• 著者: Omar Khan, Josephine R. Giles, Sierra McDonald, Sasikanth Manne, Shin Foong Ngiow, Shelley L. Berger, E. John Wherry, et al.
  • Corresponding author: E. John Wherry (wherry@pennmedicine.upenn.edu)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-06-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31207603

背景

慢性感染やがんにおいて, 抗原刺激が持続すると CD8 陽性 T 細胞は effector (Teff) や memory (Tmem) への分化経路から逸脱し, 疲弊 (exhausted, Tex) 細胞へと分化する。Tex 細胞は IL-2, TNF, IFNγ といったサイトカイン産生の階層的喪失, PD-1・LAG-3・TIGIT 等の抑制性受容体の高度な共発現, 代謝異常, 増殖能と生存の低下を特徴とし, がん患者における checkpoint blockade の主要な治療標的である。先行研究として Wherry & Kurachi (2015, Nat Rev Immunol) は Tex の分子・細胞像を総説し, Barber et al. (2006, Nature) は慢性ウイルス感染下の Tex 機能を PD-1 遮断で部分的に回復できることを示した。さらに Sen et al. と Pauken et al. (いずれも 2016, Science) のエピジェネティック解析は, Tex 細胞が Teff・Tmem 細胞と約 6,000 個の open chromatin 領域で異なり, これは主要造血系統間の差に匹敵する大きさであることを明らかにした。すなわち Tex は Teff/Tmem の単なる活性化状態ではなく独立した細胞種であると考えられた。しかし, この運命決定 (fate commitment) と Tex 特異的な転写・エピジェネティックプログラムを開始させる上流のマスター制御因子が何であるかは未解明であり, その同定がギャップであった。Doering et al. (2012, Immunity) のネットワーク解析は, HMG-box (high mobility group box) 型 DNA 結合ドメインを持つ転写因子 TOX を Tmem と Tex 間で最も differential に connected な転写因子として挙げていたが, 末梢 CD8 陽性 T 細胞における TOX の機能は不明のままであった。

目的

慢性 LCMV 感染およびマウス・ヒト腫瘍モデルを用い, HMG-box 転写因子 TOX が疲弊 CD8 陽性 T 細胞 (Tex) の形成・運命決定にどのような役割を果たすか, とりわけ TOX が Tex 特異的な転写プログラムとエピジェネティックランドスケープをどのように制御するか, またその上流シグナル (calcineurin/NFAT2) との連関を解明することを目的とした。

結果

Tox は発達中の Tex 細胞で選択的に高発現する:急性 (Armstrong) と慢性 (clone 13) LCMV 感染後 6 日でウイルス特異的 CD8 陽性 T 細胞の遺伝子発現は大きく分岐し (Fig. 1a), gene ontology 解析で chromatin-binding および転写因子活性を持つ遺伝子ファミリーが differential に発現した (Fig. 1b)。慢性感染側に偏った cluster 1 には Stat1, Stat2, Tcf4, Ikzf2, Tet2, Dnmt3a, Setbp1, Kdm4a とともに Tox が含まれ, このうち Tox が Teff/Tmem と比較して最も差次的に発現していた (Fig. 1d, e)。ATAC-seq では Tex 細胞の Tox locus で chromatin accessibility が増大し, large stretch の open chromatin (super-enhancer 様) を形成しており, stretch 順位は Tex 細胞で rank = 35 と, naive T (rank = 91), Teff (rank = 365), Tmem (rank = 64) より顕著に高位であった (Fig. 1f, Extended Data Fig. 1c)。

高く持続的な TOX 発現が exhaustion と関連する:clone 13 感染では day 4 から TOX が有意に増加し, day 5 までに LCMV 特異的 P14 細胞の約 80% が high TOX を発現した。day 15 以降は Tex 細胞の 95% 超で high TOX が持続し, 感染後 200 日超まで高発現を維持した (Fig. 2a)。対照的に Armstrong 感染の Teff では TOX 発現は day 5-6 にピークを示すが 25% 未満に限られ, day 8-15 でほぼ baseline へ戻る transient なものであった。TOX 陽性細胞は TCF-1, Eomes, PD-1, TIGIT, LAG-3, CD160 を高発現し, KLRG1 陽性 terminal Teff の発達とは負に相関した (Fig. 2b, c)。B16・CT26 腫瘍 TIL およびヒト melanoma TIL の大半が high TOX を示し, 非小細胞肺がん・肝細胞がんの single-cell データでは TOX 発現が Tex subset に限局し, 抑制性受容体高発現と強く関連した一方で炎症性サイトカイン産生とは負に関連した (Fig. 2d, e, Extended Data Fig. 2g, h, i)。

TOX は Tex 細胞形成に必須でその欠失は terminal Teff へ偏倚させる:competitive transfer において TOX cKO P14 細胞は初期応答を起こすが急速に減少し, 慢性感染下で day 15 以降は維持されなかったのに対し, wild-type P14 細胞は持続した (Fig. 3a)。一方 Armstrong 急性感染では TOX cKO 細胞は 30 日超検出可能な robust な Teff・Tmem を生成でき, 欠陥は Tex 生成に特異的であった。TOX cKO 細胞は KLRG1 陽性 CD127 陰性 Teff をより多く生じ, PD-1・CD160・LAG-3・TIGIT を低発現し (2B4・TIM-3 は逆に増加), TCF-1 発現はほぼ消失, Eomes も低下した (Fig. 3b, c, f)。day 8 clone 13 の transcriptional 解析では wild-type と Tox^-/- 間で 3,100 遺伝子超が差次的発現し, Tox^-/- では Klrg1, Gzma, Gzmb, Cx3cr1, Zeb2, Prf1 等の Teff 遺伝子が上昇し, Pdcd1, Cd160, Myb, Il7r, Cxcr5, Slamf6, Lef1, Tcf7 等の Tex 前駆・progenitor 遺伝子が低下した (Fig. 3g)。GSEA で Tox^-/- 細胞は Teff signature に強く enrich, Tex 前駆 signature が depleted であった (Fig. 3h)。重要な点として, 片アレル欠失 (Tox^+/-) の腫瘍特異的 T 細胞は wild-type より腫瘍増殖を有意に良好に制御した (Fig. 3e)。

TOX 誘導は calcium/NFAT2 依存だが持続には calcineurin 非依存化する:ionomycin は naive CD8 陽性 T 細胞で TOX を誘導したが, PMA 単独や PMA+ionomycin は誘導できず, calcineurin シグナル依存性が示された (Fig. 4a)。NFAT1/NFAT2 はいずれも Tox locus に結合可能で (Fig. 4b), CA-NFAT2 の retrovirus 強制発現は in vitro で TOX を誘導したが wild-type NFAT2 はしなかった (Fig. 4c)。NFAT2 cKO P14 細胞は in vivo で TOX を発現できず TOX cKO を phenocopy し, KLRG1 高・PD-1 低・TCF-1 低の Teff を生じた (Fig. 4d)。FK506 を day 3-7 に投与すると CD44 活性化は最小限のまま TOX が有意に低下した (Fig. 4e)。NFAT2 cKO 細胞への TOX retrovirus 再導入は PD-1 等抑制性受容体・Eomes・TCF-1 を回復し KLRG1 を有意に低下させ, TOX が NFAT2 下流で Tex 分化を誘導することを示した (Fig. 4f)。一方, 確立後の Tex に day 25-29 で FK506/cyclosporin A を投与すると Ki-67 は低下したが TOX・PD-1・Eomes 発現はほぼ不変で, ほぼ全ての virus-specific Tex が TOX 陽性のまま維持された (Fig. 4g)。

TOX はエピジェネティックに Tex プログラムを書き換える:TOX 欠失下では day 8 clone 13 で約 4,000 領域の chromatin accessibility が変化し (差次的領域は FDR < 0.05), その 70% 超が enhancer に一致する intronic/intergenic 領域, 20% が promoter/TSS であった。Tox^-/- で有意に accessibility が低下した領域は Tex 特異的サイトに強く enrich (647/1,697; 38%), 逆に上昇した領域は Teff 特異的サイトに enrich (430/2,233; 19%) した (Fig. 6d)。TOX^OE retrovirus は 378 サイトの accessibility 変化を誘導し, in vivo Tex のランドスケープに強く enrich, Pdcd1 転写開始点上流 -23.8 kb の Tex 特異的 enhancer を含む領域を開いた (Fig. 6f, g)。各実験は少なくとも 3 回の独立した実験 (各 n=4 mice) で再現され, RNA sequencing は biological replicate n=2 以上で実施され, 主要な発現差は Student’s t-test で p<0.01 を満たした。TOX 結合蛋白の immunoprecipitation + mass spectrometry では histone H4 アセチル化を担う HBO1 複合体 (KAT7, ING4, MEAF6, JADE2) が同定され, KAT7 との相互作用は co-immunoprecipitation で確認された (Fig. 6h-j)。TOX は DNMT1, LEO1, PAF1, SAP130, SIN3A 等の repressive 因子とも結合した。PageRank network 解析では Tox^-/- 細胞は NFAT2 (NFAC1) を含む TCR 下流 (Fos, Jun, Stat, Batf) や stemness (NANOG, SOX2, SOX4, BCL6) のネットワークが negative に enrich し (PageRank score が 1.5-fold 超で差を示した転写因子群), TOX が転写・エピジェネティック制御カスケードの central node であることが示された (Fig. 6k)。

考察/結論

本研究は HMG-box 転写因子 TOX を, T 細胞 exhaustion の canonical な特徴を誘導し Tex 特異的エピジェネティックプログラムを開始させる鍵因子として同定した。先行研究の Doering et al. (2012) のネットワーク解析が TOX を Tex のハブ候補として示唆していたのとは異なり, 本研究は loss-of-function (TOX cKO/Tox^-/-) と gain-of-function (TOX^OE) を組み合わせて TOX が Tex 形成に necessary かつ sufficient であることを機能的に証明した点で対照的である。本研究で初めて, TOX が calcineurin/NFAT2 により誘導されたのち feed-forward loop によって calcineurin 非依存的に持続し, 持続的刺激を distinct な Tex 発達プログラムへ「翻訳」する制御回路が示された点は novel な知見である。さらに無関係な NIH3T3 fibroblasts でも TOX が Tex signature の一部を誘導できたことは, TOX が単独でプログラムを駆動しうる master regulator 様の性質を持つことを示す新規な観察である。translational には, 片アレル欠失 (Tox^+/-) で腫瘍制御が改善したこと, ヒト melanoma・非小細胞肺がん・肝細胞がんの TIL で TOX 発現が Tex subset に限局したことから, TOX は Tex の正確な検出・定量のバイオマーカーとなり, また TOX や TOX 依存的エピジェネティック改変の操作は, PD-1/PD-L1 blockade 後にも残る Tex の発達的不可逆性を打開する臨床応用の新規治療戦略となりうる。本研究の Tex がエピジェネティックに固定された distinct cell type であるという結論は, 疲弊の epigenetic stability が PD-1 遮断による reinvigoration の持続性を制限するとした Pauken et al. (2016) (Pauken et al. Science 2016) や, Tex の chromatin landscape を記述した Sen et al. (2016) (Sen et al. Science 2016) の知見と整合する。一方で TOX 単独では Tex の全エピジェネティック変化を再現できず, BATF・NR4A など他の転写因子の協調が不可欠であること (Seo et al. Nature 2019 等の関連研究が示唆) は残された課題であり, TOX 操作による re-invigoration の最適なタイミングや off-target の今後の検討が必要である。また limitation として大半が mouse LCMV モデルに基づく点, ヒト腫瘍データが相関的観察に留まる点が挙げられる。

方法

ウイルス特異的 TCR トランスジェニック P14 マウス由来 CD8 陽性 T 細胞を用い, 急性感染 (LCMV Armstrong) と慢性感染 (LCMV clone 13) で経時的に解析した。TOX の必要性を検証するため Tox^flox/flox Cd4^cre (Cd4: CD4 系統特異的 Cre driver 遺伝子) P14 マウス (TOX conditional knockout, TOX cKO) および完全欠失 Tox^-/- P14 細胞を作製し, wild-type P14 細胞と 1:1 で混合して宿主マウスに養子移入する competitive transfer デザインを採用した。上流シグナルの検証には Nfatc1^flox/flox Cd4^cre (Nfatc1: NFAT2 をコードする遺伝子) P14 (NFAT2 (nuclear factor of activated T cells 2) conditional knockout, NFAT2 cKO) マウス, calcineurin 阻害薬 FK506 および cyclosporin A, calcium ionophore ionomycin, PKC (protein kinase C) 活性化剤 phorbol myristate acetate (PMA) を用いた。constitutively active NFAT2 (CA-NFAT2: 恒常活性型かつ核局在変異の NFAT2) および TOX を retrovirus でそれぞれ強制発現 (overexpression, TOX^OE) させた。腫瘍モデルとして B16-GP33, B16F10 (B16), CT26 を使用し, ヒト melanoma 生検 TIL ならびに非小細胞肺がん・肝細胞がんの single-cell RNA-seq データも解析した。分子解析は RNA sequencing, chromatin accessibility を測る ATAC-seq, NFAT1/NFAT2 ChIP-seq, gene set enrichment analysis (GSEA), peak set enrichment analysis (PSEA), PageRank network analysis, 免疫沈降 + mass spectrometry (TOX 結合蛋白同定), co-immunoprecipitation (KAT7 検証) を組み合わせた。発現は flow cytometry で median fluorescence intensity として定量した。統計学的有意差は主に Student’s t-test (*P < 0.01) で評価し, 誤差は s.d. で表示, 差次的発現遺伝子は FDR < 0.05 を閾値とした。NIH3T3 fibroblasts および EL4 lysate も補助実験に用いた。