- 著者: Daria Esterházy, Maria C. C. Canesso, Luka Mesin, Paul A. Muller, Tiago B. R. de Castro, Ainsley Lockhart, Mahmoud ElJalby, Ana M. C. Faria, Daniel Mucida
- Corresponding author: Daria Esterházy (University of Chicago, Chicago, IL, USA); Daniel Mucida (The Rockefeller University, New York, NY, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-04-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 30988509
背景
腸管免疫系は、食事由来の非自己抗原や膨大な常在細菌叢に対しては過剰な免疫反応を抑制する「免疫寛容」を維持しつつ、侵入する病原性微生物に対しては迅速かつ強力な「防御的炎症応答」を惹起するという、極めて複雑で相反する課題を同時に達成しなければならない。腸管排水リンパ節(gut-draining lymph nodes; gLNs)は、これら管腔内の多様な抗原刺激に対する適応免疫応答を決定・制御する極めて重要な解剖学的部位である。
しかしながら、単一のgLNまたはgLN集団が、どのようにして寛容応答と炎症応答という正反対の免疫反応を同時に、かつ矛盾なく支持・制御しているのかという根本的なメカニズムは未解明であった。先行研究において、gLNが解剖学的に腸管の異なる区域を排水していること自体は、Carter et al. (1974) や Houston et al. (2016)、さらに Veenbergen et al. (2016) などの研究によって部分的に示されていた。しかし、各gLNを構成する細胞組成、ストローマ細胞や樹状細胞の機能的分極、および実際のT細胞分化応答に与える影響を統合した体系的な解析はこれまで決定的に不足していた。特に、腸管の近位部と遠位部で異なる免疫微小環境が存在する可能性が示唆されていたものの、その詳細な分子機構と機能的意義については明確な知識ギャップ(knowledge gap)が残されており、腸管免疫の空間的制御に関する詳細な理解が不足しているという課題が残されていた。
目的
本研究の目的は、gLNが排水する腸管の解剖学的区域(近位小腸から遠位大腸)に応じて、それぞれ免疫学的に高度に特異的な微小環境を形成しているかを検証することである。具体的には、近位(十二指腸)gLNと遠位(回腸・盲腸・結腸)gLNにおけるストローマ細胞および樹状細胞の遺伝子発現プロファイルや代謝シグネチャーの機能的差異を詳細に解析し、この解剖学的な区画化(compartmentalization)が、腸管における食事性抗原に対する寛容応答と病原体に対する炎症性T細胞応答の空間的分離にどのように寄与しているかを機能的に解明することを目指した。
結果
gLNは排水する腸管区域に対応した代謝的・免疫学的特異性を持つ: 3次元画像解析により、gLNは腸管のリンパ管を介して区画化して排水し、隣接gLNへの拡散は認められなかった(Fig 1b, c)。各gLNが特定腸管区域の内腔環境を反映した構成を持つことを確認するため、[3H]レチノール追跡実験を実施したところ、十二指腸が主要な吸収部位であり、D-gLNで最も高い放射活性が検出された(n=4 mice、Fig 1d, e)。RNA-seq PCAの結果、D-gLN、I-gLN、C-gLNのLECおよびFRCはPCA第1主成分で明確に分離された(n=3 mice、Fig 1f)。D-gLNのLECは、コレステロールやリポプロテイン処理、脂肪酸利用といった代謝シグネチャーにおいて、C-gLNのLECと比較して 2.5-fold increase 以上の顕著な遺伝子発現上昇を示した(Fig 1g)。一方、C-gLNのFRCでは免疫細胞遊走・活性化経路が著明にアップレギュレートされており、log2FC 1.8 以上の差を示す免疫関連遺伝子が多数同定された(Fig 1h)。移行性DC(dendritic cell)のCD103+CD11b-およびCD103+CD11b+の両サブセットのPCAでも、小腸と大腸gLNの間で分離が認められた(n=4 mice、Fig 2a)。D-gLNのCD103+CD11b- DCは、寛容性ケモカインCcl22とレチノイン酸産生に必須な寛容誘導因子Aldh1a2を特異的に高発現しており、C-gLNの同画分と比較して 3.2-fold 以上の発現差を示した(Fig 2b, c)。
CD4+ T細胞分化に近位-遠位勾配が存在する: OT-II細胞のOVA経口投与後、pTreg(FOXP3+)誘導頻度は近位-遠位勾配で低下し、D-gLNで最高(約 40%)、C-gLNで最低(約 15%)であった(n=4 mice、Fig 2f)。germ-free(GF)マウスでは全gLNでpTreg誘導が低下した。OVA静脈投与でも同様の勾配が認められ、消化管抗原量の差異ではなくgLN固有の環境がT細胞分化の決定因子であることが示された(n=3 mice、Fig 2g)。RORγT+ TH17細胞とRORγT+ pTreg細胞は逆の勾配を示し、近位から遠位にかけて増加した(Fig 2h, i)。SFBモノコロニー化マウスでは、RORγT+ CD4+ T細胞のSFB特異的拡大はI・C-gLNにのみ認められた(n=3 mice、Fig 2e)。I・C-gLNの外科的切除(ΔicLN)により、SFB特異的TH17応答が周辺gLNにシフトしたことから、gLNの区画化がT細胞応答を腸管区域に対応させていることが確認された(n=12 sham vs n=14 ΔicLN、Fig 3g)。この解析において、ΔicLN群では周辺リンパ節でのSFB特異的T細胞の割合に 2.0-fold 以上の有意な増加が検出された。
区画化による機能的結果と十二指腸感染による経口寛容障害: CT-OVAの回腸外科的注入は、十二指腸注入よりも強いRORγT+ THおよびRORγT+ pTreg応答を回腸・盲腸gLNに惹起した(n=4 mice、Fig 3a)。回腸注入CT-OVAのみがStm-OVA感染に対して体重減少遅延、脾臓菌播種減少、RORγT+ T細胞増加をもたらした(n=13-15 mice、Fig 3b, c)。C-gLNを限定的に感染させるCitrobacter rodentium-OVA感染下でも、D-gLNにおけるOVA特異的pTreg誘導は維持された(n=5 mice、Fig 3d, e)。一方、十二指腸特異的トロピズムを持つStrongyloides venezuelensis感染では、D-gLNのみが肥大化し、再構築および免疫細胞増加が認められた(n=5 mice、Fig 4a, b)。D-gLNではCD11b+ DCが増加し、より寛容誘導性であるCD103+およびCD8α+ DCが代償的に低下した(Fig 4c-e)。OVA誘導性OT-II pTreg(FOXP3+)細胞はD-gLNで有意に減少した(p<0.01、Fig 4i)。S. venezuelensis感染中の経口寛容誘導は、非感染群と比較してBALF(bronchoalveolar lavage fluid)および肺組織好酸球増加、OVA特異的IgG1増加を伴い、全身性経口寛容が部分的に障害されることが実証された(n=13 in +OVA vs n=10 in -OVA、Fig 4k-m)。
考察/結論
本研究は、腸管免疫系における最も根本的な組織化原理として「腸管区域特異的なgLNの区画化による寛容応答と炎症応答の空間的分離」を解明した画期的な成果である。
先行研究との違い: これまでの腸管免疫研究では、腸管排水リンパ節(gLN)全体を一つの均一な免疫器官として捉え、その全体的な機能や免疫誘導能を議論することが一般的であった。これに対し、本研究は近位小腸を排水するD-gLNが極めて高い寛容誘導能を持つのに対し、遠位のI-gLNやC-gLNはプロ炎症性のTH17細胞分化を優先的に誘導するという、解剖学的区域に完全に連動した「機能的二分法」を対照的に描き出した点で、従来のパラダイムと大きく異なる。
新規性: 本研究は、gLNのストローマ細胞(LECおよびFRC)および移行性樹状細胞(DC)が、排水する腸管区域に応じて独自の代謝・免疫遺伝子シグネチャーを有していることを世界で初めて新規に同定した。特に、D-gLNにおけるAldh1a2(レチノイン酸合成酵素)およびCcl22(Treg遊走因子)の高発現が、食事性抗原に対するpTreg細胞の優先的誘導環境を形成していることを分子レベルで初めて実証した。
臨床応用: 本知見は、食物アレルギーや炎症性腸疾患(IBD)に対する治療戦略の臨床応用に直結する。臨床的意義として、食物アレルギー患者に対しては「食物抗原を近位小腸へ選択的に送達して経口寛容を再構築する」アプローチが有効である一方、感染症や癌に対するワクチン開発においては「遠位gLNを標的とした抗原送達」が強力な炎症性・防御的T細胞応答を惹起するための極めて有用な戦略となる(臨床的有用性)。また、十二指腸の寄生虫感染が局所の免疫コンフリクトを引き起こし、全身性の経口寛容を破綻させるという知見は、臨床現場における消化管感染後の食物アレルギー発症機序に重要な臨床的含意を与える。
残された課題: 今後の検討課題(limitation)として、各gLNにおけるストローマ細胞や樹状細胞の区域特異的な分化・極性化を決定づける上流の微小環境因子(特定の食事成分、胆汁酸、あるいは局所的な微生物代謝物など)の同定が残されている。また、ヒトの炎症性腸疾患(IBD)や食物アレルギー患者の病態において、このgLNの解剖学的区画化がどのように破綻しているかを解析し、ヒト臨床サンプルにおける検証を進めることが今後の重要な研究方向性である。
方法
本研究では、C57BL/6J(CD45.2)およびCD45.1、OT-II TCR(T cell receptor)トランスジェニックマウス、7B8tg(SFB-specific TCR-transgenic)マウス、Itgax-Venusマウスを使用した。腸管リンパ管の3次元構造を可視化するため、iDISCO+(immunolabeling-enabled three-dimensional imaging of solvent-cleared organs)法による組織透明化およびライトシート顕微鏡を用いた3次元蛍光イメージングを実施し、LYVE-1(lymphatic endothelial cell marker)およびGFP(green fluorescent protein)、インスリンの多重染色を行った。腸管区域別の吸収とgLNへの分配を定量化するため、[3H]レチノール標識を用いた追跡実験を実施した。
十二指腸(D)、回腸(I)、盲腸-結腸(C)gLNからフローサイトメトリーを用いてソートした、LEC(lymphatic endothelial cell)およびFRC(fibroblastic reticular cell)のRNA-seq(RNAシーケンス)解析を行い、主成分分析(PCA)および遺伝子セット富化解析(GSEA)を実施した。ナイーブCD45.1+ OT-II細胞の養子移植後、OVA(卵白アルブミン)経口投与によりgLNにおけるpTreg(peripheral regulatory T)細胞およびTH17(T helper 17)細胞の分化誘導を追跡した。
SFB(segmented filamentous bacteria)単菌コロニー化マウスにSFB特異的7B8tg細胞を養子移植し、I・C-gLNの外科的切除(ΔicLN)が地域特異的TH17応答に与える影響を評価した。外科的腸管内OVA注入とCT(cholera toxin)の併用により、gLN別の免疫応答を比較した。Salmonella Typhimurium-OVA(Stm-OVA)感染モデルを用いて、遠位gLNを標的としたワクチンの防御効果を検証した。十二指腸特異的トロピズムを持つ線虫Strongyloides venezuelensis感染モデルを用いて、十二指腸内での免疫コンフリクトと経口寛容障害を解析した。統計解析にはGraphPad Prism 7.0ソフトウェアを使用し、一元配置分散分析(ANOVA)およびTukeyの多重比較事後検定、または片側t検定(one-tailed Student’s t-test)を適用した。