- 著者: Pierre Vantourout, Carrie Willcox, Andrea Turner, Chad M. Swanson, Yasmin Haque, Olga Sobolev, Anita Grigoriadis, Andrew Tutt, Adrian Hayday
- Corresponding author: Adrian Hayday (adrian.hayday@kcl.ac.uk; adrian.hayday@cancer.org.uk) (Peter Gorer Department of Immunobiology, King’s College London; London Research Institute, Cancer Research UK, London, UK)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-04-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 24718859
背景
NKG2DはNK細胞、γδT細胞、CD8+ αβT細胞上に発現する活性化受容体であり、そのリガンドであるMICA、MICB、ULBP1〜6 (ヒト) は、細胞がストレス状態に陥った際に発現が誘導され、細胞傷害性リンパ球を活性化することが知られている。これらのリガンドは、腫瘍細胞に対する免疫監視において重要な役割を果たす。NKG2Dリガンドの発現が適切に制御されない場合、正常細胞が免疫攻撃の標的となり、乾癬などの自己炎症性疾患を引き起こす可能性があることが、ゲノムワイド関連研究により示唆されている Shafi et al. SciTranslMed 2011。
しかし、NKG2Dリガンドの発現誘導メカニズムは複雑であり、特にヒトにおける詳細な分子機序は未解明な点が多かった。これまでの研究では、マウスのNKG2DリガンドであるRae1がDNA損傷依存的に転写制御されることが報告されていたが Gasser et al. Nature 2005、ヒトNKG2DリガンドはUVB(紫外線B)、浸透圧ストレス、酸化ストレス、増殖シグナルなど、DNA損傷以外の多様なストレスによっても誘導されることが示唆されていた Yamamoto et al. BiochimBiophysActa 2001。この種差の背景にあるメカニズムは不明であり、ヒトNKG2Dリガンドの転写後制御、特にAU-rich element (ARE) を介したmRNA安定性制御の詳細は十分に解明されていなかった。
上皮系細胞におけるNKG2Dリガンドの発現制御は、癌の免疫監視において特に重要である。上皮系癌では、EGFR経路が最も頻繁に活性化されるシグナル経路の一つであり、その活性化がNKG2Dリガンドの発現にどのように影響するかは重要な知識ギャップであった。EGFR経路の活性化がNKG2Dリガンドの発現を制御する可能性は示唆されていたものの、その具体的な分子メカニズム、特に転写後レベルでの関与は不足していた。本研究は、この未解明な領域に焦点を当て、ヒトNKG2Dリガンドの転写後制御におけるEGFR経路の役割を明らかにすることを目的とした。
目的
本研究の目的は、ヒト上皮系細胞(HaCat角化細胞、Caco-2細胞など)において、UVBおよびその他の環境ストレスがNKG2Dリガンド(MICA/B、ULBPs)のmRNA安定化を誘導する分子機序を解明することである。具体的には、EGFR→MEK経路とARE結合タンパク質AUF1の関与を検証し、この経路がNKG2Dリガンドの細胞表面発現およびNK細胞・γδT細胞による免疫監視活性化にどのように影響するかを明らかにすることを目的とした。
さらに、172例の原発性乳がん検体を用いたin vivo相関解析により、EGFR発現とNKG2Dリガンド発現の臨床的関連性を評価する。最後に、臨床的に使用されるEGFR阻害薬(エルロチニブ、セツキシマブ)がNKG2Dリガンドの発現を低下させ、結果として免疫監視を障害する可能性をin vitroおよびex vivoで評価し、その臨床的含意を考察する。
結果
UVBによるMICA mRNAの誘導はDNA損傷非依存的であり、EGFR阻害薬AG1478により完全に阻害される: コンフルエントなHaCat細胞にUVB(60 mJ/cm²)を照射すると、MICAタンパク質が熱ショックと同程度のレベルまで誘導され、その発現は24時間後まで持続した(Fig 1A)。MICA mRNAは9回の独立した実験全てで有意に増加し、3倍から10倍以上の増加が観察された(Fig 1B)。対照的に、ドキソルビシン、ヒドロキシ尿素、4NQOなどのDNA損傷剤はp21の発現を誘導したものの、MICA mRNAの有意な増加は認められなかった(Fig 1D)。UVB照射前のAG1478前処置は、UVB誘導性のMICA mRNA増加を5回の実験全てで有意に阻害した(Fig 1E, left panel)。さらに、EGF(500 ng/ml)処理により、MICAおよびMICBのmRNAがUPARなどの既知のEGF応答遺伝子と同様の動態と用量依存性で急激に増加した(Fig 1E, right panel)。これらの結果は、UVBによるNKG2Dリガンド誘導がDNA損傷経路ではなくEGFR経路に依存することを示している。初代マウス角化細胞(n=3 replicates)では、UVBによりRae1bおよびH60aが4〜5倍、Mult1が約2倍に増加したが、EGFではMult1のみが約2倍に増加し、種差が示唆された(Fig 1F)。
EGF、ソルビトール、H2O2がNKG2Dリガンドの表面発現を増加させ、これはAG1478感受性であり、NKG2D依存的な免疫監視活性化を誘導する: HaCat細胞およびCaco-2細胞(n=3 replicates)において、EGF、ソルビトール(0.5 M)、H2O2(0.6 mM)によるMICA、MICB、ULBP2の表面発現増加は、いずれもAG1478処理により有意に阻害された(Fig 2C, p<0.05)。KRAS変異を有し表面EGFRを欠損するHCT116細胞では、EGFによるNKG2Dリガンドの上昇は認められなかった(Fig 2A)。EGF処理したHaCat細胞と健常ドナーPBMC(n=3 donors)を共培養すると、3ドナー全てにおいてNK細胞およびγδT細胞のCD107a脱顆粒が対照群と比較して有意に増加し、一部のドナーではNK/γδT細胞の約20%が活性化された(Fig 2B)。この活性化は抗NKG2D中和抗体により完全に抑制され、NKG2D依存的な細胞傷害性活性化が確認された。HCT116細胞ではNK細胞およびγδT細胞の脱顆粒刺激は認められなかった(Fig 2B)。
EGFはMICA/MICB mRNAを顕著に安定化し、MICA 3’UTRのAREがmRNA不安定化の主要な調節因子である: アクチノマイシンDチェイス法を用いたノーザンブロット解析により、コントロール細胞におけるMICA mRNAの半減期(t1/2)は30分以下、MICB mRNAのt1/2は約1.5時間と、いずれも短命であることが示された。EGF処理後、MICA mRNAのt1/2は2時間以上、MICB mRNAのt1/2は4時間以上に著明に延長した(Fig 3A)。MICA 3’UTRの再シーケンスと再アノテーションにより、標準的なAATAAAポリ(A)シグナルの6ヌクレオチド下流に正準AREが同定され、新しいポリ(A)付加部位が26ヌクレオチド下流に決定された(Fig 3B)。GFP-M3U(GFPとMICA 3’UTRのキメラ)安定発現系を用いた実験では、MICA 3’UTRによりGFP発現が低く抑えられたが、EGF処理によりGFP MFIが有意に上昇した(HaCat細胞のみ、HCT116細胞では上昇なし)(Fig 3D, p<0.05)。Rluc-M3U系を用いたARE変異解析では、AREの個別の二重変異(M3U-mut1/2/3)によりルシフェラーゼ活性がほぼ完全に回復したが、miRNAサイト変異(M3U-mut0)では軽微な回復に留まった(Fig 4A, p<0.001)。これらの結果は、AREがMICA mRNAの主要な不安定化調節素子であることを実証している。さらに、全ヒトNKG2DリガンドmRNAの3’UTRにはARE配列が保存されていることが確認された(Fig S6)。
AUF1の4つのアイソフォーム全てがNKG2Dリガンドを下方制御し、EGFR経路によりAUF1が核から細胞質へ排出されることでmRNAが安定化される: AUF1のp37、p40、p42、p45の各アイソフォームを過剰発現させると、全てのアイソフォームで細胞表面のMICA、MICB、ULBP2発現が有意に低下した(Fig 4B, p<0.05, n=3 transfections)。EGF処理後のHaCat細胞では、核/細胞質分画と共焦点顕微鏡観察により、AUF1のほぼ完全な核外排出が確認された(Fig 4C)。この核外排出はAG1478(EGFR阻害薬)およびPD184352(MEK阻害薬)により阻害されたが、SP600125(JNK阻害薬)やSB203580(p38阻害薬)では阻害されなかった(MICAにおいて、p38はULBP2で一部阻害)。リン酸化AUF1レベルはEGF処理で変化がなかったことから、核外排出は翻訳後リン酸化ではなくMEK経路による局在化変化によって制御されることが示唆された。
172例の原発性乳がん検体において、EGFR低発現群でULBP1/2/3/5が有意に低下し、LRIG1高発現群およびAUF1高発現群で全NKG2Dリガンドが有意に低下する: Human Exon 1.0 ST Arrayを用いた172例の原発性乳がん解析では、EGFR発現が最低25%の群(B25)において、ULBP1(p=2.0×10⁻⁴)、ULBP2(p=7.7×10⁻⁶)、ULBP3(p=2.5×10⁻⁶)、ULBP5(p=0.001)のmRNA発現が有意に低値であった(Wilcoxon rank sum検定)(Fig 5A)。これらのリガンドはESR1やHER2発現とは相関しなかった。EGFRの負の制御因子であるLRIG1の発現が最高25%の群では、全NKG2DリガンドmRNAが有意に低下した(MICBでp<0.071、ULBP1でp<0.036)。また、AUF1をコードするHNRNPD RNAの発現が最高25%の群では、MICAを除くNKG2DリガンドmRNAと有意な負の相関が認められた(Fig 5A)。26例のトリプルネガティブ乳がん細胞株では、MICAおよびMICBがEGFR発現と正の相関を示した(Pearson相関)(Fig S10B)。これらの結果は、EGFRシグナルによるNKG2Dリガンド制御が生体内でも機能することを示す強力なエビデンスである。
エルロチニブおよびセツキシマブがNKG2Dリガンド発現を低下させ、NK/γδT細胞による免疫監視を障害する可能性が示唆される: 臨床的に使用されるEGFR阻害薬であるエルロチニブ(10 μM)は、EGF誘導性のMICA/BおよびULBP2上昇をコンフルエントなHaCat細胞で有意に阻害した(Fig 5B, p<0.05)。さらに、増殖中のサブコンフルエントなHaCat細胞では、MICA/BおよびULBP2のベースライン発現を用量依存的に低下させた(Fig 5C, p<0.05)。分化型Caco-2単層細胞においても、EGF誘導性のNKG2Dリガンド上昇をエルロチニブが有意に抑制した(Fig 5D)。同様に、セツキシマブもサブコンフルエントおよびコンフルエントなHaCat細胞およびCaco-2細胞において、AG1478やPD184352と同様のNKG2Dリガンド抑制効果を用量応答的に示した(Fig S12)。これらの結果は、臨床EGFR阻害薬がNK細胞およびγδT細胞によるNKG2D依存的免疫監視を障害する可能性を示唆している。
考察/結論
本研究は、ヒトNKG2Dリガンドの転写後調節機構として「EGFR→MEK→AUF1核外排出→ARE介在mRNA安定化→NKG2Dリガンド表面発現増加→NK/γδT細胞活性化」という精緻な経路を初めて体系的に解明した。
先行研究との違い: これまでのマウスモデルにおけるNKG2Dリガンド(Rae1)がDNA損傷依存的に制御されるという報告 Gasser et al. Nature 2005 とは対照的に、本研究はヒトNKG2Dリガンドの主要な誘導経路がDNA損傷ではなくEGFR活性化であることを実証した点で新規性が高い。この発見は、NKG2Dリガンドの制御メカニズムにおける種差を明確に示している。
新規性: 本研究で初めて、多様な環境ストレス(UVB、浸透圧、酸化ストレス)がEGFR経路を介してAUF1タンパク質の核外排出を誘導し、NKG2DリガンドmRNAの安定化を促進するという新規メカニズムを同定した。これにより、NKG2Dリガンドの細胞表面発現が増加し、NK細胞およびγδT細胞による免疫監視が強化されることが示された。AUF1によるmRNA不安定化というデフォルトの抑制機構と、EGFR経路によるその解除というモデルは、なぜ多様なストレスが共通のEGFR経路を介してNKG2Dリガンドを誘導するのかを統一的に説明する。
臨床応用: 172例の原発性乳がん検体におけるEGFRとNKG2Dリガンド、LRIG1とNKG2Dリガンド、AUF1とNKG2Dリガンドの相関解析は、この制御機構がin vivoでも機能することを示す強力な間接的エビデンスである。特に、臨床的に使用されるEGFR阻害薬であるエルロチニブやセツキシマブがNKG2Dリガンドの発現を低下させ、NK細胞およびγδT細胞による免疫監視を障害する可能性を示したことは、極めて重要な臨床的含意を持つ。これは、EGFR阻害薬の臨床使用が宿主の抗腫瘍免疫を損なう可能性を初めて提示したものであり、現在のICI (Immune Checkpoint Inhibitor) とTKI (Tyrosine Kinase Inhibitor) の併用療法戦略において、免疫監視(NKG2D軸)への影響を慎重に評価する必要性を示唆する。
残された課題: 今後の検討課題として、AUF1核外排出の正確な分子機構(MAPK下流の基質同定)、疾患関連MICA多型とARE調節感度の関連性、およびEGFR阻害薬継続中の患者におけるNKG2Dリガンド発現の縦断的評価が挙げられる。また、本研究はin vitroおよびex vivoのデータが中心であり、in vivoでのEGFR阻害薬による免疫監視障害を直接的に示す臨床試験が必要である。腫瘍の複雑性と不均一性を考慮すると、Gerlinger et al. NEnglJMed 2012 が示すように、癌のトランスクリプトームの組成には必然的に複雑さが伴う。ULBP4はEGFRやLRIG1との有意な相関を示さず、HER2と正の相関を示したことから、ULBP4が独立して制御される可能性も今後の研究課題である。
方法
本研究では、主要細胞株としてHaCat(ヒト角化細胞、EGFR陽性)、Caco-2(ヒト腸上皮細胞、EGFR陽性)、HCT116(KRAS変異、表面EGFR発現欠損)、Int407(胎児腸上皮細胞)、および初代ヒト・マウス角化細胞を用いた。
ストレス処理として、UVB照射(60 mJ/cm²)、EGF(100〜500 ng/ml)、ソルビトール(浸透圧ストレス、0.5 M)、過酸化水素(酸化ストレス、0.6 mM)を単独またはEGFR阻害薬AG1478(10 μM)、MEK阻害薬PD184352、JNK阻害薬SP600125、p38阻害薬SB203580との併用で細胞に適用した。
NKG2Dリガンドの発現は、qRT-PCR(MICA/MICB/GAPDH)によるmRNAレベルの定量、フローサイトメトリーによる細胞表面タンパク質発現の測定、および代謝標識/免疫沈降法によるMICAタンパク質の代謝標識によって評価した。mRNA安定性の解析には、アクチノマイシンDチェイス法とノーザンブロット法を組み合わせ、mRNA半減期を算出した。
MICA 3’UTRの機能解析のため、GFP-M3U(GFPとMICA 3’UTRのキメラ)およびRluc-M3U(Renilla luciferaseとMICA 3’UTRのキメラ)安定・瞬時発現系を構築し、ARE変異体(M3U-mut0〜3)を用いて部位特異的解析を行った。AUF1(AU-rich element binding factor 1)の機能解析では、4つのアイソフォーム(p37/p40/p42/p45)を過剰発現させ、NKG2Dリガンド発現への影響を評価した。また、EGF刺激後の内因性AUF1の核/細胞質分画と共焦点顕微鏡観察により、AUF1の核外排出を確認した。
免疫監視アッセイでは、健常ドナー(n=3 donors)の末梢血単核球(PBMC)とEGF処理したHaCat細胞を共培養し、PE-CD107a発現を指標にNK細胞およびγδT細胞の脱顆粒活性化をフローサイトメトリーで測定した。この活性化がNKG2D依存的であることを確認するため、抗NKG2D中和抗体を併用した。
臨床相関解析として、172例の原発性乳がん検体から得られたAffymetrix Human Exon 1.0 ST Arrayデータ(quantile正規化およびComBatバッチ補正済み)を用いて、EGFR発現レベルが最低25%の群(B25)と残りの群、LRIG1発現が最高25%の群、HNRNPD(AUF1 RNA)発現が最高25%の群におけるNKG2Dリガンド発現をWilcoxon rank sum検定で比較した。また、26例のトリプルネガティブ乳がん細胞株におけるMICAおよびMICB発現とEGFR発現のPearson相関を解析した。
最後に、臨床EGFR阻害薬であるエルロチニブ(10 μM)およびセツキシマブ(用量応答性)がNKG2Dリガンド発現に与える影響を、サブコンフルエントおよびコンフルエントなHaCat細胞、ならびに分化型Caco-2細胞で評価した。統計解析には、pairedまたはunpaired two-tailed t検定、Wilcoxon rank sum検定、およびPearson相関を用いた。