• 著者: Luke T. Quigley, Lokman Pang, Elnaz Tavancheh, Matthias Ernst, Andreas Behren, Jennifer Huynh, Jessica Da Gama Duarte
  • Corresponding author: Jessica Da Gama Duarte (Olivia Newton-John Cancer Research Institute / La Trobe University, Australia)
  • 雑誌: STAR Protocols
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-01-10
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 36633948

背景

三次リンパ組織 (TLS: tertiary lymphoid structures) は、慢性的な炎症領域や腫瘍微小環境において非リンパ組織内に異所的に形成されるリンパ球の集塊であり、二次リンパ器官に類似した構造と機能を有する。TLSは、B細胞領域、T細胞領域、高内皮細静脈 (HEV: high endothelial venules)、および濾胞性樹状細胞 (FDC: follicular dendritic cell) ネットワークなどの高度に組織化された微小環境から構成される。近年の腫瘍免疫学において、腫瘍内または腫瘍周囲におけるTLSの存在が、非小細胞肺癌やメラノーマを含む多様な固形がんにおいて、患者の生存期間延長や免疫チェックポイント阻害剤に対する良好な治療奏効性と強く相関することが示されている。

先行研究において、Teillaud et al. (2017) や Meylan et al. (2022) は、成熟したTLSが腫瘍特異的なT細胞の活性化や抗体産生B細胞の分化・増殖を局所で誘導する「教育の場」として機能することを報告している。また、腫瘍内TLSの形成機序やその臨床的意義については、Dieu-Nosjean et al. (2014) などの既報により詳細に議論されてきた。しかしながら、従来の免疫組織化学 (IHC: immunohistochemistry) を用いたTLSの評価は、ヘマトキシリン・エオジン (H&E) 染色による形態学的観察や、CD3およびCD20などの1〜2種類のマーカーを用いた単一染色に依存していた。このようなアプローチでは、単なる免疫細胞のびまん性浸潤や、構造を持たない一時的な細胞集塊と、機能的な微小環境を備えた真のTLSを明確に区別することが困難であった。

さらに、遺伝子発現プロファイルに基づくゲノムアプローチは、組織空間における細胞の配置や構造的成熟度といった空間的情報を完全に欠いている。また、腫瘍組織内の空間的不均一性により、単一領域の生検サンプルのみに依存した評価は信頼性が低いという課題も指摘されている (Shen et al., 2020)。このように、組織切片上で複数の免疫細胞サブセットおよび構造的構成要素を同時に可視化し、TLSの成熟度を正確に分類・評価するための標準化された多重免疫組織化学 (mIHC: multiplex immunohistochemistry) プロトコルはこれまで未確立であり、腫瘍微小環境の正確な理解における大きな知識ギャップ (knowledge gap) となっていた。特に、ヒト臨床検体 (FFPE組織) と前臨床研究で多用されるマウス組織の両方において、抗原性の保持と多重染色のシグナルバランスを両立させる標準化技術が不足していた。

目的

本プロトコルの目的は、ヒトおよびマウスの固定組織切片において、Opal™-TSA (Tyramide Signal Amplification) 技術を用いた多重免疫組織化学 (mIHC) 法を確立し、腫瘍内TLSの細胞構成および構造的成熟度をin situで正確に同定・評価するための標準化されたワークフローを提供することである。具体的には、ヒトFFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 組織を対象とした7マーカーパネル (CD4/CD8/CD19/CD21/DC-LAMP/PNAd/DAPI) および、ホルマリンフリー亜鉛塩固定を施したマウス組織を対象とした6マーカーパネル (CD4/CD8/CD19/CD21/PNAd/DAPI) を開発・最適化する。さらに、得られた多重蛍光画像から、単なる免疫細胞浸潤 (Grade 0) や細胞集塊 (Grade 1) と、構造的に定義された未成熟TLS (Grade 2) および成熟TLS (Grade 3) を明確に区別するための客観的な4段階グレーディングシステムを構築し、研究施設間で比較可能なTLS評価基準を確立することを目的とする。

結果

ヒトリンパ節における7マーカーパネルの最適化: 陽性コントロールとして用いたヒトリンパ節FFPE切片において、手動および自動 (BOND RX) の両プロトコルにより、TLSを構成するすべての主要な免疫細胞サブセットおよび微小血管構造が単一切片上で極めて鮮明に可視化された (Fig 2, Fig 3)。マルチスペクトル画像解析により、CD4陽性ヘルパーT細胞 (赤)、CD8陽性キラーT細胞 (マゼンタ)、CD19 (B-lymphocyte antigen CD19) 陽性B細胞 (緑)、CD21 (complement receptor 2) 陽性濾胞性樹状細胞 (黄)、DC-LAMP (dendritic cell lysosome-associated membrane glycoprotein) 陽性成熟樹状細胞 (オレンジ)、PNAd (peripheral lymph node addressin) 陽性高内皮細静脈 (シアン)、およびDAPI (青) の各蛍光シグナルが、クロストークなく完全に分離された。各抗体の最適希釈条件は、抗CD21が1:10 (最終濃度 199 μg/mL)、抗CD4が1:1000 (最終濃度 0.143 μg/mL)、抗CD8が1:50 (最終濃度 10 μg/mL)、抗CD19が1:300 (最終濃度 6.12 μg/mL) であり、これによりシグナルノイズ比 (S/N比) 10以上の極めて特異性の高い染色パターンが得られた (Table 1)。

ヒト固形がん組織におけるTLSの同定と4段階グレーディングシステムの構築: 本プロトコルをヒトメラノーマ (n=10) および前立腺癌 (n=15) のFFPE組織切片に適用し、腫瘍微小環境におけるTLSの構造的成熟度を評価するための客観的な4段階グレーディングシステムを確立した (Fig 4)。

  • **Grade 0 (免疫細胞浸潤)**: 組織内にCD4陽性/CD8陽性T細胞、またはCD19陽性B細胞が散在しているが、集塊を形成していない状態。
  • **Grade 1 (免疫細胞集塊)**: T細胞またはB細胞の局所的な集積 (集塊) が認められるが、明確なT/B細胞領域の分離、CD21陽性FDCネットワーク、DC-LAMP陽性成熟樹状細胞、およびPNAd陽性HEVのいずれも欠いている状態。
  • **Grade 2 (未成熟TLS)**: T細胞領域とB細胞領域の分離傾向が認められ、PNAd陽性HEVを伴うものの、CD21陽性FDCネットワークやDC-LAMP陽性成熟樹状細胞を欠いている状態 (Fig 5上パネル, Fig 6上パネル)。
  • **Grade 3 (成熟TLS)**: CD19陽性B細胞からなる明確な濾胞構造 (B細胞領域) とその周囲を取り囲むT細胞領域が完全に分離し、濾胞内にCD21陽性FDCネットワークが形成され、さらにDC-LAMP陽性成熟樹状細胞およびPNAd陽性HEVをすべて備えた高度に組織化された機能的構造 (Fig 5下パネル, Fig 6下パネル)。 このグレーディングにより、従来のH&E染色や2色免疫染色では不可能であった「単なる細胞集塊 (Grade 1)」と「機能的TLS (Grade 2/3)」の厳密な区別が可能となった。

マウス前臨床モデルにおける亜鉛固定の有効性とTLSの検出: GP130F/F C57BL/6Jマウス (n=12 mice) の胃癌組織切片に対し、6マーカーmIHCパネルを適用した (Fig 7)。ホルマリン固定FFPE組織では抗原性が失われやすい抗マウスCD21抗体 (EP3093) について、亜鉛固定液を用いることで1:1500の希釈率において極めて良好なシグナル強度が保持されることが実証された (Table 2)。この亜鉛固定プロトコルにより、マウス胃癌組織の粘膜下層において、明確なCD19陽性B細胞領域、CD21陽性FDCネットワーク、およびPNAd陽性HEVを備えたGrade 2 (未成熟) およびGrade 3 (成熟) のTLSが明瞭に同定された (Fig 8)。これにより、前臨床マウスモデルにおけるTLSの空間的解析および治療介入時の成熟度変化の定量的評価が可能となった。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のTLS検出は、H&E染色による形態学的同定や、CD3/CD20などの1〜2種類のマーカーを用いた簡易的なIHC、あるいはバルク組織を用いたRNAシグネチャー解析に依存していた。しかし、これらの手法は空間情報の欠如や、単なる免疫細胞の集塊と真の機能的TLSを混同するという限界を有していた。本研究は、これまでのアプローチと対照的に、T細胞、B細胞、FDC、成熟樹状細胞、およびHEVを単一の組織切片上で同時に可視化する多重免疫組織化学 (mIHC) プロトコルを提示した。これにより、TLSの細胞構築と構造的成熟度をin situで体系的に評価することが可能となり、従来の評価法における限界を克服した。

新規性: 本研究で初めて、ヒトFFPE組織 (7マーカー) およびマウス亜鉛固定組織 (6マーカー) の両方に対応する標準化されたOpal-TSA mIHCプロトコルを確立し、さらにTLSの成熟プロセスを段階的に分類する客観的な「4段階グレーディングシステム」を新規に提案した。特に、マウス組織において検出が極めて困難であったCD21エピトープを、亜鉛固定の導入と温和な抗体溶出 (エルーション) 法の組み合わせにより完全に保持し、前臨床モデルでのTLS成熟度評価を可能にした技術的ブレイクスルーは極めて価値が高い。

臨床応用: 腫瘍内TLS、特に成熟TLS (Grade 3) の存在は、非小細胞肺癌やメラノーマなどの固形がんにおいて、免疫チェックポイント阻害剤治療に対する良好な治療奏効性や予後改善と密接に関連している。本プロトコルは、臨床現場における生検や手術検体を用いた高精度なバイオマーカー解析への臨床応用が期待される。また、BOND RX自動染色機への移植が完了しているため、臨床試験コホートなどの大規模検体解析におけるハイスループットなルーチン検査としての実用性も極めて高い。

残された課題: 今後の検討課題として、本mIHCパネルと空間的トランスクリプトミクス技術を統合し、TLSの成熟度に応じた局所的な遺伝子発現や抗体産生クローンの多様性をシングルセルレベルで解明することが挙げられる。本プロトコルの主な limitation は、固定方法への高い依存性にある。ヒトFFPE組織およびマウス亜鉛固定組織に最適化されているため、新鮮凍結組織や異なる固定液で処理されたアーカイブ検体への適用には、さらなる条件検討が必要である。また、TLS内で産生される細胞外小胞 (EV: extracellular vesicles) やエクソソームが、腫瘍微小環境における免疫記憶の維持や遠隔転移抑制に果たす役割の解明など、がん免疫療法における新たな治療標的の探索への展開が期待される。

方法

試料準備と固定: ヒト組織は10% NBF (neutral buffered formalin) で1〜16時間固定後、常法に従ってパラフィン包埋を行い、4 μm厚の切片を作成してSuperFrost Plus接着スライドに展開し、37°Cで24時間乾燥させた。マウス組織については、ホルマリン固定によるエピトープマスクを回避し、特にFFPEで検出が困難なCD21の抗原性を保持するため、ホルマリンフリーの亜鉛塩固定液 (Tris base 99.9 mM、カルシウムアセテート 2.84 mM、酢酸亜鉛 22.8 mM、塩化亜鉛 36.7 mM、pH 6.5〜7.0) を用いて16〜18時間固定を行った (Hicks et al., 2006; Mori et al., 2015)。実験には、粘膜下層にTLSを形成することが既報で示されているGP130F/F C57BL/6Jマウス (14〜16週齢、雌雄、n=12 mice) の胃癌組織切片を使用した。

抗体および蛍光体の最適化: 各一次抗体の最適条件を決定するため、ポジティブコントロール組織 (ヒト扁桃腺/リンパ節、またはマウス脾臓) の連続切片を用い、抗原賦活化バッファー (AR6: pH 6.0、またはAR9: pH 9.0) の選択および一次抗体の希釈系列 (推奨濃度から1:2、1:4) を組み合わせたタイトレーションアッセイを実施した。Opal蛍光体は、その輝度特性 (Opal 620/520: 高輝度、Opal 570/540/650: 中輝度、Opal 690: 低輝度) に基づき、低発現標的 (例: PNAd) に高輝度蛍光体を、高発現標的 (例: CD19) に低輝度蛍光体をペアリングした。また、熱誘導エピトープ回復 (HIER: heat-induced epitope retrieval) の繰り返しによるエピトープの露出増強または劣化を評価する熱負荷試験を行い、最適な染色順序を決定した。

ヒトFFPE組織のmIHCステイニング (3日間プロトコル): 脱パラフィンおよび再水和後、3% H2O2で5分間処理して内因性ペルオキシダーゼをブロッキングした。その後、以下の順序で6サイクルの逐次染色を実施した: CD21 (Opal 520) → DC-LAMP (Opal 540) → CD4 (Opal 570) → PNAd (Opal 620) → CD8 (Opal 650) → CD19 (Opal 690)。各サイクルは、HIER (ARバッファー中でのマイクロ波加熱) → ブロッキング (10分) → 一次抗体反応 (4°C一晩、または室温1時間) → HRP標識二次抗体反応 (20〜40分) → Opal蛍光体反応 (1:100希釈、10分) → マイクロ波加熱による抗体ストリッピング (15〜20分) のステップを繰り返した。各抗体の希釈率は、抗CD21 [1F8] (1:10)、抗DC-LAMP (1:100)、抗CD4 [EPR6855] (1:1000)、抗PNAd [MECA-79] (1:100)、抗CD8 [C8/144B] (1:50)、抗CD19 [EPR5906] (1:300) とした。

マウス亜鉛固定組織のmIHCステイニング (3日間プロトコル): マウス組織では、HIERによる組織剥離やエピトープ損失を防ぐため、低pH Glycineバッファー (pH 2.2、50°C、100 rpm、30分間) を用いた温和なエルーション法を採用した。染色は、抗PNAd [MECA-79] (1:5000、Opal 690) → 抗CD4 [4SM95] (1:1000、Opal 620) → 抗CD8 [4SM15] (1:2000、Opal 570) → 抗CD19 (1:200、Opal 650) → 抗CD21 [EP3093] (1:1500、Opal 540) の順序で行った。

画像取得と解析: DAPIによる核染色後、ヒト組織はVECTASHIELD Vibrance、マウス組織はProLong Diamondを用いて封入した。Vectra 3自動定量病理イメージングシステムを用いて、全スライドスキャン (10倍) およびマルチスペクトル画像 (MSI、20倍、露光時間約 150 ms) を取得した。単染色スライドから作成したスペクトルライブラリーを用いてinFormソフトウェア上でスペクトルアンミキシングを行い、HALO画像解析プラットフォームを用いて細胞表現型の同定および定量解析を実施した。統計解析には Mann-Whitney U test を用いた。また、BOND RX自動染色機を用いたハイスループット自動化プロトコル (HIER 95°C 10分、一次抗体30分、二次抗体15分) も検証した。