• 著者: Ichiro Yoshino, Mitsuhiro Takenoyama, Hiroshi Fujie, Takeshi Hanagiri, Takashi Yoshimatsu, Satoshi Imabayashi, Ryouzo Eifuku, Akira Ogami, Koichi Yano, Yasumoto Osaki, Ryoichi Nakanishi, Yuji Ichiyoshi, Kikuo Nomoto, Kosei Yasumoto
  • Corresponding author: Ichiro Yoshino (Department of Surgery II, University of Occupational and Environmental Health, Kitakyushu)
  • 雑誌: Japanese Journal of Cancer Research
  • 発行年: 1997
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 9330606

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small cell lung cancer) は、切除不能な場合において極めて予後が不良であり、従来の化学療法や放射線療法による生存期間の延長効果は限定的であった (Grilli et al. 1993)。これまでに、生物学的応答修飾剤を用いた免疫療法や、サイトカイン活性化リンパ球を用いた養子免疫療法が試みられてきたが、その治療的有用性は乏しいことが報告されていた (Cheddar and Klieg 1992; Rosenberg et al. 1989)。NSCLC患者においても、早期の病期から抗腫瘍T細胞応答が存在することが示唆されていたが (Yasumoto et al. 1976; Voce and Bond 1982)、自己腫瘍細胞の培養成功率が著しく低く、細胞傷害性Tリンパ球 (CTL: cytotoxic T lymphocyte) 誘導のための十分な刺激細胞を確保することが困難であるという現実的な問題が、この分野の発展を妨げていた。

悪性黒色腫 (メラノーマ) の研究においては、MAGE遺伝子ファミリー (van der Bruggen et al. 1991; Boël et al. 1995; van den Eynde et al. 1995)、チロシナーゼ (Wölfel et al. 1994)、MART-1/Melan-A (MART-1: melanoma antigen recognized by T cells-1, Melan-A: melanoma antigen A) (Kawakami et al. 1994; Kawakami et al. 1995)、gp100 (Kawakami et al. 1994) など、MHC (major histocompatibility complex) クラスI拘束性の腫瘍関連抗原が同定され、同一のHLA (human leukocyte antigen) ハプロタイプを共有する患者間で腫瘍抗原が共有されることが実証されていた (Traversari et al. 1992; Gaugler et al. 1994; Kang et al. 1995)。これらの知見は、特定のHLA拘束性腫瘍抗原が、異なる患者間でも共通して認識されうることを示唆していた。しかし、NSCLCにおけるHLA拘束性共有抗原の存在は未解明であり、その実証と、効率的なCTL誘導法の確立が今後の免疫療法の発展において重要な課題として残されていた。

特に、自己腫瘍細胞の確保が困難であるという状況下で、アロジェニック細胞株を用いたCTL誘導の有効性と特異性を検証する必要があった。これまでの研究では、自己腫瘍細胞の培養成功率が低く、CTL誘導のための十分な刺激細胞を確保することが困難であったため、この分野の発展は手薄であり、効果的な誘導プロトコルは未確立であった。日本人集団におけるHLA-A2 (約40%) およびHLA-A24 (約60%) の高頻度な発現は (Kimura et al. 1994)、この戦略が日本人NSCLC患者の免疫療法に応用される可能性を大きく高める背景となっていたが、アロジェニック肺癌細胞株を刺激細胞として用いるアプローチの有効性を直接示した報告は不足しており、エビデンスが不足しているという課題が存在した。

目的

本研究の目的は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者から採取した腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) および所属リンパ節リンパ球 (RLNL: regional lymph node lymphocyte) を、同一のHLA-A座および細胞型を共有するアロジェニック肺癌細胞株で刺激することにより、共有抗原を標的とする腫瘍特異的細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) を効率的に誘導できるかを検討することである。具体的には、HLA-A2/A24陽性の肺腺癌細胞株PC-9を刺激細胞として用い、誘導されたCTLの表現型、細胞傷害活性の特異性、MHCクラスI拘束性、および自己腫瘍細胞に対する応答性を詳細に解析する。これにより、NSCLCにおけるHLA-A座拘束性の共有腫瘍抗原の存在を実証し、将来的な肺癌特異的免疫療法の基盤を確立することを目指す。また、刺激細胞として用いるアロジェニック肺癌細胞株の抗原提示能を評価し、CTL誘導におけるその優位性を明らかにすることも目的とする。

結果

HLA-A座タイピングとCTL誘導成功率: 19例のNSCLC患者から採取したTILおよびRLNLは、全例で抗CD3抗体と低用量IL-2による拡大培養に成功し、50〜100倍に増殖した。患者のHLA-A座タイピングの結果、HLA-A2陽性患者は52.6% (n=10 donors)、HLA-A24陽性患者は57.9% (n=11 donors) であり、いずれか一方または両方が陽性の患者は94.7% (n=18 donors) であった (Table I)。HLA-A2/A24陽性の肺腺癌細胞株PC-9を刺激細胞として用いたCTL誘導は、HLA-A2またはA24陽性患者全体で57.9% (n=11 donors) に成功した。特に、HLA-A24陽性腺癌患者では100% (n=6 donors) の成功率で抗PC-9 CTLの誘導に成功した (Table III)。HLA-A24陽性扁平上皮癌患者では50% (n=2/4 donors)、HLA-A2陽性腺癌患者では40% (n=2/5 donors)、HLA-A2陽性扁平上皮癌患者では50% (n=1/2 donors) でCTL誘導が確認された。HLA-A2および/またはA24陽性の腺癌患者全体では、72.7% (n=8/11 donors) と高い成功率を示した。対照的に、A549 (HLA-A26/A30陽性腺癌) やQG56 (HLA-A26陽性扁平上皮癌) を刺激細胞として用いた場合は、全例でCTL誘導に失敗した。

抗PC-9 CTLの表面表現型と選択的細胞傷害活性: 誘導されたCTLは、CD3陽性率が76.1%〜99.3%と高く、CD4/CD8比は0.03〜2.35の範囲で、多くの症例でCD8+ T cell (CD8陽性T細胞) が優位であった (Table II)。CD3-CD56+細胞 (NK細胞様の非特異的細胞傷害を担う細胞集団) は、大部分の症例で13%未満と少数であったが、Case 2では23.4%と比較的高い割合で存在し、K562 (NK感受性細胞株) に対する非特異的殺傷も観察された (Figure 1B)。51Cr放出アッセイでは、PC-9に対する特異的細胞傷害活性はE/T比5:1で21.5%〜84.3%に達し、A549 (HLA-A26/A30) やSQ-1 (HLA-A11/A24) といった他の肺癌細胞株に対しては殺傷活性を示さなかった。この選択的な殺傷パターンは、HLA-A座拘束性の腫瘍特異的CTLの誘導を示唆するものであった (Figure 1)。

MHCクラスI拘束性の証明とブロッキング試験: 誘導された抗PC-9 CTLの細胞傷害活性は、抗HLA-A,B,C (MHCクラスI) mAbの添加により22.3%〜79.0%の範囲で有意に阻害された (p<0.001) (Table II)。一方、抗HLA-DR (MHCクラスII) mAbでは細胞傷害活性の阻害は認められなかった (Figure 2)。重要な点として、MHCクラスI抗体による阻害は常に不完全であり、完全なブロッキングは観察されなかった。これは、MUC1 (mucin 1) のような非MHC拘束性腫瘍抗原の認識が併存している可能性、あるいはPC-9の高いICAM-1発現による接着依存性認識成分の存在を示唆する。Case 2のCTLでは、PC-9と同じHLA-A2を有する別の肺癌細胞株T-87 (HLA-A2/A11) に対しても交差殺傷が確認され、HLA-A2拘束性の共有抗原の存在を裏付けるものであった。

IFN-gamma産生による自己腫瘍認識の確認: 抗PC-9 CTLが誘導された4例 (n=4 donors) において、PC-9との共培養により有意なIFN-gamma産生が確認された (Figure 3)。IFN-gamma産生量は、PC-9との共培養で平均350 pg/mlであった。さらに、これらのCTLは自己腫瘍細胞との共培養においても同様にIFN-gammaを産生した。この結果は、PC-9由来の抗原が自己NSCLC細胞上でも共有され、HLA-A24および/またはHLA-A2拘束性T細胞エピトープとして提示されていることを示唆する。自己腫瘍細胞との共培養におけるIFN-gamma産生レベルがPC-9との共培養よりも低い傾向にあったのは、自己腫瘍細胞の生存率の低さや、PC-9の高いICAM-1発現によるT細胞との接着効率の差に起因すると解釈された。PC-9単独培養ではIFN-gamma産生は50 pg/ml未満と極めて低く、T細胞との共培養でのみ有意な産生が認められた。

PC-9の優れた抗原提示能と表面分子発現: 刺激細胞として用いた肺癌細胞株 (A549、QG56、SQ-1、PC-9) の表面分子発現をフローサイトメトリーで解析した結果、PC-9は他の細胞株と比較してMHC class I発現が約3.0-fold increase、ICAM-1発現が約2.5-fold increaseと高値であり、唯一HLA-DRの発現も認められた (n=4 cell lines)。これらの接着分子やMHC分子の高発現が、PC-9のT細胞刺激能の高さに寄与していると考えられた。B7-1/B7-2 (CD28リガンド) は、検査した全ての癌細胞株で発現が認められなかったが、PC-9はICAM-1やLFA-3 (lymphocyte function-associated antigen 3) などの接着分子経路を介してT細胞活性化を代替的に補助している可能性が推測された。さらに、PC-9は高いerbB2 (HER2) 発現も特徴的であり、これが追加の腫瘍抗原として機能している可能性も考慮された。

考察/結論

本研究は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) および所属リンパ節リンパ球 (RLNL) を、同一HLA-A座および細胞型が一致するアロジェニック肺癌細胞株PC-9で反復刺激することにより、腫瘍特異的細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) を効率的に誘導できることを示した初期の重要な報告である。

先行研究との違い: これまでの研究では、自己腫瘍細胞の培養が困難であるという課題から、NSCLCにおける腫瘍特異的CTLの誘導は限定的であった。本研究は、この課題に対し、HLA-A座が一致するアロジェニック細胞株を刺激細胞として用いるという新規のアプローチを提示した点で、これまでの研究と異なり、より実用的なCTL誘導法を示した。

新規性: 本研究で初めて、日本人NSCLC患者において、HLA-A24および/またはHLA-A2拘束性の共有腫瘍抗原が、アロジェニック肺癌細胞株PC-9を介して効率的にCTLを誘導しうることを実証した。誘導されたCTLが自己腫瘍細胞に対してもIFN-gammaを産生したことは、PC-9が自己腫瘍細胞と共通の抗原を提示していることの直接的な証拠であり、この知見はこれまで報告されていない。

アロジェニック応答でないことの証拠: 誘導されたCTL応答がアロジェニックMHC分子に対するものではないことは、以下の複数の理由から支持される。(a) CTL誘導に成功した患者間でHLA-Bまたは-C座の共有が認められなかった。(b) 抗PC-9 CTLが自己腫瘍細胞に対してもIFN-gammaを産生した。これは自己MHCとの同一抗原提示の直接的な証拠である。(c) 一部の抗PC-9 CTLは、PC-9とHLA-A2のみを共有する別の肺癌細胞株T-87に対しても交差殺傷活性を示した。これらの所見は、アロジェニック反応の寄与を否定し、HLA拘束性の共有腫瘍抗原認識を強く支持する。

臨床応用: 本研究の成果は、NSCLC患者に対する特異的免疫療法の開発において重要な臨床的意義を持つ。HLA-A2/A24拘束性の共有抗原を標的とするCTL誘導は、自己腫瘍細胞の培養が困難な状況下でも、アロジェニック細胞株を用いることで実現可能であることを示した。これは、将来的な肺癌ワクチン療法や養子免疫細胞療法における刺激細胞の選択、あるいは標的抗原の同定といった臨床応用に直接的に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、PC-9が提示する共有抗原の具体的なエピトープを同定することが挙げられる。酸溶出抗原の解析や、抗PC-9 CTLクローンの確立が次なるステップとして必要である。これにより、より特異性の高いペプチドワクチンやTCR遺伝子導入T細胞療法の開発に繋がる可能性がある。また、MHCクラスI抗体による不完全なブロッキングのメカニズムをさらに詳細に解析し、非MHC拘束性抗原の関与を明確にすることも今後の研究方向性として重要であり、これが本研究におけるlimitationとして残されている。

方法

患者およびリンパ球の採取: 非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者19名から、手術時に切除された腫瘍組織および非転移性所属リンパ節より、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) および所属リンパ節リンパ球 (RLNL) を採取した。TILは、腫瘍組織を細切後、コラゲナーゼIV (1 mg/ml)、DNase I (0.1 mg/ml)、ヒアルロニダーゼV (0.5 mg/ml) の混合酵素で2〜4時間消化し、Ficoll-Hypaque不連続密度勾配遠心法により分離した。RLNLは、非転移性リンパ節をガラススライドで圧搾し、ガーゼフィルターを通した後、プラスチック接着法によりマクロファージを除去して採取した。

リンパ球の拡大培養と刺激: 採取したTILおよびRLNLは、固相化抗CD3モノクローナル抗体 (mAb) で48時間刺激した後、低用量リコンビナントIL-2 (50 IU/ml) を含む培養液で10〜14日間培養し、50〜100倍に拡大した。拡大培養後、リンパ球は照射済みアロジェニック腫瘍細胞株を刺激細胞として、週1回、2〜4週間にわたり反復刺激された。刺激細胞として、PC-9 (HLA-A2/A24陽性腺癌)、Sq-1 (HLA-A11/A24陽性扁平上皮癌)、A549 (HLA-A26/A30陽性腺癌)、QG56 (HLA-A26陽性扁平上皮癌) を使用した。

HLAタイピングと表面分子解析: 培養されたT細胞のHLA-A座タイピングはSRL社により実施された。リンパ球および腫瘍細胞株の表面分子 (CD3、CD4、CD8、CD56、MHCクラスI、HLA-DR、ICAM-1: intercellular adhesion molecule-1、B7-1、B7-2) の発現は、フローサイトメトリーを用いて解析した。

細胞傷害活性試験: 腫瘍細胞で刺激されたリンパ球の細胞傷害活性は、標準的な51Cr (クロム) 放出アッセイにより測定した。エフェクター/ターゲット (E/T) 比は5:1または20:1とし、4時間培養後に上清中の51Cr放出量を測定した。MHCクラスI拘束性の評価のため、抗HLA-A,B,C mAb (W6/32) および抗HLA-DR mAb (L227) を用いたブロッキング試験を実施した。統計解析にはStudent t-test (t検定) を用いた。

γ-インターフェロン (IFN-gamma) 産生測定: PC-9で刺激されたリンパ球 (10^5/ml) と自己腫瘍細胞 (10^5/ml) を18時間共培養し、上清中のIFN-gamma量をELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) キット (Gibco BRL) を用いて定量した。PC-9単独培養でのIFN-gamma産生も測定し、T細胞依存的な抗原認識を確認した。