• 著者: Chalfin HJ, Pramparo T, Mortazavi A, Niglio SA, Schonhoft JD, Jendrisak A, et al.
  • Corresponding author: Andrea B. Apolo (NCI, Bethesda, MD)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-12-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33262136

背景

転移性泌尿生殖器癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果は限定的であり、治療効果を予測する信頼性の高いバイオマーカーの確立が喫緊の課題である。従来の生検は侵襲的であり、腫瘍の不均一性を完全に捉えきれないという限界があるため、非侵襲的に採取できる液体生検、特に循環腫瘍細胞 (CTC) の活用が注目されている (van der Toom et al. 2016)。CTCは、単なる細胞数の定量に留まらず、個々の細胞の形態や表現型に関する詳細な情報を提供する次世代CTC技術の登場により、その臨床的有用性が拡大している。

Epic Sciences CTCプラットフォームは、赤血球溶解後の核保有細胞をガラス基板に直接固定し、デジタルパソロジーによる自動画像解析を通じて、CTCの形態と抗体染色シグナルを個細胞レベルで高精度に評価できる。このプラットフォームは濃縮ステップを省略するため、CTCクラスターの形態も保持されるという利点がある (Werner et al. 2015)。また、同一スライド上でT細胞集団 (CD4^+、CD8^+、Ki-67^+) も定量可能であり、腫瘍側と免疫側の情報を同時に取得できる点で、従来の技術では得られなかった包括的な情報を提供できる。

先行研究では、転移性去勢抵抗性前立腺がん (mCRPC) において、CTCの形態学的多様性 (CTC不均一性) が予後および治療選択と関連することが示されている (Scher et al. 2017)。しかし、泌尿生殖器癌全般におけるCTC形態サブタイプやT細胞集団の予後予測能については、これまで十分に検討されておらず、その臨床的意義は未解明な点が多かった。特に、免疫療法が標準治療となりつつある中で、治療効果を予測し、患者層別化に資するバイオマーカーは依然として不足している。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、転移性泌尿生殖器癌患者において、cabozantinib + nivolumab ± ipilimumabによる併用免疫療法を受けた患者を対象に、ベースライン (C1D1) および治療中のサイクル2日目 (C2D1) とサイクル3日目 (C3D1) における循環腫瘍細胞 (CTC) 数、CTC形態サブタイプ、PD-L1陽性CTCの存在、ならびに末梢血CD4^+/CD8^+ T細胞割合が、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、および治療奏効と関連を有するかを後ろ向きに評価することである。特に、CTCの形態学的特徴とT細胞集団の動態が、免疫療法に対する患者の反応性と予後を予測するバイオマーカーとしての潜在的価値を検証することを目的とした。

結果

ベースラインCTC数 > 4/mL は OS 短縮と関連し、治療中の PD-L1陽性CTC出現は不良予後を予測する: ベースラインにおいて、患者の75% (50/67例) でCTCが検出され、中央値CTC数は1.1/mL (範囲 0〜216) であった。治療経過に伴う総CTC数の減少は統計的有意差に達しなかった (p=0.061)。ベースラインでCTC数が4/mLを超える患者群では、中央値OSが2.3ヶ月と、4/mL以下の群の28.2ヶ月と比較して有意に短かった (95% CI 0.95-inf vs 16.28-inf; p=0.022) (Figure 1C)。しかし、PFSとの有意な関連は認められなかった。PD-L1陽性CTCは、ベースラインで10% (n=7 patients)、C2D1で17% (n=10 patients) の患者に検出された。ベースラインでのPD-L1陽性CTCの検出は、中央値PFSの短縮 (1.3ヶ月 vs 5.1ヶ月; 95% CI 0.76-inf vs 3.1-22.1; p=0.0039) と関連した。さらに、C2D1でのPD-L1陽性CTCの検出は、中央値OSの短縮 (4ヶ月 vs 28.2ヶ月; 95% CI 2.8-inf vs 19.5-inf; p=0.0091) と有意に関連した (Figure 1D)。NIHによる独立解析でも、サブタイプBおよびDの予後との関連が支持された。

5種のCTC形態サブタイプのうちB・Dが特異的に不良OSと関連し、治療中のCTC不均一性増加も不良OSの傾向を示す: デジタルパソロジー解析により、5種の形態サブタイプ (A〜E) が同定された (Figure 2A)。サブタイプAは中程度のCK発現、最小サイズ、高円形度、低核エントロピー、高N/C比が特徴であった。サブタイプBは高CK発現、低CKスペックリング、高円形度、低N/C比を示した。サブタイプCは著明な細長形態、中程度スペックリング、低N/C比が特徴であった。サブタイプDは大型で軽度細長、高核スペックリング/エントロピーを有した。サブタイプEはCTCクラスターであり、稀にしか検出されなかった。サブタイプBの検出は、ベースラインで中央値OS 0.8ヶ月 vs 28.2ヶ月 (95% CI 0.62-inf vs 16.3-inf; p<0.0001)、C2D1で2ヶ月 vs 28.2ヶ月 (95% CI 1.6-inf vs 19.5-inf; p=0.00088) と、最も強い予後不良との関連を示した (Figure 2B)。ベースラインでのサブタイプDの検出も、中央値OSの短縮 (2.3ヶ月 vs 28.2ヶ月; 95% CI 0.95-inf vs 16.3-inf; p=0.02) と関連した (Figure 2B)。治療中 (ベースラインからC2D1) のCTC不均一性増加は、中央値OS短縮の傾向を示した (5.1ヶ月 vs 未達; 95% CI 4.4-inf vs 24.7-inf; p=0.045)。サブタイプBとDは尿路上皮癌に特異的ではなく、コホート全体に共通して認められたことから、これらの細胞形態特徴が汎がん的に予後不良の指標となる可能性が示唆された。NIHの独立解析でも、サブタイプBはC2D1でのOS短縮傾向 (p=0.066) およびベースライン (p=0.023) とC3D1 (p=0.012) でのPFS短縮と関連し、サブタイプDは全時点でのOS短縮と関連した (ベースライン p=0.020、C2D1 p=0.048、C3D1 p=0.037) (Supplementary Figure S7)。

末梢血CD4^+・CD8^+ T細胞低値はベースラインおよび治療中を通じて OS・PFS 短縮と不良治療反応性に独立して関連する: ベースラインで%CD4が7%未満の患者群では、中央値OSが2.3ヶ月と、7%以上の群の未到達と比較して高度に有意な差が示された (95% CI 1.45-inf vs 24.7-inf; p<0.0001) (Figure 3A)。同様に、中央値PFSも1.4ヶ月 vs 15.3ヶ月 (95% CI 1.2-3.6 vs 5.3-inf; p=0.00028) と有意に短かった (Figure 3A)。治療開始後C2D1での%CD4が7%未満の患者においても、中央値OS 3.2ヶ月 vs 28.2ヶ月 (95% CI 2.3-inf vs 24.7-inf; p=0.0013) およびPFS 1.8ヶ月 vs 15.3ヶ月 (95% CI 1.4-inf vs 4.5-inf; p=0.0026) と、持続的な予後不良との関連が確認された (Figure 3C)。%CD8が3%未満のカットオフは、ベースラインでOS短縮 (5.9ヶ月 vs 28.2ヶ月; 95% CI 1.8-inf vs 24.7-inf; p=0.019) およびPFS短縮 (2.3ヶ月 vs 15.3ヶ月; 95% CI 1.4-inf vs 4.6-inf; p=0.029) と関連したが (Figure 3B)、C2D1およびC3D1では有意差を示さなかった (Figure 3D)。%CD4が7%未満であることは、ベースライン (ANOVA p=0.013) およびC2D1 (ANOVA p=0.0044) の双方で治療奏効カテゴリーと有意に関連し、低い%CD4を有する患者はCR・PRよりもPDとなる割合が高かった (Figure 3E, H)。一方、%CD8が3%未満であることは治療奏効カテゴリーとの関連が弱かった (ANOVA p=0.39, p=0.54) (Figure 3F, G)。尿路上皮癌のみに限定したサブ解析でも、全コホートと一致した結果が得られた。

考察/結論

本研究は、転移性泌尿生殖器癌(尿路上皮癌、腎細胞癌、稀少組織型を含む多様な集団)における免疫療法の液体生検バイオマーカーとして、CTC形態サブタイプとT細胞集団を同時評価する新たなアプローチを探索的に検証した。

先行研究との違い: これまでのCTC研究の多くはCTC数に焦点を当てていたが、本研究はCTCの形態学的多様性に着目し、特定の形態サブタイプ(BおよびD)が腫瘍組織型を問わず予後不良と関連することを示した点で、先行研究 (Scher et al. 2017) とは異なる知見を提供している。これは、これらの細胞形態特徴が、高増殖能や上皮間葉転換といった汎がん的な悪性形質の反映である可能性を示唆する。特にサブタイプBは高CK発現、低スペックリング、高円形度という特徴を持ち、転移性去勢抵抗性前立腺がんで得られた先行知見 (Scher et al. 2017) とも一致する。

新規性: 本研究で初めて、泌尿生殖器癌患者において、特定のCTC形態サブタイプ(BおよびD)の存在、PD-L1陽性CTCの動態、および末梢血T細胞集団の割合が、免疫療法後のOSおよびPFSの強力な予測因子となることを示した。特に、治療中のPD-L1陽性CTCの出現がOS短縮と関連することは、抗PD-L1薬を含む本レジメンへの抵抗性を動的に反映する新規バイオマーカーとしての潜在的価値を持つ。また、濃縮ステップを省略したEpic Sciencesプラットフォームを用いたにもかかわらず、CTCクラスター(サブタイプE)が本コホートで稀にしか検出されなかったことは、泌尿生殖器癌におけるCTCクラスターの存在が本質的に少ない可能性を示唆する、これまで報告されていない知見である。

臨床応用: 本知見は、転移性泌尿生殖器癌患者の治療層別化と個別化医療の推進に貢献する臨床的意義を持つ。非侵襲的な液体生検により、治療開始前および治療中に患者の予後を予測し、治療反応性をモニタリングすることが可能となる。特に、ベースラインでのCTCサブタイプBや低CD4%の検出は、免疫療法に対する抵抗性を示す患者を特定し、早期の治療戦略変更や追加治療の検討を促す可能性がある。これにより、患者はより効果的な治療を早期に受けられるようになり、臨床現場での意思決定を支援する。

残された課題: 本研究の主要な限界は、探索的デザインであり、生存解析のカットオフ値を事後最適化していることである。このため、示されたP値は多重比較調整を行っておらず、結果の解釈には注意が必要である。また、組織学的に多様ながん種を単一コホートとして解析したこと、およびサンプルサイズが81例と小さいこともlimitationである。今後の検討課題として、これらの知見を独立した均質な前向きコホートで検証し、大規模な患者集団でその臨床的有用性を確認することが不可欠である。特に、PD-L1陽性CTCは稀なイベントであるため、より多くの患者を含む研究が必要である。Epic Sciencesプラットフォームを用いたCTC形態評価とT細胞サブセット解析の同時施行という方法論は、今後の泌尿生殖器癌免疫療法バイオマーカー研究の基盤となるが、その汎用性と再現性のさらなる検証が求められる。

方法

本研究は、NCT02496208のフェーズI用量漸増試験の拡大コホートに参加した転移性泌尿生殖器癌患者81例を対象とした後ろ向き解析である。患者はcabozantinib + nivolumab (n=60) またはcabozantinib + nivolumab + ipilimumab (n=21) のいずれかの併用免疫療法を受けた。対象疾患は尿路上皮癌35例、腎細胞癌4例、その他の泌尿生殖器稀少癌42例を含む多様な集団であった (Table 1)。

血液サンプルはベースライン (C1D1)、サイクル2日目 (C2D1)、およびサイクル3日目 (C3D1) の3時点で採取され、合計183サンプルがEpic Sciences社に送付された。CTC検出にはEpic Sciences CTCプラットフォームが用いられ、パンサイトケラチン (pan-CK)^+/CD45^-/DAPI^+の細胞として定義された。PD-L1発現はE1L3Nクローンを用いて同時に評価された。T細胞パネルはCD4/CD8/Ki-67/DAPIで構成され、全DAPI^+細胞に対する%CD4および%CD8が算出された。

CTCの形態サブタイプ解析では、2,527個のCTC画像から核および細胞質の形態特徴が測定され、非教師ありK-meansクラスタリングにより5つのサブタイプ (A〜E) が同定された (Figure 2A)。クラスター数はエルボー法とシルエット法を用いて決定された。CTC不均一性はShannon indexを用いて定量された。

生存解析にはカプラン・マイヤー法が用いられ、群間の差は最大ログランク検定で評価された。生存解析のカットオフ値は、探索的最適化により最大の差が得られるように設定されたため、P値は多重比較調整がされていない。バイアスを軽減するため、NIHにおいて独立した統計解析が実施された。この独立解析では、カットオフ最適化を行わず、CTC値の分布に基づいて患者をグループ分けする異なるアプローチが採用された。統計解析にはRパッケージ (survival, stats, vegan, maxstat) およびSAS version 9.4が使用された。