- 著者: Satoru Kitazono, Yutaka Fujiwara, Koji Tsuta, Hirofumi Utsumi, Shintaro Kanda, Hidehito Horinouchi, Hiroshi Nokihara, Noboru Yamamoto, Shinji Sasada, Shun-ichi Watanabe, Hisao Asamura, Tomohide Tamura, Yuichiro Ohe
- Corresponding author: Yutaka Fujiwara (National Cancer Center Hospital, Tokyo)
- 雑誌: Clinical Lung Cancer
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-04-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 25937270
背景
免疫チェックポイント阻害剤 (anti-PD-1・anti-PD-L1抗体) の開発は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 治療における個別化医療の進展に大きく貢献している。PD-L1の腫瘍細胞における発現は、これらの薬剤に対する奏効予測バイオマーカーとして、複数の早期臨床試験でその有用性が示唆されてきた。例えば、Brahmer et al. NEnglJMed 2012やWolchok et al. NEnglJMed 2013の報告では、PD-L1発現陽性患者において抗PD-1/PD-L1抗体による客観的奏効が認められている。しかし、これらの先行研究のほとんどは、主に外科切除標本を用いてPD-L1発現を評価していた。進行NSCLC患者の多くは外科切除が困難であり、気管支鏡生検 (TBB)、経気管支針吸引生検 (TBNA)、CTガイド下針生検などの小生検検体しか入手できないのが現状である。
PD-L1発現は腫瘍内で不均一に分布すると報告されており、小生検検体が腫瘍全体のPD-L1発現状態を正確に反映できるかについては、これまで十分に検証されていなかった。この不均一性は、PD-L1発現を評価する上での重要な課題であり、小生検検体を用いた評価の信頼性に関する知識のギャップが存在していた。また、PD-L1の免疫組織化学 (IHC) 評価法や陽性判定のカットオフ値も研究間で異なっており、標準化された評価方法が未確立であったことも、小生検検体の信頼性評価を複雑にしていた要因である。
EGFR遺伝子変異やALK遺伝子再構成といった既知のバイオマーカーは、それぞれEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) やALK阻害剤に対する奏効予測に不可欠であることが示されているが (例: Maemondo et al. NEnglJMed 2010、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010、Zhou et al. LancetOncol 2011)、これらのバイオマーカー評価には十分な組織量が必要とされる。PD-L1も同様に、治療選択に直結するバイオマーカーであるため、限られた組織量での評価の信頼性を確立することが喫緊の課題であった。特に、PD-L1発現の評価は、T細胞の活性化を抑制するPD-1/PD-L1経路の関与 (例: Freeman et al. JExpMed 2000、Nishimura et al. Immunity 1999、Dong et al. NatMed 2002、Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002) を考慮すると、免疫療法における患者選択に極めて重要である。
本研究は、進行NSCLC患者の治療戦略を決定する上で不可欠なPD-L1発現評価において、小生検検体の信頼性を確立することを目的とした。特に、外科切除標本と小生検検体のペアを用いた直接比較により、腫瘍内不均一性の影響を考慮しつつ、小生検検体によるPD-L1評価の妥当性を検証することは、実臨床における免疫チェックポイント阻害剤の適切な使用に繋がる重要な知見を提供すると考えられた。PD-L1発現の評価は、抗PD-1/PD-L1抗体による治療効果を予測する上で重要なバイオマーカーであり、その評価が小生検検体で可能であるか否かは、治療選択の幅を広げる上で不可欠な情報である。しかし、小生検検体でのPD-L1発現評価の信頼性に関するデータは、これまで不足していた。
目的
本研究の主要な目的は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、術前小生検検体と外科切除標本から得られたペア検体間のPD-L1発現の一致性を免疫組織化学的 (IHC) に遡及的に評価することである。これにより、気管支鏡生検 (TBB) や経気管支針吸引生検 (TBNA) などによって得られる小生検検体が、PD-L1発現評価において十分な信頼性を持つかどうかを明らかにすることを目指した。
副次的な目的として、以下の点を検討した。
- PD-L1発現の陽性率が、小生検検体と外科切除標本間でどの程度異なるかを定量的に評価する。
- PD-L1発現の陽性判定における異なるカットオフ値が、両検体間の一致率に与える影響を解析する。特に、低発現レベルでの腫瘍内不均一性の影響を評価する。
- PD-L1発現と患者の臨床病理学的特徴 (年齢、性別、病理病期、組織型など) との相関関係を解析する。
- PD-L1発現が術後生存期間 (無再発生存期間および全生存期間) に与える影響を評価し、予後予測因子としての可能性を検討する。
これらの目的を達成することで、進行NSCLC患者において、限られた組織量しか得られない状況下でも、免疫チェックポイント阻害剤の適切な患者選択に資するPD-L1バイオマーカー評価の実用性を確立するためのエビデンスを提供することを目指した。本研究は、特に小生検検体におけるPD-L1発現評価の信頼性を検証することで、実臨床での免疫療法の適用拡大に貢献することを目指した。
結果
患者特性と生検手技: 本研究には、外科切除標本と術前生検検体の両方が利用可能であった79例のNSCLC患者が登録された。患者の内訳は男性51例 (65.6%)、女性28例 (35.4%) であり、中央年齢は68歳 (範囲38〜83歳) であった (Table 1)。病理病期はI期38例 (48.1%)、II期18例 (22.8%)、III期23例 (29.1%) であった。組織型は腺癌が45例 (57.0%)、扁平上皮癌が23例 (29.1%)、その他 (NOS) が11例 (13.9%) であった。生検手技の内訳は、TBBが59例 (74.7%)、TBNAが12例 (15.2%)、CTガイド下針生検が8例 (10.1%) であった (Table 2)。全ての検体は原発腫瘍から採取され、切除腫瘍の最大径の中央値は3.2 cmであった。4例で組織学的な不一致が認められた。そのうち3例は生検で腺癌または扁平上皮癌と診断されたが、切除標本で多形癌と確定された。残りの1例はTBBで変性および炎症所見を伴う扁平上皮癌と診断されたが、切除標本のIHCでTTF-1、サイトケラチン5/6、p63を用いて腺癌と確定された。
小生検と切除標本のPD-L1一致率: ハイブリッドスコア1以上をPD-L1陽性と定義した場合、生検検体での陽性率は38.0% (30/79例) であり、外科切除標本での陽性率は35.4% (28/79例) であった (Table 3)。両検体間の一致性を評価した結果、79例中73例でPD-L1発現が一致し、一致率92.4%、κ値0.8366 (almost perfect agreement) を達成した。不一致は6例のみであり、内訳は生検のみ陽性が4例 (5.0%)、切除標本のみ陽性が2例 (2.5%) であった。これらの不一致例では、腫瘍内不均一性や手術待機期間中のPD-L1発現の動的変化が関与している可能性が示唆された。特に、TBNA検体のような細胞診検体でもハイブリッドスコアによるPD-L1評価が実施できることが示された。切除標本の採取から生検までの中央間隔は17日 (範囲1〜219日) であり、この比較的短い間隔が高い一致率に貢献している可能性がある。
閾値によるκ値の変化: PD-L1陽性の定義をハイブリッドスコア51以上 (中等度以上の発現) に引き上げた場合、生検検体での陽性率は10.1% (8/79例)、外科切除標本での陽性率は21.8% (17/79例) となった。このより高いカットオフ値を用いた場合、一致率は83.5%に低下し、κ値は0.3969 (fair agreement) と有意に低下した (Table 3)。この結果は、PD-L1発現が低スコアレベル (ハイブリッドスコア1〜50) の腫瘍では、腫瘍内不均一性の影響を強く受けやすく、採取部位によって判定結果が異なりやすいことを示唆している。高スコア陽性腫瘍は腫瘍全体に均一にPD-L1を発現する傾向があるが、低発現腫瘍では局所的な発現があり、focal samplingの限界が顕在化する。
PD-L1発現と組織型・臨床病理学的特徴との相関: PD-L1発現と年齢、性別、病理病期、T分類、N分類の間に有意な相関は認められなかった (Table 4)。組織型との関連では、腺癌でPD-L1陽性率 (ハイブリッドスコア1以上) が扁平上皮癌より高い傾向が見られた (p=0.023)。また、EGFR変異を有する腺癌でもPD-L1発現が確認されており (データは示されていない)、EGFR変異NSCLCにおける免疫療法単剤の奏効率が低い理由がPD-L1発現の欠如のみでは説明できないことを示唆する。
PD-L1発現と術後生存の相関: 切除標本PD-L1陽性群 (28例) と陰性群 (51例) の無再発生存期間 (RFS) および全生存期間 (OS) をKaplan-Meier法で比較したところ、いずれも有意差は認められなかった (ログランク検定p値は有意でなし) (Figure 2)。本研究が手術可能な限定的な病期 (I〜III期) の患者を対象とした遡及的解析であり、免疫療法を受けた患者を含まないことから、PD-L1の予後予測能よりも抗PD-1/PD-L1療法の応答予測能の評価が本来の課題であった。PD-L1が予後マーカーとして機能しなかった点は、他の早期NSCLC研究とも一致する。
考察/結論
本研究は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者79例の小生検検体と外科切除標本のペアを比較し、ハイブリッドスコアリング法を用いたPD-L1発現評価において、κ値0.8366という高い一致性を示すことを初めて系統的に実証した。この結果は、気管支鏡生検 (TBB) や経気管支針吸引生検 (TBNA) などの小検体が、PD-L1発現評価に十分信頼できることを明確に示唆している。
先行研究との違い: 従来のPD-L1発現に関する研究の多くが外科切除標本に限定されていたのに対し、本研究は小生検検体と切除標本の直接比較による信頼性評価を大規模に行い、特にTBNAのような細胞診検体でもPD-L1評価が可能であることを示した点で、これまでの研究とは異なる新規性を持つ。PD-L1陽性率 (35.4%) は、アジア人を対象とした他の研究と概ね一致していたが、PD-L1陽性が生存に影響しなかったという結果は、一部の先行研究とは対照的であった。これは、本研究が手術可能な早期例を対象とした遡及的解析であること、および免疫療法を受けていない患者集団であることに起因する選択バイアスの影響が考えられる。
新規性: 本研究で初めて、ハイブリッドスコアリング法を用いることで、小生検検体と外科切除標本間でのPD-L1発現評価の高い一致率が示された。特に、TBNA検体のような限られた組織量でもPD-L1評価が可能であるという知見は新規であり、実臨床におけるPD-L1検査の適用範囲を広げる可能性を示唆している。このことは、進行NSCLC患者の多くが外科切除を受けられない現状において、免疫チェックポイント阻害剤の適切な患者選択に貢献する重要な発見である。
臨床応用: 本研究の知見は、進行NSCLC患者の治療選択において、小生検検体を用いたPD-L1バイオマーカー評価が信頼できることを示しており、臨床応用への大きな意義を持つ。これにより、外科切除が困難な患者でも、抗PD-1/PD-L1抗体療法の適応を検討するためのPD-L1検査をより容易に実施できるようになる。これは、個別化医療の推進と、免疫チェックポイント阻害剤の恩恵を受けられる患者を特定するための重要なステップとなる。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、PD-L1発現評価にpolyclonal抗体4059を使用しており、これは主要な臨床試験で使用されているモノクローナル抗体 (例: クローン5H1や28-8) とは異なる。そのため、本研究の評価法がPD-1/PD-L1経路を標的とする抗体の有効性予測に適切であるかどうかは、別途検討が必要である。第二に、PD-L1発現が低スコアレベル (ハイブリッドスコア1〜50) の腫瘍では、腫瘍内不均一性の影響を受けやすく、一致率が低下する点が残された課題である。これは、現在の臨床カットオフ設定における判定精度の重要な考慮事項であり、今後の検討課題として、より詳細な腫瘍内不均一性の評価や、最適なカットオフ値の確立が求められる。第三に、全組織切片での評価を行っていないため、不一致例における腫瘍不均一性の詳細なメカニズムは完全には解明されていない。今後の研究では、異なる抗体クローンを用いた比較検討や、より広範な腫瘍組織での不均一性解析、さらに免疫チェックポイント阻害剤治療を受けた患者コホートでの前向き検証が必要である。
方法
研究デザインと患者選択: 本研究は遡及的コホート研究として実施された。2009年4月から2012年3月までの期間に、国立がん研究センター病院で外科切除を受けたNSCLC患者のうち、術前診断のために採取された小生検検体と外科切除標本の両方が入手可能であった79例を対象とした。患者の内訳は男性51例、女性28例で、中央年齢は68歳 (範囲38〜83歳) であった。病理病期はGoldstraw et al. JThoracOncol 2007の第7版TNM分類に基づき、I期38例、II期18例、III期23例であった。組織型は腺癌45例、扁平上皮癌23例、その他 (NOS) 11例であった。全ての患者から医療記録の解析に関する書面によるインフォームドコンセントを得ており、本研究は施設の倫理委員会によって承認された。
生検手技と検体採取: 術前生検手技の内訳は、経気管支生検 (TBB) が59例 (74.7%)、経気管支針吸引生検 (TBNA) が12例 (15.2%)、CTガイド下針生検が8例 (10.1%) であった。全ての検体は原発腫瘍から採取された。切除標本の腫瘍最大径の中央値は3.2 cmであった。TBNA検体は細胞診検体であり、細胞ブロックを作成してIHC染色に供された。
病理学的評価と免疫組織化学 (IHC) 染色: 各症例において、外科切除標本と生検検体の両方から少なくとも1枚のヘマトキシリン・エオシン染色切片をレビューし、NSCLCの診断を確認した。PD-L1発現のIHC染色は、ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 切片 (厚さ4μm) を用いて実施された。内因性ペルオキシダーゼ活性をブロックした後、クエン酸緩衝液中でオートクレーブ処理により抗原賦活化を行った。一次抗体にはpolyclonal抗体4059 (ProSci, Inc., Poway, CA; 希釈1:1600) を使用した。IHC評価とスコアリングは、臨床データを知らない2名の病理医 (S.K.とK.K.) によって、BX 40顕微鏡 (Olympus, Tokyo, Japan) を用いて実施された。
PD-L1スコアリング: PD-L1陽性腫瘍細胞は、高倍率視野 (400倍) でランダムに選択された5箇所 (1視野あたり100腫瘍細胞、合計500腫瘍細胞) で計数された。染色強度は以下の通りに分類された: 0 (膜染色なし)、1+ (弱いまたは不完全な膜染色)、2+ (弱いから中程度の連続的な膜染色)、3+ (低倍率でも明らかな強い膜染色)。 PD-L1発現は、染色強度と陽性細胞の割合を組み合わせた「ハイブリッドスコア」を用いて評価された。ハイブリッドスコアは以下の式で算出された: ハイブリッドスコア = (1+陽性腫瘍細胞の割合) + 2 × (2+陽性腫瘍細胞の割合) + 3 × (3+陽性腫瘍細胞の割合)。スコアの範囲は0から300であり、スコア0をPD-L1陰性、スコア1以上をPD-L1陽性と定義した。スコア算出には最低100細胞が評価された。
統計解析: PD-L1発現と臨床病理学的特徴との相関は、Studentの対応のあるt検定またはカイ二乗検定を用いて解析された。95%信頼区間は二項分布の正規近似を用いて算出された。外科切除標本と生検検体間のPD-L1発現の一致度は、κ統計量を用いて評価された。κ値に基づく一致度の分類は、poor (κ < 0.00)、slight (κ = 0.00-0.20)、fair (κ = 0.21-0.40)、moderate (κ = 0.41-0.60)、substantial (κ = 0.61-0.80)、almost perfect (κ = 0.81-1.00) とされた。無再発生存期間 (RFS) および全生存期間 (OS) は、手術日から再発または死亡、あるいは最終追跡調査日までと定義された。生存期間の中央値はKaplan-Meier法を用いて計算され、2つの曲線はログランク検定で比較された。全ての解析はSTATAバージョン12.0 (StataCorp, College Station, TX) を用いて実施された。