- 著者: Maike de la Roche, Alex T. Ritter, Karen L. Angus, Colin Dinsmore, Charles H. Earnshaw, Jeremy F. Reiter, Gillian M. Griffiths
- Corresponding author: Gillian M. Griffiths (Cambridge Institute for Medical Research, University of Cambridge, Hills Road, Cambridge CB2 0XY, UK)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-12-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 24311692
背景
細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) による標的細胞傷害は、免疫学的シナプス (IS) における中心体 (centrosome) の形質膜へのドッキングと、細胞傷害性顆粒の正確な分泌によって厳密に制御される。この中心体の形質膜ドッキングは、一次繊毛形成時にも観察される現象であり、母中心粒が基底体として機能する際に生じる。この形態的類似性から、IS形成と一次繊毛の間には機能的・構造的類似性が指摘されてきた (Stinchcombe et al. 2006; Monks et al. 1998)。例えば、両構造においてエンドサイトーシスとエキソサイトーシスが中心体のドッキング点に集中すること (Griffiths et al. 2010)、繊毛内輸送 (IFT) タンパク質がT細胞に存在すること (Finetti et al. 2009)、そして両構造が重要なシグナル伝達プラットフォームを形成することなどが挙げられる (Singla & Reiter 2006; Goetz & Anderson 2010)。Hedgehog (Hh) シグナリング経路は、発生過程における主要なシグナル伝達経路として知られており、通常、一次繊毛を介したSmoothened (Smo) の繊毛移行によってGliを介した転写活性化を引き起こすことが報告されている (Singla & Reiter 2006; Goetz & Anderson 2010)。しかし、リンパ球は一次繊毛を形成しない数少ない細胞型の一つであり (Wheatley 1995)、一次繊毛を形成しないリンパ球においてHhシグナリングが機能するかどうかは、これまで未解明であった。
CTLにおける中心体極性化には、アクチンリモデリングが不可欠であるが、その分子制御機構、特にRac1の関与については部分的にしか解明されていなかった (Stinchcombe & Griffiths 2007)。Hhシグナリング経路は、神経細胞や線維芽細胞においてRac1を介したアクチンリモデリングに関与することが示唆されていたが (Sasaki & Kengaku 2010; Polizio et al. 2011)、リンパ球におけるHhシグナリングとアクチンリモデリング、中心体極性化、そして最終的な細胞傷害性機能との関連性は不明であった。特に、T細胞受容体 (TCR) 活性化がHhシグナリングを誘導し、それがRac1の発現を介してCTLの殺傷能力を調節するという仮説を検証することは、Hhシグナリングの新たな生理的役割を解明する上で重要であった。本研究は、この知識のギャップを埋め、CTL機能におけるHhシグナリングの役割を明らかにすることを目的とした。これまでの研究では、HhシグナリングがT細胞の発達に必要であることが示されているが (El Andaloussi et al. 2006; Outram et al. 2009; Uhmann et al. 2007; Crompton et al. 2007)、成熟したCTLの機能におけるHhシグナリングの役割については、詳細なメカニズムが不足していた。
目的
本研究の目的は、細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) においてHedgehog (Hh) シグナリング経路が発現し、機能するかを検証することである。具体的には、T細胞受容体 (TCR) 活性化がHhシグナリングを誘導し、それが中心体極性化、アクチンリモデリング、および細胞傷害性顆粒分泌といったCTLの主要な殺傷機能にどのように影響するかを分子レベルで解明することを目的とした。さらに、HhシグナリングがRac1の発現を介してこれらの細胞骨格動態を制御するメカニズムを明らかにすることも目的とした。これにより、リンパ球におけるHhシグナリングの新規な生理的役割を確立し、免疫学的シナプスと一次繊毛の間の機能的・構造的類似性に関する新たな知見を提供することを目指した。特に、Hh経路の構成要素がT細胞で発現し、TCR活性化がHhシグナリングをトリガーするかどうか、そしてHhシグナリングがCTLの殺傷機能に影響を与えるかどうかを明らかにすることを重要な目的とした。
結果
TCR活性化がCD8 T細胞でHhシグナリングを誘導する: ナイーブCD8 T細胞ではGli1 mRNAは検出されなかったが、TCR架橋後12時間でピークに達するGli1 mRNAの顕著な誘導が観察された (Fig 1A)。CTLでは、低ベースラインのGli1 mRNAがTCR刺激後に約180倍増加した。LckノックアウトマウスのCD8 T細胞では、TCR刺激によるGli1誘導が著明に減少し、HhシグナリングがTCRシグナリング、特にLckに依存的であることが示された (Fig 1C, D)。Ptch1、Ptch2、Smo、Ihhタンパク質はナイーブCD8 T細胞およびCTLの双方で発現しており、TCR活性化後にその発現が増加した (Fig 1B)。興味深いことに、ShhとDhhはCD8 T細胞(活性化前後)およびEL4、P815標的細胞では検出されなかった。Ihhは45 kDの非分泌型として検出され、組換えIhhを細胞外から添加してもGli1発現は誘導されず、Hhシグナリングが細胞内で完結する可能性が示唆された。これは、Hhシグナル経路が通常傍分泌的に機能するという従来の知見とは異なるものであった。
Hh成分は細胞内小胞上に局在し、TCR活性化時に免疫学的シナプスへ移動する: Ptch1-EYFPはCTLの細胞内小胞上に局在し、Ihhもこれらの小胞の一部と共局在した (Fig 2A, B)。標的細胞認識時に、IhhとPtch1が共局在する小胞は免疫学的シナプス (IS) へ極性化した (Fig 2C)。近接ライゲーションアッセイにより、IhhとPtch1の細胞内相互作用が確認された。Ihhはアクチン蓄積部位の近くにも見られ、Hh成分がアクチンに影響を与える可能性が示唆された。Smo-EGFPも主にLamp1陽性の細胞内小胞に局在し、TCR活性化に伴いISへ移動することがライブイメージングにより示された (Fig 2E, movie S1)。このSmoのISへの極性化は、HhシグナリングにおけるSmoの繊毛移行と類似しており、n=33 cellsで観察された。
Smo欠損CTLはCTL傷害と中心体ドッキングが低下する: Mx1-Cre Smo^cond/condマウスから作製したCTLでは、Smo mRNAレベルが対照CTLと比較して約1.5%まで著しく低下した (Fig 3A)。TCRシグナリングの指標であるpERKレベルは、Smo欠損CTLと対照CTLの間で変化はなかった (Fig 3C)。しかし、P815標的細胞に対する細胞傷害活性 (%lysis) は、Smo欠損CTLで著明に低下した (Fig 3D)。例えば、エフェクター・ターゲット比15:1において、Smo欠損CTLの溶解率は対照CTLと比較して約20%減少した。さらに、CTLと標的細胞のコンジュゲート形成時における中心体のISへのドッキング効率は、Smo欠損CTLで対照と比較して約50%減少した (Fig 3E)。この結果は、HhシグナリングがCTLの殺傷機能と中心体極性化に不可欠であることを強く示唆している。Smo欠損CTL (n=121 conjugates) では、中心体がISにドッキングする割合が対照CTL (n=129 conjugates) と比較して有意に低かった (p<0.001)。
Hh阻害剤3種すべてがCTL傷害・アクチンクリアランス・中心体極性化を障害する: Smo阻害剤であるcyclopamineおよびvismodegib (GDC-0449)、ならびにGli転写因子阻害剤であるGANT61の3種類のHh阻害剤は、Gli1およびPtchタンパク質レベルを減少させたが、TCR関連キナーゼ (Lck、ERK) や細胞傷害性タンパク質 (グランザイムA、パーフォリン) のレベルには影響を与えなかった (Fig 3F, G)。これらの阻害剤は、TCRシグナリングや標的細胞とのコンジュゲート形成、Lckクラスタリングを阻害することなく、CTL傷害活性を用量依存的に著明に低下させた (Fig 3H)。例えば、vismodegib 5 µMの投与により、EL4標的細胞に対するCTL傷害が有意に減少した (p<0.01)。また、Smo欠損CTLでは、ISにおけるアクチンクリアランスが対照と比較して約60%低下し、cyclopamine処置CTLでもアクチンクリアランスが著明に阻害された (Fig 4A-C)。中心体ドッキングもvismodegib処置CTLで有意に低下した (Fig 3I)。これらの結果は、HhシグナリングがCTLの細胞傷害性機能、アクチンリモデリング、および中心体極性化に直接関与することを示している。
Hh-Rac1軸がアクチンリモデリング・中心体極性化を調節する: ナイーブT細胞からCTLへの分化誘導中にRac1タンパク質レベルが増加することが確認された (Fig 4D)。しかし、Smo欠損CTLでは、Rac1タンパク質およびmRNAレベルが対照CTLと比較して著明に低下した (Fig 4E, F)。Rac1 mRNAレベルは、Smo欠損CTLで対照CTLの約0.5倍に減少した (p<0.05, n=3 replicates)。このことは、Rac1がHhシグナリングの転写標的として機能し、その発現がHh経路によって制御されることを示唆している。Rac1は、微小管の末端捕捉-収縮による中心体極性化とアクチンリモデリングの両方を媒介することが知られており (Wittmann et al. 2004; Filbert et al. 2012; Nishimura et al. 2012)、HhシグナリングがRac1を介してこれらの細胞骨格動態を制御するメカニズムが示唆された。
考察/結論
本研究は、細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) におけるHedgehog (Hh) シグナリングの新規な細胞内機能を明らかにし、T細胞受容体 (TCR) 活性化が細胞内Ihh-Ptch1相互作用を介してSmoを活性化し、Gli1の発現を誘導することでRac1合成を促進するという経路を確立した。このHh-Rac1軸は、アクチンリモデリング、中心体極性化、および細胞傷害性顆粒分泌を促進し、最終的にCTLの標的細胞殺傷能力を強化することが示された。
新規性: 本研究で初めて、リンパ球が一次繊毛を形成しないにもかかわらず、繊毛形成で機能するHh経路タンパク質を細胞内小胞に発現し、TCRシグナルに応答するという新規なメカニズムを同定した。これは、免疫学的シナプスと一次繊毛の間に形態的・機能的類似性があるという新たな視点を提供し、免疫学的シナプスが「修飾された繊毛」である可能性を示唆する。また、Ihhが非分泌型として細胞内でPtch1と相互作用し、細胞自律的なHhシグナリングが機能するという点は、従来の傍分泌的Hhシグナリングとは異なる、これまで報告されていないメカニズムである。
先行研究との違い: これまでのHhシグナリング研究は主に発生生物学やがん生物学の文脈で、細胞外Hh配位子による傍分泌的な作用が中心であった。本研究は、細胞外Hh配位子(組換えIhh)が細胞外から追加されても効果がなかったことから、CTLにおけるHhシグナリングが完全に細胞自律的かつ細胞内で機能するという点で、これまでの知見と対照的である。この細胞内Hhシグナリングは、TCR活性化によって誘導され、CTLの「武装解除」状態から「武装」状態への移行を促進する。
臨床応用: vismodegibやcyclopamineといったHh阻害剤(がん治療薬として使用されている)がCTLの殺傷機能を阻害するという知見は、これらの薬剤が免疫抑制的な副作用を持つ可能性を示唆している。これは、Hh阻害剤をがん治療に用いる際、特に免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) との併用療法を検討する際に、その組み合わせ効果について慎重な評価が必要であることを示唆する臨床的意義を持つ。Hh阻害剤がCTL機能を抑制することで、がん免疫応答を損なう可能性があるため、その治療戦略には注意が求められる。
残された課題: 今後の検討課題として、ヒトCTLにおけるHhシグナリングの確認、in vivoでの腫瘍免疫応答におけるHhシグナリングの貢献、免疫学的シナプスにおけるHh-Rac1経路と他のシグナル経路との統合メカニズムの解明が挙げられる。また、Hh阻害剤とICBの組み合わせ効果を詳細に評価し、最適な治療戦略を確立することも今後の重要な研究方向性である。本研究は、CTL機能におけるHhシグナリングの新たな役割を解明し、免疫学と細胞生物学の分野に重要な貢献をした。
方法
本研究では、OT-I TCRトランスジェニックマウスから単離したナイーブCD8 T細胞およびin vitroで4〜5日間TCR活性化させたCTLを使用した。TCR架橋は、プレート結合型抗CD3抗体を用いて実施し、Hhシグナリングの活性化指標であるGli1 mRNAおよびタンパク質の発現を定量的PCR (qPCR) およびウエスタンブロット法で定量した。Hh経路の構成要素であるPtch1-EYFP、Smo-EGFP、および中心体マーカーであるPACT-RFPを導入したCTLを用いて、ライブイメージングおよび共焦点顕微鏡により細胞内局在と動態を解析した。特に、IhhとPtch1の細胞内相互作用は近接ライゲーションアッセイで確認した。
Hhシグナリングの機能的役割を評価するため、Mx1-Cre Smo^cond/condマウスを用いてSmo条件付き欠損CTLを作製した。これらのSmo欠損CTLと対照CTLを用いて、P815およびEL4標的細胞に対するCTL傷害活性 (%lysis) を測定し、中心体の免疫学的シナプス (IS) へのドッキング効率を共焦点顕微鏡により定量した。さらに、Hhシグナリングの薬理学的阻害剤であるcyclopamine、vismodegib (GDC-0449)、およびGli転写因子阻害剤であるGANT61をCTLに処理し、CTL傷害、ISにおけるアクチンクリアランス、および中心体極性化に対する影響を評価した。アクチンクリアランスは、ISにおけるアクチンリング形成の有無を指標とした。これらの阻害剤は、Smo (cyclopamine, vismodegib) またはGli転写因子 (GANT61) を標的とする。
Rac1タンパク質およびmRNAレベルは、ナイーブT細胞からCTLへの分化過程、およびSmo欠損CTLと対照CTLの間で比較し、HhシグナリングがRac1発現を転写レベルで制御するかを検証した。統計解析には、データに応じてt検定やANOVAを使用し、有意水準をp<0.05とした。LckノックアウトマウスのCD8 T細胞も使用し、TCRシグナル伝達のHh誘導への依存性を評価した。これらのマウスモデルは、Hhシグナル経路の特定の要素を操作し、その生理的役割をin vitroで詳細に解析することを可能にした。