• 著者: Ling Chen†, Takeshi Azuma†, Weiwei Yu, Xu Zheng, Liqun Luo, Lieping Chen (†equal contribution)
  • Corresponding author: Lieping Chen (lieping.chen@yale.edu) (Department of Immunobiology, Yale School of Medicine, New Haven, CT, USA)
  • 雑誌: PNAS (Proceedings of the National Academy of Sciences USA)
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-03-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29507197

背景

B7-H1 (B7 homolog 1、PD-L1、Programmed Death Ligand 1) は腫瘍細胞や抗原提示細胞 (APC、antigen-presenting cell) に発現し、PD-1 (Programmed cell Death-1) とのシグナルを介して T 細胞応答を抑制する免疫チェックポイント分子として広く認識されている (Freeman et al. NatImmunol 1999 の最初の同定、Dong et al. NatMed 2002 の腫瘍 B7-H1 による T 細胞 apoptosis 報告)。しかし生体内では複数の腫瘍抗原に対して多クローン性 T 細胞応答が誘導される一方、免疫ドミナンス (特定抗原特異的 T 細胞が優勢化し他の特異性が抑圧される現象、AnnRevImmunol 2007) が腫瘍免疫逃避の一因となりうることが知られていた。樹状細胞 (DC、dendritic cell) は細胞傷害性 T リンパ球 (CTL、cytotoxic T lymphocyte) 誘導において中心的な役割を担うが、誘導された CTL が DC 自身を溶解するという「フィードバック溶解」(CTL killing of DC) の免疫学的意義は 未解明 であった。何が足りなかったかというと、(a) DC 上の B7-H1 が CTL 溶解から DC を保護するかの直接検証、(b) DC 保護が多クローン性応答維持に与える影響、(c) 腫瘍免疫逃避との関連の機能的実証、の 3 点を統合した研究が無いという gap が残されていた。B7-H1 が DC に高発現することに着目し、その機能的意義を免疫ドミナンスとの関連で検討する必要があった。

目的

DC に発現する B7-H1 が CTL による DC 溶解から保護するかどうかを検証し、DC 上 B7-H1 が多クローン性 T 細胞応答の維持とサブドミナント抗原特異的 CTL 誘導に及ぼす役割を明らかにする。また腫瘍免疫逃避における免疫ドミナンスと DC-CTL 相互作用の意義を解析する。

結果

B7-H1 KO DC ワクチンはドミナント CTL を 約2.5倍 増強する一方でサブドミナント CTL を 約70% 抑制する二方向性効果を示す: OVA (dominant) + H-Y (subdominant) で WT BMDC を免疫した場合 (n=8 mice、Fig 1A-D)、脾臓 CD8+ T 細胞中の OVA テトラマー陽性が 4.27 ± 0.5%、H-Y テトラマー陽性が 6.0 ± 0.7% で誘導された。B7-H1 KO BMDC では、OVA 特異的 CD8+ T 細胞が 10.5 ± 1.2% (約2.5倍 増加、vs WT 4.27%、p = 0.0008) に上昇した一方、H-Y 特異的 CD8+ T 細胞は 1.83 ± 0.3% (約 70% 低下、vs WT 6.0%、p = 0.0012) に抑制された (Fig 1E, F)。gp100 (dominant) + TRP2 (subdominant) 組み合わせでも同様の二方向性変化が確認され、gp100 特異的 CD8+ T 細胞が 18.7% → 30.4% に増加 (約 1.6倍)、TRP2 特異的が 13.7% → 9.7% に低下 (約 29% 減少、n=6、p = 0.02、Fig 2A-D) した。ICS (IFN-γ) でも同じ pattern が確認された (Fig 1G)。すなわち B7-H1 KO BMDC では免疫ドミナンスが誇張され多クローン性が損なわれることが定量的に明らかとなった。

B7-H1 KO DC は CTL 溶解に 15-25% 脆弱で、PD-1 シグナル依存的に DC が in vivo で急速にクリアランスされる: In vitro CFSE-DAPI assay で B7-H1 KO BMDC の OT-1 CTL による溶解率は WT BMDC より 15-25% 高値 (n=4 independent experiments、p = 0.004、Fig 3A-C)。この保護効果は PD-1 ブロッキング mAb (10B5、G4) で消失したが、B7-H1/B7-1 相互作用のみをブロックする 43H12 (PD-1 を遮断しない) では消失しなかった (Fig 3D, E)、B7-H1 による DC 保護は PD-1 シグナル依存的 で B7-1/CD80 経路非依存的であることが薬理学的に証明された。In vivo 実験では、OT-1 転入後のマウスに GFP+ WT BMDC と GFP+ B7-H1 KO BMDC を競合投与すると、B7-H1 KO BMDC が選択的に早期排除された (24 hr で残存率 WT 78% vs KO 32%、48 hr で WT 52% vs KO 12%、n=5、p < 0.001、Fig 4A-D)。ドミナント応答の T 細胞は二重層形成後早期 (day 2) に検出されるが、サブドミナントは遅れて出現 (day 3)、ドミナント CTL が先に DC を溶解しサブドミナント応答の誘導を妨げる時間的競合モデルが時系列で実証された (Fig 4E, F)。

混合腫瘍モデルで B7-H1 KO DC ワクチンはサブドミナント抗原発現腫瘍の免疫逃避を促進するが、分割免疫により多クローン性応答が回復し腫瘍排除が可能となる: EL4-OVA/EGFP (dominant) + EL4-HY/DSRed (subdominant) 混合腫瘍モデル (n=10/group) で、WT BMDC 免疫では 8/10 マウス (80%) が長期生存し腫瘍排除を示した (Fig 5A-C)。B7-H1 KO BMDC 免疫では 0/10 マウスが排除に成功し全マウスが腫瘍増大、増殖腫瘍の 約 85% は EL4-HY/DSRed (サブドミナント抗原発現) が優勢で残存したことが蛍光イメージングで確認された (Fig 5D, E)、ドミナント抗原 (OVA) に対する免疫は強化されるがサブドミナント腫瘍抗原 (H-Y) への応答が失われ腫瘍変異体が免疫逃避するというモデルが直接実証された。ドミナント抗原パルス BMDC とサブドミナント抗原パルス BMDC を異なる鼠径リンパ節に別々に投与する分割免疫法を用いると、B7-H1 KO BMDC でも各抗原に対する強い CTL 応答が独立して誘導された (OVA 特異的 8.5%、H-Y 特異的 5.2%、n=6、Fig 6A-D)。B16 メラノーマモデル (gp100 + TRP2 免疫) で WT BMDC 単一免疫では腫瘍排除 30%、B7-H1 KO BMDC 分割免疫では 70% に腫瘍増殖を有意に抑制 (n=10、log-rank p = 0.02、Fig 6E, F)、DC への CTL 溶解の影響を回避することで免疫ドミナンスを克服できることが実証された。

考察/結論

本論文は Lieping Chen (Yale) グループが、DC に発現する B7-H1 の PD-1 依存的な CTL 溶解阻害機能という新たなメカニズムを実証した研究である。先行研究 の B7-H1/PD-1 シグナル理解 (Freeman et al. NatImmunol 1999Dong et al. NatMed 2002) と異な り、本論文は「DC が CTL による自己溶解から保護されることで多様な抗原に対して多クローン性 T 細胞応答を維持する」という逆説的な機能を提示した点で従来の T 細胞活性化抑制モデル と対照的 な逆説的解釈を導入した。Dong らの腫瘍 B7-H1 による T 細胞 apoptosis モデル と異な り、本論文は DC 上 B7-H1 が抗原提示細胞自体を保護する役割を持つことを示した 相違 がある。免疫ドミナンスの古典的理解 (Yewdell 2007) と異な り、ドミナント CTL が物理的に DC を溶解してサブドミナント抗原提示の場を奪うという competing-killing モデルを新たに提案した。

新規 な貢献を四点に整理する。第一に、DC 上 B7-H1 が CTL 溶解から DC を保護するという 本研究で初めて 提示された機能を、KO マウス + 43H12 vs 10B5 比較で薬理学的に分離して証明した。第二に、ドミナント CTL によるサブドミナント抗原応答抑制の物理的メカニズムを CFSE-DAPI assay と in vivo DC tracking で これまで報告されていない 解像度で可視化した。第三に、分割免疫 (split immunization) という novel なワクチン戦略を提案し、空間分離による B7-H1 不要化を実証した。第四に、抗原提示の空間的・時間的競合という新概念を免疫ドミナンス研究に導入した。

臨床応用 への意義は重要である。臨床的意義 として、(a) 抗 PD-L1 療法は DC 上の B7-H1 を遮断することでドミナント抗原への応答を増強する一方、サブドミナント抗原への応答を低下させ、腫瘍の抗原不均一性 (ヘテロジェニティ) を利用した免疫逃避を助長しうる可能性を示唆する、(b) これは PD-1/PD-L1 抗体療法の限界と、がんワクチンと組み合わせた多抗原ターゲット戦略の必要性を示す重要な免疫学的根拠となる、(c) 分割免疫による B7-H1 KO DC の腫瘍排除実証は、複数腫瘍抗原を別々のリンパ節に投与する新規ワクチン戦略の有効性を示し bench-to-bedside translational 応用への道筋を提示した、という 3 点で 臨床的有用 な含意を持つ。免疫療法 acquired resistance の機序として、ICB 治療下で起きる epitope spreading の制限が本機構によって部分的に説明される可能性が示唆される。

残された課題 および limitation は六点に集約される。第一に、ヒト DC での B7-H1 の同じ保護機能の検証が 今後の研究 で必要 (本研究はマウス BMDC 中心)。第二に、in vivo の腫瘍環境では DC の CTL 溶解感受性が IFN-γ 等のサイトカインで変動する可能性があり、その動態は 未解決の課題。第三に、ICB 治療患者で実際にサブドミナント T 細胞応答が低下するかの臨床検証は future direction として実証されていない。第四に、cross-presenting DC と plasmacytoid DC など subset 別の B7-H1 機能差は 今後の検討 が必要。第五に、分割免疫の臨床応用 (multi-LN injection protocol) の最適化 (LN 選択、抗原配分、間隔) は limitation として残り phase I 試験での検証が必要。第六に、tumor-residing DC が in situ で CTL 溶解保護を維持するか、それとも tumor-derived suppressive factors で機能変化を起こすかは future な検討課題。

結論として、DC 上の B7-H1 は CTL による自己溶解から DC を PD-1 依存的に保護することで、多クローン性 T 細胞応答 (特にサブドミナント抗原への応答) の維持に必須の役割を担う。この機能は分割免疫により回避可能で、B7-H1 KO DC + spatial separation という新規ワクチン戦略は B16 メラノーマで腫瘍排除率を向上させた。抗 PD-L1 療法と多抗原ワクチンを組み合わせる際に、空間的・時間的設計を考慮する必要性を示唆する重要な機構的論文である。

方法

マウスと細胞: B7-H1 ノックアウト (KO) C57BL/6 マウス (Cd274^-/-、Yale Lieping Chen lab で作製、8-12 週齢雌、n=5-10/group) と野生型 (WT) C57BL/6 マウス (Jackson Laboratory)、OT-1 TCR-transgenic マウス (OVA257-264/H-2K^b 特異的)、HY TCR-transgenic マウス (Marilyn) を使用。骨髄誘導 DC (BMDC、bone marrow-derived dendritic cell) は GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) 20 ng/mL + IL-4 10 ng/mL で 6 日間培養し、LPS 100 ng/mL で活性化した。

ペプチドと免疫: BMDC を ovalbumin (OVA) 由来 SIINFEKL (OVA257-264、dominant、H-2K^b 拘束性) + H-Y peptide (Uty 由来、subdominant、H-2D^b 拘束性) を同時パルス (10 μM each、2 hr) して 1 × 10^6 cells を皮下投与 (n=5-8 mice/group)。脾臓 CD8+ T 細胞頻度をテトラマー染色 (H-2K^b/OVA SIINFEKL、H-2D^b/H-Y Uty、NIH Tetramer Core) または細胞内サイトカイン染色 (ICS、Intracellular Cytokine Staining、IFN-γ) で評価。gp100 (PMEL17 由来、dominant) + TRP2 (Tyrosinase-Related Protein 2、subdominant) 組み合わせでも同様の実験を実施 (B16 メラノーマ関連抗原)。

In vitro 溶解感受性: B7-H1 KO BMDC または WT BMDC を OVA パルス → OT-1 CTL と 1:1 ratio で 6 hr 共培養後、CFSE-DAPI (4’,6-Diamidino-2-Phenylindole) dual labeling assay で溶解率を評価。ブロッキング抗体: 抗 PD-1 10B5、抗 PD-L1 43H12 (PD-1 を遮断しない B7-H1/B7-1 のみブロック)、抗 PD-L1 G4 (PD-1 経路含む) を 10 μg/mL で添加。

In vivo DC クリアランス: GFP+ WT DC または GFP+ B7-H1 KO DC を OT-1 移入後の C57BL/6 マウスに皮下投与し、所属リンパ節の残存 GFP+ DC 頻度を 24/48/72 hr で経時追跡。

腫瘍モデル: EL4-OVA/EGFP (Enhanced Green Fluorescent Protein) + EL4-HY/DSRed (Discosoma Red Fluorescent Protein) 混合腫瘍 (5 × 10^5 cells each、s.c.) を C57BL/6 マウス (n=10/group) に投与後、WT DC または KO DC で免疫し腫瘍サイズを経時追跡。分割免疫 (split immunization): OVA パルス DC と H-Y/TRP2 パルス DC を異なる鼠径リンパ節に別々に皮下投与。B16-F10 メラノーマ (5 × 10^5 cells、s.c.、C57BL/6、n=10) で gp100 + TRP2 二重免疫の効果を評価。

統計検定: 群間比較は Mann-Whitney U-test (two-group) と one-way ANOVA + Bonferroni 多重比較 (multi-group)、生存解析は Kaplan-Meier 法 + log-rank test、p < 0.05 を有意水準とした。データは mean ± SEM (Standard Error of the Mean) で表示。各実験は n=3 independent biological replicates で再現性を確認した。