• 著者: Qian Qi, Yi Liu, Yong Cheng, Jacob Glanville, David Zhang, Ji-Yeun Lee, Richard A. Olshen, Cornelia M. Weyand, Scott D. Boyd, Jörg J. Goronzy
  • Corresponding author: Jörg J. Goronzy (jgoronzy@stanford.edu) (Division of Immunology and Rheumatology, Department of Medicine, Stanford University, Stanford, CA 94305; Department of Medicine, VA Palo Alto Health Care System, Palo Alto, CA 94306, USA)
  • 雑誌: PNAS
  • 発行年: 2014
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25157137

背景

T細胞受容体 (TCR) 多様性は、胸腺におけるV(D)J再構成によって生成され、広範な異物抗原に対する免疫応答能力を規定する。ヒトのTCRレパートリーの多様性に関する初期の研究は、限られたシーケンスデータに基づき、100万未満の異なるTCRB遺伝子を推定していた (Arstila et al. 1999)。その後、次世代シーケンシング (NGS) 技術の進展により、より深いシーケンシングが可能となり、Warren et al. (2011) は末梢血サンプルから100万の異なるTCRB配列を、Robins et al. (2009) はPoisson過程モデルを適用して300万〜400万のTCRB配列を推定した。しかし、これらの先行研究の推定値は、当時の技術的制約やサンプリングの偏りにより、依然として過小評価されている可能性が指摘されていた。特に、血液検体からのT細胞は、ナイーブ、メモリー、エフェクターCD4およびCD8 T細胞の混合集団であり、それぞれ多様性が大きく異なるため、サブセットごとの厳密な多様性推定は困難であった。

加齢に伴う胸腺の萎縮は、新たなナイーブT細胞の産生を著しく減少させ、末梢におけるホメオスタティック増殖がT細胞コンパートメントの維持における主要な補充機構となる (den Braber et al. 2012)。この胸腺機能の劇的な低下は、TCRレパートリーの縮小を引き起こし、高齢者における免疫不全、例えば感染症への罹患率増加やワクチン応答の低下の原因であると広く考えられてきた (Nikolich-Zugich 2008)。しかし、TCRレパートリーの真の多様性、特にナイーブT細胞サブセットにおける多様性がどの程度維持されているのか、また加齢に伴うクローン性の変化がどのように生じるのかについては、依然として未解明な点が多かった。従来の推定方法では、レパートリー全体の細胞数 (約10^12細胞) に比べて、臨床検体から採取できる細胞数が非常に少ない (約5×10^6ナイーブT細胞) ため、稀なTCR配列の検出が困難であり、多様性の正確な評価が不足していた。また、PCR増幅の効率のばらつき、TCR転写産物の発現レベル、シーケンスエラー率なども、稀な配列の正確な同定を妨げる要因であった。これらの課題を克服し、より正確なTCRレパートリー多様性を推定するための新たな手法が求められていた。特に、複製ライブラリーを用いた非パラメトリック統計解析の適用は、サンプリングの限界やPCR増幅の偏りといった従来の技術的制約を克服し、レパートリーの真の多様性の下限値をより正確に推定する上で重要なアプローチとなる。

目的

本研究の目的は、次世代シーケンシング (NGS) 技術と非パラメトリック統計解析手法であるChao2推定量を用いることで、若年および高齢成人におけるナイーブおよびメモリーCD4+、CD8+ T細胞のTCRBレパートリー多様性 (richness) を、これまでの研究よりも精密に推定することである。特に、複製TCRBライブラリーの解析を通じて、稀なTCR配列の検出精度を高め、レパートリーの真の多様性の下限値を明らかにすることを目指した。さらに、加齢に伴うTCRレパートリーのクローン性変化、特にナイーブT細胞コンパートメントにおけるクローン拡張の程度とその機構、すなわちホメオスタティック増殖に伴う適応度選択 (fitness selection) の役割を詳細に解析することを目的とした。本研究は、胸腺退縮後のヒトT細胞レパートリーの維持メカニズムと、加齢が免疫応答に与える影響に関する理解を深めることを意図している。これにより、高齢者における免疫機能低下の根本原因が、TCR多様性の単純な減少によるものなのか、あるいはクローンサイズ分布の不均一性によるものなのかを解明し、将来的な免疫介入戦略の基盤を築くことを目指す。

結果

若年成人ナイーブT細胞レパートリーは1億以上のTCRB配列を持つ高多様性を示す: Chao2推定量を用いた複製ライブラリー解析により、若年成人 (n=4 donors, 20〜35歳) のナイーブCD4+およびCD8+ T細胞レパートリーは、それぞれ60 million〜120 millionの異なるTCRB遺伝子配列 (ヌクレオチド配列) を持つと推定された。アミノ酸配列レベルでは、約20 millionの異なるTCRβ鎖が存在すると推定された。この推定値は、従来の先行研究 (Robins et al. 2009) の約30倍に相当する。95%信頼区間は両推定方法で非常に狭く、推定値の信頼性が高いことを示した (Table S2)。この高い多様性は、1つのTCRα鎖が約25のTCRβ鎖と対合すると仮定した場合、平均的なナイーブT細胞のクローンサイズが約100〜200 cellsであると推定され、TREC (TCR excision circle) 希釈データとも整合する結果であった (Fig 1A, B)。

加齢に伴うナイーブT細胞レパートリー多様性の低下は限定的である: 高齢者 (n=5 donors, 70〜85歳) のナイーブCD4+およびCD8+ T細胞のTCRBレパートリー多様性 (richness) は、ヌクレオチド配列で8 million〜57 million (p=0.008, Wilcoxon-Mann-Whitney検定)、アミノ酸配列で約5 million〜15 millionと推定された。これは若年成人と比較して2〜5-foldの低下に留まり、高齢者においても依然として高い多様性が維持されていることが示された。約1億以上のTCRα-βダイマーが推定されることから、多くのペプチド-MHC特異性に対する応答能力は維持されていると考えられる。メモリーCD4+ T細胞の多様性は、各ドナーで約1 millionのTCRB遺伝子と推定され、ナイーブレパートリーの約50分の1であったが、加齢による影響はごくわずかであった。CD8+メモリーT細胞は、CD4+メモリーT細胞と比較して5〜10-fold低い多様性を示し、これは加齢に関わらず同様の傾向であった (Fig 1C, D)。

高齢者のナイーブT細胞でクローン性スコアが著しく増加する: Gini-Simpsonクローン性スコアの解析により、高齢者のナイーブCD8+ T細胞では、若年成人と比較してクローン性スコアが約100-fold以上高く、ナイーブCD4+ T細胞では約10-fold以上高いことが明らかになった (p値は各グループ間で有意)。このクローン性の増加は、単純なpublic TCRB配列の増加では説明できなかった。高齢者のナイーブCD4+ T細胞における高頻度TCRB配列のうちpublic配列は4.8%であったのに対し、若年成人では19%であった。同様に、ナイーブCD8+ T細胞では高齢者で9.2%、若年成人で14.7%であった (Table 1)。この結果は、高齢者におけるクローン性増加が、真のクローン拡張を反映していることを示唆する。さらに、高齢者のナイーブT細胞中に存在する大クローンTCRB配列は、メモリーコンパートメントにはほとんど存在せず、その逆も同様であった。これは、各コンパートメントにおけるクローン拡張が独立して生じ、ナイーブ表現型を維持したまま拡張したナイーブ大クローンが存在することを実証している (Fig 2A, B)。

in vitro実験によりホメオスタティック適応度選択の機構が確認される: ナイーブCD8+ T細胞をIL-7およびIL-15存在下で7日間培養し、分裂した細胞のTCRB配列を解析した。2回以上分裂した (最も速く増殖した) T細胞のTCRB配列は、元の血液サンプル5 replicates中4回検出された大クローン配列の比率が有意に高かった (p<0.001)。これは、in vivoでの大クローン化が、ホメオスタティックサイトカインに対する高い応答性という「適応度」に基づく末梢選択によって生じることを実験的に裏付けるものである。1回分裂群や、IL-7受容体 (CD127) およびIL-15受容体 (CD215) の高発現細胞群では、同様の濃縮は観察されなかった (Fig 5)。これらの結果は、加齢に伴うナイーブT細胞レパートリーのクローン性偏りが、サイトカイン応答性の違いによって駆動されることを強く示唆している。

考察/結論

本研究は、次世代シーケンシングと非パラメトリック統計解析手法であるChao2推定量を用いることで、ヒトTCRレパートリーの多様性を従来推定よりはるかに高く再評価した画期的な研究である。若年成人におけるナイーブT細胞レパートリーが60 million〜120 millionのTCRB配列という高い多様性を持つという知見は、これまでの推定値を大きく上回るものであり、T細胞レパートリーの複雑性に対する理解を深める上で新規性がある。

先行研究との違い: これまでの研究では、加齢に伴う胸腺退縮がTCRレパートリーの劇的な縮小を引き起こし、免疫不全の原因となると考えられてきた。しかし、本研究の結果は、高齢者においてもナイーブT細胞レパートリーの多様性が2〜5-foldの低下に留まり、依然として高い多様性が維持されることを示しており、この点において先行研究の認識とは対照的である。このことは、「胸腺の若返りによる免疫強化」という介入戦略の必要性に疑問を呈する重要な臨床的含意を持つ。

新規性: 本研究で初めて、高齢者のナイーブT細胞コンパートメントにおいて、多様性が維持される一方でクローンサイズ不均一性が著しく増大すること、特にナイーブCD8+ T細胞で100-fold以上、ナイーブCD4+ T細胞で10-fold以上のクローン性スコアの増加が認められることを実証した。このクローン拡張が、ホメオスタティックサイトカインへの応答性に基づく末梢での「適応度選択」によって生じるというメカニズムをin vitro実験で確認した点は、これまで報告されていない新規な知見である。

臨床応用: 高齢者におけるナイーブT細胞のクローン性増加は、多様性の維持にもかかわらず、レパートリーの「均等性の喪失」という別次元の問題を浮き彫りにする。偏ったレパートリーは、特定の抗原に対する過剰な応答と、多数の抗原に対する応答性の低下という質的な免疫障害を引き起こす可能性がある。この「適応度選択」による自己反応性ナイーブT細胞の蓄積は、関節リウマチなどの自己免疫疾患における免疫老化と疾患発症との関連を説明しうる臨床的意義を持つ。リンパ球減少誘発性増殖後の自己免疫リスク増加という先行研究とも整合する。

残された課題: 今後の検討課題として、高齢者の大クローンナイーブT細胞が実際に自己反応性であるかどうかの検証、特定の抗原特異的T細胞のサブセット別クローン性とワクチン応答性や感染性との相関解析が挙げられる。また、胸腺機能低下以外の加齢メカニズム (例: 酸化ストレス、テロメア短縮など) がTCRレパートリー変化にどのように影響するかを統合的に解析することも、今後の研究の方向性として重要である。本研究は、ヒトT細胞レパートリーの多様性と加齢に伴う変化に関する理解を大きく前進させるものであるが、これらの課題の解決を通じて、より包括的な免疫老化のメカニズム解明が期待される。

方法

本研究では、アフェレーシス検体から4名の若年成人 (20〜35歳) と5名の高齢者 (70〜85歳) を選択した。CMV血清陰性者を優先し、CMV感染によるレパートリー変化の影響を最小限に抑えた。フローサイトメトリー (FACS) ソーティングにより、厳密に定義されたナイーブT細胞 (CD3+CD4+またはCD8+、CCR7+CD45RAhighCD28+) およびメモリーCD4+、CD8+ T細胞 (CD95+) を高純度で精製した。各T細胞サブセットから5回の独立した複製サンプルを採取し、Illumina MiSeqシーケンサーを用いてTCRB遺伝子の次世代シーケンシングを実施した。各サブセット、各ドナーあたり約1.5 million〜3 millionリードのシーケンスデータを取得した (Table S1)。

TCRBレパートリーの多様性 (richness) の下限値推定には、Chao2推定量 (Chao and Bunge 2002) を適用した。Chao2推定量は、未観察種数を推定するための非パラメトリック統計手法であり、単一ライブラリーではなく、複製サンプル間での各クローンの存在/不在データを用いることで、サンプリングの限界やPCR増幅の偏りの影響を回避した。シーケンスエラーの補正として、高頻度類似クローンの近傍に存在する低頻度配列をエラーとして除外する手法を採用し、多様性の過大評価を防いだ。推定値の信頼性を評価するため、BCaブートストラップ法とChao (1987) の手法の2つのアプローチで95%信頼区間を算出した。

T細胞レパートリーのクローン性 (clonality) を評価するため、Gini-Simpson指数を改変した「クローン性スコア」を算出した。このスコアは、2つのリードを任意に抽出した際に、それらが同一クローン由来である確率として定義され、シーケンス深度に依存しない指標である。クローン性スコアの比較には Wilcoxon-Mann-Whitney検定を用いた。

in vitro実験では、ナイーブCD8+ T細胞をカルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル (CFSE) で標識し、IL-7およびIL-15存在下で7日間培養した。その後、1回以上分裂した細胞と2回以上分裂した細胞をFACSソーティングにより精製し、TCRBシーケンシングを行った。これにより、ホメオスタティックサイトカインに対する応答性がin vivoでのクローン拡張と関連するかを検証した。

さらに、9名のドナー間で共有されるTCRB配列 (public TCRB配列) の割合を解析し、高齢者におけるクローン性増加が単純なpublic TCRB配列の濃縮によるものではないことを確認した。また、ナイーブT細胞コンパートメントにおけるクローン拡張が、メモリーT細胞の混入によるものではないことを検証するため、ナイーブT細胞中の高頻度TCRB配列がメモリーコンパートメントに存在するか、およびその逆の解析を行った。これらの実験デザインは、Stanford Universityの施設で実施された。