• 著者: Sara Valpione, Piyushkumar A. Mundra, Elena Galvani, Luca G. Campana, Paul Lorigan, Francesco De Rosa, Avinash Gupta, John Weightman, Sarah Mills, Nathalie Dhomen, Richard Marais
  • Corresponding author: Richard Marais (Cancer Research UK Manchester Institute, University of Manchester, UK)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-07-13
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34215730

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI)、特に抗PD-1/PD-L1抗体は、悪性黒色腫や非小細胞肺癌 (NSCLC) など多くの固形癌において標準治療としての地位を確立している。しかし、これらの治療に対する奏効患者は全体の30-40%に留まり、治療前の奏効予測バイオマーカーは限定的である。現在利用可能なバイオマーカーとしては、PD-L1の発現、腫瘍変異負荷 (TMB)、IFN-γシグネチャーなどが挙げられるが、これらは組織特異的であり、予測精度も十分ではないという課題が残されている。例えば、McGrail et al. AnnOncol 2021は、TMBが全ての癌種で免疫チェックポイント阻害薬の奏効を予測するわけではないことを報告しており、より高精度で汎用性の高いバイオマーカーの探索が喫緊の課題である。従来のバイオマーカーでは、ICI治療の恩恵を受ける患者とそうでない患者を明確に区別することが困難であり、治療の最適化と不必要な毒性の回避という点で、依然として大きな知識ギャップが存在する。

腫瘍浸潤T細胞 (TIL) のT細胞受容体 (TCR) レパートリーは、抗原特異的免疫応答の状態を直接的に反映する有望な指標として注目されている。TCRのCDR3領域はT細胞クローンに固有であり、免疫応答の動態をモニターするために利用可能である。先行研究では、PD-1阻害薬治療後の末梢血T細胞において、TCRのclonalityまたはdiversityが増加することが、奏効患者でのみ観察されることが報告されている (Valpione et al. Nat Cancer 2020)。しかし、TILのTCRレパートリーが、(1) ICI奏効予測に有用な「予測的」指標として機能するのか、(2) 免疫療法非依存的な「予後的」指標として機能するのか、(3) clonality(優勢クローンの拡大)とdiversity(レパートリーの広がり)のどちらがより重要であるのか、といった基本的な整理がこれまで明確に確立されていなかった。特に、治療前の腫瘍生検におけるTCRレパートリー解析が、治療開始前の患者選択にどのように貢献できるかについては、さらなる検証が必要であった。これらの知識ギャップが、個別化免疫療法の開発における課題として残されている。これまでの研究では、TCRレパートリーの動態が治療応答と関連することが示唆されてきたが、治療前時点でのTCRレパートリーが、ICI治療の予測因子として、あるいはICI非投与集団における予後因子として、どの程度独立した情報を提供できるかは未解明であった。このため、TCRレパートリー解析の臨床的有用性を確立するためには、これらの点を定量的に評価し、その一般性を多癌種で検証することが不足していた。

目的

本研究の主要な目的は、治療前腫瘍生検から得られた腫瘍浸潤T細胞 (TIL) のTCRレパートリー(特にclonalityとdiversity)を詳細に解析し、その臨床的意義を明確にすることである。具体的には、以下の3点を検証する。第一に、TCRレパートリーが抗PD-1療法に対する奏効および全生存期間 (OS) の予測因子として機能するかどうかを評価する。第二に、ICI非投与集団におけるTCRレパートリーが独立した予後因子として機能するかどうかを定量化する。第三に、The Cancer Genome Atlas (TCGA) の多癌種データを用いた汎癌種検証により、TCRレパートリー指標の一般性と癌種特異性を検証する。これらの解析を通じて、TCRレパートリー解析が個別化免疫療法の開発に貢献する可能性を探ることを目指す。最終的には、TCRレパートリー解析が、個別化免疫療法の開発において、患者選択の最適化と治療戦略の個別化にどのように貢献しうるかを明らかにすることを目指す。

結果

Training cohortにおける強力なOS予測: 進行メラノーマ training cohort (n=16) において、治療前腫瘍浸潤T細胞 (TIL) のTCR clonality高値は、抗PD-1療法後の全生存期間 (OS) 改善と強く相関することが示された (Cox回帰 P=0.0401, ハザード比 (HR) = 4.8 × 10⁻¹⁴, C-index = 0.88) (Fig. 1A, B)。この結果は、高TCR clonalityが腫瘍抗原によって駆動されるT細胞の拡大、すなわち優勢クローンの形成を反映しており、抗PD-1療法による再活性化のポテンシャルを持つT細胞集団の存在を示唆するものであった。TCR clonalityが低い患者と比較して、高い患者では死亡ハザードが著しく減少することが示された。

Validation cohortでの再現性: 進行メラノーマvalidation cohort (n=106) においても、治療前TIL TCR clonality高値はOS改善と有意に関連することが確認された (Cox回帰 P=0.0225, 外部検証C-index = 0.582, 95% CI 0.501-0.664) (Fig. 1C, D)。このコホートでは、高TCR clonality群のOS中央値が低TCR clonality群と比較して有意に延長する傾向が認められた。効果量はtraining cohortと比較して小さかったものの、統計的有意性が維持され、TCR clonalityの予測的価値の再現性が確認された。この検証により、TCR clonalityがメラノーマ患者における抗PD-1療法後の予後予測に一貫して有用であることが裏付けられた。

ICI奏効予測における高い識別能: 2つの独立した転移性メラノーマコホートにおいて、治療前TIL TCR clonalityのICI奏効予測能はそれぞれAUC 0.89 (n=25) および0.81 (n=18) と高い識別能を示した (Fig. 1E-H)。特に、奏効患者群では非奏効患者群と比較して、TCR clonalityの中央値が有意に高かった。さらに、ネオアジュバント設定の進行メラノーマコホート (n=18) でもAUC 0.74を維持し (Fig. 1I, J)、治療セッティングを横断したTCR clonalityの有用性が示された。これらの結果は、TCR clonalityがメラノーマにおけるICI奏効予測の強力なバイオマーカーとして機能することを示唆している。治療中の生検におけるTIL/Tc TCR clonalityの解析では、奏効予測の性能は増加しなかった (Supplementary Fig. 2b, c, AUC 0.74)。

TCGAデータを用いた「予後的」指標の分離: 抗PD-1阻害薬未投与のTCGAメラノーマ集団 (n=412) の解析では、TIL TCR clonalityはOSに寄与しなかった (Supplementary Table 2)。これは、clonalityがICI反応予測に特化した「予測的」指標であることを示唆する。対照的に、TIL TCR diversity高値は、ICI未投与メラノーマ患者においてOS改善と有意に関連することが示された (ログランク P<0.0001) (Fig. 2B)。多変量解析では、年齢、臨床病期、および単一塩基置換シグネチャー7 (SBS7v2) がOSの独立した予後因子として同定されたが、TCR diversityもこれらに加えて独立した予後因子として機能することが示された (Fig. 2A)。高diversityは、免疫系がICIなしに持続的な腫瘍制御を達成できる、より豊かなTCRレパートリーを反映していると考えられる。TCR diversityを標準的な臨床共変量に追加することで、予後予測のC-indexは0.646から0.693へと有意に増加した (分散分析 P<0.001)。

汎癌種における予後予測性の検証: TCR diversityの予後予測能は、乳癌 (BRCA, n=908, OSログランク P=0.0029)、肺腺癌 (LUAD, n=481, OSログランク P=0.0204)、腎細胞癌 (KIRC, n=322, OSログランク P=0.0088)、精巣腫瘍 (TGCT, n=148, 無増悪期間 (PFI) ログランク P=0.0124)、胸腺腫 (THYM, n=92, OSログランク P=0.0306) の各TCGAコホートで確認された (Fig. 3B-G)。これにより、TCR diversityが汎癌種にわたる予後バイオマーカーとしての一般性が示された。ただし、肺扁平上皮癌 (LUSC, n=238) では有意差に至らず (OSログランク P=0.2849)、癌種特異性も一部存在することが示唆された。多変量Cox回帰分析においても、BRCA (HR 0.65, 95% CI 0.47-0.90, P=0.009)、LUAD (HR 0.70, 95% CI 0.53-0.92, P=0.01)、KIRC (HR 0.58, 95% CI 0.38-0.89, P=0.012) でTCR diversityが独立した予後因子であることが示された (Fig. 3H, J, L)。これらの結果は、TIL TCR diversityがPD-1阻害薬非投与患者のOSを予測する独立した予後因子として機能することを示している。

考察/結論

本研究は、腫瘍浸潤T細胞 (TIL) のTCRレパートリーが、抗PD-1療法奏効の「予測的」指標 (clonality) と、ICI非依存的な生存の「予後的」指標 (diversity) として明確に分離して機能することを定量化した先駆的な研究である。これまでのTCRレパートリー研究、例えばRiaz et al. Cell 2017Tumeh et al. Nature 2014は、治療中のTCR動態や奏効との関連を示唆していたが、本研究は治療前時点での予測的・予後的シグナルの概念的分離を提示した点で新規性が高い。この知見は、従来のバイオマーカーが予測的または予後的機能のいずれかに限定されることが多かったのと異なり、TCRレパートリーが両方の側面を持つことを示唆する。

機序的には、高clonalityは少数の強力な抗原特異的T細胞クローンの拡大を反映しており、これはPD-1抑制が解除された際に増幅可能な「戦闘準備完了」のT細胞集団が存在することを示唆する。一方、高diversityは、幅広いTCRレパートリーを持つT細胞集団が存在し、ICIなしでも持続的な免疫監視能力を発揮できることを示唆している。この知見は、免疫系の異なる側面が、治療反応性と自然経過の予後という異なる臨床アウトカムに寄与することを示唆する。本研究で初めて、治療前TCRレパートリーが抗PD-1療法の奏効予測と、ICI非投与患者の予後予測という異なる臨床的文脈で機能することを明確に示したことは、免疫腫瘍学における重要な新規性である。

臨床的意義としては、第一に、治療前組織検体を用いたICI奏効予測が可能となる点である。本研究で示された高いAUC値 (0.89, 0.81, 0.74) は、TCR clonalityが既存のバイオマーカー (PD-L1発現、TMB、IFN-γシグネチャー) と比較しても遜色ない、あるいはそれ以上の予測能を持つ可能性を示唆する。第二に、これらのTCRレパートリー指標を他のバイオマーカーと統合することで、予測精度をさらに向上させ、個別化免疫療法の患者選択を最適化できる可能性がある。第三に、TCR diversityの汎癌種における予後層別化への応用は、ICI非投与患者の治療戦略決定にも貢献しうる。これらの知見は、臨床応用において、より精密な患者層別化と治療選択を可能にする基盤を提供する。

残された課題としては、第一に、本研究の知見を前向き臨床試験で検証する必要がある。特に、TCR clonalityの予測能を大規模な前向きコホートで確認することが重要である。第二に、ICIと化学療法などの併用療法におけるTCRレパートリーの予測能を評価することも重要である。第三に、TCRレパートリーとTMB、PD-L1発現、ネオアンチゲン品質などの既存のバイオマーカーを統合した多因子予測モデルの開発が今後の研究方向性として挙げられる。最後に、リキッドバイオプシー(末梢血TCR)を用いた非侵襲的モニタリングの可能性や、CDR3配列ベースの抗原予測による機能的解析も、TCRレパートリー解析を臨床応用へさらに前進させるための重要なステップである。本研究は、TCRレパートリー解析をICI個別化治療のバイオマーカーとして実用段階へ前進させた重要な報告である。

方法

本研究では、まずManchester Training cohortとして、抗PD-1治療を受けた進行メラノーマ患者16例の治療前腫瘍生検検体からRNAを抽出し、TCR β鎖CDR3領域のhigh-throughput sequencingを実施した。TCR clonalityは、Shannon entropyを基に1 - Shannon entropy/log(richness)として算出され、関連する多様性パラメータも同時に評価された。このトレーニングコホートで得られた知見は、公開されているデータセットである進行メラノーマvalidation cohort 106例(PD-1またはPD-1/CTLA-4併用療法)を用いて検証された。さらに、2つの独立したメラノーマコホート(n=25およびn=18)およびネオアジュバント設定のコホート(n=18)において、治療前TIL TCR clonalityのICI奏効予測能がROC曲線解析により評価された。

ICI非投与集団におけるTCRレパートリーの予後因子としての機能を検証するため、TCGAのメラノーマコホート(n=412)が解析された。このコホートのデータロックは抗PD-1阻害薬の承認前であったため、ICI未投与患者のデータとして利用可能であった。多変量Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、年齢、臨床病期、単一塩基置換シグネチャー7 (SBS7v2) 変異シグネチャー、およびTCR diversityがOSに与える影響が評価された。TCR diversityはRenyi index (α = 1) を用いて算出された。

さらに、TCR diversityの汎癌種における予後予測能を検証するため、TCGAの乳癌 (BRCA, n=908)、肺扁平上皮癌 (LUSC, n=238)、肺腺癌 (LUAD, n=481)、精巣腫瘍 (TGCT, n=148)、腎細胞癌 (KIRC, n=322)、胸腺腫 (THYM, n=92) の各コホートが解析された。これらの癌種は、平均TIL/Tcカウントが上位四分位(>317.5)に属する癌種として選択された。LUSCの解析は喫煙歴が少ない患者に限定され、TGCTではOSイベントが不十分であったため、無増悪期間 (PFI) がエンドポイントとして用いられた。THYMではイベント数が少ないため回帰分析は実施されなかった。

RNAシーケンスデータは、Bolger et al. Bioinformatics 2014のTrimmomatic (v0.36) でアダプター除去と品質トリミング後、Dobin et al. Bioinformatics 2013のSTAR (v2.5.1) アライナーを用いてGRCh37にアラインされた。TCR配列はImReP (Mandric et al. Nat Commun 2020) を用いてRNA-Seqデータから推測され、LymphoSeq Rパッケージのclonality関数でclonalityが計算された。全エクソームシーケンスは、Covaris S2超音波破砕装置でDNAを断片化し、Agilent SureSelectXT Target Enrichment Systemを用いてライブラリ調製された。リードはBWAアライナー (v0.7.7) でGRCh37にアラインされ、SNVはMuTect (v1.1.7) (Cibulskis et al. NatBiotechnol 2013) を用いて同定された。PD-L1発現は、抗PD-L1 22C3 PharmDx抗体を用いた免疫組織化学染色により評価された。

統計解析は、両側検定でp値 < 0.05を有意と判断した。多変量Cox比例ハザード回帰はfast-backward法とAkaike Information Criterion (AIC) を停止ルールとして共変量を選択した。モデルの性能はC-indexで定量化され、200回のブートストラップ検証後に分散分析で比較された。Kaplan-Meier法とログランク検定が生存データプロットに用いられ、ROC曲線解析により感度と1-特異度パラメータのAUCが算出された。回帰分析では、TCR指標は連続変数として扱われた。本研究の臨床データは、Manchester Cancer Research Centre (MCRC) Biobank (倫理申請 0092)、University of Padova (倫理申請 #448)、およびComitato Etico della Romagna (倫理申請 #5483/2018) の承認を得て収集された。すべての患者は書面によるインフォームドコンセントを提出した。