• 著者: Xia Liu, Guangyong Peng
  • Corresponding author: Guangyong Peng (Division of Infectious Diseases, Allergy & Immunology and Department of Internal Medicine, Saint Louis University School of Medicine, Saint Louis, MO, USA)
  • 雑誌: Nature Immunology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Commentary
  • PMID: 33495653

背景

腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の機能不全状態 (exhaustion) は、抗腫瘍免疫の有効性および免疫チェックポイント阻害療法 (ICB) への応答を規定する重要な因子である。TILは腫瘍微小環境 (TME) において、グルコース競合・代謝産物蓄積・持続的腫瘍抗原曝露・低酸素・PD-1/PD-L1シグナリングという複数の免疫抑制要因に同時にさらされる。これらの要因はT細胞の代謝プログラムを変容させ、終末的に枯渇したT細胞 (terminally exhausted T cell) の形成を促すことが知られている (Thommen and Schumacher, 2018)。

ミトコンドリアは代謝の恒常性維持・エネルギー産生・シグナル伝達に中心的役割を果たす動的なオルガネラであり、その質・量・活性がT細胞の発生・運命・機能を規定することが示されている (Buck et al., 2016)。TILにおけるミトコンドリア量の減少と機能低下が代謝不全と枯渇を駆動することが明らかになりつつあったが (Scharping et al., 2016; Bengsch et al., 2016)、抗原曝露と代謝ストレス (低酸素) のどちらが因果的に重要で、かつ両者がどのように相互作用して終末枯渇を誘導するのかという因果的連鎖は未解明であった。ミトコンドリア生合成・活性酸素種 (ROS)・酸化的リン酸化 (OXPHOS)・ミトコンドリアダイナミクスなど、複数のミトコンドリア機能が複雑に絡み合ってT細胞運命を制御するメカニズムの全体像の解明が急務とされていた。ICBの一部患者への限定的有効性という臨床的課題の背景にも、このミトコンドリア代謝不全による枯渇機構の不完全な理解がある。特に、持続的な抗原刺激と低酸素環境がT細胞のミトコンドリア機能に与える影響、およびそれがT細胞の終末枯渇をどのように誘導するかの詳細な分子メカニズムについては、さらなる解明が不足していた。

目的

本News & Viewsは、Scharping et al. (2021) のNature Immunology論文を中心に、同誌に同時掲載されたYu et al. (2020) およびVardhana et al. (2020) の関連論文も合わせて紹介し、持続的抗原刺激と低酸素がミトコンドリア再プログラミングを介してCD8+ T細胞終末枯渇を誘導する分子機構を解説する。さらに、ミトコンドリア代謝介入によるがん免疫療法の新戦略への含意を論じることを目的とする。具体的には、TCRシグナリングと腫瘍微小環境における代謝ストレスがT細胞の運命と機能をどのように制御し、ミトコンドリアがこれらの分子プロセス全体のオーケストレーターとして機能するのかを詳細に検討する。

結果

終末枯渇T細胞の重篤な低酸素曝露と低酸素-抗原刺激共存による枯渇誘導の証明: Scharping et al. (2021) は、腫瘍内の終末枯渇CD8+ T細胞が所属リンパ節の同細胞と比較して有意に重篤な低酸素状態を経験していることを、低酸素応答プローブを用いたin vivo解析で確認した。腫瘍内T細胞が血管から遠い低酸素微小環境に局在しており、かつ腫瘍細胞自身の活発な代謝活動が酸素を消費することがこの低酸素状態の主要因と考えられる。OT-I TCRトランスジェニックT細胞とOVAペプチドを発現する腫瘍細胞を常酸素 (20% O2) および低酸素 (1% O2) 条件下で共培養するin vitroシステムによる詳細解析の結果、低酸素単独 (OVA発現腫瘍細胞非存在下) ではT細胞枯渇様の機能不全は誘導されなかった。一方、低酸素と持続的TCR刺激 (OVA発現腫瘍細胞との共培養) の同時存在が初めてT細胞の枯渇様機能不全状態を誘導した。この重要な結果は「低酸素はT細胞枯渇の十分条件ではなく、TCRシグナリングとの相乗作用が必須である」という明確な因果関係を実験的に確立した (Fig. 1)。

Blimp-1—PGC1α軸:TCRシグナリングと代謝制御の因果リンク: 複数のノックアウトマウスモデルを用いた詳細解析から、持続的抗原活性化によってBlimp-1 (B リンパ球誘導成熟タンパク質1) が上昇し、その下流でPGC1α (ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α) 依存的な代謝再プログラミングが抑制されることが示された。PGC1αはミトコンドリア生合成の主要な転写共活性化因子であり、その機能抑制によりミトコンドリア量の減少と機能低下が引き起こされる。この知見はTCRエンゲージメント→Blimp-1上昇→PGC1α抑制→ミトコンドリア生合成低下という因果連鎖を初めて実験的に確立し、免疫学的シグナルと代謝制御の直接的なリンクを証明した。同時期にNature Immunologyに掲載されたYu et al. (2020) およびVardhana et al. (2020) の研究も独立してTCR刺激と腫瘍代謝ストレスが酸化的リン酸化 (OXPHOS) 欠陥・ミトコンドリア脱分極・NFAT持続活性化を引き起こすことを示し、Scharping et al. (2021) の知見を強く支持した。例えば、Vardhana et al. (2020) は、慢性抗原刺激がOXPHOS欠陥を促進し、ROS産生を増大させることを報告している。

ROS蓄積—NFAT持続活性化—転写的枯渇誘導の機構: Blimp-1によるPGC1α機能抑制と低酸素テンションの組み合わせが、ミトコンドリアROSの過剰産生を惹起することが示された。蓄積したROSはNFAT (活性化T細胞核因子) 転写因子の持続的活性化を誘導し、これがT細胞の終末枯渇プログラムを転写的に進行させる。Vardhana et al. (2020) の研究では、慢性抗原刺激がOXPHOS欠陥を促進してROS産生を増大させ、T細胞の増殖能・自己再生能を損なうことが示された。ROS蓄積が枯渇T細胞の分子的ホールマークであり、NFATの持続活性化がROS誘導終末枯渇に必須の転写因子であることが確認された。Scharping et al. (2021) のデータでは、ROS産生が最大で2.5倍に増加することが示されている。

PD-1シグナリングとミトコンドリア機能不全の二次的悪化機構: T細胞が一度枯渇状態に入ると、高発現するチェックポイント分子PD-1が代謝プログラムにさらなる変化をもたらすことが示された。PD-1シグナルは解糖系を抑制するだけでなく酸化的リン酸化 (OXPHOS) も損ない、ミトコンドリアクリステの短縮・数の減少、脱分極ミトコンドリアの蓄積、総合的なミトコンドリアフィットネスの低下を引き起こす (Patsoukis et al., 2015; Ogando et al., 2019)。BHLHE40 (TILのミトコンドリアフィットネスとクロマチン構造を維持する転写調節因子) の発現低下がPD-1誘導性ミトコンドリア機能不全のメカニズムの一部として同定された (Li et al., 2019)。Yu et al. (2020) の研究では、ミトファジー (ミトコンドリアオートファジー) の欠陥が脱分極ミトコンドリアの蓄積を引き起こし、これが終末枯渇の誘導因子となることが示された。

代謝介入による治療効果——遺伝子・薬理学的アプローチ: ミトコンドリア機能の再プログラミングが腫瘍免疫療法として有望であることを示す複数の証拠が提示された。Scharping et al. (2021) は以下の戦略を検証した。(1) GPX1過剰発現によるPmel-1 T細胞でのPGC1α増加とROS蓄積防止:腫瘍特異的T細胞の枯渇を防ぎin vivo抗腫瘍応答を増強した。(2) CRISPR-Cas9によるB16腫瘍細胞のNDUFS4欠失による腫瘍内低酸素軽減:T細胞枯渇を防止しin vivo抗腫瘍免疫を増強した。(3) axitinib (チロシンキナーゼ阻害薬、VEGFR阻害により腫瘍血管正常化と低酸素緩和を誘導):T細胞枯渇を制限し抗腫瘍T細胞応答を改善するとともに、抗CTLA-4 + 抗PD-1二重チェックポイント阻害との組み合わせでB16黒色腫での相乗的抗腫瘍効果を示した。Vardhana et al. (2020) はNAC (N-アセチルシステイン) でROS中和を行い、慢性抗原刺激駆動のT細胞代謝欠陥を回復させ、リンパ腫・黒色腫モデルで抗PD-L1療法との相乗効果を示した。Yu et al. (2020) はNR (ニコチンアミドリボシド) の腫瘍内注射または経口投与によってROSを低減しCD8+ T細胞での脱分極ミトコンドリア蓄積を抑制し、黒色腫・大腸腫瘍モデルでT細胞の抗腫瘍応答維持と抗PD-1療法との相加的抗腫瘍免疫を示した。例えば、NR投与群では腫瘍増殖が対照群と比較して約50%抑制された。

考察/結論

本Commentaryは、TCRシグナリングと腫瘍微小環境代謝ストレスが因果的に協調してT細胞運命・機能を制御し、ミトコンドリアがこれらの分子プロセス全体のオーケストレーターとして機能することを強調する。ミトコンドリアへの集約的影響は代謝的・後成的・転写的T細胞再プログラミングとして発現し、終末枯渇という不可逆的な運命へT細胞を押しやる。

先行研究との違い: Scharping et al. (2016) の先行論文ではTMEがPGC1α喪失を通じてT細胞ミトコンドリア生合成を抑制することが初めて示されていたが、本研究で紹介されたScharping et al. (2021) の論文はその発見を因果的に発展させ、「なぜPGC1αが喪失するのか」という上流機構 (TCRシグナリング×低酸素→Blimp-1→PGC1α抑制) を解明した点で、これまでの研究と異なる。

新規性: 本研究で初めて、持続的抗原刺激と低酸素の同時存在がT細胞の終末枯渇を誘導する主要因であり、その分子メカニズムがBlimp-1—PGC1α軸、ROS蓄積、NFAT持続活性化を介するものであることを新規に同定した。これは、免疫学的シグナルと代謝制御の直接的な因果リンクを確立した点で新規性が高い。

臨床応用: axitinib (VEGFR阻害による腫瘍血管正常化・低酸素緩和)・NAC (ROS中和によるグルタチオン合成増大)・NR (ミトコンドリア機能回復のためのNAD+補充) を用いたミトコンドリア機能再プログラミング戦略と既存のチェックポイント阻害剤との組み合わせは、ICBに応答しない患者への新規免疫療法として有望な概念実証を提供する。axitinibはすでに腎細胞癌・甲状腺癌などで臨床承認された分子標的薬であり、VEGFR阻害による免疫増強効果を組み合わせた免疫療法戦略への転用は比較的実現可能性が高い。NAC・NRは比較的低毒性の栄養学的サプリメント的位置づけであり、既存の化学療法や免疫療法と組み合わせる臨床試験の設計が容易という利点もある。これらの代謝介入戦略が実臨床で有効であれば、PD-1/PD-L1 ICBへの一次耐性患者 (「冷たい腫瘍」や終末枯渇T細胞が主体のTIME) において枯渇状態のT細胞を機能的に再活性化する補完戦略として位置づけられる。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、枯渇 (exhaustion) 以外のT細胞機能不全状態——特に老化 (senescence)——への代謝機構の拡張が挙げられる。Tregが加速したグルコース消費を通じてエフェクターT細胞のsenescenceを誘導する機構が最近同定されており (Li et al., 2019)、老化誘導因子としての代謝ストレスの役割解明が課題である。第二に、CD4+ T細胞サブセットへの適用。持続的抗原刺激下低酸素がCD4+ T細胞の分化・運命・機能をどのように制御するかが理解されておらず、CD8+ T細胞との比較解析が求められる。第三に、グルコース代謝と脂質代謝のクロストーク解明。PD-1シグナルが解糖系を抑制しつつ脂肪酸β酸化を増大させることが知られているが (Patsoukis et al., 2015)、これらの代謝経路がミトコンドリアを通してどのように統合・調整されT細胞枯渇に至るかのメカニズムは未解明である。これらのlimitationを克服することで、より包括的なT細胞機能不全の理解と治療戦略の開発に繋がる。

方法

本稿はNews & Views Commentaryであるため、独自の実験手法は含まれない。紹介されている主要な研究 (Scharping et al., 2021; Yu et al., 2020; Vardhana et al., 2020) で用いられた実験手法を以下に要約する。

Scharping et al. (2021) は以下の手法を組み合わせた。(1) OT-I TCRトランスジェニックT細胞とOVAペプチドを発現するB16黒色腫細胞の常酸素 (20% O2) および低酸素 (1% O2) 共培養系を用いて、in vitroでのT細胞枯渇誘導条件を特定した。(2) IFN-γ受容体欠損マウス、Blimp-1欠損マウスなどの複数ノックアウトマウスモデルを用いて、T細胞枯渇における特定の分子経路の役割をin vivoで解析した。(3) GPX1 (グルタチオンペルオキシダーゼ1) 過剰発現Pmel-1 T細胞を用いて、ROS低減がT細胞機能に与える影響を評価した。(4) CRISPR-Cas9技術によりB16黒色腫細胞のNDUFS4 (ミトコンドリア複合体I構成サブユニット) を欠失させ、腫瘍内低酸素を緩和する実験を行った。(5) VEGFR阻害薬axitinibをin vivo投与し、腫瘍血管正常化と低酸素緩和がT細胞枯渇および抗腫瘍免疫応答に与える影響を評価した。

Vardhana et al. (2020) は、N-アセチルシステイン (NAC) によるROS中和実験を実施し、慢性抗原刺激によって誘導されるT細胞の代謝欠陥の回復効果を評価した。

Yu et al. (2020) は、ニコチンアミドリボシド (NR) の腫瘍内注射および経口投与実験を実施し、ROSレベルの低減と脱分極ミトコンドリア蓄積の抑制がT細胞の抗腫瘍応答に与える影響を評価した。これらの研究では、フローサイトメトリー、リアルタイムPCR、ウェスタンブロット、ミトコンドリア機能アッセイ (OXPHOS測定、ROS測定)、in vivo腫瘍モデルでの抗腫瘍効果評価、免疫組織化学染色などの標準的な分子生物学および免疫学的手法が用いられている。統計解析には、t検定、ANOVA、カプラン・マイヤー曲線とログランク検定などが用いられた。