• 著者: Kenji Sugata, Yukiko Matsunaga, Yuki Yamashita, Munehide Nakatsugawa, Tingxi Guo, Levon Halabelian, Yota Ohashi, Kayoko Saso, Muhammed A. Rahman, Mark Anczurowski, Chung-Hsi Wang, Kenji Murata, Hiroshi Saijo, Yuki Kagoya, Dalam Ly, Brian D. Burt, Marcus O. Butler, Tak W. Mak, Naoto Hirano
  • Corresponding author: Naoto Hirano (Tumor Immunotherapy Program, Princess Margaret Cancer Centre, University Health Network, Toronto, ON, Canada)
  • 雑誌: Nature Biotechnology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-03-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33649568

背景

ペプチド-主要組織適合遺伝子複合体 (pMHC) マルチマーは、抗原特異的T細胞を検出・解析するための極めて重要な免疫学的試薬である。しかし、この技術はMHCクラスIマルチマーを用いたCD8+ T細胞の検出において極めて堅牢である一方、MHCクラスIIマルチマーを用いたCD4+ T細胞の検出においては信頼性が著しく低いという深刻な課題を抱えていた。その主な要因として、(i) 組換えpMHCクラスII分子の安定的な産生が困難であること、(ii) クラスII分子に結合するペプチドの結合安定性がクラスI分子に比べて低いこと、そして最も決定的な要因として、(iii) CD4共受容体とMHCクラスII分子との相互作用が極めて弱いことが挙げられる。

先行研究において、ヒトCD8分子とMHCクラスI分子の結合親和性はKd値で約200 µM、マウスCD8とMHCクラスIでは約10 µMであるのに対し、ヒトCD4分子とMHCクラスII分子の結合親和性はKd値で2 mM以上と極めて弱いことが報告されている (Garcia et al. 1996, Wyer et al. 1999, Jonsson et al. 2016)。このような物理化学的特性の違いにより、従来の野生型MHCクラスIIマルチマーを用いた染色技術では、抗原特異的CD4+ T細胞、特にTCR (T-cell receptor) の親和性が低い低アビディティT細胞を感度良く、かつ一貫して検出することが困難であった。

これまでに、酵母ディスプレイ法を用いてCD4分子側を変異させてHLA-DR1 (human leukocyte antigen-DR1) との親和性を高める構造生物学的研究 (Wang et al. 2011) などは報告されていたが、MHCクラスII分子側を改変して汎用的な検出試薬として応用する技術は未確立であった。腫瘍免疫や感染症免疫においてCD4+ T細胞が果たす多面的な役割の重要性が認識されつつあるにもかかわらず、その特異的検出技術の感度不足および信頼性の低さは、CD4+ T細胞免疫学における最大の技術的ボトルネックであり、高感度かつ堅牢な新規クラスIIマルチマー技術の開発が強く求められていた。このように、低親和性に起因する検出感度の「不足」は明らかであり、低アビディティT細胞を確実に捉える手法は今日まで「未確立」のままであった。

目的

本研究の目的は、ヒト主要組織適合遺伝子 (HLA) クラスII分子であるHLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DRのβ鎖にCD4結合親和性を劇的に向上させるアミノ酸変異を導入し、抗原特異的CD4+ T細胞を極めて高感度かつ堅牢に検出可能な「アフィニティ成熟型HLAクラスIIダイマー」技術を開発することである。さらに、この新規ダイマー技術を用いて、ヒト集団において最頻アレルの1つであるHLA-DPB1*04:01 (DP4) 拘束性の腫瘍関連抗原 (TAA) 由来エピトープを網羅的にマッピングし、対応する抗原特異的TCR遺伝子をクローニングすることで、本技術ががん免疫療法やTCR遺伝子治療の標的同定において高度に有用なプラットフォームとなり得ることを実証することを目指した。

結果

CD4結合親和性を劇的に向上させる変異の同定: K562細胞を用いたスクリーニングおよびreversion mutagenesis解析により、DP4β鎖のL112WおよびV141Mの二重変異 (DP4 L112W/V141M) が、CD4結合能を相乗的に増強することを見出した。BLI結合アッセイにおいて、野生型DP4とCD4の結合は検出限界以下であったのに対し、DP4 L112W/V141M変異体はKd = 8.9 ± 1.1 µMという極めて強い親和性でCD4と結合した (Fig. 1c)。これは野生型と比較して少なくとも200-fold以上の親和性向上であり、ヒトCD8とMHCクラスIの結合親和性 (約200 µM) を凌駕する。この変異体DP4を提示したaAPCは、Jurkat 76/CD4細胞に対してCD4依存的にT細胞刺激活性を著しく増強した (Fig. 1d)。

アフィニティ成熟型DP4ダイマーによる高感度かつ特異的なT細胞染色: DP4/MAGE-A3、DP4/WT1、およびDP4/NY-ESO-1特異的TCRを導入したヒト初代T細胞 (n=3 donors) を用いて染色性を評価した。アフィニティ成熟型DP4 L112W/V141Mダイマーは、対応する抗原特異的T細胞を極めて明瞭かつ特異的に染色した (Fig. 2a)。従来の野生型DP4テトラマー (NIH Tetramer Facility製) と比較したところ、DP4 L112W/V141MダイマーはWT1特異的T細胞およびNY-ESO-1特異的T細胞の染色において著しく高い蛍光強度と分離能を示した (Fig. 2d,e)。特に、野生型テトラマーでは最高濃度でも染色が困難であった低アビディティのNY-ESO-1特異的T細胞を、本ダイマーは明瞭に検出することに成功した。

腫瘍関連抗原エピトープの網羅的同定と新規TCRのクローニング: DP4陽性メラノーマ患者6例 (n=6 patients) の末梢血CD4+ T細胞と196種類の予測ペプチドを用いたスクリーニングにより、103種類のペプチドが陽性閾値である0.6%を超えるダイマー陽性T細胞応答を誘導し、新規のDP4拘束性TAAエピトープとしてマッピングされた (Fig. 3a)。ダイマー陽性細胞から、CCND1 219-238、HSD17B12 225-244、LGSN 296-315、MAGE-A2 108-127、MUC5AC 4922-4941に特異的な7種類の新規TCR遺伝子をクローニングした (Fig. 3c)。これらのTCRを再構成した初代T細胞は、対応するダイマーで強固に染色され、抗原特異的なIL-2産生能を示した。さらに、06-MAGE-A2 108-127 TCR導入T細胞は、DP4とMAGE-A2を共発現するメラノーマ細胞株 SK-MEL-37 を特異的に認識し、内因的に提示されたエピトープを認識して機能することを示した (Fig. 3d)。

他アレルへの水平展開と内因性T細胞の検出: L112W/V141M変異 (または他アレルにおける相当変異) の導入は、DP2、DP5、DP8といった他のDP分子だけでなく、HLA-DQおよびHLA-DR分子にも広く適用可能であった。具体的には、DQ5 L114W/V143M + 4reps変異体 (Fig. 4b)、DQ6 L114W/V143M + 3reps変異体 (Fig. 4f)、およびDR1 L114W/V143M + 2reps変異体 (Fig. 5e) などが、野生型と比較して劇的に向上したCD4結合能を示した。これらのアフィニティ成熟型DQ/DRダイマーは、対応するTCR (E6、DM2、HA1.7、SB95、SD334、F24) を導入した初代T細胞を極めて明瞭に染色した (Fig. 6)。また、in vitro刺激を行わないex vivo解析において、破傷風トキシン (TT 948-968) やRSV-GP 162-175などの病原体特異的な内因性記憶CD4+ T細胞を、0.01%以上の頻度で明瞭に検出可能であることを実証した。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の野生型MHCクラスIIマルチマーを用いた染色技術は、CD4-MHCクラスII間の結合親和性が極めて弱い (Kd > 2 mM) ため、検出感度と再現性が著しく劣っていた。本研究は、MHCクラスII分子のβ鎖に変異を導入してCD4結合親和性をKd = 8.9 ± 1.1 µMまで劇的に高めるアプローチを採用した点で、従来のマルチマー技術や、CD4分子側を改変した先行研究 (Wang et al. 2011) とは決定的に異なっている。また、本号に並行掲載されたマウスI-Ab分子の改変研究 (Dileepan et al. 2021) とは、独立して類似の結合部位 (V141Mに相当する部位) の重要性を突き止めており、種を超えたCD4-MHCクラスII相互作用の共通原理を裏付ける対照的な成果となっている。

新規性: 本研究は、HLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DRの主要な3座すべてにおいて、CD4結合能を増強させたアフィニティ成熟型クラスII分子を設計・作製する一般化されたプラットフォーム技術を、本研究で初めて新規に確立した。さらに、この技術を用いて、最頻アレルであるDP4拘束性の腫瘍関連抗原から103種類もの新規エピトープを網羅的に同定し、複数の新規TCR遺伝子をクローニングすることに成功した。

臨床応用: 本ダイマー技術は、がん免疫療法における極めて強力なツールとなる。臨床的意義として、同定された103のエピトープおよびクローニングされた高親和性TCR遺伝子は、個別化がんワクチンや、DP4拘束性TCR遺伝子導入T細胞療法 (TCR-T療法) の直接的な標的・バイオマーカーとして臨床応用可能である。特にDP4はヒト集団における最頻アレルの1つであり、広範な患者群に適用可能な治療法の開発に直結する。

残された課題: 今後の検討課題として、in vitro刺激を行わないex vivoでの直接染色において、一部のダイマーで非特異的染色が観察される場合があり、染色条件 (dasatinib処理や温度、濃度) のさらなる最適化が必要である。また、今回はDP4を中心に大規模スクリーニングを行ったが、今後はDRやDQアレルを用いた網羅的マッピングを拡大し、自己免疫疾患や感染症におけるCD4+ T細胞の病態解明を進めることが望まれる。

方法

細胞株および初代細胞: クラスII欠損赤白血病細胞株 K562、TCR/CD4/CD8欠損T細胞株 Jurkat 76、およびヒト初代T細胞を使用した。Jurkat 76/CD4細胞は、レトロウイルスを用いてヒトCD4遺伝子を導入することで作製した。

変異ライブラリの構築とスクリーニング: DPB104:01 (DP4β) 鎖のCD4結合領域に位置するL112、V114、V141、L156、M158の5残基を標的とし、ランダム変異を導入したcDNA発現ライブラリを構築した。これを野生型DPA101:03 (DPα) 鎖とともにK562細胞に共発現させ、可溶性CD4タンパク質 (sCD4) を用いて2ラウンドのフローサイトメトリーソートスクリーニングを実施し、CD4結合能が向上したクローンを単離した。

親和性測定: biolayer interferometry (BLI) アッセイ (Octet Redシステム) を用いて、可溶性DP4 L112W/V141M変異体モノマーとCD4分子との結合親和性 (Kd値) を測定した。

ダイマーの作製: 可溶性HLAクラスIIモノマーのC末端に導入したHisタグを介し、PE (phycoerythrin) 標識抗Hisタグモノクローナル抗体を2:1のモル比で反応させることで、HLAクラスIIダイマーを調製した。

抗原特異的T細胞の染色: DP4/MAGE-A3 243-258 (R12C9)、DP4/WT1 328-348 (clone 9)、DP4/NY-ESO-1 157-170 (5B8) などの既知TCRを導入したヒト初代T細胞を、50 nM dasatinibで30分間前処理した後、5-15 µg/mlのアフィニティ成熟型ダイマーで室温にて4-5時間染色し、フローサイトメトリーで解析した。

網羅的エピトープスクリーニング: NetMHC2 (version 2.2) アルゴリズムを用いて予測された、TAA由来のDP4拘束性20-merペプチド196種類を合成した。DP4陽性メラノーマ患者6例から分離した末梢血CD4+ T細胞を、各ペプチドをパルスしたDP4発現人工抗原提示細胞 (aAPC) で1回刺激し、2週間後に対応するアフィニティ成熟型ダイマーで染色した。対照ダイマー染色を3標準偏差 (s.d.) 上回る0.6%以上を陽性閾値とした。

統計解析: 2群間の比較には、GraphPad Prism 7ソフトウェアを用いて、対応のない両側Student’s t-test (t検定) を実施した。