- 著者: Angelina M. Bilate, Mariya London, Tiago B.R. Castro, Luka Mesin, Juliana Bortolatto, Suppawat Kongthong, Audrey Harnagel, Gabriel D. Victora, Daniel Mucida
- Corresponding author: Angelina M. Bilate (The Rockefeller University, New York, NY, USA); Daniel Mucida (The Rockefeller University, New York, NY, USA)
- 雑誌: Immunity
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-10-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 33022229
背景
腸管上皮内リンパ球 (IEL) は、細胞傷害性と制御性の両方の性質を持つ異質なT細胞集団であり、腸上皮層でその特性を獲得することが知られている。特に、CD4+ T細胞はCD8αβを持たずCD8αα共受容体を獲得して「CD4+CD8αα+ IEL」へと分化する独自の可塑性を示す。これらの細胞はTreg (regulatory T) 細胞やTconv (conventional CD4+ T) 細胞由来とされ、腸内細菌叢依存的に上皮層で分化することはBilate et al. (2016) やSujino et al. (2016) により報告されていた。しかし、TCR (T cell receptor) シグナルや腸上皮細胞 (IEC) のMHC class II (major histocompatibility complex class II) 発現が、このCD4+CD8αα+ IELの分化および維持にどのように寄与するかは未解明であった。腸上皮層におけるMHC class II発現細胞は比較的希少であるため、Faria et al. (2017) はTCR-抗原認識の必要性に疑問を呈しており、その役割を明確にすることが課題として残されていた。T細胞の組織局在とレパートリーは組織特異的抗原への曝露と認識に大きく依存するとされるが (Hogquist et al. Nat Immunol 2014)、腸上皮という特殊な環境におけるCD4+ T細胞の可塑性とTCRシグナルの関連性は不明な点が多かった。特に、CD4+ T細胞がCD8αα+ IELへと分化する過程で、TCRシグナルが分化のどの段階で、どの程度の強度で必要とされるのか、また一度分化したIELの維持にTCRシグナルが継続的に必要とされるのかについては、詳細な解析が不足していた。本研究は、これらの疑問に答えることを目指した。
目的
本研究は、CD4+ T細胞のCD4+CD8αα+ IELへの分化および維持におけるTCRシグナルと腸上皮細胞 (IEC) 由来MHC class II提示の役割を、TCRレパートリー解析、条件的TCR欠失、および上皮特異的MHC class II欠失を組み合わせて詳細に解明することを目的とした。具体的には、TCRレパートリーの多様性変化を追跡し、分化段階におけるTCRシグナルの必要性を評価するとともに、一度分化したIELの維持におけるTCRシグナルの役割を明らかにすることを目指した。さらに、抗原の継続的な存在が分化後のIELの機能維持に必要であるか否かを検証し、腸管免疫におけるCD4+CD8αα+ IELの適応戦略を包括的に理解することを目的とした。
結果
TCRレパートリー解析による腸上皮CD4+ T細胞の分化階層とクローン拡大の可視化: scRNA-seqとTCR-seqを組み合わせた解析により、腸上皮CD4+ T細胞は8つのクラスター (C0-C7) に分類された (Figure 1A)。CD4+CD8αα+ IEL (C2) はItgae (CD103) や完全なIELプログラムを発現し、Tnfrsf4 (Ox40) などのTCR共刺激遺伝子の発現は低かった (Figure 1A, S1E, S1F)。Slingshot/RNA velocity解析は、Tconv細胞からpre-IEL2 (C4) を経てpre-IEL1 (C0) へ、そしてCD4+CD8αα+ IEL (C2) へと至る分化軌道、およびTreg細胞からTreg-like (C1) を経てpre-IEL1 (C0) へ、さらにC2へと至る分化軌道を推定した (Figure 1A-1C)。TCRレパートリー解析では、D50スコアがpre-IEL1 (C0) で約0.1、CD4+CD8αα+ IEL (C2) で約0.15と最も低い多様性を示し、クローン拡大が分化と強く相関することが明らかになった (Figure 1D)。これは、特定のTCRレパートリーを持つクローンが腸上皮での分化と拡大を果たすことを示唆する。この解析は1,294 cellsから得られたデータに基づいている (n=1 mouse)。
クローン共有の検証とTCRレパートリーの制限: Foxp3-RFP Nur77-GFPマウスおよびiFoxp3-Tomatoマウスの単一細胞TCR-seq解析では、Tconv細胞とTreg細胞は高い多様性を示したのに対し、pre-IELとCD4+CD8αα+ IELはクローン拡大と多様性低下を示した (Figure 2A, 2C)。Morisita-Horn index (MHI) は、pre-IEL1とTreg-like細胞間で最高共有率0.41、pre-IEL1とpre-IEL2間で0.34、pre-IEL1とCD4+CD8αα+ IEL間でTomato+細胞で0.29、Tomato-細胞で0.17の共有パターンを確認し、分化軌道に沿ったクローン共有を示唆した (Figure 2E)。Fixed-Vβ6モノクローナルTCRマウス (n=3 mice) の解析では、同じTCRα CDR3配列が複数個体のpre-IEL/CD4+CD8αα+ IEL間で共有される「public TCR」が同定された (Figure 2I, 2J)。これらの結果は、CD4+CD8αα+ IELへの分化が特定のTCRレパートリーの選択とクローン拡大を伴うことを裏付けている。
TCRシグナル欠失によるCD4+CD8αα+ IEL分化の阻害: Nur77-GFP発現は、CD4+CD8αα+ IELおよびpre-IELで低下しており、TCR-リガンドエンゲージメントの低下を示唆した (Figure 3A, 3B)。TCR欠失マウスモデルを用いた実験では、Trac-flox × iFoxp3-creERT2 (iFoxp3-Tom-Δ(Trac)) マウスにおいて、TCR欠失 (TCRβS-Tomato+) 細胞からのCD4+CD8αα+ IEL分化が有意に減少し (p < 0.001)、TCR-sufficient細胞では影響がなかった (Figure S3G, S3H)。また、Trac-flox × Ox40-cre (Ox40-Δ(Trac)) マウス (n=5-8 mice) では、TCR-sufficient細胞のみがCD4+CD8αα+ IELへの分化を示し、TCR-deficient細胞ではCD4+CD8αα+ IELの頻度が約0.5%と、TCR-sufficient細胞の約15%と比較して完全に分化が阻害された (p < 0.001) (Figure 3C, 3E)。これらのデータは、TCR発現がTconv細胞およびTreg細胞からCD4+CD8αα+ IELへの分化に必須であることを明確に示した。
IEC上のMHC class IIがCD4+CD8αα+ IEL分化を制御: iVil1-Δ(MHCII)マウスで5-7週齢に開始したタモキシフェン処理は、5-6週後にCD4+CD8αα+ IELとpre-IELの頻度を有意に減少させ (p < 0.01)、Treg細胞頻度の上昇を伴った (Figure 4A)。CD4+CD8αα+ IELの頻度は、コントロール群と比較して約50%減少した。既に多量のCD4+CD8αα+ IELを保有する10.5-12週齢または16週齢の成体マウス (n=7-15 mice) においても、IEC由来MHC class IIの欠失はpre-IEL頻度を変えずにCD4+CD8αα+ IEL頻度を減少させた (p < 0.05) (Figure 4B, 4C)。このことから、成体期においてもIEC由来MHC class II提示がCD4+CD8αα+ IELの継続的な分化に必要であることが示された。さらに、iFoxp3 Tomatoマウスを用いたタモキシフェン投与実験では、12週齢の成体マウスにタモキシフェンを投与した場合でもTomato+ CD4+CD8αα+ IELが検出され、CD4+CD8αα+ IELがTreg細胞から継続的に産生されていることが確認された (Figure S4E)。この結果は、IEC上のMHC class IIが新規のCD4+CD8αα+ IELの分化を阻害することを示唆する。
分化後のCD4+CD8αα+ IELはTCRシグナル非依存的に維持される: E8I-Δ(Trac)マウスを用いた実験では、既に分化したCD4+CD8αα+ IELの数やIELプログラム (CD8αα、Itgaeなど) はTCR除去後も維持され、ホメオスタシス条件下およびLm感染下でも安定していた (Figure 5A, 5B)。TCR欠失細胞とTCR発現細胞間でアポトーシス率に有意な差は認められなかった (p = 0.45) (Figure 5E, 5F)。また、IFN-γ (interferon-gamma) 産生やGzmb (granzyme B) 発現といったIELの機能的特徴も、TCR非存在下で維持された (IFN-γ産生細胞の割合約35%) (Figure 5G, 5H)。バルクRNA-seq解析では、TCR活性化関連遺伝子の発現は低下したが、ほとんどのIEL関連遺伝子はTCR欠失細胞でも影響を受けず、IELプログラムが維持されることが示された (Figure 5I, 5K)。n=3 mice/groupの解析で、TCR欠失細胞ではTCR活性化関連遺伝子の発現が低下したものの、IELプログラム関連遺伝子の発現は維持された。さらに、OVA特異的OTII TCRトランスジェニックモデルを用いた実験では、抗原除去後もCD4+CD8αα+ IELの頻度は増加し、その後プラトーに達し、IFN-γ産生やGzmb発現などの機能的特徴も維持された (Figure 6B, 6C)。Lm-OVA感染マウスでは、Lm-SFB感染マウスと比較して肝臓および脾臓の細菌負荷が有意に低く (肝臓で約10^3 CFU/liver vs 10^5 CFU/liver, p < 0.01)、CD4+CD8αα+ IELがTCR特異的な防御機能を持つ可能性が示唆された (Figure 6I, 6J)。これらの結果は、CD4+CD8αα+ IELが一度分化するとTCRシグナルや抗原の継続的な存在なしにその機能と細胞数を維持できることを明確に示した。
考察/結論
本研究は、CD4+ T細胞の腸上皮分化経路における「TCRボトルネック」の存在を明確に示した。Tconv細胞やTreg細胞といった多様なレパートリーを持つ前駆細胞のうち、特定のTCRを持つクローンのみが共生菌抗原に反応してpre-IELへと拡大し、さらにCD4+CD8αα+ IELへと分化する。この過程はIEC上のMHC class II発現と局所抗原認識を必要とし、Ox40+段階でのTCR欠失でも分化が失われることから、分化の最終段階まで継続的にTCRシグナルを要求することが示された。この知見は、T細胞の組織適応とレパートリー形成に関するこれまでの理解を深めるものである。
先行研究との違い: これまで、腸上皮T細胞のTCRシグナルの役割については不明な点が多かったが、本研究はTCRシグナルがCD4+CD8αα+ IELの分化には必須であるものの、一度分化したIELの維持には不要であるという、これまでのT細胞生物学の常識と異なる二段階の役割を明らかにした。Treg細胞がFoxp3の維持にTCR依存的である対照的に、CD4+CD8αα+ IELはTCRシグナル非依存的にエフェクタープログラムを維持できることが示された。このTCRシグナル非依存的な維持機構は、腸管という抗原が豊富な環境におけるIELの適応戦略として重要である。
新規性: 本研究で初めて、単一細胞トランスクリプトーム解析とTCRレパートリー解析を組み合わせることで、CD4+CD8αα+ IELへの分化がクローン拡大とTCR多様性の低下を伴うことを新規に同定した。また、腸上皮細胞によるMHC class II提示が、成体マウスにおけるCD4+CD8αα+ IELの継続的な分化に必要であることも本研究で初めて示された。これは、腸上皮細胞が単なる物理的バリアではなく、免疫細胞の分化を積極的に制御する役割を持つことを示唆する。さらに、分化後のCD4+CD8αα+ IELがTCRシグナルや抗原の継続的な存在なしに、その細胞数、増殖、エフェクター機能、およびIEL特有の遺伝子発現プログラムを維持できるという知見も新規である。
臨床応用: 本知見は、炎症性腸疾患 (IBD) やセリアック病といった腸管免疫関連疾患の臨床応用に直結する可能性を秘めている。IECのMHC class II発現を制御することで、腸内免疫ホメオスタシスを調整し、CD4+CD8αα+ IELの分化を誘導または抑制する新たな治療標的となりうる。CD4+CD8αα+ IELはグルテンに対する細胞傷害性を持つことが示唆されており、TCRシグナルによる分化誘導段階と維持段階を区別した介入が可能となることで、より特異的かつ効果的な治療戦略の開発に繋がる臨床的意義を持つ。例えば、分化を促進する薬剤と維持をサポートする薬剤を組み合わせることで、腸管免疫のバランスをより精密に制御できる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、どの共生菌由来抗原ペプチドが個々のpublic TCRを駆動するのか、分化後のTCR非依存性がIL-15やIL-7シグナルなどのどの分子機構で維持されるのか、およびLmなどの病原体に対する防御におけるCD4+CD8αα+ IELの機能的寄与の詳細な解明が必要である。また、CD4+CD8αα+ IELのTCR多様性が制限されているにもかかわらず、腸上皮が豊富な抗原に曝露されているというlimitationに対するメカニズムの解明も今後の研究方向性となる。さらに、組織常在記憶T細胞 (TRM) など、他の腸管T細胞サブセットとの相互作用や、CD4+CD8αα+ IELが獲得する細胞傷害性機能の全容解明も今後の研究で明らかにすべき点である。
方法
本研究では、腸上皮CD4+ T細胞の分化と維持におけるTCRシグナルの役割を多角的に解析した。まず、Treg細胞由来のTomato+細胞とTconv細胞由来のTomato-細胞を分離可能なiFoxp3-Tomatoマウスの腸上皮からCD4+ T細胞をセルソートし、10X Genomics Chromium V(D)Jプラットフォームを用いてscRNA-seq (single-cell RNA sequencing) およびTCR-seq (T cell receptor sequencing) を実施した。取得したデータは、Seuratパッケージを用いて統合・正規化され、UMAP (uniform manifold approximation and projection) により細胞クラスターが可視化された (Stuart et al. Cell 2019; Hafemeister et al. GenomeBiol 2019)。細胞状態間の分化軌道はSlingshotおよびRNA velocity解析により推定された (La et al. Nature 2018)。TCRレパートリーの多様性はD50 (diversity 50 score) で、クローン重複はMorisita-Horn index (MHI) で定量的に評価された。これらの解析により、腸上皮CD4+ T細胞の転写プロファイルとTCRレパートリーを同時に解析し、細胞状態間のクローン拡大と共有を評価した。
TCRシグナル強度を間接的に追跡するため、Foxp3-RFP Nur77-GFP (nuclear receptor subfamily 4 group A member 1-green fluorescent protein) ダブルレポーターマウスの腸上皮から細胞を分離し、Nur77 (nuclear receptor subfamily 4 group A member 1) 発現をフローサイトメトリーで解析した。Nur77はTCR活性化のサロゲートマーカーとして機能する。
TCRの直接的な役割を評価するため、複数の遺伝子改変マウスモデルを用いた。Trac-floxマウスをiFoxp3-creERT2およびOx40-cre (tumor necrosis factor receptor superfamily member 4-cre) ドライバーと交配させ、TCRの条件的欠失を誘導した。iFoxp3-creERT2ドライバーは、タモキシフェン投与によりTreg細胞およびその派生細胞においてTCR欠失を誘導し、Treg細胞からのCD4+CD8αα+ IEL分化におけるTCRの必要性を評価した。Ox40-creドライバーは、pre-IELまたはCD4+CD8αα+ IEL前駆細胞段階でTCR欠失を誘導し、分化初期段階でのTCRシグナルの必須性を検証した。
IEC特異的なMHC class II欠失マウス (iVil1-Δ(MHCII)) は、Villin1-creERT2 × H2-Ab1-floxマウスを用いて作製された。このモデルでは、タモキシフェン投与により腸上皮細胞におけるMHC class II発現を特異的に欠失させ、腸上皮細胞によるMHC class II抗原提示がCD4+CD8αα+ IELの分化および維持に必要であるかを検討した。タモキシフェン処理を異なる週齢のC57BL/6Jマウスに開始し、CD4+CD8αα+ IELおよびpre-IELの頻度変化をフローサイトメトリーで追跡した。
TCRレパートリーの制限がIEL分化に与える影響を調べるため、共生菌特異的Vα2Vβ6 TCRを持つTN (transnuclear) マウス由来のfixed-Vβ6マウスを用い、TCRα多様性を解析した。
分化後のCD4+CD8αα+ IELの維持におけるTCRシグナルの役割を評価するため、Cd8a遺伝子のエンハンサーI (E8I) の制御下でcreを発現するE8I-creドライバーとTrac-floxマウスを交配させたE8I-Δ(Trac)マウスを用いた。このモデルでは、既に分化したCD4+CD8αα+ IELにおいてTCRを特異的に欠失させ、その後の細胞数、増殖 (5-ethynyl-2’-deoxyuridine (EdU) 取り込みで評価)、アポトーシス (Annexin V染色で評価)、IFN-γ (interferon-gamma) 産生やGzmb (granzyme B) 発現などのエフェクター機能、およびIEL特有の遺伝子発現プログラムを評価した。遺伝子発現解析には、バルクRNA-seqおよびGO (Gene Ontology) エンリッチメント解析を用いた (Ritchie et al. NucleicAcidsRes 2015)。
さらに、OVA (ovalbumin) 特異的OTII TCRトランスジェニックモデルとLm (Listeria monocytogenes) 感染モデルを組み合わせ、抗原の非存在下および再関与下でのCD4+CD8αα+ IELの維持と機能的応答を評価した。Rag1-/-マウスにOTII細胞を移入し、10日間OVA含有食でCD4+CD8αα+ IELを誘導した後、OVA除去下でのIELの挙動を解析した。Lm感染モデルでは、OVA除去20日後にLm-OVAまたはLm-SFBを感染させ、9日後のCD4+CD8αα+ IELの防御機能への寄与を肝臓および脾臓の細菌負荷 (CFU/liver, CFU/spleen) で評価した。統計解析にはStudent’s t検定または一元配置分散分析 (ANOVA) とBonferroni検定を用いた。