合 (LucOS) として発現させた lentiviral 構築物 (lentiviral vector backbone PGK-LucOS-IRES-Cre) で形質導入した。腫瘍開始から 5・8・12・20 週にわたり縦断的 longitudinal に蛍光ペプチド-MHC tetramer (BD APC-conjugated H-2Kb SIIN/SIY) で SIIN 特異的・SIY 特異的 CD8 T 細胞を定量し、フローサイトメトリー (BD LSRFortessa) で表現型 (TCF1, TIM3, PD-1, LAG3, TIGIT, CD200, EGR2, CCR6, CX3CR1, RORγT, IL-7R, GZMB, Ki67) を解析した。5 週時点 (peak response) で scRNA-seq (10x Genomics Chromium, n>30,000 cells) と TCR-seq を実施し、Seurat v3 + ProjecTILs パイプラインによる T 細胞状態分類、Monocle3 軌跡解析を実施した。SIIN のみ・SIY のみを発現させる LucSIIN・LucSIY 構築物を比較対照として用い、H-2Kb 結合安定性を変化させた点変異体 SIINYEKL (Y5; SIIN より安定性低下) を用いて pMHC 安定性と免疫優勢の関係を isogenic に検証した。治療介入実験では抗 PD-1 (clone J43, 200 μg/dose) + 抗 CTLA-4 (clone 9D9, 200 μg/dose) を 3-4 日ごと i.p. 投与、または SIIN/SIY 長ペプチドワクチン (long peptide + cyclic di-GMP STING agonist adjuvant) を皮下接種した。マウスは各群 n=5-10、3 independent experiments。ヒトがん検体への外挿は公開ヒト CD8 T 細胞 scRNA-seq dataset (Wu et al. pan-cancer Nature 2020, Sade-Feldman et al. melanoma Cell 2018, Guo et al. lung cancer Nat Med 2018 等 5 datasets) との比較および t-CyCIF (tissue cyclic immunofluorescence, 23 markers) 組織イメージングで実施した。統計は unpaired t-test, Mann-Whitney U, ProjecTILs scoring (p<0.05 with FDR adjustment) を使用した。