• 著者: Mazorra Z, Lavastida A, Concha-Benavente F, Valdés A, Srivastava RM, García-Bates TM, Hechavarría E, González Z, González A, Lugiollo M, Cuevas I, Frómeta C, Mestre BF, Barroso MC, Crombet T, Ferris RL
  • Corresponding author: Zaima Mazorra (Department of Clinical Immunology, Clinical Direction, Center of Molecular Immunology, Havana, Cuba)
  • 雑誌: Frontiers in pharmacology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-06-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28674498

背景

頭頸部扁平上皮癌 (HNSCC: head and neck squamous cell carcinoma) において、上皮成長因子受容体 (EGFR: epidermal growth factor receptor) の過剰発現は予後不良と密接に関連しており、重要な治療標的となっている。抗EGFR抗体であるcetuximabは、シグナル遮断作用に加えて、ナチュラルキラー (NK: natural killer) 細胞を介した抗体依存性細胞傷害 (ADCC: antibody-dependent cellular cytotoxicity) や、樹状細胞 (DC: dendritic cell) の成熟を介した適応免疫応答の誘導に寄与することが既報の先行研究 (Ferris et al. 2010) で示されている。しかし、同じIgG1型抗体でありながら、cetuximabよりもEGFRへの親和性が約10倍低いnimotuzumab (Li et al. 2005) が、どのような免疫学的機序を有するかについては 未解明 な点が多く残されていた。特に、nimotuzumabがNK細胞やDCの相互作用(NK-DCクロストーク)を介して腫瘍特異的T細胞応答を誘導できるかという点については、十分な知見が 不足 しており、詳細な機序の解明が急務であった。先行研究 (Mateo et al. 1997; Crombet-Ramos et al. 2002) では、nimotuzumabが副作用の少ない優れた臨床効果を示すことが示唆されていたが、その背後にある詳細な免疫活性化能と、cetuximabとの分子プロファイルの差異については明確な 課題 となっていた。本研究は、nimotuzumabが誘導する先天免疫および獲得免疫の統合的な解析を通じて、この知識の gap を埋めることを目的として実施された。

目的

本研究の目的は、抗EGFR抗体nimotuzumabがNK細胞の活性化、ADCC誘導、およびDCの成熟に及ぼす影響を、cetuximabやpanitumumabと比較して詳細に解析することである。また、nimotuzumabによって活性化されたNK細胞とDCの相互作用が、EGFR特異的CD8陽性T細胞のプライミングを誘導できるかをin vitroで検証する。さらに、実際のHNSCC患者におけるnimotuzumab治療中のEGFR特異的T細胞の動態、および制御性T細胞 (Treg: regulatory T cell) やNK細胞の頻度変化を明らかにすることで、本剤の臨床的な免疫調節メカニズムを解明することを目指す。

結果

nimotuzumabによるADCC誘導とCD16発現の低下: 51Cr放出アッセイの結果、nimotuzumabはEGFR陽性HNSCC細胞株JHU029に対し、cetuximabと同等のADCC活性を誘導した (n=3 replicates)。Effector:Target (E:T) 比 20:1 において、nimotuzumabとcetuximabの特異的細胞傷害活性に有意差は認められなかった (p>0.05)。一方で、IgG2型抗体であるpanitumumabはADCCをほとんど誘導しなかった。また、ADCCの誘導に伴い、NK細胞表面のCD16 (FcγRIIIa: Fc fragment of IgG receptor IIIa) 発現は、nimotuzumabおよびcetuximab処理群で有意に下方調節された (p<0.01) (Figure 1)。これは、抗体のFc領域とCD16の結合による受容体の内在化を反映している。

NK細胞の活性化プロファイルと疲弊マーカーの抑制的発現: nimotuzumabは、NK細胞上の活性化マーカーであるCD137およびCD69の発現を有意に上昇させたが、その上昇の程度はcetuximabと比較して有意に低かった (p<0.05)。同様に、IFNγの分泌量もnimotuzumab群ではcetuximab群より低値であった (p<0.01)。注目すべき点として、疲弊マーカーであるTIM-3の発現上昇は、nimotuzumab群においてcetuximab群よりも有意に抑制されていた (p<0.05) (Figure 2)。PD-1の発現については、いずれの抗体処理でも有意な変化は認められなかった。これらの結果は、nimotuzumabがNK細胞を過度に疲弊させることなく活性化する可能性を示唆している。

NK細胞を介した樹状細胞の成熟とPD-L1発現の差異: nimotuzumabでプライムされたNK細胞は、共培養されたDCの成熟を促進し、HLA-DR、CD83、およびCD137Lの発現を有意に上方調節した (p<0.05) (Figure 3)。CD83の発現強度は、未処理群と比較して約 2.1-fold (2.1-fold increase) の上昇を示した。また、DCからのIL-12分泌量もnimotuzumab群とcetuximab群で同程度に増加した (p>0.05)。しかし、免疫抑制分子であるPD-L1のDC上での発現誘導は、nimotuzumab群においてcetuximab群よりも有意に低かった (p<0.05) (Figure 3)。これは、nimotuzumabが適応免疫を活性化する際に、抑制性シグナルの誘導を最小限に抑えられる利点を持つことを示している。

EGFR特異的CD8陽性T細胞の誘導能と臨床的検証: in vitroの多段階共培養系において、nimotuzumabはEGFRテトラマー陽性のCD8陽性T細胞を効率的に拡大させ、その頻度は未処理群と比較して約 1.5-fold から 2.0-fold (2.0-fold increase) に達した (Figure 4)。臨床試験に参加したHNSCC患者 (n=17 patients) の解析では、nimotuzumab治療を受けた患者の70.6% (12/17例) において、EGFRペプチドプールに対する有意なIFNγ産生T細胞応答がELISpotで検出された。これに対し、未治療の対照群 (n=9 patients) では陽性例は0例であり、統計的に極めて有意な差が確認された (p=0.0039) (Figure 4)。

患者末梢血におけるTregおよびNK細胞の長期的動態: n=35 patients の患者解析において、nimotuzumabとCRTの併用導入療法期 (3ヶ月時点) には、末梢血中のCD4+CD25+CD39+Foxp3+ Treg頻度がベースラインから有意に上昇した (p<0.05)。これは化学放射線療法による免疫抑制的影響と考えられる。しかし、その後のnimotuzumab単剤維持療法期 (12ヶ月時点) には、上昇したTreg頻度はベースラインレベルまで正常化した (p<0.05) (Figure 5)。一方で、NK細胞の頻度は治療期間を通じて一定に維持されていた。このTregの正常化は、cetuximabで報告されているTreg増加とは対照的な挙動であり、nimotuzumabの長期投与における免疫学的優位性を示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、nimotuzumabがcetuximabと同様に強力なADCC誘導能を持つことを示したが、NK細胞の活性化強度やチェックポイント分子 (TIM-3, PD-L1) の誘導レベルにおいて、cetuximab と異なり、より穏やかでバランスの取れた免疫調節プロファイルを有することを明らかにした。これは、nimotuzumabのEGFRに対する中程度の親和性が、過剰な免疫疲弊を抑制しつつ、効率的な抗原提示を可能にしているためと考えられる。

新規性: 本研究で 初めて、nimotuzumabがHNSCC患者においてEGFR特異的な適応免疫応答を臨床的に誘導することを証明した。特に、長期維持療法中にCRTで誘導されたTregが正常化するという知見は、これまで報告されていない nimotuzumab独自の免疫学的メリットであり、長期的な抗腫瘍免疫の維持に寄与する可能性がある。

臨床応用: 本知見は、nimotuzumabが単なるシグナル阻害薬ではなく、一種の「in situ ワクチン」として機能するという 臨床的意義 を裏付けるものである。PD-L1やTIM-3の誘導が低いという特性は、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法における毒性軽減や相乗効果の最大化に向けた 臨床応用 の強力な根拠となり得る。

残された課題: 今後の検討課題 として、末梢血中だけでなく腫瘍局所における免疫細胞浸潤 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) の動態と臨床予後との直接的な相関を検証する必要がある。また、本研究の limitation として、EGFR特異的T細胞の検出がHLA-A2拘束性に限定されないペプチドプールを用いているため、より詳細なエピトープ解析や、他の腫瘍抗原への「抗原スプレッディング」の有無を検証することが待たれる。

方法

In vitro実験では、HNSCC細胞株としてHLA-A2陽性かつEGFR陽性のPCI-15B (PCI-15B cell line) およびJHU029 (JHU029 cell line) を使用した。健常ドナー由来の末梢血単核細胞 (PBMC: peripheral blood mononuclear cells) から磁気ビーズ法を用いて、NK細胞、DC、CD8陽性T細胞を単離した (n=10 donors)。ADCC活性は51Cr放出アッセイにより、nimotuzumab、cetuximab、panitumumab (各10 μg/mL) の存在下で評価した (n=3 replicates)。NK細胞の活性化マーカーであるCD137およびCD69、疲弊・抑制マーカーであるTIM-3 (T-cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3) およびPD-1、さらにDCの成熟マーカーであるHLA-DR、CD83 (cluster of differentiation 83)、CD137L (CD137 ligand)、およびPD-L1 (programmed death-ligand 1) の発現はフローサイトメトリーで解析した。サイトカインであるIFNγおよびIL-12の分泌量はELISA法で測定した。EGFR特異的T細胞の誘導能は、NK-DC-T (NK-DC-T cell co-culture) 共培養系において、EGFR853-861テトラマーを用いて評価した。臨床試験 (Trial ID: RPCEC00000241) では、35例の進行HNSCC患者を対象とし、nimotuzumab (200 mg/週) と化学放射線療法 (CRT: chemoradiotherapy) の併用導入療法、およびその後のnimotuzumab単剤維持療法を実施した。患者末梢血中のTreg (CD4+CD25+CD39+Foxp3+ Treg) およびNK細胞の頻度を追跡し、EGFRペプチドプールを用いたIFNγ ELISpotアッセイにより、EGFR特異的T細胞応答を定量した。統計解析には、Student t-test、およびマルチグループ比較のための two-way ANOVA (two-way analysis of variance) を用いた。