• 著者: Melero I, Reis B, et al.
  • Corresponding author: Bernhard Reis (Pharma Research and Early Development, Early Development Oncology, Roche Innovation Center Basel, Basel, Switzerland, e-mail: bernhard.reis@roche.com)
  • 雑誌: Nature Cancer
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Phase 1 first-in-human trial)
  • PMID: 42067656

背景

CD40は樹状細胞(DC; dendritic cell)、マクロファージ、B細胞などの抗原提示細胞(APC; antigen-presenting cell)に発現する免疫活性化受容体であり、腫瘍抗原の交差提示とCD8陽性細胞傷害性T細胞(CTL; cytotoxic T lymphocyte)のクロスプライミングを増強することで、抗腫瘍免疫を高める中心的シグナルを担う。CD40アゴニスト抗体は有望な免疫療法戦略として複数の製剤が臨床評価されてきたが、腫瘍外のCD40活性化(on-target off-tumor)に伴うサイトカイン放出症候群(CRS; cytokine release syndrome)、肝毒性、血栓塞栓症が高頻度に発生し、治療域が極めて狭いという重大な課題があった。そのため、単剤ならびに併用レジメンでも軽微な臨床効果に留まってきた。

線維芽細胞活性化タンパク(FAP; fibroblast activation protein)は、がん関連線維芽細胞(CAF; cancer-associated fibroblast)の大部分に発現し、正常組織での発現は限定的であることから、腫瘍免疫療法の有望な標的として認識されていた。FAPは腫瘍促進性炎症や自然免疫・適応免疫の抑制にも関与し、その発現は予後と逆相関することが示されている。

先行研究である Vonderheide et al. (2007) や Johnson et al. (2015)、Moreno et al. (2023) では、全身性のCD40活性化がもたらす毒性が治療継続の大きな障壁となることが報告されており、腫瘍局所特異的にCD40を活性化する技術の確立が望まれていた。しかし、これまでのアプローチでは腫瘍特異的な活性化と全身性毒性の回避を両立させる手法は未確立であり、臨床応用における大きなgapが残されていた。特に、腫瘍微小環境(TME; tumor microenvironment)における成熟樹状細胞の動態や、三次リンパ構造(TLS; tertiary lymphoid structure)の形成を促す局所的な免疫修飾作用については、ヒト臨床検体を用いた詳細な解析が不足していた。

RO7300490は、FAP標的CD40アゴニスト二重特異性抗体(bispecific CD40 agonist targeted to FAP)として設計されており、腫瘍間質のFAP発現CAFと架橋した時のみCD40を活性化するよう分子設計されている。腫瘍浸潤DCへの選択的作用によりCD8陽性T細胞のクロスプライミングを増強することを機序とし、全身性CD40活性化による毒性を回避することが主な目的であった。前臨床の同系腫瘍モデルでは腫瘍微小環境のFAP依存的リモデリングと抗腫瘍効果が示されており、本第1相試験は初のヒト投与試験として位置づけられた。

目的

本研究の主要な目的は、進行・転移性固形腫瘍患者におけるFAP標的CD40アゴニスト二重特異性抗体RO7300490の安全性および忍容性を評価し、最大耐量(MTD; maximum tolerated dose)または推奨用量を特定することである。また、副次的な目的として、RO7300490の薬物動態(PK; pharmacokinetics)プロファイル、免疫原性(抗薬物抗体(ADA; antidrug antibody)の発生率)、およびRECIST v1.1に基づく抗腫瘍活性(客観的奏効率(ORR; objective response rate)、病勢コントロール率(DCR; disease control rate)、無増悪生存期間(PFS; progression-free survival))を評価することとした。さらに、探索的な目的として、治療前後のペア腫瘍生検(paired tumor biopsies)を用いた多重免疫蛍光(IF; immunofluorescence)染色およびRNAシーケンシング(RNA-seq)解析により、腫瘍微小環境における成熟樹状細胞(DC-LAMP陽性DC)の活性化状態、B細胞の浸潤、三次リンパ構造前駆体(pre-TLS)の形成などの薬力学(PD; pharmacodynamics)的変化を詳細に検証し、腫瘍局所における免疫修飾作用のメカニズムを解明すること、およびジルコニウム89(89Zr)標識PET(positron emission tomography)イメージングを用いて腫瘍内への薬剤集積を視覚的かつ定量的に評価することを目的とした。

結果

優れた安全性プロファイルと最大耐量の未到達: RO7300490は、進行固形がん患者(n=80 patients)を対象とした評価において優れた安全性を示し、用量漸増中に用量制限毒性(DLT)は観察されず、最大耐量(MTD)には達しなかった(Table 3)。治療関連有害事象(TRAE)は80例中53例(66.3%)に認められたが、その大部分はGrade 1-2の軽度な事象であった。最も頻度の高かったTRAEは関節痛(31.3%)および倦怠感(13.8%)であった。Grade 3-4の重篤なTRAEは3例(3.8%)のみに認められ、その内訳は一過性の肝機能酵素上昇(Grade 3 alanine aminotransferase (ALT) 上昇、Grade 3 gamma-glutamyltransferase (GGT) 上昇、Grade 4 ALT/aspartate aminotransferase (AST) 上昇)およびGrade 3の急性心筋梗塞(AMI; acute myocardial infarction)1件であった。全身性のCD40活性化に伴うサイトカイン放出症候群(CRS)の発生率は5.0%(4/80例)と極めて低く、すべてGrade 1-2であり、臨床的に十分に管理可能であった(Table 3)。TRAEによる治療中止は2例(2.5%)のみであった。

限定的な臨床活性と病勢コントロール率: 有効性評価が可能であったn=73 patientsにおいて、RECIST v1.1に基づく客観的奏効率(ORR)は0%であり、客観的奏効(OR)は得られなかった(Table 4)。しかし、病勢コントロール率(DCR)は42.5%(95% CI 31.0-54.6%)を達成し、最良総合効果(BOR)が病勢安定(SD)であった31例のうち15例(48.4%)が12週間以上の長期SDを維持した(Fig. 1b)。無増悪生存期間(PFS)の中央値は50日(95% CI 45-85日)であった。長期SDを維持した15例のうち14例は免疫チェックポイント阻害薬(CPI)の既治療例であった。探索的解析として、ベースラインのFAP発現量とBOR(SD vs 進行(PrD; progressive disease))との関連をロジスティック回帰分析で評価したところ、FAP at Baselineのオッズ比は1.03(95% CI 0.99-1.08, p=0.11)であり、統計的有意差は認められなかったものの、SD群でFAP発現がやや高い傾向がみられた(Extended Data Fig. 9a)。

薬物動態と腫瘍内への特異的集積: RO7300490は標的媒介性薬物消失(TMDD)パターンを示し、高用量において持続的な血中曝露が確認された(Extended Data Fig. 1a)。TMDDポピュレーションPKモデルから予測された受容体占有率(RO)の中央値は、140 mg群で30.3%、550 mg群で87.6%であり、550 mg以上の用量で全投与期間にわたる受容体の飽和が達成された。ジルコニウム89標識体を用いたPETイメージング解析では、140 mg投与群において投与後24時間以内に腫瘍への明確な集積が検出され、96時間後には腫瘍対血液比(TBR)の中央値が2.5、168時間後には5.3へと上昇した(Fig. 2b)。一方、550 mg投与群では、過剰な非標識抗体による結合部位の飽和が生じたため、TBRの中央値は96時間後で0.97、168時間後で1.6と有意に低値を示した(140 mg群 vs 550 mg群, p<0.001)(Fig. 2b)。

腫瘍局所における成熟樹状細胞の活性化とB細胞の集積: 治療前後のペア腫瘍生検(n=19 patients)の多重免疫蛍光(IF)染色解析により、腫瘍局所における強力な免疫修飾作用が明らかになった(Fig. 3)。成熟DCのマーカーであるdendritic cell lysosome-associated membrane glycoprotein(DC-LAMP)陽性樹状細胞の密度は、140 mg群(n=11 replicates、log2FC = 3.14, p=0.01)および550 mg群(n=8 replicates、log2FC = 2.13, p0.01)の両方で治療後に有意に増加した(Fig. 3a, 3b)。さらに、活性化マーカーであるCD86を共発現する成熟DC(CD86+/DC-LAMP+ DC)の密度も、140 mg群(n=10 replicates、log2FC = 3.38, p0.01)および550 mg群(n=8 replicates、log2FC = 3.9, p=0.01)で著明に増加した。免疫チェックポイント分子であるPD-L1を共発現する成熟DC(PD-L1+/DC-LAMP+ DC)も両群で有意に増加した(140 mg群: log2FC = 3.13, p=0.04; 550 mg群: log2FC = 2.38, p=0.04)。対照的に、未成熟な前駆細胞であるcDC1(conventional type 1 dendritic cell)の密度は、両群を統合した解析(n=19 patients)で有意に減少した(pooled log2FC = -1.23, p0.01)(Fig. 3f, 3g)。

B細胞の動員と三次リンパ構造前駆体の形成: 腫瘍内のCD20陽性B細胞密度は、統計的有意差には至らなかったものの、増加傾向を示した(pooled log2FC = 1.84, p=0.058)(Fig. 4a, 4b)。特にB細胞の集積が顕著であった症例では、治療後に大型化したB細胞フォーカスが観察された(Fig. 4c)。さらに、活性化したDC-LAMP陽性DCとB細胞が局所的に共集積し、形態学的に初期の三次リンパ組織に類似した小型のリンパ球凝集構造(pre-TLS様構造)を形成している像が確認された(Fig. 4d)。一方で、CD8陽性T細胞の浸潤密度や、granzyme B陽性エフェクターCD8陽性T細胞、Foxp3陽性制御性T細胞の密度には、治療前後で有意な変化は認められなかった(Extended Data Fig. 6)。

遺伝子発現解析と患者クラスタリング: RNA-seq解析により、DC-LAMP陽性DCに特異的な遺伝子である_CCL17_(pooled log2FC = 5.0, FDR < 0.01)および_LAMP3_(pooled log2FC = 1.2, FDR = 0.07)の著明な上方制御、ならびに活性化成熟DCシグネチャ(cDC_CCR7)の有意な誘導(pooled log2FC = 1.7, FDR = 0.01)が確認された(Extended Data Fig. 7a)。治療前後の遺伝子発現変化に基づく階層的クラスタリング解析では、患者は免疫活性化を示す「クラスターI」と、非活性化を示す「クラスターII」の2群に二分された(Extended Data Fig. 7c)。ロジスティック回帰分析の結果、非小細胞肺がん(NSCLC)症例(すべてCPI既治療)は有意にクラスターIIに分類されやすかったのに対し(オッズ比 0.09, 95% CI 0.01-0.58, p=0.01)、CPI未治療の全3例および12週間以上の長期SDを維持した5例中4例は、免疫活性化を示すクラスターIに分類された。さらに、腫瘍組織におけるFAP発現量が高い症例ほど、治療後のDC-LAMP陽性DCの増加量と有意な正の相関を示した(R = 0.47, p=0.042)(Extended Data Fig. 9b)。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のCD40アゴニスト抗体(selicrelumabやmitazalimabなど)は、全身性のCD40活性化に伴う重篤な肝毒性やサイトカイン放出症候群(CRS)が治療上の大きな制限となっていた。これら先行研究との違いとして、FAP標的二重特異性抗体であるRO7300490は、腫瘍局所のFAP発現CAFと架橋した時のみCD40を活性化する設計となっており、全身性炎症を誘発することなく、最大耐量(MTD)未到達という極めて広い治療窓を臨床で初めて実証した。これは、従来の非標的型CD40アゴニストの毒性プロファイルと対照的であり、標的型アプローチの優位性を明確に示している。

新規性: 本研究は、FAP標的CD40アゴニストがヒトの腫瘍微小環境(TME)において、成熟樹状細胞(DC-LAMP陽性DC)の著明な増加と活性化(CD86およびPD-L1の共発現)を誘導することを本研究で初めて明らかにした。さらに、活性化された成熟DCとCD20陽性B細胞が局所的に共集積し、初期の三次リンパ組織(pre-TLS様構造)を形成することを新規に同定した。この局所的な免疫微小環境のリプログラミング作用は、前臨床モデルでの知見がヒト臨床においても忠実に再現されることを証明した画期的な成果である。

臨床応用: 本試験で得られた知見は、RO7300490の臨床応用、あるいは臨床的有用性に向けた重要な基盤を提供する。単剤での客観的奏効率(ORR)は0%であったものの、42.5%の病勢コントロール率(DCR)が得られ、特にCPI既治療例において長期の病勢安定(SD)が維持されたことは、本剤が一定の臨床的意義を有することを示唆している。また、治療後に成熟DCにおけるPD-L1発現が有意に上昇したことは、PD-1/PD-L1阻害薬との併用療法の強力な合理的根拠(translationalな裏付け)となる。

残された課題: 一方で、残された課題(limitation)として、腫瘍局所における成熟DC의 活性化やB細胞の集積が確認されたにもかかわらず、CD8陽性T細胞の浸潤や活性化の有意な増加は認められなかった。この「DC活性化とT細胞応答の乖離」を克服し、抗腫瘍効果を最大化するためには、抗原放出を促す化学療法や放射線療法、あるいはT細胞の抑制を解除する免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が必要不可欠であり、これが今後の課題である。また、本試験は単群かつ小規模な第1相試験であり、不均一ながん種を対象としているため、特定の有効な患者集団(例えば、CPI未治療例やFAP高発現腫瘍)を特定するためのさらなる検証が求められる。

方法

本試験は、進行・転移性固形腫瘍患者を対象とした、オープンラベル、単群、多施設共同の第1相用量漸増およびコホート拡張試験である(試験識別番号:NCT04857138)。デンマーク、フランス、スペイン、韓国、英国の10施設で実施された(2021年5月から2023年1月)。

対象患者は、標準治療に不応または不耐の進行固形がん患者80例であり、ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)が0または1、適切な臓器機能を有し、生検可能な病変を持つ症例とした。

投与レジメンとして、RO7300490を2週間ごと(Q2W)に静脈内投与した。用量漸増は16 mgから1,100 mgの範囲(16, 48, 140, 280, 550, 1,100 mg)で実施され、ベイズ流の継続的再評価法(CRM; continual reassessment method)を用いて用量制限毒性(DLT; dose-limiting toxicity)を評価した。用量漸増コホート(n=29)に続き、薬力学的評価のために140 mg(n=19)および550 mg(n=24)のバックフィルコホートが設定され、治療前およびサイクル3の3日目にペア腫瘍生検が実施された。また、イメージングコホート(140 mgおよび550 mg、各n=4)では、[89Zr]Zr-RO7300490を用いたPET/CTスキャンが実施され、投与後2, 24, 96, 168時間における腫瘍および正常組織への集積が評価された。

統計解析において、安全性および有効性の要約には記述統計が用いられ、生存時間解析(PFSなど)にはKaplan-Meier法が適用された。[89Zr]Zr-RO7300490の腫瘍集積(TBR; tumor-to-blood ratio)の用量群間比較には、2標本t検定および非パラメトリックなMann-Whitney U検定が用いられた。治療前後の腫瘍浸潤免疫細胞密度の比較には、Wilcoxon符号順位検定(Wilcoxon signed-rank test)が用いられた。遺伝子発現解析(RNA-seq)では、voom-limmaパッケージを用いた差分的発現解析が実施され、偽発見率(FDR; false discovery rate)による多重比較補正が行われた。また、FAP発現量と臨床反応(BOR; best overall response)や免疫細胞密度変化との関連を評価するために、ロジスティック回帰分析(logistic regression)およびPearson相関分析が用いられた。