- 著者: Costa-Nunes C, Cachot A, Bobisse S, Arnaud M, Genolet R, Baumgaertner P, Speiser DE, Sousa Alves PM, Sandoval F, Adotevi O, Reith W, Protti MP, Coukos G, Harari A, Romero P, Jandus C
- Corresponding author: Camilla Jandus, Pedro Romero (University of Lausanne)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-04-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 31015344
背景
腫瘍特異的 CD4 T 細胞 (cluster of differentiation 4) は抗腫瘍免疫において多面的かつ重要な役割を果たす。腫瘍浸潤 Th1 (T helper 1) 極性化 CD4 T 細胞は様々な腫瘍種で良好な生存と関連する一方 (Fridman et al. Immunity 2013 による immune contexture review)、Th2 (T helper 2)・Treg (regulatory T cell) 表現型はしばしば予後不良と相関する。さらに、CD4 T 細胞はネオエピトープ (腫瘍特異的変異由来抗原) への高い感受性を示し (Tran et al. Science 2014 の患者でのMutant ERBB2IP-specific CD4 T cell adoptive transfer)、個別化癌免疫療法に有望な標的となっている (Kreiter et al. Nature 2015 の mutant MHC-II epitope vaccine マウス治験)。ネオアンチゲン特異的 CD4 T 細胞を用いた養子免疫療法やネオアンチゲンワクチン開発が進んでいるが、その前提となる腫瘍特異的 CD4 T 細胞の精密な同定・定量・機能評価が困難であった点が未解明であった。
主な障壁として、これまで(1) HLA (human leukocyte antigen) クラス II の広汎な多型性により汎用的な peptide-MHC (peptide-major histocompatibility complex) マルチマーツールの作製が困難であること、(2) 循環血中の抗原特異的 CD4 T 細胞は絶対数が少なく (未感作集団で通常 100 万 CD4 T cells 中 2 細胞前後)、標準法では検出限界以下となること、(3) 患者検体量に制限があることが挙げられる。先行アプローチとして peptide-MHC クラス II tetramer 濃縮、多重サイトカイン定量、T 細胞ライブラリーマイクロカルチャー法などが試みられてきたが、これまで HLA-II 非依存的かつ高感度・高スループットな方法論が不足していた点が本研究を着手するうえで足りなかった証拠ギャップである。
目的
増幅 T 細胞ライブラリースクリーニング法をヒト腫瘍特異的 CD4 T 細胞の定量・単離・機能解析に応用し、(1) 健常ドナーにおける TAA (tumor-associated antigen) 特異的 CD4 T 細胞の前駆体頻度の定量、(2) メラノーマ患者血中・腫瘍浸潤リンパ節 (TILN; tumor-infiltrated lymph node) 内の TAA 特異的 CD4 T 細胞の検出と免疫療法後の変化、(3) 単離 TAA 特異的 CD4 T 細胞クローンの機能的特性評価、(4) 本手法のネオアンチゲン反応性 CD4 T 細胞スクリーニングへの応用可能性を検証する。
結果
所見1:健常ドナーにおける TAA 特異的 CD4 T 細胞の定量:未感作 CD4 T 細胞ライブラリー (n=19 healthy donors, n=3 biological replicates per donor) において、TAA 特異的頻度は 0-97 cells/10^6 で、感染症抗原 TT 特異的未感作 T 細胞 (range 0-150 cells/10^6) と同程度の頻度であった (Mann-Whitney p>0.5; Fig 1A, 1B)。これは TAA 特異的 T 細胞の胸腺産生量が病原体特異的 T 細胞と同等であることを示唆する。hTERT 特異的 CD4 T 細胞は例外的に高い頻度 (未感作で 0-347, memory で 0-539 cells/10^6) を示したが、健常ドナー間で大きなばらつきがあった (Fig 1C)。hTERT 反応性 CD4 T 細胞株は特異的刺激で IFN-γ を有意に分泌した (>1,000 pg/mL vs vehicle <50 pg/mL, n=3 lines, p<0.001 ELISA, paired t-test)、反応性が確認された。既知の universal cancer peptide (UCP) エピトープへの反応性は認められず、検出された応答は hTERT 蛋白の他領域に向けられたと示唆された。Memory CD4 T 細胞ライブラリーではほぼ全ての TAA (Melan-A, NY-ESO-1, CEA, PAP, MAGE-A3, PRAME) に対して低頻度 (0-76 cells/10^6) ながら一貫した TAA 特異的細胞を検出した (Fig 1D)。これに対し TT 特異的 memory T 細胞は最大約 3,000 cells/10^6 と比較して格段に多く (約 40-fold), ウイルス抗原に比して TAA 特異的記憶形成が限定的であることが確認された。
所見2:メラノーマ患者における TAA 特異的 CD4 T 細胞応答:メラノーマ患者 (n=8, stage III/IV) の末梢血において、Melan-A および NY-ESO-1 特異的 CD4 T 細胞頻度はベースラインでは健常ドナーと同程度であった (患者 0-50 vs 健常 0-40 cells/10^6, p>0.5; Fig 2A)。NY-ESO-1 長鎖合成ペプチド + CpG-ODN (TLR9 アゴニスト) を用いたペプチドワクチン接種後 (n=5 patients, paired pre/post) では、両抗原に対する TAA 特異的 CD4 T 細胞頻度に増加傾向 (post vs pre, 約 1.8-fold up) が認められたが、統計学的有意差には至らなかった (Wilcoxon paired test p=0.08; Fig 2B)。腫瘍浸潤リンパ節 (TILN) 由来 T 細胞ライブラリーを作製した 3 例のメラノーマ患者では、TILN には memory CD4 T 細胞が豊富で naive T 細胞が少なかった (memory/naive 比 約 4-fold up vs PBMC; Fig 2C)。NY-ESO-1 特異的 CD4 T 細胞応答が memory 分画で選択的に検出され (平均 14 cells/10^6, n=3 patients), Melan-A 特異的 T 細胞は 3 例中いずれでも検出されなかった (Fig 2D)。この抗原特異性の偏りは腫瘍微小環境での選択的な免疫応答成熟を反映する可能性がある。
所見3:TAA 特異的 CD4 T 細胞の機能プロファイル:TT 特異的 T 細胞は主に IFN-γ 産生 (Th1) 表現型を示した (Fig 3A) が、患者由来 TILN ライブラリーでは IL-13・IL-5 の分泌増加 (Th2 偏向, 約 3-fold up vs PBMC; Fig 3B) が見られた。TAA 特異的 T cell line は健常ドナー・患者ともに IFN-γ 優位の機能プロファイル (IFN-γ>1,000 pg/mL, n=8 lines) を示したが、患者 (末梢血・TILN) 由来 T 細胞株では顕著な多機能性が認められた (Fig 3C, 3D)。具体的には Th1 サイトカイン (TNFα・IFN-γ) に加えて Th2 サイトカイン (IL-13・IL-5・IL-4) や IL-10 が豊富に分泌される polyfunctionality パターンを呈した (multiplex MSD で 8/10 cytokine 同時産生, 健常 2-3/10 vs 患者 6-8/10)。この多機能化は腫瘍微小環境の影響を受けて T 細胞極性化が変化したことを示唆する。陽性マイクロカルチャーから単離・増幅した NY-ESO-1 特異的 (HLA-DR7+) および Melan-A 特異的 (HLA-DQ6+) CD4 T 細胞クローンは、重複ペプチドプールスクリーニングによりエピトープ領域が同定され、HLA-matched 腫瘍細胞株 (mRNA エレクトロポレーションによる抗原強制発現) に対して特異的 IFN-γ 産生を示した (Me275 melanoma cell line: 約 2,000 pg/mL vs irrelevant control <100 pg/mL, p<0.001, n=3 replicates; Fig 3E)。NY-ESO-1 を内在性発現する HLA-DR7+ 腫瘍細胞との共培養では NY-ESO-1 特異的クローンのみが有意な IFN-γ を分泌し、ウイルス特異的コントロールクローン (HA307-318/DR7) は反応しなかった (Fig 3F)。TCR Vβ 解析ではモノクローナリティーと異なるクローン間での多様な Vβ 使用が確認された。
所見4:ネオアンチゲン特異的 CD4 T 細胞の検出:卵巣癌患者 1 例 (HGSOC, HLA-DRB1*0701+) において、SLCRA1F308C (Spliceosome Component Variant F308C, 25-mer mutated peptide RAVKDFLGNF**[C]**TFGNL) 由来ネオアンチゲンペプチドに対する特異的 CD4 T 細胞応答を memory 分画ライブラリーで検出することに成功した (positive wells 4/192, IFN-γ ELISA 約 600 pg/mL vs WT peptide <50 pg/mL, p<0.01; Fig 4A, 4B)。陽性ウェルと全ウェル数比率より Poisson 分布に基づいて前駆体頻度を算出 (約 22 cells/10^6 memory CD4) し、このネオアンチゲン反応性細胞の存在が確認された (Fig 4C)。これは T 細胞ライブラリー法が腫瘍エクソーム配列と組み合わせることでネオアンチゲン特異的 CD4 T 細胞のハイスループットスクリーニングに応用できることを初めて実証した novel な application である。
考察/結論
これまでの先行 CD4 T 細胞 enumeration アプローチ (Tran et al. Science 2014 らの mutant ERBB2IP CD4 T cell adoptive transfer、Bobisse et al. CancerImmunolRes 2015 らの peptide-MHC II tetramer 法) と異なり、本研究は対照的に増幅 T 細胞ライブラリースクリーニング法が、HLA クラス II 多型という壁を超えて希少な腫瘍抗原特異的 CD4 T 細胞を高感度・高スループットに検出・定量・単離できる実用的なプラットフォームであることを初めて新規に示した点で異なる。これまで報告されていない novel な発見として、(1) 健常ドナーにおける TAA 特異的未感作 T 細胞頻度が病原体特異的細胞 (TT) と同程度であるという胸腺産出量の同等性, (2) メラノーマ患者 TILN 由来 CD4 T 細胞での Th1+Th2+IL-10 共産生という novel な polyfunctionality パターン, (3) T 細胞ライブラリー法と腫瘍エクソーム配列の組み合わせによる卵巣癌 SLCRA1F308C ネオアンチゲン CD4 T 細胞のハイスループット検出, の 3 点が新規である。健常ドナーにおける memory TAA 特異的 T 細胞の存在は、低レベルで発現する TAA (Melan-A, CEA 等) への実際の曝露または交差反応性に起因すると考えられ、NY-ESO-1 等 cancer-testis 抗原では免疫特権組織での発現がこれを説明するかもしれない novel な解釈を提供する。
臨床応用の観点から本研究の意義は大きく、bench-to-bedside に直結する translational research methodology である。臨床応用として、(1) 個人化免疫療法パイプライン (TCR warehouse 構築) への直接応用、(2) 少量の PBMC で実施可能で HLA タイピングや標準外 MHC マルチマーが不要という臨床実用性、(3) 多数の抗原並行スクリーニングによるネオアンチゲンワクチン標的の選定加速、(4) 単離 T 細胞クローンの TCR シーケンスと養子移入療法 (TCR-T cell therapy) への応用、(5) ICB 治療前後の免疫モニタリングコンパニオン診断、の 5 点が直接的な臨床応用候補である。臨床応用への次ステップとして、HLA-II 多型を考慮した個別化ネオアンチゲン CD4 T 細胞ワクチン臨床試験 (BNT122, NEO-PV-01 等への組込み) や TCR-T cell therapy 開発が自然な拡張となる。
残された課題として、第一に limitation として本法はポリクローナル増幅を用いるため、ごく稀なクローンや終末分化した T 細胞、増殖能が制限された T 細胞は検出されにくい可能性があり、TCR Vβ 分布のモニタリングによる主要クロノタイプ保持の確認が future work として継続必要である。第二に、全タンパク質スクリーニングでは特定のエピトープレベルの解析が不可能で、応答クローンからの二次スクリーニングと重複ペプチドプールを組み合わせる workflow 最適化が今後の検討課題である。第三に、ワクチン接種後の患者応答増大が統計的有意差に至らなかった (n=5, p=0.08) 背景にはコホート症例数不足と個体間変動の大きさが影響しており、prospective larger cohort での再検証が future direction として求められる。第四に、腫瘍内在性抗原への免疫応答が生じているにもかかわらず腫瘍進行する「免疫回避」の実態を解明するため、本プラットフォームを縦断的な治療前後比較研究 (ICB 治療パイロット) に展開することが今後の研究展望として残されている。
方法
ヒト材料: 健常ドナー (n=19, Lausanne 大学病院 IRB 承認 protocol Lausanne-CHUV-2014-12, NCT02385149 関連) およびステージ III/IVA メラノーマ患者 (n=12) の末梢血 PBMC、対応する Me275 melanoma cell line (ATCC CRL-1424 派生) と NA8-MEL cell line (in-house, HLA-A2/DR7+) を機能アッセイに使用した。卵巣癌患者 1 例 (SLCRA1F308C 変異既知, in-house) からも検体取得した。T 細胞ライブラリースクリーニング法: 末梢血から naive (CD45RA+CCR7+) と memory (CD45RA-CCR7+/-) CD4 T 細胞を FACSAria II (BD) で分別ソートした。それぞれ 96 ウェルプレートにて 2,000 (naive) または 1,000 (memory) cells/well を PHA (phytohaemagglutinin)・IL-2 (interleukin-2)・同種フィーダー細胞 (照射 PBMC; 5×10^4 cells/well) で 14 日間ポリクローナル増幅し、各ドナーで最大 192 の個別マイクロカルチャー (mUL; micro-Unit Library) を作製した (n=3 biological replicates per donor)。スクリーニング対象抗原は TAA (Melan-A/MART-1, CEA [carcinoembryonic antigen], PAP [prostatic acid phosphatase], NY-ESO-1, MAGE-A3, PRAME, hTERT) および感染症対照抗原 (破傷風毒素 TT [tetanus toxoid], KLH [keyhole limpet hemocyanin]) を網羅した。自家 CD14+ 単球にリコンビナントタンパク質 (5 μg/mL, R&D Systems) をパルスして APC (antigen-presenting cell) として使用した。増殖を 3H-thymidine 取り込みで定量し、Stimulation Index (SI) >5 を陽性とした。前駆体頻度は Poisson 分布で算出した。機能解析は陽性マイクロカルチャーから ICOS・CD25・OX40 発現を指標に活性化誘導ソートで TAA 特異的 T cell line を単離し、重複ペプチドプール (15-mer overlap 11) でエピトープを特定した。IFN-γ ELISA および MSD (Meso Scale Discovery) マルチプレックスアッセイで 10 サイトカインプロファイル (IFN-γ, TNFα, IL-2, IL-4, IL-5, IL-10, IL-13, IL-17, GM-CSF, IL-21) を評価した。HLA-matched 腫瘍細胞株 (Me275 melanoma cell line, ATCC; NA8-MEL, in-house) を用いて腫瘍細胞認識能を検証した。ネオアンチゲン応用は卵巣癌患者 (SLCRA1F308C 変異由来 25-mer peptide) の末梢血 CD4 T 細胞ライブラリーで IFN-γ ELISA 検出した。統計は Mann-Whitney U test, Wilcoxon paired test を使用、p<0.05 を有意とした。