• 著者: Thamotharampillai Dileepan, Deepali Malhotra, Dmitri I. Kotov, Elizabeth M. Kolawole, Peter D. Krueger, Brian D. Evavold, Marc K. Jenkins
  • Corresponding author: Marc K. Jenkins (Center for Immunology, University of Minnesota, Minneapolis, MN, USA)
  • 雑誌: Nature Biotechnology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-05-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33941928

背景

ペプチド-主要組織適合性複合体 (pMHC) テトラマー技術は、抗原特異的T細胞の同定および定量化を可能にし、ワクチン効果や癌免疫療法研究において不可欠なツールである。しかし、pMHC class I (pMHCI) テトラマーを用いたCD8+ T細胞の検出は確立されている一方で、pMHC class II (pMHCII) テトラマーを用いたCD4+ T細胞の検出は信頼性が低いという課題が残されていた。この問題の主な原因として、CD4補助受容体とMHC class II分子間の結合親和性が本来極めて弱いことが挙げられる。例えば、マウスCD4とMHC class IIの結合親和性は推定解離定数 (Kd) 約200μM、ヒトCD4とMHC class IIの結合親和性は2mM以上と報告されている。これに対し、CD8とMHC class I α3ドメインの結合はマウスで約10μMと比較的強い。

この親和性の差により、従来のpMHCIIテトラマーでは、低親和性T細胞受容体 (TCR) を持つCD4+ T細胞が検出漏れする可能性が示唆されていた。特に、免疫応答において重要な役割を果たす低親和性TCRを持つCD4+ T細胞の検出が困難であることは、T細胞レパートリーの包括的な理解を妨げる主要な要因であった。先行研究である Altman et al. (1996) や Crawford et al. (1998) において多量体化技術が開発されたものの、CD4結合部位の親和性そのものを向上させるアプローチは未確立であった。また、Jonsson et al. (2016) や Martinez et al. (2016) の報告でも、低親和性TCRを持つCD4+ T細胞の検出限界が課題として指摘されていた。このように、CD4+ T細胞の免疫応答を包括的に理解するための高感度な検出技術の開発には大きな「gap」が存在し、依然として「未確立」の領域が多く、研究のためのツールが著しく「不足」している状況であった。

目的

本研究の目的は、指向性進化の手法を用いてMHC class II分子のCD4結合部位に変異を導入し、CD4との結合親和性を増強したMHC class II分子を選別することである。これにより、従来のテトラマーでは検出困難であった低親和性TCRを持つCD4+ T細胞も効率的に検出可能な、改良型pMHC class IIテトラマー試薬を開発することを目指した。

結果

CD4結合増強型I-Ab-4E変異の同定: 指向性進化による選抜の結果、I-Ab β鎖のV142I、I148Y、L158Dの3つのアミノ酸置換を持つP5R:I-Ab-4Eが支配的なクローンとして同定された (Fig. 1)。CHO細胞で発現させたP5R:I-Ab-4EはCD4テトラマーにより均一かつ強く染色されたが、野生型P5R:I-Abはほとんど染色されなかった。この結果は、4E変異がCD4との結合を顕著に増強することを示唆した。

CD4依存性およびペプチド特異性の保持: 低親和性TCRを持つB3K508 TCRトランスジェニックT細胞 (P5R:I-Ab Kd=93μM) では、従来のP5R:I-Abテトラマーでは背景染色レベルの結合しか示さなかったのに対し、P5R:I-Ab-4Eテトラマーではほぼベースライン分離に達する明確な染色が観察された (Fig. 1)。さらに、CRISPR/Cas9を用いてCd4遺伝子をノックアウトしたB3K508 T細胞 (n=3 replicates) では、P5R:I-Ab-4Eテトラマーの結合が消失し、この結合がCD4に依存していることが確認された。また、P5R:I-Ab-4EテトラマーはポリクローナルなB6 T細胞集団に対して非特異的な結合の増加を示さず、ペプチド依存性が保持されていることが示された。

CD4結合親和性の約10倍向上: 生体膜フォースプローブアッセイによる測定では、MOGpを提示したI-Ab-4E複合体とSMARTA T細胞の2次元親和性は、野生型MOGp:I-Ab複合体と比較して約10倍高いことが示された (Fig. 1)。この親和性は、MHC class I-CD8相互作用 (約10μM) に匹敵するレベルに達することが示唆された。この結果は、4E変異がMHC class II分子とCD4分子間の直接的な結合親和性を大幅に向上させることを定量的に裏付けるものであった。

In vivoでの抗原特異的CD4+ T細胞検出効率の顕著な改善: B6マウス (n=9 mice) にP5R、2W、OVA3、GP66、MOGpの各ペプチドをCFAとともに免疫した7日後、脾臓およびリンパ節細胞を解析した。従来の野生型I-Abテトラマーで検出されたCD4+ テトラマー結合エフェクターT細胞数は、P5Rで5,600細胞、2Wで85,000細胞、OVA3で2,200細胞、GP66で33,000細胞、MOGpで1,200細胞であった (Fig. 2)。これに対し、I-Ab-4Eテトラマーを用いた場合、それぞれ9,700細胞、110,000細胞、4,600細胞、63,000細胞、5,200細胞が検出され、検出数は野生型テトラマーと比較してそれぞれ 1.7-fold (P5R)、1.3-fold (2W)、2.1-fold (OVA3)、1.9-fold (GP66)、4.2-fold (MOGp) に増加した (Fig. 2)。平均して約2倍の検出効率の向上が認められた。特に自己ペプチドであるMOGpに対する応答では、4.2-fold と最大の検出効率の改善が認められた (p=0.0002)。検出されたT細胞の大部分はCD44hiのエフェクター表現型を示し、活性化T細胞であることが確認された。

他のMHC class IIアレルへの応用可能性: BALB/cマウスのI-Ad β鎖およびNODマウスのI-Ag7 β鎖に同様のV142I/I148Y/L158D変異を導入し、テトラマーを評価した。OVA3:I-Ad-4Eテトラマーは、OVAペプチド免疫BALB/cマウス (n=6 mice) において、野生型テトラマーと比較して 2.1-fold (12,000細胞 vs 6,000細胞) 多くの細胞を検出した (p=0.0104)。P31:I-Ag7-4Eテトラマーは、P31ペプチド免疫NODマウス (n=6 mice) において、野生型テトラマーと比較して 1.4-fold (1,400,000細胞 vs 1,000,000細胞) 多くの細胞を検出した (Fig. 2)。

ペプチド特異性の維持: P5R免疫マウスではP5R:I-Ab-4EテトラマーによりCD44hiエフェクターT細胞が集積したが、MOGp:I-Ab-4EテトラマーではCD44loナイーブT細胞のみが検出された (Fig. 3)。MOGp免疫マウスでは逆のパターンが観察された。P5R免疫マウスにおいて、P5R:I-Ab-4Eテトラマー結合細胞の約90%がCD44hiエフェクターT細胞であった (Fig. 3)。P5R:I-Ab-4Eテトラマー結合細胞はMOGp:I-Ab-4Eテトラマーに結合せず、MOGp:I-Ab-4Eテトラマー結合細胞はP5R:I-Ab-4Eテトラマーに結合しなかった。これらの結果は、CD4結合親和性が増強されたp:I-Ab-4Eテトラマーが、そのペプチド特異性を完全に保持していることを明確に示した。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来のpMHCIIテトラマーがCD4-MHCII結合の弱さから低親和性TCRを持つCD4+ T細胞の検出に失敗していた課題に対し、MHCIIの多量体化価数を増やすアプローチ (Huang et al., 2016) とは異なり、MHCII分子自体のCD4結合親和性を直接約10倍高めるアプローチをとった点で明確に異なる。この根本的なコア改変戦略により、検出感度の飛躍的な向上に成功した。

新規性: 本研究で初めて、MHC class II β鎖のV142I/I148Y/L158D変異 (4E mutations) がCD4結合親和性を約10倍向上させ、その結果として抗原特異的CD4+ T細胞の検出効率を約1.3〜4.2倍 (平均約2倍) 向上させることを新規に示した。特に、自己ペプチド応答 (MOGpで4.2-fold向上) や低親和性T細胞集団の検出効率の改善は、これまで報告されていない知見である。また、この親和性増強がペプチド特異性を保持していることは、CD4-MHCII相互作用とTCR-pMHC特異性が機能的に独立しているという Williams et al. (2018) の可溶性CD4進化研究の結果と一致し、そのメカニズムに新たな洞察を与える。

臨床応用: 本技術は、これまで検出が困難であった低親和性TCRを持つCD4+ T細胞集団の包括的な解析を可能にするため、感染症、自己免疫疾患、癌免疫療法におけるCD4+ T細胞応答の理解を深める上で臨床的意義が大きい。特に、自己免疫疾患における自己反応性T細胞の検出や、癌免疫療法における治療効果予測バイオマーカーとしての臨床応用が期待される。例えば、自己免疫疾患の早期診断や病態モニタリング、あるいは癌患者における治療反応性T細胞の同定と追跡に貢献する可能性がある。さらに、CD4結合親和性が増強されたペプチド結合MHCII分子は、エピトープ特異的T細胞をより強力に活性化または阻害する治療薬としての可能性も秘めている。

残された課題: 今後の検討課題として、(i) 全てのCD4+ T細胞 (特に極めて低親和性TCRを持つもの) を検出可能かどうかのさらなる検証、(ii) 非特異結合が全ての実験条件下で確認できるかどうかのさらなる検証、(iii) ヒトHLA (human leukocyte antigen) class II (HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ) アレルへの適用と臨床研究での有効性検証、(iv) 治療薬としての応用可能性のさらなる検討などが残されている。これらの課題を解決することで、本技術はCD4+ T細胞免疫学研究に新たな道を開く基盤技術となるであろう。

方法

MHC class II β鎖ライブラリの構築と選抜: C57BL/6 (B6) マウスのI-Ab (I-A locus b-haplotype) β鎖のCD4結合部位であるE137、V142、I148、L158残基のコドンをTriMix20 (20アミノ酸をコードする塩基混合物) でランダム置換したpcDNA5/FRT (flippase recognition target) ベクタープラスミドライブラリを大腸菌で構築した。このライブラリを、I-Ab α鎖とFRTサイトを持つチャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞に、フリッパーゼ (flippase) 共発現により導入し、各CHO細胞に単一の変異型I-Ab β鎖バリアントを発現させた。次に、マウスCD4-ストレプトアビジン-フルオロフォアテトラマーを用いて、磁気ビーズおよびフローサイトメトリーによる3回の濃縮選抜を行った。選抜後、個々のクローンを解析し、支配的なクローンであるP5R:I-Ab-4E (four-mutation engineered I-Ab; V142I/I148Y/L158D変異) を同定した。

CD4依存性の確認: 低親和性TCRを持つB3K508 TCRトランスジェニックT細胞 (P5R:I-Ab Kd=93μM) を用いて、作製したP5R:I-Ab-4Eテトラマーの結合を評価した。さらに、CRISPR/Cas9 (clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR-associated protein 9) システムを用いてCd4 (cluster of differentiation 4) 遺伝子をノックアウトしたB3K508 T細胞を作製し、P5R:I-Ab-4Eテトラマー結合のCD4依存性を確認した。

CD4結合親和性の測定: 生体膜フォースプローブ (biomembrane force probe) アッセイを用いて、MOGp (myelin oligodendrocyte glycoprotein peptide) を提示したI-Ab-4Eまたは野生型 (wt) I-Ab複合体をコートしたビーズと、SMARTA TCRトランスジェニックT細胞との2次元親和性を測定した。SMARTA T細胞はCD4を発現し、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス (LCMV) の糖タンパク質由来ペプチド (GP66) に特異的なTCRを発現するが、MOGpとは弱い結合しか示さないため、測定される親和性は主にCD4-MHCII相互作用を反映すると考えられた。

In vivoでの抗原特異的CD4+ T細胞検出効率の評価: B6、BALB/c、NODマウスに、P5R、2W、GP66、OVA3 (ovalbumin peptide)、MOGp、P31などのペプチドを完全フロイントアジュバント (CFA) とともに免疫した。免疫7日後、脾臓およびリンパ節細胞を採取し、野生型p:I-Abテトラマーまたはp:I-Ab-4Eテトラマーで染色した。テトラマー結合細胞を磁気ビーズで濃縮した後、フローサイトメトリーにより抗原特異的CD4+ T細胞の数を解析した。統計解析には、2群間の比較として paired Student’s t-test を用いた。