- 著者: Noella Lopes, Claire McIntyre, Stefania Martin, Mathilde Raverdeau, Nital Sumaria, Ayano C. Kohlgruber, Gina J. Fiala, Leandro Z. Agudelo, Lydia Dyck, Harry Kane, Aaron Douglas, Stephen Cunningham, Hannah Prendeville, Roisin Loftus, Colleen Carmody, Philippe Pierre, Manolis Kellis, Michael Brenner, Rafael J. Argüello, Bruno Silva-Santos, Daniel J. Pennington, Lydia Lynch
- Corresponding author: Daniel J. Pennington (Blizard Institute, Barts and The London School of Medicine, Queen Mary University of London, London, UK)
- 雑誌: Nature Immunology
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 33462452
背景
代謝プログラミングは免疫細胞の系統と機能を厳密に制御するが、γδ T細胞の代謝に関する知見はこれまでほとんど未解明であった。マウスγδ T細胞のエフェクター機能は、IL-17とIFNγという2つの主要サイトカインを産生するサブセットによって支配されている。これらのサブセットは、CD4+ T細胞とは異なり、胸腺発生の過程でその機能を獲得することが知られている。具体的には、IFNγ産生γδ T細胞(γδIFN、表現型はCD27+CD45RB+)は腫瘍サーベイランスに寄与し、抗腫瘍免疫応答において重要な役割を果たす。一方、IL-17分泌γδ T細胞(γδ17、表現型はCD27-CD44hi)は、腫瘍の成長や転移を促進する作用を持つことが報告されている。このため、腫瘍微小環境(TME)におけるこれら拮抗するγδ T細胞サブセットのバランスを制御する分子メカニズムの解明は、次世代のγδ細胞免疫療法を開発する上で極めて重要である。
先行研究では、αβ T細胞の代謝がその分化、増殖、機能に特異的な影響を与えることが示されている。ナイーブなαβ T細胞は、酸化的リン酸化(OXPHOS)や脂肪酸酸化(FAO)を介してグルコース由来のピルビン酸を酸化しATPを生成するが、ほとんどのエフェクターαβ T細胞は、細胞の成長と増殖を強化するために、グルコースを乳酸に変換する好気性解糖(「ワールブルグ効果」)に移行することが知られている Buck et al. Cell 2017。しかし、腫瘍細胞はTMEにおいてグルコースを大量に消費するため、T細胞によるサイトカイン産生が阻害され、抗腫瘍免疫が妨げられることが報告されている Chang et al. Cell 2015。このため、代謝に基づいた介入が腫瘍代謝を抑制しつつ、効果的な抗腫瘍免疫を促進し、免疫療法の成果を向上させる可能性が注目されている O’Sullivan et al. Nat Rev Immunol 2019。
γδ T細胞は、MHC非拘束性であり、ネオアンチゲン認識に依存しないため、αβ T細胞とは異なる補完的な抗腫瘍免疫層を構成する有望な免疫細胞集団である Silva-Santos et al。しかし、γδ T細胞の代謝プロファイル、特にそのサブセットがどのように異なる代謝要件を持つかについては、これまで詳細な解析が不足しており、その機能的意義は未解明な点が多かった。特に、胸腺における機能獲得の段階で、これらの細胞がどのような代謝プログラムを獲得し、それが末梢組織や腫瘍微小環境でどのように維持されるのか、また、その代謝を標的とした介入が抗腫瘍免疫にどのような影響を与えるのかは、重要な知識ギャップとして残されていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指し、γδ T細胞サブセットの代謝プロファイルを詳細に解析する。
目的
本研究の目的は、γδ T細胞サブセットの代謝プロファイルを、胸腺発生の初期段階から末梢組織、そして腫瘍微小環境に至るまで系統的に解析することである。具体的には、抗腫瘍性のIFNγ産生γδ T細胞(γδIFN)と前腫瘍性のIL-17産生γδ T細胞(γδ17)が、それぞれどのような特異的な代謝経路に依存しているかを明らかにすることを目指す。さらに、これらの代謝的二極性がいつ、どのように確立されるのか、特にTCRシグナル強度との関連性を評価する。最終的には、代謝経路への介入を通じて、γδIFN細胞の抗腫瘍機能を増強し、腫瘍増殖を抑制する新たな治療戦略を確立することを目的とする。
結果
腫瘍微小環境および末梢組織におけるγδ T細胞の代謝的二極化: E0771乳癌およびMC38結腸癌の腫瘍浸潤リンパ球(TILs)をSCENITH法で解析した結果、γδIFN細胞は高いグルコース依存性と解糖能を示し、一方γδ17細胞はミトコンドリア依存性が高く、脂肪酸・アミノ酸酸化能(FaaO)も高いことが明らかになった (Fig. 1a-d)。この代謝的二極性は、腫瘍接種後6日目(グルコース依存性 p=0.0041、ミトコンドリア依存性 p<0.0001、解糖能 p=0.0014、FaaO p=0.0041)および15日目(ミトコンドリア依存性 p<0.0001、解糖能 p<0.0001)の両方の時点で観察された。末梢リンパ節においても、CD27- γδ17細胞はMitoTrackerおよびTMRM染色陽性率が高く、ミトコンドリア量および膜電位(ΔΨm)が高いことを示唆した (Fig. 2a, b)。対照的に、CD27+ γδIFN細胞は基礎的な解糖レベルが高いことがSeahorse解析で示された (Fig. 2d-f)。遺伝子発現解析(qPCR)では、γδ17細胞でOXPHOS関連遺伝子(Ndufa11、Ndufa13、Sdha、Cox6a1、Cox7a1、Cox15、Nrf1)が優位に発現し、γδIFN細胞では解糖関連遺伝子(Pgm1、Pgm2、Gpi1、Pgam1、Myc)が優位に発現しており、Myc-GFPレポーターマウスを用いた解析でもMycタンパク質レベルでの発現差が確認された (Fig. 2h-j)。この解析にはn=7 miceのデータが用いられた。
胸腺早期発生における代謝プログラミングの確立: 成体および新生仔の胸腺においても、γδ17(CD44hiCD45RB-)とγδIFN(CD44+CD45RB+)細胞は末梢組織と同様の代謝的二極化を示した (Fig. 3a, b)。初期のγδ24+前駆細胞およびγδTN(CD44-CD45RB-)前駆細胞は高いTMRE染色を示したが、γδIFN細胞への分化に伴いΔΨmの顕著な低下が観察された (Fig. 3c, d)。Imagestream解析では、γδ17細胞が大型で活性の高いミトコンドリアを持つ一方、γδIFN細胞は微細なミトコンドリアを呈した (Fig. 3e)。Seahorse解析では、γδ17胸腺細胞がγδIFN胸腺細胞と比較して、最大呼吸能および予備呼吸能が高いことが示された (Fig. 3f, g)。これらの結果は、γδ T細胞サブセットが胸腺発生の早期に、そのエフェクター機能獲得と並行して特異的なミトコンドリアおよび代謝特性を獲得することを示唆する。この結果はn=5 miceのデータに基づいている。
TCRシグナル強度による代謝スイッチの誘導: 胎生15日目(E15)の胸腺葉を用いた7日間の胎仔胸腺器官培養(FTOC)において、低グルコース条件下ではγδ17細胞が正常に発生したが、高グルコース条件ではその数が減少し、γδ17/γδIFN比が有意に低下した (p=0.0354) (Fig. 3h)。逆に、解糖系阻害剤2-DGまたはグルコース取り込み阻害剤fasentinの存在下では、γδ17細胞の数およびγδ17/γδIFN比が増加した (2-DGでγδ17細胞数 p=0.0013、比率 p<0.0001) (Fig. 3i, Extended Data Fig. 4)。ミトコンドリア複合体I阻害剤メトホルミンはγδ17細胞の発生を阻害し、γδ17/γδIFN比を低下させた (p=0.0079) (Fig. 3j)。TMRE hiのγδTN細胞をOP9-DL1細胞と共培養すると、ほぼ全ての細胞がIL-17経路へ分化し、TMRE loの細胞はIFNγ経路へ分化することが示された (Fig. 4a)。抗TCRδアゴニストGL3による刺激は、TMRE hiのγδ24+細胞のCD24およびTMREレベルを濃度依存的に低下させ (GL3 1 µg/ml vs 5 µg/mlで p=0.0021)、TCRシグナル強度が代謝シフトを駆動することを示唆した (Fig. 4h)。単一細胞RNAシーケンス解析では、TMRE lo細胞がTCRシグナル関連遺伝子に富み、TMRE hi細胞がOXPHOS関連遺伝子に富むことが示された (Fig. 4i, j)。この解析にはn=4 miceの細胞が用いられた。
γδ17細胞の脂質代謝依存性と高脂肪食(HFD)の影響: RNAシーケンス解析により、γδ17細胞に共通するシグネチャとして、脂質代謝関連遺伝子(Slc1a1、Pdk4、Ablim3、Fabp1、Abdh5、Atp10a)が濃縮されていることが明らかになった (Fig. 5a)。LipidTOX染色では、γδ17細胞は皮膚以外の全ての組織でγδIFN細胞よりも高い脂質含量を示し、細胞内脂質滴、フリーコレステロール(Filipin III)、およびBODIPY-FL-C16/CholEsterylパルミテート・コレステロールの取り込みが優位であった (LipidTOX MFIでリンパ節 p<0.0001、肺 p=0.0043、脂肪組織 p=0.0018、肝臓 p=0.031) (Fig. 5b, c, g, h, m)。HFDを摂取したマウス(n=7 mice)では、リンパ節のγδ T細胞(特にγδ17細胞)が増加し、B16F10腫瘍内のγδ17細胞も増加して腫瘍成長が促進された (HFD群で腫瘍体積が有意に増大、p<0.0001) (Fig. 6g-j)。CLC処理したγδ17細胞の腫瘍内局所注射はE0771腫瘍成長を増強し (γδ17 - CLC vs γδ17 + CLCで p=0.0003)、一方、オルリスタット投与は腫瘍内のγδ17細胞の減少と腫瘍縮小をもたらした (Extended Data Fig. 8)。これにより、脂質がγδ17細胞の機能に与える影響が示された。
グルコース補給によるγδIFN細胞の抗腫瘍機能増強: E0771腫瘍内のγδIFN細胞は、γδ17 TILsと比較して2-NDBGグルコース取り込みが優位であった (p=0.047) (Fig. 7a)。in vitro培養において、高グルコース(50 mM)培地はγδIFN細胞の拡大、増殖、IFNγおよびT-bet発現を増強し、2-DGはこれらを抑制した (高グルコース vs 低グルコースでγδIFN細胞数 fold change p<0.0001、IFNγ MFI p=0.0115) (Fig. 7b-e)。ガラクトース培地ではγδIFN細胞の減少と機能低下がみられ、好気性解糖の必須性が確認された (γδIFN細胞数 p<0.0001、IFNγ MFI p=0.0085) (Fig. 7f-h)。グルコース補給したγδIFN細胞はE0771細胞に対する細胞傷害活性を増強し (p<0.0001) (Fig. 7i)、腫瘍局所への2回注射により、対照γδIFN細胞と比較して腫瘍成長を有意に阻害した (γδIFN - glucose vs γδIFN + glucoseで p<0.0001) (Fig. 7j, k)。これらのデータは、グルコース補給がγδIFN細胞の抗腫瘍機能を強化する新たな代謝ベースの手段となる可能性を示している。この実験にはn=5 miceが用いられた。
考察/結論
本研究は、γδ T細胞サブセットの代謝的二極性が、末梢での活性化を必要とするαβ T細胞とは対照的に、胸腺発生の早期にTCRシグナル強度に依存して確立されるという新規の概念を提示した。γδIFN細胞への分化には、TCRアゴニスト刺激に伴うOXPHOSから好気性解糖(Myc依存性)への代謝スイッチが必須であることが示された。一方、γδ17細胞は胸腺から末梢、腫瘍微小環境に至るまで一貫してOXPHOSおよび脂質代謝に依存することが明らかになった。この知見は、IL-17産生型Th17細胞やILC3細胞の代謝特性との整合性があり、γδ T細胞とαβ T細胞の代謝制御における共通原理(TCR強度依存性のMyc発現)を示唆する。
先行研究との違い: これまでのαβ T細胞の研究では、ナイーブT細胞が活性化後に代謝を再プログラミングするのに対し、本研究はγδ T細胞の代謝的運命が胸腺発生の非常に早い段階で決定されるという点で、従来の知見と対照的である。特に、TCRシグナル強度がΔΨmの低下を介してOXPHOSから好気性解糖への代謝シフトを誘導し、これがγδIFN細胞の分化に必須であるというメカニズムは、これまで詳細に報告されていなかった。
新規性: 本研究で初めて、γδIFN細胞がほぼ排他的に解糖系に依存し、γδ17細胞がミトコンドリアの酸化的リン酸化および脂質代謝に強く依存するという、γδ T細胞サブセット間の明確な代謝的二極性を同定した。さらに、この代謝的プログラミングが胸腺発生の早期に確立され、末梢および腫瘍微小環境で安定して維持されることを新規に示した。また、高脂肪食(HFD)がγδ17細胞の拡大と腫瘍増殖を促進する一方、グルコース補給がγδIFN細胞の抗腫瘍機能を増強し、養子移入により腫瘍増殖を抑制できることを実証した点は、新規な治療戦略開発への道を開くものである。
臨床応用: 本知見は、γδ T細胞を用いた養子免疫療法の前処理として、グルコース補給によってγδIFN細胞の抗腫瘍機能を増強するという新規戦略を提示する点で、臨床的意義が大きい。腫瘍微小環境におけるグルコースの競合はγδIFN細胞の機能を制限する可能性があるため、ex vivoでのグルコースブーストは、T細胞移入後の抗腫瘍活性(特にIFNγ産生と細胞傷害性)を強化する可能性がある。逆に、肥満や脂質が豊富な腫瘍微小環境がγδ17細胞を拡大し、腫瘍促進作用を強化することから、脂質代謝阻害剤(オルリスタットなど)との併用療法や、肥満患者における免疫療法効果の予測、コレステロール代謝介入による腫瘍制御の可能性が示唆される。
残された課題: 今後の検討課題として、皮膚常在γδ T細胞の代謝における例外的なメカニズムの解明、本研究で得られたマウスにおける知見がヒトγδ T細胞サブセットにも一般化できるかの検証、CD4+ Th17細胞とγδ17細胞の代謝差異の比較、そして臨床転用可能な簡便な代謝マーカーの確立が残されている。また、グルコースブーストの抗腫瘍効果の持続性や長期的な影響については、より緩徐に増殖する腫瘍モデルでのさらなる調査が必要である。
方法
代謝解析: 細胞の代謝プロファイルを詳細に評価するため、複数の手法を用いた。SCENITH (Single Cell Metabolism by Profiling Translation Inhibition) は、ピューロマイシン取り込みと2-DG/オリゴマイシン阻害を組み合わせたフローサイトメトリーベースの単一細胞代謝プロファイリング法であり、グルコース依存性、ミトコンドリア依存性、解糖能、脂肪酸・アミノ酸酸化能 (FaaO) を定量した。Seahorse extracellular flux解析 (ECAR/OCR) を用いて、細胞外酸性化率と酸素消費率をリアルタイムで測定し、解糖系と酸化的リン酸化(OXPHOS)の活性を評価した。ミトコンドリアの量と活性は、MitoTracker、TMRM (tetramethylrhodamine methyl ester)、TMRE (tetramethylrhodamine ethyl ester) 染色により評価した。脂質代謝については、LipidTOX、BODIPY-FL-C16、BODIPY CholEsteryl FL-C12による脂質取り込み、Filipin IIIによるフリーコレステロール含量の測定を行った。これらの解析は、フローサイトメトリー、Imagestream、共焦点顕微鏡を用いて実施された。
腫瘍モデル: E0771乳癌、MC38結腸癌、B16F10メラノーマ細胞株をC57BL/6Jマウスに皮下接種し、腫瘍微小環境におけるγδ T細胞の代謝を評価した。食事介入として、標準食 (SFD) と高脂肪食 (HFD) を8週間投与し、HFDがγδ T細胞の機能に与える影響を検討した。また、リパーゼ阻害剤であるオルリスタットを投与し、脂質代謝の阻害効果を評価した。
胸腺発生解析: 胎生15日目 (E15) および17日目 (E17) の胸腺葉を用いたFTOC (fetal thymic organ culture) を実施し、胸腺発生中のγδ T細胞の代謝プログラミングを解析した。グルコース取り込み阻害剤2-DG、fasentin、複合体I阻害剤メトホルミンを添加した培養条件で、γδ T細胞の分化への影響を評価した。Zbtb16 GFP (PLZF) レポーターマウスおよびMyc-GFPレポーターマウスを用いて、転写因子PLZFおよびMycの発現と代謝経路の関連性を検討した。OP9-DL1細胞との共培養系を用いて、前駆細胞の分化経路を追跡した。single-cell RNA-seq解析により、TMRE hiとTMRE loのγδ24+細胞の遺伝子発現プロファイルを比較し、代謝状態と分化運命の関連性を分子レベルで解析した。抗TCRδアゴニスト (GL3) 刺激により、TCRシグナル強度が代謝シフトに与える影響を評価した。
介入実験: コレステロール負荷シクロデキストリン (CLC) 処理したγδ17細胞、高グルコース/ガラクトース/2-DG培地で培養したγδIFN細胞を用いて、in vitroでの細胞傷害アッセイを実施した。in vivoでは、E0771腫瘍モデルにこれらの細胞を局所養子移入し、腫瘍増殖への影響を評価した。特に、グルコース補給がγδIFN細胞の抗腫瘍機能を増強し、腫瘍増殖を抑制する可能性を検証した。
統計解析: 統計解析にはGraphPad Prismソフトウェアを使用し、ノンパラメトリックな両側Mann-Whitney検定、またはD’Agostino and Pearson正規性検定で正規分布に従うと判断された場合は両側不対Student’s t検定または一元配置ANOVAを用いた。データはすべて平均±標準誤差 (s.e.m.) または標準偏差 (s.d.) で示され、p<0.05を統計的有意差とした。