• 著者: Dimitri Robay, Ole Ackermann, Laurent Laborde, Xingyi Shi, Federico Oreglia, Ramona Stump, Sabina Ciaghi, Giorgio G. Galli, Laura Holzer, Lorraine Villemin, Joel Wagner, Jincheng Wu, Lang Ho Lee, Claudia Bossen, Thanos P. Mourikis, Millicent Gabriel, David Ruddy, Haiyan Yu, Cory Johannessen, Stephane Ferretti, Carlotta Costa
  • Corresponding author: Stephane Ferretti, Carlotta Costa (Novartis Biomedical Research, Oncology, Basel, Switzerland)
  • 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42018410

背景

非小細胞肺癌(NSCLC)患者の約15〜20%に認められるSTK11遺伝子の機能喪失変異は、免疫チェックポイント阻害薬(ICB)である抗PD-1/PD-L1療法に対する原発性耐性と関連することが複数の臨床研究で示されている (Skoulidis et al. 2018; Pore et al. 2021; Ricciuti et al. 2022)。STK11変異腫瘍は、PD-L1発現の低さや腫瘍内T細胞浸潤の少なさも特徴としており (Koyama et al. 2016; Cristescu et al. 2018)、この患者集団に対する効果的な治療戦略の確立は喫緊の課題である。STK11はセリン/スレオニンキナーゼであるLKB1をコードし、LKB1はAMPKファミリーやSIK (Salt-Inducible Kinase)、MARK (Microtubule Affinity Regulating Kinase) など13種類の下流キナーゼを活性化し、細胞極性、代謝、増殖など多岐にわたる細胞プロセスを制御する (Lizcano et al. 2004; Shackelford and Shaw 2009)。これまでの研究により、SIK1/2/3がLKB1の腫瘍内在性抑制機能の一部を担うこと (Hollstein et al. 2019; Murray et al. 2019)、また転写因子CREBの共活性化因子であるCRTC2 (cAMP-regulated transcriptional coactivator 2) がSTK11変異NSCLCモデルのin vitro増殖や腫瘍の開始・確立に関与することが報告されている (Rodon et al. 2019; Zhou et al. 2021)。しかし、STK11変異による腫瘍の免疫回避機能の分子メカニズムや、それを標的とした治療アプローチについては依然として未解明な点が多く、STK11変異NSCLCは標準治療に抵抗性を示すアンメットメディカルニーズとして残されている。特に、LKB1が免疫チェックポイント阻害薬耐性を媒介する詳細な分子機構や、その下流で腫瘍微小環境(TME)のリモデリングと免疫療法感受性を制御する重要なシグナル伝達ノードの特定が不足しており、新たな治療標的の発見が強く求められている。

目的

本研究の目的は、LKB1が免疫チェックポイント阻害薬(ICB)耐性を媒介する分子機構を詳細に解明することである。具体的には、LKB1の下流で腫瘍微小環境(TME)のリモデリングと免疫療法感受性を制御する主要なシグナル伝達ノードを同定することを目指した。また、転写因子CREBの共活性化因子であるCRTC2 (cAMP-regulated transcriptional coactivator 2) がSTK11依存性の細胞外機能の主要なシグナル伝達ノードであるかを検証した。さらに、STK11/CRTC2制御遺伝子シグネチャーが、ヒトNSCLCコホート(CANOPY-1試験)において、ペムブロリズマブと化学療法併用に対する患者の治療応答と関連するかを検証し、その臨床的意義を評価することも目的とした。これにより、STK11変異を有するNSCLC患者に対する新たな治療標的およびバイオマーカーの特定に貢献することを目指した。

結果

LKB1喪失によるICB耐性とTMEリモデリング: LKB1をノックアウト(KO)したMC38腫瘍は、野生型(WT)MC38腫瘍と比較してin vivoでより速く増殖し (Fig. 1A)、抗PD-1抗体(10 mg/kg i.v. weekly)に対して完全に不応性を示した (Fig. 1C)。LKB1-WTの再構成は腫瘍増殖の低下と抗PD-1感受性の回復をもたらした。特に、キナーゼ活性が約10%残存する低活性型LKB1-K78I変異体の発現は、腫瘍増殖速度には影響を与えなかったものの、抗PD-1感受性を回復させた (Fig. 1D)。LKB1-KO腫瘍では、顆粒球系骨髄由来抑制細胞(gMDSC)の有意な浸潤増加が認められ、単球系骨髄由来抑制細胞(mMDSC)、制御性T細胞(Treg)、CD4+ T細胞は減少し、CD8+ T細胞はほぼ完全に消失していた (Fig. 1E)。これらの結果は、LKB1の喪失が腫瘍微小環境(TME)をリモデリングし、ICB耐性を引き起こすことを強く示唆している。LKB1-KO腫瘍はヌードマウスにおいてもWT腫瘍より速く増殖し (Fig. 1B)、LKB1が免疫系に依存しない腫瘍増殖にも影響を与えることが示された。また、免疫担当マウス(C57BL/6 mice)と免疫不全マウス(Nude mice)間でのLKB1-KO腫瘍の増殖速度の差が失われることから、LKB1の喪失が免疫回避を誘導することが示唆された。

MDSC単独枯渇では耐性は逆転しない: LKB1-KOがん細胞は、MDSCを誘引する能力が増強されていた (SI Appendix, Fig. S1F)。しかし、抗Gr-1抗体を用いたgMDSCとmMDSCの併用枯渇は、初期には効果的であったものの (SI Appendix, Fig. S1G, H)、リバウンド効果のため持続せず (Fig. 1G)、抗PD-1感受性の回復には至らなかった (Fig. 1F)。この実験では、n=8 mice/group で評価された。この結果は、MDSC枯渇単独ではLKB1欠損腫瘍のICB耐性を克服するには不十分であり、その効果がモデルや状況に特異的である可能性を示唆している。

SIKとCRTC2が主要なシグナル伝達ノードであることの同定: LKB1の下流に位置する13種類のキナーゼの構成的活性化型(CA)スクリーニングにおいて、SIK1/2/3およびMARK2のみが、LKB1-KO腫瘍で高発現するIL-11レベルをLKB1-WTと同程度に抑制した (Fig. 3B)。さらに下流のシグナル伝達因子であるCRTC (cAMP-regulated transcriptional coactivator) ファミリーメンバーのうち、NSCLCで最も高発現しているCRTC2のノックアウト(KO)のみが、LKB1再発現と同等のIL-11産生抑制効果を示した (Fig. 3C)。LKB1-KO腫瘍へのSIK1-CAまたはCRTC2-KOの導入は、抗PD-1感受性を完全に回復させ (Fig. 3D)、CD4+ T細胞、Treg、mMDSCの増加とgMDSCの減少というLKB1-WT様の免疫表現型を再現した (Fig. 3E)。SIK2-CAおよびSIK3-CAでも同様の免疫表現型が観察され、SIKファミリーの機能的冗長性が示唆された (SI Appendix, Fig. S4A)。CRTC2はLKB1-KOの状況下で核内へ移行し、転写因子CREBと結合して転写調節活性を発揮することが示された (SI Appendix, Fig. S3F)。CRTC2-KOは免疫不全マウスにおいても腫瘍増殖を遅延させ (Fig. 3G)、腫瘍内在性の機能も有することが確認された。この実験では、n=8 mice/group で評価され、LKB1-KO腫瘍と比較してCRTC2-KO腫瘍の増殖は有意に抑制された (p<0.001)。

確立された腫瘍の維持におけるCRTC2依存性: STK11変異を有するNSCLC細胞株であるA549およびH2122に、ドキシサイクリン誘導性shRNAを介してCRTC2をノックダウンすると、確立された腫瘍において有意な腫瘍増殖停止が誘導された (Fig. 3H)。この効果はLKB1の再発現による腫瘍抑制効果と同等であり (SI Appendix, Fig. S4G)、腫瘍維持段階におけるCRTC2の重要な役割を初めて実証した。CRTC2ノックダウンにより、A549細胞株では腫瘍体積が約70%減少した。

STK11/CRTC2シグネチャーとCANOPY-1臨床応答の関連: ヒトおよびマウス腫瘍で共通する291遺伝子からなるSTK11/CRTC2シグネチャーを導出した (Fig. 4A)。このシグネチャーは、インターフェロンガンマ応答、TNFα-NFκBシグナル伝達経路、インターフェロンアルファ応答などの免疫・炎症応答関連経路で有意に濃縮されていた (SI Appendix, Fig. S5A)。前臨床モデルでは、この遺伝子シグネチャーはLKB1-KO腫瘍で高値を示し、抗PD-1治療応答性と逆相関した (Fig. 4C, D)。CANOPY-1臨床試験(NCT03631199)の対照群57例のRNA-seqデータ解析では、STK11/CRTC2シグネチャーはSTK11変異ステータスと関連し (SI Appendix, Fig. S5C)、ペムブロリズマブと化学療法併用に対する最良総合効果(BOR)と有意に相関した (p<0.05, Fig. 4E)。このシグネチャーはSTK11単独のシグネチャーよりも低いP値で予測能を示し (SI Appendix, Fig. S5D)、STK11変異腫瘍におけるICB陽性応答に関連する遺伝子発現プログラムをCRTC2がさらに形成する可能性を示唆した。

CRTC2-CREB結合阻害の治療的十分性: CRTC2-CREB結合を阻害するCRTC2 F40A変異体を用いたレスキュー実験では、CRTC2-WTのようなIL-11産生回復 (SI Appendix, Fig. S5F, G)、腫瘍増悪 (Fig. 4F)、抗PD-1不応化、gMDSC浸潤亢進は観察されなかった。この結果は、CRTC2とCREBのタンパク質間相互作用の破壊が、ICB耐性を逆転させるために十分であることを明確に証明した (Fig. 4F, G)。この実験では、n=8 mice/group で評価された。

考察/結論

本研究は、STK11変異を有する非小細胞肺癌(NSCLC)の免疫チェックポイント阻害薬(ICB)耐性において、CRTC2 (cAMP-regulated transcriptional coactivator 2) が中心的なハブとして機能することを同定した。SIK (Salt-Inducible Kinase)-CRTC2-CREB軸が、腫瘍内在性の増殖と腫瘍外在性の免疫回避の両方を統合的に制御する新規メカニズムを明らかにした。

新規性: 本研究で初めて、CRTC2がSTK11変異NSCLCのICB耐性における中心的なシグナル伝達ノードであり、そのCRTC2-CREB相互作用の阻害が免疫療法への感受性を回復させるために十分であることを示した。特に、確立された腫瘍の維持においてCRTC2が重要な役割を果たすことをin vivoで実証した点は新規性が高い。CRTC2ノックダウンは確立されたSTK11変異腫瘍の増殖を著しく停止させ (Fig. 3H)、その効果はLKB1の再発現による腫瘍抑制効果と同等であった。

先行研究との違い: これまでの研究では、LKB1の下流キナーゼであるSIK1/3の腫瘍抑制機能は知られていたが (Hollstein et al. 2019; Murray et al. 2019)、本研究はこれらのキナーゼがLKB1の免疫機能にも寄与することを初めて明らかにした。また、MDSC枯渇単独ではICB耐性が逆転しないという結果 (Fig. 1F) は、一部の先行研究 (Li et al. 2021) と対照的であり、MDSC枯渇の効果がモデルや状況に特異的である可能性を示唆している。LKB1欠損腫瘍のICB応答性低下が腫瘍増殖速度の差に起因する可能性も先行研究で示唆されていたが、本研究では低活性型LKB1-K78I変異体が腫瘍増殖速度を変えずに抗PD-1感受性を回復させたことから、ICB耐性が主に腫瘍微小環境のリモデリングによるものであることを強調している。

臨床応用: CRTC2ノックアウトマウスはインスリン感受性の改善のみで生存可能であることから (Wang et al. 2010)、選択的なCRTC2-CREB相互作用阻害剤は、良好な治療域を持つ可能性がある。臨床的意義として、CANOPY-1試験データにおけるSTK11/CRTC2シグネチャーの予測能は、STK11単独のシグネチャーよりも低いP値を示し (SI Appendix, Fig. S5D)、ペムブロリズマブと化学療法併用に対する応答をより正確に予測できる可能性が示された。これは、KEAP1/STK11共変異やKRAS+STK11変異患者集団など、現在のICB+化学療法に不応な症例に対する精密な治療選択バイオマーカーとなりうる。

残された課題: 本研究のLimitationとして、主要な前臨床モデルがMC38大腸癌モデルであること、抗Gr-1抗体によるMDSC枯渇が時間経過とともに不完全であったこと、CRTC2がT細胞内で消化管炎症を制御する機能を持つことが、CRTC2阻害剤のTME効果に影響を与える可能性 (Compton et al. 2025) が挙げられる。また、第4世代EGFR-TKIやKRAS G12C+SHP2/SOS1などの標的療法との併用効果は未検証である。今後の検討課題として、CRTC2-CREB相互作用を特異的に阻害する薬剤の探索と開発、およびSTK11変異NSCLC患者における臨床試験での有効性と安全性の検証が残されている。本研究は、CRTC2-CREB相互作用の破壊がSTK11変異NSCLC患者に対する有望な治療アプローチとなる可能性を提示し、臨床応用への期待が高まる。

方法

本研究では、まずMC38大腸癌同系マウスモデルにおいて、CRISPR-Cas9システムを用いてLKB1ノックアウト(KO)クローンを作製した。これらのクローンをC57BL/6マウスおよびヌードマウスに移植し、腫瘍増殖と免疫表現型を比較した。LKB1の再構成実験では、野生型(WT)LKB1、キナーゼ活性が10%残存する低活性型K78I変異体、およびキナーゼ不活性型D194A変異体を導入し、抗PD-1抗体(1D2)および抗Gr-1抗体投与による治療応答を評価した。LKB1の下流に位置する13種類のキナーゼについて、リン酸化模倣型(トレオニンからグルタミン酸への置換)の構成的活性化型(CA)構築体を作製し、IL-11産生抑制効果をスクリーニングした。CRTC1/2/3のKO、SIK1-CA、およびCRTC2-WTとCREB非結合性変異体F40Aのレスキュー実験も実施した。NSCLCモデルとしてCMT167、LL/2、A549、H2122細胞株を用い、ドキシサイクリン誘導性shCRTC2を導入したin vivo試験により、確立された腫瘍におけるCRTC2枯渇の効果を評価した。

サイトカイン測定にはELISA(IL-11)、遺伝子発現解析にはqRT-PCRおよびバルクRNAシーケンス(RNA-seq)を用いた。ヒトNSCLCコホートの解析には、CCLE(Cancer Cell Line Encyclopedia)およびTCGA-LUAD(The Cancer Genome Atlas Lung Adenocarcinoma)データセットをBayesPrismデコンボリューション法を用いて解析した。さらに、CANOPY-1臨床試験(NCT03631199)の非扁平上皮肺癌対照群57例のRNA-seqデータを解析し、STK11/CRTC2シグネチャーの臨床的予測能を評価した。STK11/CRTC2シグネチャーは、(i) TCGAにおけるSTK11変異型と野生型、(ii) MC38 LKB1-KOと野生型、(iii) MC38 LKB1-KOとLKB1/CRTC2二重KO(dKO)の3つの比較における差次的に発現する遺伝子(DEG)の共通集合から291遺伝子を抽出して構築した。統計解析には、EdgeRパッケージを用いたTMM(Trimmed Mean of M-values)正規化と差次遺伝子発現解析、Mann-Whitney U検定、t検定、一元配置分散分析(ANOVA)とSidakまたはDunnettの多重比較検定を用いた。